<Infinite Dendrogram><SUBM>単独討伐RTA風 作:菌床
飛翔する【グレイテスト・ワン】はふと考える。
創造主が今の自分を見たのなら、一体どんな風に評するのだろうかと。
認めるのか、否定するのか、或いは興味を示さないのか。
不世出の天才である彼に創り出された自分は、彼の思うような存在であるのだろうか。
少なくとも、そうであれば良いと思う。
そして、今の自分の行為を主人であるモヒカン・ゴッドはどう評価するのだろう。
神の如く傲慢で慈悲深い我が主人ならば──
その時【グレイテスト・ワン】は、己の記録回路に焼き付いた会話を思い出す。
──ヒャッハー! どうした? この程度の傷どうって事ないぜェ!
かつて、己の力不足で主人に傷を合わせてしまった時のこと。
自分という存在は今のままで良いのだろうかと。
今のように独立して行動する召喚モンスターとしてアジャストするのでは無く、鎧や着ぐるみのように主人を護れた方が良かったのでは無いか。
そうで在った方が、主人も良かったのでは無いかと問うたのだ。
──あん? 着ぐるみや鎧ねぇ、確かにその方が俺を守りやすいだろうよ
──けどな、俺は今のワンちゃんで良かったと思うぜ
──ヒャッハー! 何たってお前は、この神にとって──
『────』
全身に満ちたリソースが活性化しているのを感じる。
器物たるこの身には、感情に影響される機構など組み込まれては居ないというのに。
不思議だ、だが悪い気分では無かった。
◆
王都へ迫る【四禁砲弾】。
一弾目の銘は【昇華砲弾】と名付けられた物。
太陽の如く、太陽よりも熱く、無慈悲に大地を焼き尽くす滅びの光。
それは着弾地点の汚染などをまとめて浄化するという意図の下造られた、対城砦、対都市を想定した戦略兵器。
落ちればあらゆる生命の痕跡を残さず抹消するだろう。
『──標的確認』
そんな灼熱の滅びへ向かって【グレイテスト・ワン】は飛翔する。
金とも銀とも言えぬ不思議な色をした百メテルを超える巨大な体が、その重さを感じさせずに目標まで一直線に。
『──動力炉喚起、技巧想起開始』
直後、【グレイテスト・ワン】の体に幾何学模様が浮かび上がる。
そして、その全身から莫大な擬似《竜王気》が放出された。
赤く漲るオーラは、落ちる太陽さえ包み込むと思わせる程の圧倒的な質量だった。
《竜王気》は魔力と魂力を混ぜ合わせる事によって発生させる力である。
故に、そのオーラの総量は使用者の持つリソースの総量に応じて変動する。
伝説級<UBM>でさえ、全身を鎧のように覆う程度の量しか展開する事は出来ない。
いかに超級特典武具によって呼び出されたとはいえ、【グレイテスト・ワン】は長時間顕現の代償としてその能力は著しく劣化している。
ならば、一体どうやってコレ程のエネルギーを発しているのか。
その答えは、二年間の旅路にある。
◆
当初、超級特典武具となったばかりの頃、呼び出される【グレイテスト・ワン】の性能は強度を除けば神話級悪魔程度だった。
無形の動力炉によるエネルギー供給はあるものの、そのエネルギーで自活出来る範囲に性能を低下させて居たのだ。
だが、【グレイテスト・ワン】は召喚モンスター。
戦えば戦うほどに
並みの相手では成長出来ないが、相手が<UBM>ならば話は別だ。
【グレイテスト・ワン】は数多くの<UBM>を討伐し、そのリソースと概念を取り込んで来た。
ジャバウォックがキレ散らかすほどに短期間で狩まくり、その総数が一〇〇を超える頃には<SUBM>だった頃の性能に追いついた。
だが、【グレイテスト・ワン】には決して生前に追いつけない部分があった。
それは、特典武具としてアジャストした際に欠落した
<SUBM>を単独討伐した際は、複数の特典武具を造り出せるリソースのほぼ全てを一つの特典武具へと集約させる。
その性質上、生前の能力をほぼ全て発揮できる強力な特典武具となる。
だが、自活可能な召喚モンスターとして運用するにあたり、不要な部分を削る必要があった。
結果として、【グレイテスト・ワン】は内部構造が欠落し空洞が出来ている。
この点だけはどう足掻いても生前に及ぶことが出来ないのだ。
──だが、欠落こそが【グレイテスト・ワン】を生前以上に引き上げる要因となった。
何体もの<UBM>を狩る内、その空洞にアジャストする特典武具が複数現れたのだ。
内部の空間を拡張する特典武具、広域探知を可能とする特典武具、召喚者不在でも顕現を継続させる特典武具。
彼にアジャストした中で最も多かったのは、疫病を退ける特典武具と土地を賦活する特典武具だが、その次に多かったのは──
無尽蔵のエネルギー供給を行う……動力炉の特典武具。
その内の一つに【核動力炉 ウンターガング】という特典武具がある。
この特典武具は【核撃竜 ウンターガング】という古代伝説級<UBM>から得た物であり、名前の通りエネルギーの供給に特化している。
だが、この特典武具には問題があり、エネルギーを供給する代わりに『取り付けた装置を溶解させる』という致命的欠陥が有ったのだ。
制御能力を喪失した代わりに莫大なエネルギーを供給するが、無制御故に高熱で供給先をメルトダウンさせるデメリットアイテム。
だが、【グレイテスト・ワン】ならばあらゆる熱変動に対する完全耐性を有しているため、どれだけ稼働させても無問題となる。
【グレイテスト・ワン】は内部にこのような無制御動力炉を複数搭載しており、そこから齎されるエネルギーは
それこそ、<SUBM>だった頃でさえ不可能な全機構全力駆動さえ可能としているのだ。
欠落に欠陥機構を組み込むという、余りにも不合理極まる選択。
ある意味完全から最も遠い行為によって──『最高』は完全だった頃を凌駕したのである。
『 機構配列起動──《超振動》《竜王気》《発勁》』
【グレイテスト・ワン】は太陽の如き昇華砲弾へ真っ直ぐにぶち当たる。
神話級金属さえ原型を保てない超高温も、最高の金属によって創り出されたこの体には通用しない。
彼は流麗な動作で両手を押し当て、空中を踏みしめるような姿勢で火球へ触れる。
そして、両椀から放たれる《超振動》を《発勁》の要領で叩き込み──
【グレイテスト・ワン】は何もこの二年間ひたすら<UBM>刈り続けていた訳ではない。
モヒカンの無茶振りに付き合わされることも多く、通常の巨体では入らないオークション会場の様な場所で護衛を任されたこともある。
その時は【大小喚の輪】で人間サイズで召喚され、ついでということで近接格闘術も訓練させられた。
場所が黄河だったこともあり、ティアンから《発勁》を始めとしたスキルの類を教導され、持ち前の学習能力で短期間で修めてみせた。
そして、己の超振動と組み合わせた、新しいスキルとしてアップグレードしてみせたのである。
その技は対象の強度を無視し、内部から崩壊を伝播させる。
名付けるなら──《超振動発勁》と言った所か。
そう、これまでの一見無駄に見える回り道があったからこそ、辿り着く事が出来た技術なのだ。
だが、火球は爆散させただけでは消えはしない。
散り散りとなった高温の破片が王都へ降り注ぐだろう。
そうなれば甚大な被害が出る事は間違いない。
しかし、砕け散った火球が降り注ぐ事は無かった。
何故なら、昇華砲弾の熱量は全て──
《超振動発勁》に乗せられていた──海属性の《竜王気》で減衰され切って居たのだから。
【グレイテスト・ワン】は昇華砲弾を破壊した後、その残骸が広範囲に降り注ぐ事を憂慮していた。
そうなった場合、自分でも守り切るのか難しいからだ。
ならばどうするか……そう、根本的な問題である熱そのものを消して仕舞えばいいと考えたのである。
細かく分解すれば個々のエネルギー量は低下する、そうすれば《竜王気》による減衰も容易いだろうと考えたのだ。
【グレイテスト・ワン】は、その身から発する《竜王気》を対熱エネルギーに特化させて変化させる。
そして、その《竜王気》を《超振動発勁》に乗せて放つ事で、昇華砲弾は内部からもエネルギーを減衰され消滅した。
これこそは、
原理としては《発勁》の要領で超振動を伝播させ、超振動で砕けた箇所に反属性の《竜王気》を流れ込ませるという手法。
あらゆる存在を対消滅させながら広がる攻撃であり、特殊な防御手段が無ければ<イレギュラー>だろうと爆散しながら消滅させられるだろう恐るべき一撃である。
故に、単独でその領域に在らぬ存在が耐えられる筈も無く。
──此処に、昇華砲弾は消滅した
──『最高』、その身に一切の疵無し
◆
【グレイテスト・ワン】は一発目の砲弾を安全に解体したが、むしろ焦っていた。
何故なら、二発目の砲弾に対処するのは『最高』を以てしても容易な事ではないからだ。
王都へ放たれた二発目の【四禁砲弾】の銘は── 多重固定損傷弾頭【生滅砲弾】。
迫り来るその砲弾は、蕾を開く花のように空中で展開され……内部の魔法が咲き誇る。
クラスター弾の如く広がり地上へ降り注ぐそれは、全て固定ダメージの塊だ。
数万を超えるその弾が一つでも街に落ちれば、そこから致命的な破壊を齎すことになる。
そして──これは『最高』の苦手分野に当たる。
彼は最高の純粋性能を誇る存在だ。
だが、それ故にあらゆる事が自分のみで完結しているとも言える。
そもそも今回放たれた砲弾は……どれも『最高』を傷付ける事が出来ない。
【昇華砲弾】は超高温であらゆる物質を昇華させるが、熱変動を無為とする超級金属の脅威では無い。
【生滅砲弾】はあらゆる存在に有効な固定ダメージの雨を降らせるが、それも
例え【四禁砲弾】を全て同時に叩き込まれようが……『最高』は何か対処に動く必要すら無い。
『最高』が創られた先々期文明において、彼を傷付けられる存在は数える程だ。
どんな状況でも、『最高』は残り続けるだろう。
それこそ、彼の創造主は人類が滅んだとしても、人類の生きた証となると考えていた程に頑強だ。
故に、彼の創造主は広範囲を守護する機能を持たせてはいない。
半端な防御手段より、『最高』の体の方が堅牢なのだから。
他者を必要としないが故に──他者を守る機能もない。
かつて『最高』は、とある村で守り神として崇められていた。
だが、彼が何かを村に齎した訳ではない。
大きく目立つから、それを目印にして人が集まった事で村が形成されただけ。
その精巧さから、次第に御神体のように思われて祀られたが、彼が動く事は無かった。
収穫期になれば供物を奉納され、彼を囲んで祭りが開かれるのをただ眺めていた。
ある意味、人々の暮らしを眺める事が彼の楽しみだったのかも知れない。
しかし、祀られたならば願いを乞われるのも当然のこと。
人々は彼に──村に豊穣を、疫病が来ませんように──と願っていた。
勿論、人々も彼が願いを叶えてくれるとは思ってはいない。
苦しい生活の中で縋るものが欲しかっただけだ。
だが、彼はそう願われても動く事がなかった。
そのような機能を持ち合わせて居なかったからだ。
それは冷淡なように見えて、自身の役割に殉じる忠実な守護者の在り方だ。
彼は自分に出来る範囲のことしかしない。
これまではそうだった──
『───動力炉臨界点超過』
だが……それは今の『最高』が諦める理由にはならない。
『──
【グレイテスト・ワン】は己の持つ機能全てを全開放して応戦する。
最大出力の分子振動熱線砲を拡散放射。
高出力の雷撃を広範囲へ無差別放電。
超振動の限界駆動による《太陽ノ闘》。
眼孔から放たれる《空間固定》光線。
複数同時展開される多重力場装甲。
両椀で放つ《発勁》による遠隔魔法阻害。
《竜王気》の性質変化による対消滅反応。
これら全てを同時に行使する。
かつて、<SUBM>だった頃でさえ不可能な機能の全開放。
あまりにも理不尽なまでの破壊を、ただがむしゃらに振るい続ける。
人々を護る──ただそれだけの為に。
【生滅砲弾】の弾は固定ダメージの塊だ。
ならばその対処法は単純明快。
少しでも攻撃を当てればいい。
そうすれば、その場でダメージを撒き散らす。
勿論、それが容易に出来る訳ではない。
何せ数が桁違いなのだから。
迫り来るのは数万の物量が、対処を阻む。
故に、【グレイテスト・ワン】は莫大な物量に対して、より
数万の砲弾──それを上回る質量で押し返さんとする。
圧倒的な純粋性能に任せたゴリ押し。
降り注ぐ雨に対して、山を投げつけるが如き脳筋戦法。
無茶にも程があるが、『最高』にはそれを可能にするだけの力が有る。
破滅の嵐が、滅びの雨を吹き飛ばす。
ぶつかり合う二つの力は完全に拮抗して居た。
だが……それでも追い詰められて居るのは【グレイテスト・ワン】の方だ。
【生滅砲弾】は無差別にばら撒かれる数万発の固定ダメージ弾の中で、どれか一つでも王都へ落ちれば良い。
それだけで甚大な被害をもたらす事ができるのだから。
それに対して、【グレイテスト・ワン】はその全てをその全てを的確に迎撃しなければならない。
演算回路を全力で奔らせる。
そして、その優れた演算回路は──最終的に防御を突破されると冷酷に告げて居た。
多重力場装甲は穴だらけになり、再構成よりも削られる方が早い。
《竜王気》は放出する端から削られて行き、少しづつだが押されている。
自身が持つ攻撃手段だけでは、砲弾全てを撃ち落とせないと、回路は既に答えを出している。
ならば、被害を最小限に抑える為に王城周辺のみに防御を固めるべきでは無いか。
そう、合理的な思考が回路をよぎる。
そうするべきで、それが最善の選択肢だと。
だというのに。
何故なのだろうか。
何故──今も全力で王都全域を守ろうとして居るのか。
これが己の性能を超えた事だと理解して居る。
ならば、それはすべきでは無い事だと。
分かって居る、分かって居るのだ。
それでも、引く事が出来ない自分が居ただけの話。
『─────ッ!!』
迫り来る砲弾の雨は、次の瞬間に彼の横を通り過ぎて王都を滅ぼすだろう。
その光景を演算したことで、後悔が溢れ出す。
自身が余計な事をせず、王城の守護にだけ徹していれば多少の被害は出ても多くの人を守れたのでは無いかと。
──自分がしたことは、徒に被害者を増やしただけだったと。
限界を超えて駆動する機関が、悲鳴の如き音を響かせる。
どれだけ吠えようとも、所詮この身は器物に過ぎないといのに。
雨樋の悪魔像が、滅びの雨に呑まれる。
その時──
『ャッハ──』
微かに、けれど。
確かに、聞こえない筈の声が聞こえたのだ。
◆
己の領分を超えた事を成そうなど、創造理念に対する反逆に等しい。
だが、被造物が己の意思で……己の持たされた
『最高』は今──己が創造理念の枠組を越えて見せたのだ。
ならば、その主人たる自称神が応えない筈もない。
【残響残歌 ソウルロアー】
かつて己の縄張りを魔法の地雷で埋め尽くし、禁足地を造りだした<UBM>の概念が武具となった物。
その装備スキルはただ一つ。
《遺された希望》。
このスキルは、ジョブ、エンブリオ、アイテムを問わず一つだけスキルを込めて置く事が可能だ。
そして、予め指定した時間になると、指定した対象か場所に発動する。
しかも──込めた本人が死亡して居ても発動する。
お察しだと思うが、このスキル滅茶苦茶使い難い。
スキルを発動させるにしても、予め必要な時間が分からなければ意味が無い。
さらに、死亡する直前なら時間を設定することも間もないし、自爆スキルでも使った方が手軽で強い。
下手に広範囲技を設定しようものなら、味方どころか自分さえ巻き込みかねない。
もしもこれを十全に使おうとするならば、それこそ未来を予知でも出来なければ話にならない。
しかし、これを持つのは──神を自称する【大預言者】。
ならば、今ここで発動するの必然だった。
『ヒャッハー! 神の威光を示せ──《極大召喚》!』
それは【大小喚の輪】のスキルであり、数倍から数十倍のコストを要求する代わりに……召喚モンスターを数倍に強化して召喚する効果。
モヒカンはこの時間、己が召喚モンスターを対象に設定して置いたのである。
なにも、モヒカンは未来を予知した訳では無い。
ただ、この時間に世界の命運を分ける『何か』が有ると予感したのだ。
だからこそ、自分のエンブリオのスキルは込めなかった。
モヒカンは信じたのだ。
あのゴーレムならば、きっと自分が居なくても……成すべき事を成すと。
そう、信じて居たのだ。
ここに──『最高』の守護神が降臨した。