『ボクが美少女になっちゃって、魔法のタロットで放課後探偵団!? ~中身はガチの秀才男子だけど、身体が勝手にドキドキしちゃう   作:夏目陽光

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十話

第九回:基礎(イェソド)の濁流(だくりゅう)

 意識の底が抜けた。

 そこから溢れ出してきたのは、言葉にも論理にもならない、どろりと粘りつくような「夢」の残滓(ざんし)であった。私は、鏡を見る気力さえ失い、ただこの少女の肉体が放つ、饐(す)えたような熱い匂いの中に埋没していた。

 

 イェソドの月光は、ここでは青白く病んだ光となって、私の――いや、この少女の下腹部に、正体不明の疼(うず)きを呼び覚ましている。

 私の少年の知性は、その卑俗な衝動を「不潔(ガマリエル)」であると断罪しようとした。だが、脳髄(のうずい)を直接指先で掻き回されるようなその疼きは、私の高潔な拒絶を嘲笑い、肉体の全機能を、ただ一つの執拗な「渇き」へと収束させていく。

 

 それは、もはや特定の対象を求める愛ではない。ただ、この肉体という器が持つ「生殖」という名の自動機械が、燃料を求めて激しく軋(きし)んでいる音であった。

 

 私は、夢を見た。

 暗い水底で、無数の少女の四肢が絡まり合い、私という一人の少年の魂を、細かく引き千切って、その熱い血肉の中に同化させていく夢だ。

 私は、泣き叫ぼうとした。しかし、喉から漏れたのは、悦びに震える淫らな鳴き声でしかなかった。私の「心」は恐怖に凍りついているのに、この「肉体」は、その恐怖さえも甘美な刺激として貪(むさぼ)り、さらなる汚濁を求めて身悶(みもだ)えている。

 

「……ああ、これが、私の『基礎』か」

 

 私は、自らの内側に潜んでいた、この救いようのない不潔さを、初めてまざまざと見せつけられた。

 十五歳の少年という皮を脱ぎ捨てれば、そこにはただ、熱く湿った生存の欲望が、のたうつ蛇のようにとぐろを巻いているだけだった。私は、私を軽蔑していた。しかし、その軽蔑こそが、この不潔な幻想をさらに燃え上がらせる薪(まき)となるのだ。

 

 扉が開き、あの男の靴音が、現実の楔(くさび)として私の耳に届いた。

 彼は、床に崩れ、獣じみた喘(あえ)ぎを漏らす私を見下ろし、この世で最も汚らわしいものを見るような、それでいて慈しみに満ちた眼差しを向けた。

 

「おめでとう。君はついに、自分という『聖域』を自ら汚し尽くした。不潔こそが、生(せい)の最も剥き出しの姿だ。君の知性は、今、この泥濘(でいねい)の中で、初めて現実(マルクト)に触れる準備が整った」

 

 男が私の、その熱く湿った額(ひたい)に手を置いた。

 その瞬間に感じたのは、かつてのような拒絶ではない。ただ、自分の不潔さが彼に露見したことへの、絶望的なまでの「安堵」であった。

 

 私は、私であることを諦めた。

 この泥のように熱い幻想の中で、ただの「肉の塊」として、彼に、そしてこの世界に、すべてを明け渡すことを選んだのである。

 知性の光は消え、ただ月の裏側の暗闇が、私の意識を静かに包み込んでいった。

 

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