<Infinite Dendrogram><SUBM>単独討伐RTA風 作:菌床
【グレイテスト・ワン】の朝は早い。
朝日が登り始めた頃には、大陸のどこに居ようとも空中戦艦【ヴァスター】へ帰還する。
すると予め設定されていた《極小召喚》にて、艦内でも活動可能な人間サイズへと召喚され直すのだ。
そして、人間サイズになった【グレイテスト・ワン】はDEX補正のあるエプロンに三角巾を装備し……。
料理の仕込みを開始した。
アイテムボックスから取り出した素材を手際よく加工し、個別に分けて並べて行く。
一切無駄のない完璧な動作で、無駄に広いキッチンを超音速で縦横無尽に動き回る。
普通の人間が見ればまるで分身しているかの様に見えるだろう。
そして仕込みが終われば、いよいよ調理開始だ。
超音速機動を可能とする【グレイテスト・ワン】ならば、複数の料理を同時並行して作るなど容易い事。
焼く、煮る、揚げる、蒸す。
それらを見事な手際で全てを同時にこなしていた。
だが、次第に調理方法が奇抜になってくる。
《竜王気》を圧力鍋の代わりに使用し始めたり。
肉の繊維を超振動で破壊して柔らかくし始めたり。
両手で鍋を掻き混ぜながら尻尾でフライパンを握り、重力を無視して空中に浮いたボウルから材料が投下されていたり。
側から見ると、キッチンが虹色に光り輝いている様に見える事だろう。
やがて料理が終了すると、時間停止アイテムボックスに料理を仕舞い、使った道具を食洗機に設置し後片付けを終わらせる。
余りにも手慣れている、一体どれ程こき使われているのか想像も出来ない。
そうして【グレイテスト・ワン】主人を起こしに向かう。
部屋に入った瞬間【グレイテスト・ワン】はこう思った。
──殺人現場?
そう思う程に汚く散らかっていた。
そこら中に散らばった本。
食べかけのお菓子。
造りかけのアイテム。
散らばった酒瓶。
脱ぎっぱなしの世紀末装備。
窓際に引っ掛かっている天使
ゴミ山から突き出た足。
昨日綺麗に掃除したのに、よもや一日で此処まで散らかすとは。
今では慣れたものだが、特典武具になったばかりの頃はこれが現代の人間かと恐れ慄いたものだ。
しかし、何を思おうとやる事は変わらない。
ゴミ山から主人を救助し、窓に引っ掛かっている天使を室内へ取り込む。
天使の方はいつも生活態度は良好なのだが、どうやら昨晩主人のアルハラに付き合わされ【酩酊】している様だ。
早速二人の身支度を整える。
天使ガブリエルの方は回復スキルを打ち込み、尻尾で抱えて持ち運ぶ。
問題なのは主人であるモヒカン・ゴッドの方だ。
主人は朝が弱い為、意識が覚醒するまで時間がかかる。
超振動で血行を良くしながら、洗顔、歯磨き、整髪を済ませる。
後は机に座らせ、テーブルに朝食を並べて置けば匂いに釣られて覚醒する。
「うごごごご」
「うっぷ……お、おえぇ」
なんかゾンビみたいだなぁ、と【グレイテスト・ワン】は思わずに居られなかった。
◆
「ヒャッハー! 負けちまったなガブリエル! まあそう落ち込まなくていいぞ?」
「私のせいにしないで下さいよ!? 主が油断するからです……! そもそも世紀末モヒカンが来て泣き止む子供が居ると思ってるんですか!?」
賦活効果付きの朝食を食べたモヒカンは、元気にヒャッハーしていた。
そして、なんか負けたのが自分のせいみたいな雰囲気にされそうになったガブリエルは全力で抗議していた。
第二次騎鋼戦争にて、このモヒカンが子供を保護しようとし近づいた所をあっさり奇襲されて倒されたのだから。
子供に近づく度に泣き喚かれるというのに、自分のマスターには学習能力がないのだろうか。
子供に好かれたいなら外見を相応に丸くするべきだ。
全身トゲトゲの歩く世紀末が子供に好かれようなんて二度と思い上がるんじゃねぇ。
「ヒャッハー! 皇国は負けたか……まあ仕方ない。いろんな勢力が露骨に妨害して来てたからな」
第二次騎鋼戦争にて、皇国は開戦前から不利だった。
依頼人不明の高額報酬に釣られた大規模PKによる物流の遮断。
各種犯罪組織による国内治安の悪化。
地殻変動によって流れ込んで来た大量の飢えたモンスター。
謎のカルト教団による国民感情の分断。
皇国に来る筈だった凖<超級>を殺して回る謎の存在。
国内のマスターやティアンが協力して対処に当たったが、次から次に発生するトラブルに見舞われ、ゆっくりとだが確実に疲弊していったのである。
複数の陣営にとって、ワンサイドゲームは望むところではなかったということだろう。
「ヒャッハー! てか、フィガロとレイレイが隠密しながら遊撃して来るのクソゲーだろ。アレもう何らかの法律に抵触すると思うぜ!?」
今回の戦争にて、この二人に皇国マスターは震え上がらせられた。
フルウォーミングアップ状態のフィガロが、その莫大なステータスで敵拠点と思われる場所を虱潰しに襲撃。
更に、仕事が空いて突如参戦したサプライズレイレイが歌いながら練り歩き、皇国のマスター達は見るも無惨な死に様を遂げた。
レイレイに至っては王国側として最も皇国所属のマスターを狩っており、その被害は【魔眼王】と相打つまで拡大し続けた。
「主も人のこと言えないくらいには好き放題してたじゃ無いですか。<ウェルキン・アライアンス>の人達ちょっと可哀想でしたよ、向こうの攻撃は届かないくせに、こっちの攻撃は好き放題撃ちまくって……」
モヒカン・ゴッドもかなりやらかしていたので、人のことは言えない。
カルディナで【冥王】から貰った水を土に変える珠。
これをグランバロアへ持っていき、【建造王】の全面協力のもと造り上げた新造空中戦艦【ヴァスター】。
決戦兵器を素体とし、大量に腐らせていた特典素材を惜しげも無く使用したことで、一つの巨大な特典武具と化した戦艦に乗って散々暴れ回ったのだから。
「ヒャッハー! この神の御座船に相応しい性能だぜぇ!」
「その船から降りてデスペナにされたんじゃ無いですか。全く……主から勘の良さを抜いたらモヒカンしか残ら無いんですから、気をつけてくださいよね」
「ヒャッハー!? え……お前そんな事思ってたの!?」
「多分ワンちゃんも思ってますよ」
思わず振り向くモヒカン。
──そんな事ないよね!?
という目で見てくる主人に対して。
『………………………………ッ』
「ワンちゃんッ!?」
何も言葉が出て来ない従僕に悲痛な叫びをあげるモヒカン。
変則的な勘に特化している主人から、その一点を取れば社会不適合者という事をよく理解していた。
神託の出来ない預言者は、ただのおかしな奴ということは地球の宗教が証明している。
「ヒャッハー………」
二人からダメ人間と思われていた事が予想外だったのか、かなり落ち込んでいる。
机に突っ伏してのの字を書き始めた。
「ま、まあ主はほら…………ほら、アレですからッ! ええっと、皇国から報酬で貰ったお酒飲みましょう! 宴会です!」
何もいいところが言えない事を物で誤魔化そうとしているのだ。
これが天使とか詐欺だろ。
皇国側に付く条件として貰った皇国秘蔵の酒達も、ダメ人間のご機嫌取りに使われるのは不本意だろう。
「ヒャッハー! 何かしょっぱいぜぇ! ……そう言えば、【盗賊王】は自分で設置した爆弾自分で回収したんだよな。何がしたかったんだアイツ?」
「別の勢力に雇われたとかじゃないですか? <IF>は色んな勢力と繋がりが有りますからね、あの爆弾の中身を知っていれば欲しがる勢力は幾らでも居るでしょうし」
「ヒャッハー! ふーん、あの爆弾の中身何なの?」
「──はぁ?」
ガブリエルは信じられない物でも見るような目をしていた。
呆れよりも心配が勝っているほどの表情だった。
「私の必殺スキルと主の奥義ですよ!」
「ヒャッハー……──え、マジで?」
状態異常が防御不可能な判定になる必殺スキルと、超広範囲状態異常を展開出来る奥義。
その組み合わせの凶悪さを知っているからこそ、安易に他者が使えるようにするだろうかと疑問に思う。
「クラウディア殿下に煽てられて使ったじゃないですか。え、本当に忘れてたんですか?」
「ヒャッハー! 神は(都合の悪い)過去を振り返らない性なんだ」
「ほら、世界考察対談した後に接待して貰ったじゃないですか。あの時ですよ」
「ヒャッハー! ──ああ、あの時かッ!」
──流石、神のお力は素晴らしいですわッ!
──このまま世界を滅ぼそうとする下郎共を皆殺しに致しましょう!
──ですが、この世界の存在では無い以上、常に神の威光が世界を照らす事は出来ません
──ですので、神の威光を僅かばかりお貸し頂きたいのですが……
──え……ボードゲームで勝ったら?
──スーーー、本気で挑ませて頂きますわね
そう言ってクラウディアとボードゲームに興じた事を思い出す。
論理的な思考だけでなく、運次第で幾らでも局面が入れ替わるボードゲームで賭けをした。
クラウディアが勝てば、ガブリエルと【大預言者】のスキルを込めたアイテムを。
モヒカン・ゴッドが勝てば、皇国の可愛い子を一人紹介して貰う。
この条件の下でモヒカンは四九人紹介してもらい、クラウディアは一度だけアイテムを手に入れる結果に終わった。
「クラウディア殿下滅茶苦茶頑張ってましたからね。せっかく造り上げた盤面が、主が適当に振ったサイコロの出目一つで崩壊するのは見てて可哀想でしたよ」
「ヒャッハー! 最後はもう執念の勝利だったな。徹夜で俺の判断力弱らせた所を狙った作戦勝ちだ」
運が絡む勝負でモヒカンに勝つのは分が悪いと考え、酒と疲労で弱らせ勝利を掴んだ。
クラウディアは何度負けても良かった。
ただ一度勝利すればそれで目的が達成されるのだから。
「ヒャッハー! にしても、あのアイテムを爆弾にしたのか!」
規模的には王都を丸々消滅させて余りあるMPを込めておいた筈。
それを考えれば、確かに欲しがる者は多い事だろう。
「主よ、どうします。回収に向かいますか?」
「ヒャッハー! いや、放っておけ。アレは放置した方が良い気がする」
あの爆弾が必要な場面が来るような気がしたのだ。
「ヒャッハー! それに、今はロリババアに呼ばれてるんだ。探し回ってる時間は無いぜぇ!」
【ヴァスター】のモニターには、どこまでも広がる大森林が映っていた。
濃い自然魔力によって歪んだ自然環境と、それに適応した亜人達の棲家。
幻想的な陽気で明るい表の顔と、様々な部族の陰謀渦巻く裏の顔を併せ持つ。
此処は悍ましくも美しい妖精郷。
「わぁ! いつ見ても綺麗ですね! 色々と死にかけだった皇国とは随分な差です!」
殺風景な皇国に辟易としていた天使は嬉しそうに飛び回る。
「ヒャッハー! いくぞ──ガブリエル、ワンちゃん! 久方ぶりのレジェンダリアへ! この神の威光を知らしめになぁッ!」
高笑いするモヒカンに、やれやれと肩をすくめる天使は呆れ顔だ。
「全く、主は私が居ないとダメなんですから。しっかり感謝して下さいよね」
そんな二人を、『最高』は微笑ましく眺めていた。
『ご随意に──』
空飛ぶ戦艦が降り立つ先には、一体何が待ち受けているのかは分からない。
しかし、ただ一つだけ分かる事がある。
それは、きっと『最高』の旅になるという事だ。