<Infinite Dendrogram><SUBM>単独討伐RTA風   作:菌床

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胎動する者達

 

 「──ハァ、ハァ……!」

 

 呼吸が乱れる。

 極度の緊張と疲労で動きは精彩を欠いている。

 それでも、遠のく意識をアイテムで覚醒させ、脳を回転させ続ける。

 動き続けろ、考え続けろ、正解を選び続けろ。

 そうしなければ、待っているのは確実な死のみ。

 

 「──カァァッ!」

 

 飛来する斧を剥き出しの骨で弾き、超音速機動をする相手の攻撃をいなす。

 すかさずカウンターで相手の首を抉り取るが、次の瞬間には万全な状態となって現れた。

 姿は幼い子供だが、その身に宿すステータスと特殊能力は外見にそぐわない凶悪さを誇る。

 だが、何よりも恐ろしいのはその在り方。

 感情を持たぬ殺人鬼、否、殺人器が如き冷徹な戦闘スタイル。

 己の身さえ顧みずに全てを殺し尽くす歪んだ精神性。

 

 「うぐっ! 危ねぇッ!」

 

 突如として飛来した毒の弾丸を回避して距離を取る。

 当たれば複数の状態異常に蝕まれてしまうだろう一撃、この状況では直接的な死にはならずとも、致命的な結果に繋がる死の指先だ。

 

 「また避けられてしまった。流石のミーも自信が無くなってしまうよ」

 

 そう言いながら周囲に毒を撒き散らすのは、植物の怪人。

 自分も他人も巻き込みながらも顔色ひとつ変えず、まるで安全圏から見下ろしているかのように他人事。

 

 「超級を二人相手にするとはな、これは()()()()()()()……!」

 

 そう言って顔を顰めたのは【強奪王】エルドリッジ。

 彼は今、砂上船【エルトラーム号】内部にて、不死身の超級二人の戦いに巻き込まれている。

 超級に何度となくクランを壊滅させられ、資金集めのためにこの船に乗り込んだのだが、まさかこんな状況になるとは思ってもみなかった。

 ドライフ正統政府の襲撃を逆に襲撃する予定が、とんだ貧乏くじを引いたものだと後悔する。

 

 “屍山血河”エミリー・キリングストン。

 “常緑樹”スプレンディダ。

 

 どちらも不死身と名高い個人生存型の超級。

 両者個人生存型故に、破壊力や特殊性では劣るだろうが、それでも超級という逸脱者。

 そんな二人を相手にして、まだ生きている事こそ奇跡だろう。

 どこで何を間違えてしまったのか、後悔の念を感じないと言えば嘘になる。

 だが、それよりも何よりも、自分を慕ってついて来てくれた二人の為にも逃げる訳にはいかないのだ。

 

 それに、絶望的な状況下だが、二つだけ自分に利する点がある。

 

 「ヨハネス!」

 『――《災厄よ 、我が忠誠の輝きを見よ》』

 

 エルドリッジの背後から斧を振り下ろしたエミリーの前に、立ち塞がる影があった。

 それはフリルをふんだんに使った可愛らしく、しかし黒いドレスを来たツリ目の少女。

 とても鉄火場には似つかわしく無い装いをした彼女だが、容赦する事なく振り下ろされた斧が直撃し、脳天をかち割られる……事は無く。

 

 そのまま殴り返した上にエミリーを爆散させた。

 

 「不死身でも所詮は(ボア)、真っ直ぐ突っ込んで来るだけならどうとでもなるのよ?」

 

 彼女は【爆裂姫】ブレンダ・フォーサイス。

 偶然この船に乗り合わせた凖超級であり、乗客を守る為に現在エルドリッジと共闘している。

 耐性を獲得するエンブリオによってエミリーの攻撃に耐え、高い物理ステータスと魔法系超級職による破壊力を組み合わせて戦う彼女がいた事は、まさに幸運だったと言えるだろう。

 

 二人の超級は何も共闘しているわけでは無い。

 彼らは自分以外を殺すつもりであり、形式的には一対一対一の三竦み。

 だが、自分は一対一対二の形で戦うことが出来る。

 二人の超級を前に生き残れているのは、間違い無く彼女のおかげだ。

 

 「あら、もうへばったのかしら? それとも超級相手にビビってるとか?」

 「そっちこそ、随分と口数が減ったようだな。憎まれ口を叩く余裕もなくなって来たんじゃ無いのか?」

 

 二人は背中を合わせて軽口を叩き合う。

 絶対絶命の状況だからこそ、余裕を失わないように敢えてふてぶてしい態度を取るのだ。

 

 「どっかの誰かさんが不甲斐ないせいよ。……それで、まだなの?」

 「もう少しだ、出来ればその前に樹の毒をなんとかしたいんだがな」

 「良いわ、それなら任せなさい」

 

 そう言って彼女が指を鳴らすと、毒を撒き散らしていたスプレンディダの周囲が明滅し、爆裂した。

 純竜級モンスターさえ致命傷となる爆発をまともに喰らったのだ、耐久系の超級職でも無ければ死んでいるだろう。

 実際スプレンディダは死んでいる。

 もっとも、死んだ程度で死ぬなら、彼は不死身の超級などと呼ばれていないのだが。

 全身が吹き飛んだスプレンディダだが、何も無い空間から植物が生え、みるみる内に人の形に整っていく。

 

 「無駄無駄だね。その程度じゃミーの安全圏は崩れないよ?」

 

 だが、新しく形成された肉体には、先ほどまで全身に付着していた毒は無い。

 

 瞬間、エルドリッジは駆け出していた。

 【強奪王】のAGIによって間合いを詰め、そのままスプレンディダの体を殴りつける。

 肉体の再生に拮抗する速度で破壊し続ける。

 再生がままならない状況だが、スプレンディダは慌てては居なかった。

 再生が追いつかないほど破壊するつもりだろうが、どれだけ攻撃しても自分を殺し切る事はできない。

 相手が力尽きるまでゆっくり待てば良いと考えていた。

 

 (は……?)

 

 だが、表示されるステータスを見て背筋が冷えた。

 自身のエンブリオに同期されているステータス、その()()()()()()()()()()のだ。

 

 (何だ……エルドリッジの必殺スキル? いや、確かこれは【強奪王】の奥義かッ!)

 

 削れた最大ステータスが回復する様子は無い。

 死んだ状態からでも蘇る再生能力でさえも、状態異常ですら無い強奪は対象外のようだ。

 最大ステータスが無くなった場合どうなるのかは分からない。

 一つ分かることがある。

 それは、この男は自分の命に手が届き得るということ。

 

 【そっち行ったわよ!】

 

 テレパシーカフスからブレンダの通信が届く。

 焦るスプレンディダを尻目に、無機質な表情のエミリーがエルドリッジに迫っていた。

 自身の攻撃に対して耐性を有しているブレンダは後回しにし、まだ攻撃が通るエルドリッジを標的にしたのだ。

 エルドリッジの骨はエンブリオに置換されており、神話級金属相当の強度を有している。

 だが、それなら全ての肉を削ぎ落とせば良いだけの話。

 凄惨な殺戮現場を作り出そうと迫るエミリーに対し、振り返ったエルドリッジの顔は笑っていた。

 

 「《副葬品は要らず、ただ還るのみ(スケルトン)》」

 

 その瞬間、エミリーのエンブリオである斧が砕け散った。

 

 「──!?」

 

 二振りの内片方だけだが、超級エンブリオである斧が破壊された。 

 経験したことのない状況に、無表情だったエミリーの顔が驚愕に歪む。

 エルドリッチは振り返りざまにエミリーの顔を抉り取り、エミリーは反射的に距離を取る。

 

 「正体のバレた不死身ほど脆いものはないな」

 

 これこそ、エルドリッジのエンブリオであるスケルトンの必殺スキル。

 複数の条件があるが、発動さえすれば強度に関係無く相手の手に持つ装備品を破壊する驚異の効果を持つ。

 エミリーの不死身の源は手の持つ斧のスキル。

 今は片方だけだが、両方破壊されればエミリーの不死身は機能しなくなるだろう。

 

 そう、彼に利する二つ目は、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「あまり小鬼(ゴブリン)を舐めるなよ。──不死身共(イモータル)

 

 今この瞬間、不死身と恐れられる二人の超級は、長らく感じていなかった命の危機を小鬼に感じていた。

 

 

 ◆

 

 

 <Infinite Dendrogram>には監獄と呼ばれるエリアが存在している。

 たとえ指名手配され、セーブポイントが無くなってしまったとしてもゲームを楽しんで貰うための処置とされている。

 管理AIとしても危険なマスターの隔離だけで無く、エンブリオを進化させる場所として準備を整えており、ダンジョンや生活設備に定期的なイベントも行われている。

 

 そんな場所で、マスター達が大量に死んでいた。

 

 この監獄でマスターが死ぬのは対して珍しく無い。

 巨大な脚に踏み潰されて死ぬ。

 全身が細菌に食い尽くされて死ぬ。

 気がついたらいつの間にか死ぬ。

 なんかバグって死ぬ。

 

 指名手配されるマスターにはそれ相応の理由があり、大半が性格に難がある者が多い。

 そして、性格がぶっ飛んでいるほど危険なエンブリオが発現しやすいならば、一体どうなるか。

 強力な力を持ち、それを人に振るう事に躊躇いの無い者が溢れ返るのだ。

 危険な存在同士が殺し合い、そのリソースを奪い合う。

 まさに蠱毒が如きあり様。

 そんな監獄に、最近新しい死に方が追加されたという。

 

 「あが、がば……」

 「ぼおぼぼぼ」

 「かゆ……うま」

 

 辺り一面に転がるマスター達には、顔が無かった。

 

 まるで趣味の悪い福笑いとでも言えば良いのか、顔が崩れ落ちて断面を晒しているのだ。

 そんな殺戮現場の中央に居るのは狩衣を纏った黒髪の少女。

 たおやかな雰囲気を漂わせているが、この現場を作り出したのが彼女だと知れば和製ホラーの黒幕にしか見えない。

 

 「やはりマスター相手では赤字ですね。皆さん血気盛んで、釣られて楽しんで居ては直ぐに素寒貧になってしまいます」

 

 デスペナルィとなったマスターが光の塵となり、彼女の持つ壺に吸い込まれていく。

 死んだ者のリソースを取り込むのは、この世界のあらゆる存在が行なっている事だが、彼女の持つエンブリオも同じことをしている。

 殺した相手のリソースを壺の中に取り込み、様々な形で利用するのが彼女エンブリオ、【餌餓慈惨 ジゴクヘン】。

 殺して集めたリソースで、更なる地獄を作り出すエンブリオ。

 この蠱毒にお誂え向きなエンブリオだが、回収出来るリソースの少ないマスター相手では燃費の悪く、溜め込んだリソースは日々減るばかり。

 

 「暫くはダンジョンに篭りましょうか。ここの超級の方々に挑むには、今の蓄えでは余りにも心許ないですし」

 

 この監獄に囚われた超級達は、どれも彼女の心を湧き立たせる相手であり、挑むならば相応の準備をしてからにしたい。

 そのためにも、暫くはモンスター相手で我慢するかと自重する。

 もしかすると相性のいい<UBM>を討伐できるかも知れないし、新しく創りたい式神の構想が幾つもあるのだ。

 

 「ああ、それにしても早くあの方に会いたいですね」

 

 彼女が思い出すのは一人の男。

 自分を叱責した大名を殺し、その様を娘に見せることで恐怖を煽り上質な式神の素材として加工して居た時のこと。

 前触れも無く突如として現れ、自分を一瞬で死なせた相手。

 強力な前衛の式神も、ダメージや状態異常を引き受ける式神も意味を成さず、皆等しく死んでいたその光景が今も彼女の頭に焼き付いている。

 

 アレは戦いですら無かった。

 あの男からしても戦いですら無かったのだろう。

 ただ単に、死ぬべきだと判断した相手に、『死ねと命じた』だけ。

 

 圧倒的で絶対的で傲慢で慈悲深い。

 天地の修羅とも違う異質さ。

 それこそ、本人が称するように神の視座を持つが故なのか。

 或いは、人間のまま神の如き傲慢さを持っているからこそなのか。

 どれだけ考えても、彼女にあの男の事は理解出来ない。

 

 「気が付けばあの方の事ばかり考えてしまいます。もしかして、そういう事なのでしょうか」

 

 顔を赤らめて恥じらう彼女。

 見惚れるような姿だが、彼女もまた天地の修羅。

 

 「ふふ、早く死合いたいですね」

 

 次会う時は、敵として神さえ殺して見せよう。

 その想いを胸に溢れさせながら、獲物を探して流離う姿はまるで恋する乙女のようでもあった。

 

 「最近は新しい超級の方も来たそうですし、此方も楽しくなりそうで…………あら?」

 

 何やら騒がしい音に釣られて来てみれば、そこには巨大な六つの脚が監獄の壁を穿っていた。

 貫通こそしていないが、確かにその向こう側には青い空が見えている。

 

 「これはこれは、千載一遇の好機と見ました♪」

 

 はずむ声に釣られるように、彼女の体も宙に躍り出る。

 目指すは死の螺旋の遙か先、どれだけ困難な道のりも、修羅にとっては散歩道。

 

 「そう言えば、今日の運勢は『最高』なのでした。所詮は真似事でしたが、占いも悪くありませんね」

 

 修羅にとっての最高がどのようなモノかなど、今更論ずるまでも無い。

 

 

 ◆

 

 王国の遥か上空。

 高度二〇〇〇メテル、そこには雲を固めて土台にした簡素な作りの建物が鎮座していた。

 これこそクラン<ウェルキン・アライアンス>の本拠地。

 雲を固める特典武具を利用して作られており、この世界の空にて生存圏を確立出来る猛者達が集まっている場所だ。

 その建物の中で一人の人物が新聞を読んでいる。

 <DIN>から買った新聞には最近のニュースが載っており、世界情勢を知るためにも購読しているのだ。

 

 「オーナー! 何見てるんですか、面白い事でも書いてありましたか!」

 

 元気溌剌といった雰囲気のリーフに、オーナーと呼ばれた人物は新聞の一面を飾るニュースを説明してあげる。

 

 「うん、幾つか載ってるよー、例えばこれとか」

 

 そこには、とある事件が一面にデカデカと書かれていた。

 興味深そうに覗き込んだリーフは、見覚えのある名前がある事に驚いた。

 

 「えーっと、【強奪王】エルドリッジが【殺人姫】を撃退し、“常緑樹”のスプレンディダ撃破!?」

 

 かつて王国にて、最強のPKと恐れられたその名前をリーフも知っている。

 個人武力だけで無く、多くのマスターを従えるカリスマと、それを運用する戦術眼を持ち合わせる存在として名を馳せて居たのだから。

 だが、最近は超級に何度も敗北したことでクランメンバーも散り散りとなり、その栄光は過去のものとなった筈。

 そんな男が超級二人を相手にして片方を撃退、もう片方を撃破したというのだから驚きもする。

 

 「ほぼ相打ちだし、【爆裂姫】の助力があってこそ、だって謙遜してるらしいけど。あま、それにしても良くやったものだよぉ。スプレンディダはカルディナでやってた犯罪行為が明るみに出たし、国際指名手配されたから今頃監獄に居るだろうしね」

 

 他にも幾つかの事件が載っているが、この事件がもっと大きく取り上げられているが、それも当然の話だろう

 超級とは国を脅かせる力を持った存在、それを超級ならざる身で討ち倒したのだから騒ぎにもなる。

 しかも、それが最強の名を冠する超級でさえ殺せなかった相手となれば尚更だ。

 

 「他には、王国と皇国の講和会議が破談したそうだねぇ。へぇ、【獣王】を追い詰めたルーキーか、そう言えば前の事件の時も聞いた名前だ」

 「あの【獣王】をですか!? 凄いですねその人! 是非とも一度戦ってみたいです!」

 「うーん、流石にリーフの相手は荷が重いと思うけどなぁ」

 

 むしろ、リーフと相性の良い相手の方が少ないだろうが。

 空中から襲い来る固定ダメージの爆撃を前にしては、流石の“不屈”も手の打ちようがないだろう。

 遠距離カウンターを発動しようにも、その前に全身が消し飛んで死ぬこと間違いなしだ。

 

 「講和会議が失敗した以上、王国と皇国の戦争は避けられないだろうし。今回は僕達も参戦しようかなぁ」

 「良いですね! 頑張っていきましょうオーナー!」

 

 彼は気炎をあげるリーフを微笑みながら眺める。

 しかし、頭の中では様々な考えが渦巻いていた。

 皇国は講和会議に合わせて王都への襲撃も仕組んでいたという。

 第一王女を攫うだけなら王都へ干渉する必要は無い筈、ならば一体どんな思惑があったのか。

 さらにはカルディナの不自然な動き、まるでグランバロアと戦争を起こしたいように見える。

 未来が見えると噂の議長は、一体どんな未来を目指しているのか。

 

 「前回の騎鋼戦争は、超級同士のぶつかり合いしか目立つ戦闘はなかった。それ以外は全て前座か添え物扱いが良い所かな」

 

 超級以外は殆ど数合わせで、ただの取り巻きABCでしか無い。

 超級以外で戦局を動かした者は居なかった。

 

 「なら、今度は僕達が戦局を左右する存在になるのも良いかも知れない。とっておきの一撃で、皆んなを驚かせてあげなきゃね」

 

 結局の所、彼自身も大きな駒しか見ていないのだ。

 だがその傲慢さを考えれば、彼があの座に就くのは運命だったのかも知れない。

 

 「それで狙うなら、やっぱり一番有名な相手だよね」

 

 彼の脳裏には、世界中でトラブルにモヒカンを突っ込む奴の顔が浮かぶ。

 彼はきっと来るだろう。

 前回の戦争で王国と戦わず、皇国へ攻め込んだカルディナの勢力を壊滅させた時と同じように。

 トラブルが起こる際、まるで予言でもしていたかのようにそこに居る男なのだから。

 複数の思惑が絡み合い、世界の命運を左右する決戦の軍靴が、直ぐそこまで近付いていた。

 

 この先の結末には、まだ何も定まっていない可能性の海が広がっているのだろう。

 

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