<Infinite Dendrogram><SUBM>単独討伐RTA風 作:菌床
──かつて、一人の天才は滅びに抗うための兵器を造った。
その兵器には人々を守るという使命が与えられた。
──かつて、一人の天才は人類の生きた証となる作品を造った。
その作品には何の使命も与えられることは無かった。
◆
第二次騎鋼戦争最終日。
皇国と王国の命運を決する戦い。
国の代表たるマスター達によって、互いの旗を壊し合う誰も死なないための戦争遊戯。
両国の王以外にも多くの差し手達の思惑が入り乱れた大舞台も、いよいよ終わりが近づいていた。
三つの旗も残り僅か、主役たるマスター達は因縁の相手との決着に臨む。
そんな舞台の脇で、二つの存在が両国の首都へ指を伸ばしていた。
アルター王国首都。
物理的にも多くの爆弾が集まったその土地へは『死』が。
ドライフ皇国首都。
緩やかな死を待つしか無い枯れ果てた土地へは『生』が。
両者共にこの世界の先住概念とされるモノ。
互いにバランスを取り合うアレらは、片方が現れた事でもう片方も舞台へ干渉する事を決めたのだ。
古き神にすら見通せぬ彼らの登場は、舞台を更なる混沌へと突き動かす事になる。
◆
皇国首都。
アルター王国王城の一室、第三王女の自室で【鎌王】ヴォイニッチが【剣王】と【超闘士】と死神に囲まれ四面楚歌となった同時刻。
遥か遠くの皇国首都では<天獄の駒>と呼ばれる者達が暴れていた。
彼らはかつて特務兵と呼ばれた歴戦の猛者、ティアンの上澄である。
生前に【天竜王】と契約した者達であり、全盛期の肉体と能力で甦った後は契約に従って皇国の首都を襲撃している。
彼ら特務兵の首魁は先代皇王ザナファルド。
<天獄の駒>として甦った彼の目的は、この世界が創られた目的である<
彼は生前その目的のために機械的な生を送り、死後を売り渡してでもその目的を達成しようとしていた。
彼は自分達ティアンが創られた使命を果たすためならば、自分が辿り着けないとしても誰か一人が最後に辿り着けば構わないと考えている。
そのために数千数万、或いは全人類が滅びる戦乱が引き起こされても構わ無い。
寧ろ望むところだと考えており、今回の襲撃もその一端に過ぎない。
そのためにザナファルドは【皇玉座】を起動させ、王国首都を砲撃させた。
しかし、本来【皇玉座】は皇王を選び守るための兵器であり、皇王以外には扱え無い。
ならば何故ザナファルドが扱えるのか。
それは歴代の皇王のデータが消えるわけでは無いため、先代皇王であるザナファルドは起動させる事ができるからだ。
ちょっとした裏技の様だが、被害を被る側からすればたまったモノでは無いだろう。
チェシャはそろそろキレて良いと思う。
今王国首都へ放たれたのは、【四禁砲弾】と呼ばれる砲弾。
【皇玉座】に搭載された兵器である【四禁砲弾】は先々期文明に造られた物であり、その威力は都市を消し飛ばして余りある超兵器。
直撃すれば【邪神】だろうと死にかね無い代物である。
もっとも、それは【邪神】の対異物防御が無ければの話。
異物からのあらゆる干渉を受け付け無い力の前では全くの無意味であり、王都に潜む【邪神】以外の周囲に甚大な被害をもたらすだけに終わるだろう。
だが、ザナファルドもその事は良く理解している。
今回の件は【邪神】を成長させることにしかなら無いと。
だが、【邪神】を守りたい勢力と殺したい勢力の戦いを誘発することが出来るならそれで十分。
寧ろ【邪神】という存在を巡って世界が二分される可能性もあるのだからやり得だ。
目的のためならどんな犠牲も厭わ無い、例えそれが自分だろうと世界だろうともだ。
何とも非情で冷徹で熱烈な思考回路。
彼は人間というより、いっそ機械的な在り方をしている。
「ふむ……【大預言者】は落ちて居るのか。アレが居れば玉座諸共皆殺しにされかねん故、警戒していたのだがな。マスターの世界の【先導者】に当たる存在に一度会っておきたかったものだ」
『これは善意からの忠告だけど、彼に関わるのは本当に辞めておいた方がいいよー』
「ハッ、この二年で散々振り回されたらしいな。マスターは貴様らの管理下にあるのでは無かったのか?」
「彼らは……自由だから……」
同僚達が散々振り回されてげんなりしている光景を思い出す。
三強時代ぶりの胃痛枠となったジャバウォックの顔を思い出す度に、居た堪れない気持ちになってしまう。
最近は双子も追加され、育児疲れした家庭の様相を呈して来た。
現実逃避するように特務兵を攻め立てるチェシャ。
「だが、死んで居るのならばこちらには干渉出来まい。二発目も発射は終わり、三発目ももう直ぐ放たれる。果たして王都に残った手負のマスター達に阻めるかな」
モヒカン・ゴッドが生きて皇国首都に居れば、或いは皇国首都に居なくとも、砲弾そのものを消すことも出来ただろう。
砲弾に【劣化】の状態異常を与えれば即座に塵になるため、そもそも爆発すらしない。
だが、件のモヒカンは消えた。
果たして今の王国にあの砲弾を防げる者が居るのだろうか。
『──分かって無いね』
その言葉は、最も長くこの世界で活動して来たチェシャだからこそ言えるモノだった。
『死んだ後にも残るものはある。それは君達も良く理解していると思っていたんだけどね』
善も悪も関係無く、後の世に続くものは必ずある。
道半ばで斃れた【勇者】、その生き様に多くの者が影響を受けたように。
或いは、姉妹達の死の果てに全ての人間を嫌悪するようになった機械のように。
『それに、死んだ後にも影響を残すのは『預言者』の得意分野でしょ』
「──ああ、アレか。全く因果なものだな。ならばツヴァイツァー皇国を継ぐ者として、二千年越しの性能比較と行こうでは無いか!」
アルター王国首都上空。
そこに、金とも銀ともつかぬ色をした巨大ゴーレムが降り立った。
◆
【グレイテスト・ワン】。
彼の主人であるモヒカン・ゴッドは既にデスペナルティになっている。
モヒカン・ゴッドは今回の戦争にて王国最大の敵として警戒されていた。
どんな相手だろうが問答無用で殺す殺傷能力に加え、最高の<SUBM>を前衛に立たせるクソゲーを強いて来るからだ。
だが、今回の戦争ではそれ以上だった。
なんと、カルチェラタン遺跡から【グレイテスト・ワン】が拾って来た決戦兵器に乗って参戦して来たのだ。
対化身用決戦兵器空中戦艦【ヴァスター】。
【建造王】の協力の元、破損していたそれに複数の特典素材を用いて、巨大特典武具として改修した超兵器。
空間希釈以外にも複数の機能を追加されたその力は<イレギュラー>に匹敵し、モヒカン・ゴッドの唯一の弱点である本人が打たれ弱いという弱点を克服させた。
実質<イレギュラー>二体を引き連れた超級が防御不能の【即死】をばら撒いてくるという不条理。
結果として、一日目で王国の各要所が落とされて行った。
超級質量による空中爆撃、降り注ぐ分子振動熱線砲、各種大型特典武具による飽和攻撃。
近づけば希釈された空間での戦闘を強制され、あらゆる物質をプラズマまで分解する超振動を纏ったゴーレムが突撃し、不可視の即死級状態異常が張り巡らされている。
あまりの理不尽さに、王国勢もどうすんだこれと慄き、「もうフィガロぶつけるしかねぇよ!」と発狂していた。
だが、その中で諦めずにモヒカンの首を狙う者達が居た。
彼らはモヒカン・ゴッドを追跡しタイミングを待っていたのだ、狩人の如く。
そして、どの指し手も想定していなかったたった一人のティアンによって盤面は動いた。
片っ端から王国勢力を壊滅させていたモヒカン・ゴッドは、道中モンスターに襲われているティアンの少女を発見した。
何故か戦闘区域に一人で出歩いており、【グレイテスト・ワン】でさえ最初は主をルール違反で倒す罠かと訝しんだほどには怪しかった。
だが、モヒカン・ゴッドにはそれが罠では無いと直感的に感じ取った事で、油断してしまったのだ。
故に、彼は【ヴァスター】から降りて少女を保護しようとする。
【グレイテスト・ワン】は大きすぎて子供を怖がらせてしまうだろうし、自分の溢れ出る慈愛のオーラで子供を落ち着かせようと考えたのだ。
世紀末モヒカンが子供を落ち着かせようなんて夢見てんじゃねぇ、という話である。
そして、少女を助けようと近づいた瞬間
更に目と喉を抉られ、視界を奪われてスキルの宣言も封じられた。
しかも、反射的に発動した宣言省略の《予言》は《予/言》にされた。
スキルそのものを切断するという理外の技を八連撃で叩き込まれ、惨殺死体と化した。
【グレイテスト・ワン】の音波障壁させ間に合わない程の早技で、念入りに殺されたのである。
これを成した犯人は、かつて王国で活動していた三つのPKクラン連合。
元<凶城>オーナー【鎧巨人】Barbaroi・Bad・Burn。
<ゴブリンストリート>オーナー【強奪王】エルドリッジ。
<K&R>オーナー【抜刀神】カシミヤ。
PKの専門家であり、対人戦に秀でた集団として名を馳せた者達。
彼らは待ち続けていたのだ。
影に潜り、空を駆ける空中戦艦を追尾し続けた。
来るかも分からない、一瞬の隙をただひたすらに。
直後に全員が【グレイテスト・ワン】に消し飛ばされたが、彼らは確かに成し遂げたのだ。
超級ならざる身で超級を討ち倒すという赫灼たる戦果を。
──だからこそ、今【グレイテスト・ワン】は主人が不在の状況だ。
特典武具の力で主人であるモヒカン・ゴッドが不在でも活動は出来る。
だが、【グレイテスト・ワン】は命令も無しに行動する事はない。
ならば何故【グレイテスト・ワン】がこの場に居るのかというと、主人の最後の命令の為だ。
モヒカンは消える直前に、配下とテレパシーでやり取りする特典武具を使い命令を与えて居た。
だが、その命令が問題だった。
──成すべきを成せ
ただそれだけの短い命令。
この命令に【グレイテスト・ワン】は大いに困惑した。
成すべきを成せ……とは一体どいう意味なのか?
何をどう成せば良いのか具体性に欠けており、彼の思考回路では直ぐに答えが出なかった。
ならば主人の思考回路から答えを導き出そうとしたのだが、主人はその時々で性格まで変わるので全く参考にならない。
主人が所属した皇国を戦争で勝利に導けという意味なのだろうか。
それとも、戦争による傷病者の治療に当たれという目的だったのだろうか。
考えども考えども答えは出ず、そうしている内に戦争も佳境に差し掛かって居た。
まずい、このままでは主人の命令を達成出来ないと必死で考える。
そんな時、【グレイテスト・ワン】に追加された広域探知系特典武具がとある反応を拾った。
国一つ程度の範囲なら<UBM>の大まかな位置を探知出来る優れものであり、それが探知したのは皇国首都で<イレギュラー>が活性化したという反応であった。
【皇玉座 ドライフ・エンペルスタンド】。
それは、先々期文明に創られた兵器。
人を守るために人に創られた兵器でありながら、いつしか人を害する様になってしまった存在。
自身が緑化した土地を枯らしていくため、忌々しく感じて居た玉座が動き出した事を理解した。
これを機に消してしまおうかとも考えたが、アレは国の象徴であり最終防衛機構でもあるため容易には判断出来ない。
そんな事を考えている内に、【皇玉座】から砲弾が放たれた。
【グレイテスト・ワン】の演算回路は告げて居た。
──その砲弾は、王国首都へ着弾すると。
──それを理解した瞬間、ガーゴイルは重力を切り裂いて飛翔した。
◆
アルター王国王城。
そこは混沌の坩堝と化して居た。
【邪神】である第三王女テレジアを殺そうと顕現した死神を切り裂く【剣王】フォルテスラ。
ヴォイニッチを死神探知機として振り回し、誘拐犯を牽制する【超闘士】フィガロ。
半泣きになりながらミリアーヌ守り、室内で眷属であるモーターから逃げ回る【盗賊王】ゼタ。
「──不味いんですって! 王都がぁああぁぁああ! 吹き飛ぉぉおおおお!?」
フィガロに振り回されてまともに喋れないヴォイニッチ。
彼は現在フィガロに足を掴まれて振り回されている。
何故こんな事になっているのかというと、フィガロに死神が見えないから探知機代わりにされているのだ。
フィガロに死神は見えないが、それは対処法が無いというわけでは無い。
近付けば死ぬという法則を持つ以上対処法はある筈、ならば死んでも死なない相手を使って居場所を探れば良いというものだった。
ちょうど良い事に、ここには不死身の裏切り者がいる。
そう考えたフィガロは、早速ヴォイニッチの足を掴んで振り回し始めた。
手に持つヴォイニッチが死ねばそこに死神が居ると分かるからだ。
訳が分からない、何なんだこの男は。
早くしなければ王都が吹き飛んでしまうと知っているヴォイニッチは必死で伝えようとするが、話を聞かない脳筋に伝わるはずも無し。
(このままでは【邪神】が死んでしまう! どうにかしてこの脳筋共を止めなければ……ッ!!)
ヴォイニッチが祈るような気持ちで人間棍棒にされて居た時。
王城内にアナウンスが響き渡った。
『――皇都より【四禁砲弾】二発が発射されました』
『――弾種は超熱量弾頭【昇華砲弾】、並びに多重固定損傷弾頭【生滅砲弾】』
『――五〇秒後、及び二分後に王都に着弾します』
『――可能ならば対処を要求します』
『――不可能ならば、第三王女の退避を優先してください』
その場に居た全員がアナウンスの内容に動きを止める。
ヴォイニッチはすかさず声を上げる。
今ここで力を振り絞らなければ、また人間棍棒にされて何の情報も伝えられなくなるのだから。
「【盗賊王】! 早くテレジア殿下を連れて逃げて下さい! あの砲撃で貴方が地下に設置して行った爆弾が誘爆したら殿下でも死んでしまう!」
自分に複数の視線が突き刺さ立た事を認識してゼタは震えた。
特にフィガロの視線をまともに受けた事で乙女の尊厳が失われかける。
「詰問! 何故その事を知って──」
「今そんな事はどうでも良い! 死神は私達が食い止めますから早く!」
皇王の依頼で王都の地下に設置した爆弾の事を、何故王国所属のマスターが知っているのかとゼタは驚いた。
しかし、何故それを王国側に知らせなかったのか、というか何故フィガロに人間棍棒として振り回されているのか。
分からない事だらけだが、目視出来ない死神なる敵がいる事は察しており、このままでは依頼を達成する事は難しそうだと判断する。
「……仕方ない。僕は砲弾に対処するついでにこの裏切り者を能力圏外まで連れていく。そっちは任せても良いかい?」
そう言って視線を向ける先には、見えぬ敵を切り裂きその力を散らす好敵手がいた。
「この不愉快な奴は抑えておこう。だが、今のコンディションで出来るのか?」
「やるしか無いさ。という訳だからゼタ、君に──」
その時、その場に居た全員が莫大なエネルギーの本流を感じ取った。
「「「「「───!!?」」」」」
あまりにも強大な存在感だが、不思議と危険を感じない。
まるで穏やかな陽光を浴びながら昼寝をしているような感覚さえ覚える。
そんな太陽の如き力を持つ何かは、皇国から迫る脅威に立ち塞がるように王都近郊へ移動して来た。
「──うん、砲弾は大丈夫だね」
「……良いのか?」
「きっとやってくれるよ。彼は何かを護る時にこそ、真価を発揮するからね」
疑義の視線を向ける好敵手に、自身ありげにそう返す。
前回の戦争で衝突した相手であり、その強さと在り方を知るフィガロには、彼ならば何とかするだろうという確信があった。
「さて、という訳でゼタ」
「はい?」
そそくさと退散しようとして居たゼタが振り返ると、真顔のフィガロがこちらを見つめて居た。
「君を見逃す必要は無くなった」
「………え?」
特に理不尽でも無い唐突な死刑宣告がゼタを襲う。