TSしたら監獄の管理人だった   作:ひんやりエルフの耳

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いやだもう

―――――目が覚めた。それはもう寝たような気がしないうちに。

 

「……最悪だ」

 

体が重い。頭がぼんやりする。

 

寝た気がしない。

 

「……三時間、経ったか?」

 

体を起こす。

 

窓はない。この世界に時計などという便利なものはない。

 

体内時計的には……経ってない。経っているかもしれないが、そう思いたくない。

 

「……寝不足で毒キノコ食った時みたいな気分だ」

 

足を床につける。

 

前世より小さく白く綺麗な足は、ぺたんという音と共に冷たい感覚を呼び起こす。

 

「未だに信じられないなぁ……」

 

口に入るぼさぼさの鬱陶しい髪をペッと吐きながらぼそりと呟く。

 

頬を抓るが勿論痛い。

 

「……はぁ。管理人なんて職業……」

 

ため息が出る。

 

はぁという声もソプラノ調で可愛らしい。

 

俺の前世ならウシガエルみたいな声が出ていたはずだ。

 

TSしたら異世界で、そして監獄の管理職。

 

「せめてチュートリアル寄こせっての……」

 

神のうんたらかんたらシチュも一切ないのである。

 

目が覚めた時には、すでにここにいた。

 

記憶はある。自分の名前も、前世もはっきり。

 

……だが今はどうだ。手を目の前で開く。

 

細い。小さい。どう見ても力はない。

 

だがそこらへんの人を物理的にぶっ飛ばす程のゴリラパワーがある。

 

この体は意味が分からない。不思議マジックである。

 

俺はもう一度溜息を吐いた。

 

「……着替えるか」

 

のそのそと歩き、クローゼットを開け放つ。

 

中には黒を基調とした制服がずらずらと並んでいる。

 

他?あるの?この体に合う服とか知らないわ。

 

どれも同じだがいろはにほへとで選んで一着取る。

 

袖を通しながら全身鏡を見る。

 

黒髪小柄、そして……ぺたん。ぺったん。

 

「……いや別に気にしてないけども」

 

自分で言ってて悲しいな。

 

 

 

 

 

 

廊下に出ると、空気がヒンヤリとしたものに変わる。

 

あまり好きじゃない空気だ。

 

「……巡回すっか」

 

サボると上司がうるさいんだよ。今はいないけども。

 

社畜精神万歳。

 

やるせない気持ちになりながらコツコツと歩けば、囚人たちは怯えるように目を伏せる。

 

問題なし。騒ぎなし。脱獄なし。ETCなし。

 

「……優秀」

 

自分で褒めるというのはモチベ維持に大切である。心は少し痛むが。

 

低階層を巡回し、少し上の階にある執務室に戻る。

 

ドアを開けると、廊下とは違うほのかに暖かい空気が俺を迎え入れた。

 

「あ、おはようございます。よく眠れましたか?」

 

左脇のデスクで優雅に書類作業をしている秘書が聞いてくる。

 

右脇のデスク?あいつは上層階の警備。書類はてんでだめなやつなのである。

 

「まぁまぁってとこかな」

 

やんわり眠れなかったよアピールをしながら自分の机を見る。

 

「……は? 増えてね?」

 

机上の書類。エベレストだったのが何ということでしょう。成層圏を突破しようとしています。

 

「……は?は?」

 

震える手で山から一枚取る。

 

勿論未処理。しかも各国から調子はいかが?的な返答必須のレターである。

 

「……うん」

 

嫌な汗が背中を伝う。

 

「おい」

 

「はい」

 

「増えてんだけど」

 

「はい」

 

「はいじゃなくて」

 

「?何か問題がありましたか?」

 

うわ。うわ……

 

俺はその場で膝から崩れ落ち、頭を抱えた。

 

「何かじゃなくて増えてんだよッ!」

 

「許可等が必要な分の追加です」

 

「やめろ減らせ!!」

 

「整理しておいたのでやりやすくなっています」

 

「違うそうじゃないだろぉ!」

 

手や足をぶんぶん動かしながら叫ぶ。

 

こいつらは戦闘民族……ではなく社畜民族だ。

 

永遠に理解しえない相手だった。

 

溜息を吐いてから立ち上がり、椅子に座る。

 

あー眠りたい。という邪悪な誘いに耐えながらペンを握る。

 

「あーもう!……やるしかないか」

 

「はい。頑張ってください」

 

「……やるけどさ」

 

精一杯背伸びして一番上の書類を取る。

 

「俺は仕事を減らしたいとずっと思ってるからな」

 

「はい」

 

「はいじゃなくて」

 

「はぁ……期待しております」

 

「他人事だなオイ」

 

対岸でビーチパラソルを開いている秘書を睨んでから書類に目を落とす。

 

各国からの手紙だ。返答どうしようか。

 

ただ一つ、確かなこと。はっきりしている。

 

「……寝てぇ。やめてぇ」

 

俺は深夜テンションを超え、何かになりつつある頭で返答を考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、例の監獄から返答が来たんですか?」

 

ちょび髭を生やした鋭い目つきの男が感心したように言う。

 

魔獣の跋扈する領域の最奥にあるその監獄はその環境からどの国にも属さず、誰も脱出できない”不可帰の棟”と言われている。

 

特に上層階には、この世界そのものをも脅かすような存在が収監されているのだ。

 

「……あそことのバイパスを作っておくことは、我が国の犯罪率低下にも繋がりますからね」

 

犯罪者にとっては送られるかも、というだけで十分恐怖なのだ。

 

兵士から手紙を受け取り、蝋の封を解く。

 

「どれどれ……」

 

”余計だお 煮詰め心配 とこしえに 少し覚まして 眺めけり”

 

「……は?」

 

 

 

 

 




※短歌は初心者による適当制作です。文句は勘弁してちょ
(言い訳:だって主人公も絶対初心者じゃん。深夜テンションで作っただけだろうに)
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