ちょっと変わったガンダム世界を行く   作:乾燥海藻類

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ジオン編①

ガンダムの世界だ……。

そう気づいたのは、生後半年くらい経ってからだった。

コロニー、サイド3、ムンゾ自治共和国、それらの単語から導き出される答えはひとつしかない。

ジオン、ジオン……ねぇ。

 

せめて地球に産まれたかった。いや、地球も地球で大変だとは思うが、敗戦国よりはマシなんじゃないかな。

さて、どうすっかなぁ。年代的に考えて、普通に就職しても徴兵に引っかかりそうなんだよな。ジオンは最終的に学徒動員までして兵士を確保するくらいに追い詰められていたし。

 

軍人になる? それもなぁ。生き残れるとは思えん。万が一、万が一にもアムロに遭遇したら、間違いなく死ぬ。

いや、うまいことアムロを暗殺できればワンチャン……無理だな。親父の方なら危険人物として訴えることもできそうだが、息子の方は無理だ。個人でやろうにも、殺人犯で逮捕されるだけだろ。

そういえば、テム・レイって元から軍属だったのだろうか。民間の技術者とか研究者なら、スカウトすることもできるか? でも、そうするには俺自身が軍に入り、それなりに決定権を持っていないと無理だよな。

 

……別に、そこまでするほどジオンに愛着があるわけでもないしなぁ。サイド6にでも移住するか? たしか最後まで中立だった気がする。リボー以外なら大丈夫だろう。両親を説得するのに苦労しそうだが。

技術者になるという道もあるな。ジオニックとかツィマッドとか、そこらに就職すれば、MSの操縦もできそうだし、徴兵もされないだろう。

前世(まえ)の技術も活かせるかもしれないしな。まあ宇宙世紀(現在)からすれば、旧世紀の技術だから、どこまで通じるかはわからんけど、手先の器用さは役立つだろう。

そんなわけで、俺はこの宇宙世紀で技術者の道を選ぶことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はガンダムオタクと言えるほどガンダムに詳しいわけじゃない。精々がガンダム好き、ガンダムファンといった程度だ。

戦争の善悪について考えるほど子どもではないが、それでもコロニーを落として人類の半数を死に至らしめたジオンは"悪"なのだと思っていた。

 

だが両親や祖父母からスペースノイドの歴史を教わっているうちに、スペースノイドの気持ちも理解できるようになった。

宇宙への移民は、いつ頃からか義務になった。つまり強制になったのだ。しかも宇宙に上がるための費用は自腹だったのである。いきなり宇宙に移民しろと言われ、三代にわたるほどのローンを組まされる。当然拒否権はない。この時点で、地球連邦政府に対して反感を持つには十分な理由だろう。

 

また移民すれば当然生活費がかかる。当たり前だが、その援助もなかった。返済のために子どもは最低限の教育を受けたら働くのが当然だった。一番良いとされたのが、連邦の軍人になることだった。軍人になれば様々な特権を得ることができる。だが出世しても地球に戻れるわけではなく、移民先のコロニーの駐屯兵となるのが既定路線となっていた。

 

要するに連邦は、スペースノイドを使ってスペースノイドを管理しようとしていたのだ。旧世紀から続く支配体制で、植民地支配の基本とも言えた。スペースコロニーとはよく言ったものである。

以前に俺は戦争から逃れるためにサイド6への移住を考えたことがあったが、それも難しい。別のサイドへ移住することは、かなり厳しく制限されているのだ。

 

また税金も高かった。有名なのは空気税だろう。地球では当たり前にあった空気に対して税金を払う。宇宙では空気すら有料なのだ。地球と違って空気が貴重なものとわかってはいても、生きるために必須なものに高い税金をかけられるのは納得のできないことだった。

そんな理由もあって、スペースノイドはアースノイドに潜在的な反発心を持っていた。

 

そんな中、サイド3でふたりの革命家が現れた。ジオン・ズム・ダイクンとデギン・ソド・ザビである。どちらもスペースノイドの独立を掲げていたが、考え方は対極だった。

ダイクンは穏健派で、デギンは強硬派だ。詳しく語ると長くなるので割愛するが、簡単に言えばダイクンは理想を語り、デギンは現実を語った。

 

独立運動はサイド3全域に広がり、宇宙世紀0058年に単独での自給自足が可能になった時点で、サイド3は独立を宣言してジオン共和国が成立した。それを成したのはダイクンだ。

だが実情が大きく変わったわけではなかった。今まで通り高い税金は取られるし、連邦軍も駐留している。形だけの独立だったわけだ。

 

連邦の対応も冷ややかだった。冷ややかというよりは、生温かい目で見ていたというべきか。要するに、大人が真剣におままごとをやっているように感じていたのだろう。実害はないし、この程度でスペースノイドのストレスが発散されるならやらせとくかって感じだった。

実際、ダイクンはあくまで連邦政府との話し合いで宇宙移民の国家を認めさせるという考えであり、けっして武力を用いての独立は望んでいなかった。

アースノイドとスペースノイドという2種類の人間がいるから対立するのであり、すべての人間が宇宙に上がり、スペースノイド全体で地球を管理しようという、かなり気の長い改革だったのだ。

 

流れが変わったのが10年後、宇宙世紀0068年のことだ。ダイクンが議会の演説中に心臓発作で急死する。その後は、デギンが国のかじ取りをするようになった。デギンは実権を握ると反対派を一掃して、翌0069年に共和制を廃止し、公王制に移行した。

権力を手中に収めたザビ家は武力による連邦政府からの独立を目指し、軍備の拡張を始めた。

その最たるものが、MS(モビルスーツ)である。

 

「ランバ・ラルは俺を殺そうとしたぁっっ!!」

 

と怒鳴り声を上げたのは、オルテガだった。鼓膜が破れそうな大声だ。ギャーギャーやかましいんですよ、発情期ですかコノヤロー。

罵声の相手、ランバ・ラルも袖をまくり上げて臨戦態勢だ。それをガイアとマッシュがなだめている。

何度目だ、このやり取り。飽きもせずよくやるものだ。

 

なんで俺は、こんなところに来てしまったのだろう。

決まっている。ちょっとやりすぎてしまったからだ。

俺は首尾よくジオニック社への就職を果たし、希望した開発部へと配属された。そこであるプロジェクトに参加することになった。それは"ミノフスキー粒子散布下に対応した戦闘兵器"の開発だ。

俺はすぐにピンときた。これはMSだなと。

 

開発プロジェクトのリーダーはエリオット・レム主任で、俺はチームメンバーのひとりだった。

最初にアイディアを募った時、出てきたのは戦闘機ばかりだった。だから俺が人型のアイディアを出した時は、大爆笑された。

だがレム主任は即座にその有用性を見抜いた。能動的質量自動姿勢制御(アンバック)システムは推進剤の節約につながり、五指のマニピュレーターは様々な道具を使いこなすことができる、と。

 

こうしてプロジェクトは進み、うちの開発した"クラブマン"が0073年に行われたコンペティションを制した。

その時、審査員のひとりであったギレン・ザビに見いだされたレム主任は、佐官待遇の軍属として出向することになった。

そこまでは予想していたのだが、レム主任が俺を推挙することまでは読めなかった。たしかに俺は、色々とアイディアを出した。レム主任にも目をかけてもらった。これが100%善意であることもわかった。だから、断り切れなかった。

まあMS開発部門なら、前線に駆り出されることもないだろう。

そんな経緯で、俺は今ここにいる。連邦の目が届かぬ辺境のコロニーで、MSの開発と運用試験を行っている。

 

試作型のマシンガンとヒートホーク、そして対艦戦闘用のバズーカを装備したMSは、まさしく兵器としての完成だった。

このMS"ザク"の完成をきっかけに、ジオン公国は大きく動き出した。

そして運命の日、0079年1月3日。

ギレンは地球連邦政府に対して宣戦を布告した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宣戦布告より3秒後、ドズル軍が連邦艦隊に奇襲をかける。

キシリア軍は月のグラナダを制圧。

ドズル軍は連邦艦隊を撃破後、サイド1、サイド2、サイド4を攻撃。

そしてサイド2の首都があるコロニー、アイランド・イフィッシュに核パルスエンジンを取り付け、ジャブローへ向けて落下させた。

 

それが直撃すれば戦争は終わっていただろう。だがコロニーは落下中に3つに割れ、ジャブローに落ちることはなかった。

次の戦いはサイド5、ルウムへと移る。

 

ギレンはレム少佐と俺を軍に招いた後は、MS開発計画をドズルに任せた。

つまり俺たちはドズルの配下ということになる。

 

「MS全機、整備完了いたしました」

「ごくろう」

 

その声にはたしかな威厳が感じられた。ドズル・ザビ中将は宇宙攻撃軍の司令官である。豪胆で情に厚く、部下からの信頼も厚い。

身長は2mを超え、こうして相対しているとかなりの威圧感がある。いつもなら二言三言、気遣うような言葉があるのだが、後に続く言葉がないので、作戦間近のためあまり余裕がないのかもしれない。

俺は敬礼して退室しようとしたが、呼び止められて振り返った。

 

「貴様はコロニー落とし……いや、サイド2(ハッテ)攻略戦について、どう思うのだ?」

首都島(マザー・バンチ)の市民を毒殺したことについて、でしょうか?」

「毒殺などと言うな。なんだか卑劣な手段のように聞こえる」

 

ようにというか、実際卑劣だとは思うが。というか、なんで俺にそんなことを聞くのだろう。たしかにドズルとの付き合いも長い。MS開発の初期から関わっているからな。ザビ家の人間の中では最も顔を合わせている。ドズルの性格もあって、気安い関係と言えるのかもしれない。

とはいえ階級差もあるし、そもそもザビ家の人間に軽口をきけるはずもないが。

 

サイド2(彼ら)は連邦側につきました。降伏勧告も行った。だが従わなかった。そこに、間違いはありませんね?」

「ああ。やつらは、徹底抗戦の構えだった」

 

スペースノイドになって、初めてスペースノイドの気持ちがわかった。

無理矢理地球から追い出され、3世代にわたる借金を背負わされ、給料の大半は借金と税金で持っていかれる。自治権もなく、参政権もないから、現状を変えることはできない。まるで奴隷だ。いや、まるでじゃない。スペースノイドはアースノイドの奴隷なのだ。

だが奴隷も虐げられ続ければ、主を刺す。一年戦争の本質はそこだ。

 

「ならば、仕方ありません。最後の1(バンチ)となっても、彼らは降伏しなかったのです。銃で殺すのも、毒ガスで殺すのも、変わりありません。敵なのですから」

「う、うむ。そうだな」

 

実際、ドズルの性格からして、降伏すれば全員を助けたと思う。だがしなかった。彼らは奴隷であることを受け入れたのだ。

サイド3は、経済的には豊かな方だった。自給自足が可能で、連邦政府に頼らずとも生活ができるようになっていた。だからこそ独立したのだが、連邦についたサイドは連邦の援助がなければ立ち行かなかったという理由もある。なにより、ジオンが勝つと信じられなかったのだ。

ジオンに加担して、ジオンが負ければ、当然これまで以上に苦しい生活になる。それを恐れた。

 

「国力差は如何ともしがたいのです。30対1です。いかにMSという有利があれど、時をかければ覆されます。ジオンが勝つ方法は超短期決戦、それしかないと私は考えます」

「うむ。貴様の言う通りだ。ギレン兄もその考えだった!」

 

ドズルの鼻息が荒くなる。賛同されたことが嬉しいのだろう。ハッテ攻略戦を指揮したドズルは、作戦のすべてを包み隠さず部下に説明した。

毒ガス注入も、コロニー落としも、兵たちはすべて理解した上で作業に従事した。

何百万人ものユダヤ人を殺したアイヒマンは、裁判で堂々と「命令に従っただけ」と言ったし、兵士なんてそんなモンだと思う。軍なんて強烈な縦社会だからな。

それに、この作戦に一番苦しんでいるのがドズルだということも察していたのかもしれない。それでも自分の意志を曲げられなかったランバ・ラルは、軍令に背いて予備役へと回された。

 

やっぱジオンって軍人というよりは武人気質なんだよな。国防軍(国軍の前身)ができたのが、0058年だから、軍としての歴史が20年ほどしかないのだ。

連邦軍ほど洗練されてないのは当たり前だよな。まあ、あっちはあっちで長く続きすぎて腐敗しているようだが。

ともあれ、ジャブローへのコロニー落としは失敗し、戦局は次の段階、ルウムへと移っていく。

 

そして数日後、のちにルウム戦役と呼ばれる戦いが始まった。

ルウムの戦いは、ジオンの圧勝だった。俺の知っている通り、黒い三連星がレビルを捕縛し、ギレンは捕虜となったレビルの姿を地球圏全域に放送した。

が、レビルは連邦の特殊部隊によって奪還され、ジオンの内情を暴露する演説を行い、「ジオンに兵なし」と戦争の続行を促した。

 

ハッテ攻略戦、ルウム戦役、レビルの捕縛、そして脱走。

激動の1ヵ月が過ぎ、2月に入った。ジオン公国軍は地球方面軍の設立を公表し、地球侵攻作戦が発表された。

その間、俺はひたすらルウム戦役の戦闘データを洗い出していた。そしてようやく資料としてまとめることができた。

そのデータと共に、俺はドズルにニュータイプ研究所の設立を申請した。

 

 

 

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