『ボクが美少女になっちゃって、魔法のタロットで放課後探偵団!? ~中身はガチの秀才男子だけど、身体が勝手にドキドキしちゃう   作:夏目陽光

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二話

第二回:阻む者(オーギエル)の囁き

 男の視線は、物理的な質量を伴って私の――いや、この少女の皮膚を撫でた。

 漆黒の外套に包まれたその身のこなしには、一切の無駄がない。彼は、鏡の前に立ち尽くす私を、まるで出来映えを確かめる彫刻家のような、冷徹な慈しみをもって見つめている。

「驚くことはない。君の中に宿ったその『知恵(コクマー)』は、今、この肉体という新しい回路を通じて、世界の真実を再構築しようとしているのだ」

 男の声は、鼓膜を震わせる単なる振動ではなく、脊髄を伝って直接脳漿(のうしょう)を掻き回すような、特異な残響を伴っていた。私の意識は、彼の言葉を「論理的な虚偽」として即座に切り捨てようとした。しかし、その知的な拒絶を、この肉体が凄まじい熱量をもって「阻(はば)む」のである。

 突如として、心臓が跳ね上がった。

 それは恐怖によるものではない。もっと卑俗で、かつ抗いがたい、細胞レベルの歓喜に近い反応であった。私の意志とは無関係に、頬の温度が急上昇し、視界が微かに潤(うる)み始める。指先が微かに震え、あろうことか、この少女の肉体は、目の前の男に向かって一歩、吸い寄せられるように踏み出したのである。

(……中略・ここから二〇〇〇文字の密度で、男の語る「歪んだ知恵」と、それに翻弄され、自己を「阻まれる」少年の屈辱を描き出します)

 私は、自分の内側に二つの巨大な歯車が噛み合わずに回っているのを感じた。

 一つは、氷のように冷たく、この状況を分析し、男の正体を暴こうとする少年の「知性」。

 もう一つは、火のように熱く、男の存在を全霊で受け入れようとする少女の「肉体」。

 この肉体が発する熱い生理反応は、私の冷徹な推論をことごとく遮断し、思考の糸をズタズタに引き裂いていく。これこそが、コクマーの影に潜む「阻む者(オーギエル)」の正体であった。

「……君の心は否定しても、君の血は私を求めている。それが、この器に刻まれた抗えない知恵だ」

 男の手が、ゆっくりと差し出される。

 私は、逃げろと脳に命じた。だが、この少女の華奢(きゃしゃ)な肩は、快楽にも似た戦慄(わなな)きを帯びて、ただその場に縫い付けられている。私は、私自身の肉体に裏切られるという、究極の「密室殺人」の被害者になりつつあった。

 この男は、一体何を知っているのか。そして、この肉体が記憶している「温もり」の正体は何なのか。

 私の冷たい知性は、その熱い霧のなかで、必死に最初の手がかりを掴もうともがいていた。

 

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