『ボクが美少女になっちゃって、魔法のタロットで放課後探偵団!? ~中身はガチの秀才男子だけど、身体が勝手にドキドキしちゃう   作:夏目陽光

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三話

第二回:知恵(コクマー)の毒潮(どくちょう)

 男の指先が、空気を切り裂くように私の――いや、この少女の顎(あご)へと伸びてきた。

 私の意識は、氷のように冷ややかな拒絶を命じている。この男は敵だ。私をこの異質な檻に閉じ込め、私の尊厳を剥奪した元凶に違いない。脳の中枢は、四肢を動かしてこの場から逃走せよと、烈(はげ)しい電気信号を送り続けている。

 しかし、この十五歳の肉体という「装置」は、私の指令をあざ笑うかのように、決定的な反乱を起こしたのである。

 男の指が、少女の柔らかい皮膚に触れた。その瞬間、私の意識を貫いたのは、戦慄(せんりつ)ではなく、形容しがたい「悦(よろこ)び」であった。

 それは、私の知性が感知できるような高尚な感情ではない。もっと泥濁(どろにご)りした、脊髄に直接火を放たれたような、野蛮な生理現象である。

 少女の細い首筋から、じわりと熱い脂汗が滲み出し、私の意識の隅々にまで、甘ったるい死の香りが充満していく。心臓の拍動は、もはや制御不能の暴走を始め、肋骨の裏側を激しく叩きつけた。

「……嫌だ。触るな」

 私は、彼女の喉を無理やり絞り、拒絶の言葉を吐き出した。だが、私の口から漏れたのは、拒絶とは程遠い、蕩(とろ)けきった甘い吐息であった。

 声という物理現象までもが、この肉体の熱に上書きされている。私の「冷たい言葉」は、彼女の「熱い喉」を通る間に、卑俗な誘惑の響きへと変質させられてしまったのだ。

 男は、私の――否、この肉体の反応を見透かしたように、口角を歪めた。

「無駄だよ。君がどれほど冷徹な『知性(コクマー)』を装おうとも、この肉体に刻まれた『阻む者(オーギエル)』の呪縛からは逃れられない。君は、自分の意志で自分を阻み、自分の熱で自分を焼き尽くす。それが、この密室に課せられた、唯一の解決不能な謎(ミステリ)だ」

 男の言葉は、私の理性を粉々に砕く槌(つち)となった。

 私は、私という一人の探偵として、この事件を解決しようとしていた。しかし、犯人は目の前の男ではなく、私自身の内側に巣食う、この「熱い肉体」そのものではないか。

 私は、私という被害者を救うために、私という加害者を捜査しなければならない。この絶望的な二重性(タウミエル)こそが、私が立たされた「王冠」の正体であった。

 男の手が、ゆっくりと首筋を滑り、少女の細い鎖骨へと降りていく。

 私は、目を閉じることさえ許されなかった。鏡の中に映る、熱に浮かされ、頬を染め、恍惚(こうこつ)とした瞳で男を見つめる「私」の姿を、ただ冷徹に観測し続けるしかなかった。

 

 自己が溶解していく。

 少年の知性が、少女の熱い血潮に呑み込まれ、一滴の墨汁となって消えていく。私は、私を失いながら、同時に、この肉体が発する「生」の暴力的な昂ぶりに、底知れぬ恐怖と、名付けようのない陶酔を覚えていた。

「……そうだ。理解するがいい。君の絶望こそが、この木の完成に必要な『知恵』なのだから」

 男は、私の耳元でそう囁くと、冷ややかに部屋を後にした。

 残されたのは、男の温もりを求めて震える少女の肉体と、それを絶対零度の視線で見つめ、激しい吐き気を催している少年の意識だけであった。

 

 

 

 

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