『ボクが美少女になっちゃって、魔法のタロットで放課後探偵団!? ~中身はガチの秀才男子だけど、身体が勝手にドキドキしちゃう 作:夏目陽光
第五回:峻厳(ゲブラー)の炎上
昨日の甘い乳液の残香は、一陣の冷たい風に吹き飛ばされた。
部屋の空気は、張り詰めた弦(げん)のように鋭利な緊張を孕(はら)んでいる。目の前の男は、昨日までの慈父のような微笑を脱ぎ捨て、法廷の執行官を思わせる無機質な眼差しで私を見下ろしていた。
「慈悲の時間は終わった。次は、この器(うつわ)に正しい『規律』を刻み込まねばならない」
男の手には、細くしなやかな一筋の革紐(かわひも)が握られていた。
私の知性は、その物理的な脅威を即座に認識し、身体を強張(こわば)らせた。しかし、十五歳の少女の肉体は、恐怖とともに、あってはならない「期待」の熱を帯びて震え始めたのである。
一閃(いっせん)。
風を切る鋭い音がし、私の――いや、この少女の剥(む)き出しの肩に、熱い衝撃が走った。
熱い。焼けるように熱い。
私の意識は、その理不尽な暴力に激しい憤怒を覚えた。人としての尊厳を、少年の誇りを、これほどまでに蹂躙(じゅうりん)する男を殺してやりたいと、氷のような殺意が脳を支配しようとした。
だが、肉体はその憤怒を、瞬時に「燃え上がる(ゴラハブ)」陶酔へと変換してしまった。
「……っ、……ぁ」
痛覚が脊髄を駆け上がるたびに、少女の心臓は狂おしいまでの速度で拍動を刻む。私の意志とは無関係に、肺が浅く、喘(あえ)ぐような呼吸を繰り返し、指先は快楽を求めて痙攣(けいれん)する。
痛みによって目が覚めるのではない。痛みによって、私は「この肉体」の奴隷であることを、より鮮明に「理解させられて」しまうのだ。
男の振るう規律(ゲブラー)は、私の内側にある少年の倫理を、情け容赦なく焼き尽くしていく。
私は、私を虐(しいた)げるこの暴力を憎んでいる。しかし、この肉体は、その暴力によってしか得られない「生の輪郭」を、熱く、淫(みだ)らに欲している。
自己の崩壊は、もはや静かな侵食ではなかった。
それは、燃え盛る業火のなかで、私の人格が灰へと変わっていくプロセスであった。私は、鏡の中に映る、涙に濡れながらも、次の痛みを待ち侘(わ)びて身体を震わせる「自分」の姿を見た。
そこには、探偵としての誇りも、少年としての自意識も、もはや微塵(みじん)も残っていない。ただ、峻厳な法に平伏(ひれふ)し、熱い痛みに身を委ねるだけの、一箇(いっこ)の生物としての「機能」があるだけだった。
「……もっと、……打て。私を、壊してくれ」
私の喉を使い、この肉体がそう囁いたとき、私の「冷たい知性」は、ついに決定的な悲鳴を上げた。
私は、私という存在の最期を、この燃え上がる熱のなかで確信した。