ちょっと変わったガンダム世界を行く   作:乾燥海藻類

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ジオン戦後編④

ソドンとは強襲揚陸艦である。

単独で大気圏突入・離脱が可能であり、文字通り敵地に強襲するための艦だ。しかも降下予測地点は近隣だったため、革命軍にも緊張が走った。

 

だがソドンは律儀に「戦闘の意思はない」と通信を送ってきたらしい。

ソドンはヒマラヤの谷底に沈んだナニカを引き上げた後、事前の取り決め通りあっさりと去って行った。

諜報員が引き上げたナニカの撮影に成功したのだが、遠距離からの撮影だったためか、かなり解像度が低かった。

だから断言はできないが……これエルメスじゃね?

 

一応、開発案もあり、設計もしていたのだが、様々な理由があって開発中止となった。そのデータも消去したはずなんだが、どこから漏れたのか。

まあ決まってるわな。うちにはキシリアのスパイが潜り込んでいたのだ。たぶん、フラナガン博士もそのひとりだろう。そのデータがキシリアの研究機関に流れ、建造された。

 

しかしパイロットは誰だ? ララァはずっと地球にいたみたいだから違う。ブラウ・ブロのように複数人で運用した可能性もあるが……いや、そうだ。クスコ・アルだ。

クスコ・アルを見つけ、パイロットとした。そして地球近傍でのテスト中、あるいは戦闘によって地球に落とされた。大気圏突入に機体はギリギリ耐えられても、中身はそうはいかない。パイロットは蒸し焼きになる。

 

だがなぜ今になって引き上げたんだ? 当時は最新鋭機だったとしても、今では5年落ちの機体だ。サイコミュ搭載機だから使えないことはないが、大気圏を抜けてきて谷底まで落下したのだ。機体が残っていたことが奇跡だろう。

いや、ホントに奇跡だ。大気圏を抜けてヒマラヤの谷底まで転がり落ちたのに原型を維持してるって、相当頑丈だぞ。

 

まあそんなこと気にしても仕方ないか。

とりあえずその場は解散となった。

それからしばらくして、今度は宇宙(そら)にとんでもないものが現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

書類の束を投げ出すようにテーブルへ放ると、ブレックス准将はため息とともに怒りを吐き出した。

 

「なにが地球環境の改善だ! なにが光増幅照射装置だ! イオマグヌッソだと? あんな野蛮な兵器、誰が考えたというのだ!」

 

いや、ギレンしかいないでしょ。ソーラ・システムに対する意趣返しでしょ。裏でこんなものを造っていたとは、やはり恐ろしい男だな、ギレン・ザビは。

 

「こんな方法は間違っている! 人類は自発的に宇宙へ上がってこそニュータイプになりえるのだ! こんなやり方は、銃で脅して移民させた旧連邦政府と同じではないか!」

 

太陽光バージョンのカイラスギリーのようなものなのかな。半世紀以上早い登場だけども。なんにせよ恐怖政治で地球を支配するのはダメだろ。

下手すればジオンvs世界になるぞ。まとまってない連邦政府がまとまったらもう勝てないでしょ。ただでさえギレンとキシリアで内ゲバやってるのに。

 

「准将、落ち着いてください」

 

ローゼが紅茶の入ったティーカップを手渡す。准将は一口嚥下すると、カップを置いてソファに身を沈めた。

 

「式典には、連邦政府の方々は参加しないと報じられていましたが……」

「ああ。危機感の薄い連中でも、あれが脅しの道具だと気づいたらしい。ジャブローから逃げ出す者もいたよ」

 

マリオンの呟きに、准将は失笑するように答えた。

 

「あれは、地球のどこでも狙えるのだ。どこに逃げるというのだろうね」

 

問題は、本当にあれが脅しの道具かということだ。ギレンなら、本当に撃ちそうな気もする。1発だけなら、誤射と言い張るかもしれない。

その1発は、絶大な効果をもたらすだろう。

 

「これは、地球の危機だよ」

 

唇の前で手を組むと、准将は神妙に告げた。

 

「強硬派の連中と手を組むのはどうですか?」

「……ジャミトフか」

 

ああ、やっぱりあっちの首魁はジャミトフなのね。

 

「手を取り合うことはできんが、共闘はできるかもしれん。あくまで、たまたま作戦時期が同じだった、という(てい)になるだろうが……」

 

面倒くさいな。まあ色々あるのだろう。

 

「とりあえず、スタリオンをこちらに回す。ペガサス級の一隻だ。アレの裏側から宇宙に上がり、強襲するということになるだろう」

「決行の時期はどうしましょう?」

「……やはり、式典の日になるだろうな」

 

少し考えた後、准将は告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから式典の日まで、革命軍は準備に奔走した。

なにせ戦力差は圧倒的だ。確認されただけでも、向こうにはビグ・ザムが4機配備されている。ソドンの姿もあった。ルドベキアの姿も確認できた。

 

ルドベキアも、戦後かなり改修されているようだ。目立ったところでは、肩部キャノンが外されていた。サイコミュ兵装はビットのみとしたのだろう。キャノンはビームライフルで代用できるからな。

パイロットは、たぶんシャリア・ブルだろう。フラナガンスクールで育成された、新しいニュータイプ兵士の可能性もあるが。

 

とりあえず、できるだけのことはやった。支援機は突貫で仕上げたから色々と武装は足りてないし、本来の性能には届かなかったが、とりあえず及第点は出してもいい出来なのでなんとかなるだろう。あとは決行の日を待つだけとなったが、式典の前日、事態が動いた。

 

宇宙(そら)で爆発の光が確認されたのだ。噴射光ではない。

焦った連邦政府が攻撃を仕掛けたのだろうか。それとも強硬派か?

静観か参戦か、しばらくすれば、准将から指示が下るだろう。

その時、不思議なことが起こった。

 

――la la

 

これはあの時、シャアがゼクノヴァを起こした時に聞こえた"声"。

だがあの時とは、少し違う。どこか、叫んでいるような感じがする。

 

「なんだあれはっ!?」

「おいおい、嘘だろ……」

「蜃気楼ってやつじゃねぇのか?」

 

一緒に空を眺めていたスタッフたちがざわめき出す。

視線を宇宙に戻すと、そこにはありえない物が映っていた。

 

「ア・バオア・クーだとっ!?」

 

地球からア・バオア・クーが視認できるわけがない。ホログラムか? いや、そんなことをする意味はない。一体、宇宙でなにが起こっているんだ?

 

「――ッ!?」

 

"声"が絶叫に変わった。

そして、宇宙が光った。その光が収まると、そこにア・バオア・クーの姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スタリオンの出港準備が進んでいる。次々と搬入される物資。行き交う作業員。

 

「MSの固定は厳重にしておけ。大気圏を突破するんだからな!」

 

ブレックス准将は、スタリオンでの介入を決めた。宇宙の騒動は、強硬派が先走ったわけではないようだ。

ならば考えられることはひとつ。内戦だ。ギレン派の拠点であるア・バオア・クーが消失したことから、おそらくはキシリアがアレの主導権を握ったのだろう。

 

『本作戦の目標は、悪魔の兵器、イオマグヌッソの破壊である。全地球環境改善用光増幅照射装置などというのは欺瞞でしかなかった。あんなものを残しておくわけにはいかない。いつその照準が地球に向けられるかわからないのだ。撃たれてからでは遅い。即時破壊だ。諸君らの奮闘に期待する。以上だ』

 

慌ただしい艦内にブレックス准将の声が響く。今後の任務を告げる艦内放送だ。

カジマ小隊は地球に残ることになった。地上のジオン軍がどう動くかわからないからだ。

ブリッジに向かう。艦長(キャプテン)シートにはちょび髭の男性が腰かけていた。

名前はアントニオ・カラス。階級は中佐。どうも覚えがない。原作キャラではなく、外伝系のキャラなのかもしれない。

ブレックス准将は、隣のサブシートに腰かけている。

 

「准将、MSの搬入、完了しました」

「ご苦労、博士」

 

准将は落ち着かない様子で、膝の上を指でコツコツと叩いている。

 

「博士、聖女たちはアレをサイコミュ兵器だと言っていたが、博士はどう思うかね?」

 

たしかに今回のことは、ソロモンで起こったゼクノヴァ現象によく似ている。マリオンたちがサイコミュ兵器だと言ったのなら、そうなのだろう。あの"声"も聞こえたし。だが原理は全くわからない。

見たことだけを言えば、ア・バオア・クーを引き寄せ、消滅させた、ということなのだろうが。

 

「正直、私の理解を超えています。ア・バオア・クーがなぜ出現したのか、そしてどうやって消失させたのか、見当もつきません。幻像であると思っている者もいます」

 

光照射装置というからには、ソーラ・システム的なものだと思っていたが、全く違うものだった。

アレはたぶん、任意でゼクノヴァを発生させることのできる兵器なのだろう。戦後の研究で、おそらくジオンはゼクノヴァの原理を解明したのだ。

 

「うむ。だが現実として、ジオン軍同士で争っていることはたしかだ。おそらく、アレの使用権で、ギレンとキシリアが争っているのだろう。もしかしたら、すでにどちらかの命が喪われたのかもしれん」

 

原作通りなら、キシリアがギレンを暗殺したのだろう。デギンは病死と発表されているが、ギレンが何らかの理由で暗殺したのなら、キシリアにはギレンを殺す理由ができる。

ア・バオア・クーも、ギレン派が集っていたというし。

 

「ジオンの独立は成った。だというのにジオンは……いやザビ家は、なぜ地球にこだわるのだろうか。連邦政府は宇宙での権威を失った。それでもまだ、連邦軍を脅威だとでも思っているのか……」

 

たしかに連邦軍は、一年戦争に敗北したことで、その力の大半を失った。税収も減ったし、国力差も縮まった。しかしジオンも、コロニーの主権を認めたので、国力が大きく伸びたわけではない。

脅威にならないうちに、連邦軍を叩いておこうと思ったのかもしれない。

 

「ですが聖女たちなら、ニュータイプならばこの困難も覆してくれるでしょう。かつてシャア・アズナブルが、ソロモン落としを阻止したように」

 

シャアはニュータイプ信仰をニュータイプ神話にしてしまった。だからみんな、ニュータイプに憧れ、ニュータイプを恐れるようになった。

 

「ニュータイプとて無敵ではありませんよ。ニュータイプだって……」

 

囲まれたら勝てない、と言おうとしたが、果たして本当にそうだろうかと不安になった。アムロは12機のリック・ドムに囲まれても勝った。いや、ガンダムに向かってきたのは9機だったか? まあ9機も12機もあまり変わらないだろう。あの時はたぶん、マグネット・コーティングも施されてなかったと思う。だとすればガンダムとリック・ドムの性能差は、それほど大きな差じゃない。

自信がなくなってきた。路線変更だ。

 

「銃で撃たれれば死ぬし、病に倒れることだってあります。無敵じゃないし、不死身でもありません」

「……博士、あまり士気を下げるようなことは言わないでいただきたい」

「失礼。しかしニュータイプをあまり神格化しない方がよろしいでしょう。彼女たちも人間であるということを、わかっていただきたい」

「……20分後に出港します。ブリッジに残るならば、席を用意しますが?」

「いえ、部屋で待機しております。では」

 

敬礼をして、ブリッジを出る。

結局俺は、地上に残るのではなく、乗艦することに決めた。どっちにいても、たぶん危険度はそう変わらない。ならば結末を見届けようと思ったのだ。

部屋に戻る途中、左舷展望室にマリオンの姿を見つけた。

 

「マリオン」

 

声をかけると、彼女は振り返った。その双眸は、薄く濡れていた。

 

「泣いていたのか……。そうだな。戦いたくは、ないよな」

 

マリオンは変わらず、感情が豊かのようだ。いや、感受性が強すぎるのだ。他人の思いを、ダイレクトに受けてしまうことがままある。

気を配っていないと、潰れてしまいそうな儚さが、彼女にはあった。そんな彼女を戦場に送り込んだ俺は、恨まれているのかもしれない。

 

「違います。あの光、ゼクノヴァのことを考えていました。あの光は、拒絶の光です」

 

拒絶の光? アムロはソーラ・レイを憎しみの光と例えたが。

 

「人間の拒絶、世界の拒絶。すべてを向こう側へと押しやる、無慈悲な破壊兵器」

 

いきなり向こう側とか言われても……ブラックホール的ななにかだろうか。そういえばマイクロブラックホールキャノンとかいう武器があったな。

しかしジオンは、なにを考えているのだろうか。

 

准将の疑問が、また浮かび上がってきた。

ジオンは独立に成功して、自由になったはずなのに。やはり禍根を絶つために、徹底的に連邦を叩くつもりだろうか。 

たしかに連邦政府の中には、戦争を望む強硬派も存在している。

シャアもアクシズを落として地球を抹殺しようとしたからな。やはり宇宙世紀人の思考は理解できない。

 

「セリーヌ博士は自らの意思で引き金を引いたのか。それともただ利用されているだけなのか。それも確かめなければなりません」

「……ん? セリーヌ博士が射手だというのか?」

「おそらくは。私の勘にすぎませんが……」

 

ニュータイプの勘か。ならたぶん、当たっているとは思うが。

 

「しかしあの兵器は、ニュータイプにしか使えないのだろう? セリーヌ博士は……いや、まさか……」

 

たしかにニュータイプに憧れているような素振りは見せていたが……。あの改造提案も、結局は自分のためだったのか?

 

「セリーヌ博士は、あらゆる強化処置を受け、サイコミュを操作できるほどの強い脳波を出せるようになりました。ニュータイプに成ったと、言えるのかもしれません。ですが、度重なる強化実験の影響か、精神が不安定になり、やがて自我にまで影響を与えるようになりました」

 

やっぱり強化人間って安定しないんだな。ムラサメで保護した3人は投薬が主で、外科的処置はされていなかったから、そこまで不安定ではなかったが。

旧世紀に行われたロボトミー手術も、被験者の人格が変わったという事例があった。脳をイジるというのは、それほど危険なのだ。

 

「フラナガン博士は、セリーヌ博士にコールド・スリープを施しました。誰かが彼女を目覚めさせたのでしょう」

「だが今回の作戦では、セリーヌ博士を救うのは難しいぞ。制御室がどこにあるかわからん以上、そこを外して撃つというわけにはいかない。内部を探索する余裕もないし、助かるかどうかは賭けだ」

「そうですね。これは私のわがままです。誰にも話してはいません。セリーヌ博士だという確信があるわけでもありませんし……」

 

話しぶりからすると、確信があるようにも聞こえたが……まあいいか。

セリーヌ博士は別に地球やアースノイドに対して偏見などは持っていないようだったし、精神が不安定なところを利用された可能性は、たしかにある。

 

「誰にも話していないなら、なぜ俺に話したんだ?」

「……そうですね。なぜでしょう?」

 

コテンと小首を傾げながら、マリオンは苦笑した。

 

「まあいい。だが2射目を撃たせるわけにはいかない」

「はい。それは理解しています。あれは一刻も早く、破壊しなければ」

 

マリオンの言葉に呼応するように、艦のエンジンが始動を始めた。

発艦が迫っている。この展望台にも、しばらくすればシャッターが下ろされるだろう。

 

「部屋に戻ろう、マリオン」

「はい」

 

ゆっくりと、マリオンは歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宇宙(そら)は混迷を極めていた。光源はいくつもある。ビームライフルの光芒。スラスターの噴射光。そして、機体が爆散する最期の輝き。

砕け散った艦艇。MSの残骸。様々な金属片。そして、宙を漂う遺体。

この宙域は、まるで地獄だ。

 

「ジオン同士でよくやる。とは、こちらも言えんか」

 

自嘲するように、ブレックス准将は呟いた。組織が大きくなれば派閥ができる。ジオンも連邦も、それは例外ではない。

窓の外を眺めると、黒いペガサス級がいた。形状はスタリオンと似ているが、細部が多少異なっている。

 

「相変わらず悪趣味な色だな。識別コードを間違うなよ。今は、友軍だ」

 

通信はない。友軍とはいえ、あくまで呉越同舟であるということだろう。

 

『マリオン・ウェルチ、ブルーウィッシュ・フルドレス、発艦します』

 

宇宙に蒼い機体が舞う。続けて――

 

『アンネローゼ・ローゼンハイン、ゲルググWJ(ヴァイスイェーガー)、発進します!』

 

白い機体が舞い――

 

『アルマ・シュティルナー、アネモネ、行きます!』

 

紫色の機体が射出された。続けて支援ユニットのAパーツとBパーツが射出される。その2機とドッキングすることで、アネモネは本来の姿となるのだ。

最後に直掩(ちょくえん)の軽キャノンが3機出てきた。

 

黒いペガサス級からも水色のMSが……ハンブラビだと!?

ハンブラビってZの中盤辺りに登場した機体じゃなかったか? それに開発にはあの男が関わっていたと聞いたことあるけど……もしかして帰ってきてるのか?

 

でも本当に帰ってきてるなら、こっちに来そうなんだがな。たしか統治者は女性がやるべきだとかいう思想だった気がするし。ああでも、キシリアだって女性統治者になりえるのか。

でもハマーンと仲良くやってた記憶がないし、女性なら誰でもいいというわけではないのかもしれない。なんとなく好みにうるさそうだし。

まあ俺のZ知識も曖昧だからな。それにジオンが勝ったこの世界ではどこまで通用するかもわからん。今もって未知の事件に遭遇してるし。

 

ビグ・ザムは、どうやらすべて沈黙しているようだ。

少しは楽に戦えるのかもしれない。

決戦が始まる。

 

 

 

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