ちょっと変わったガンダム世界を行く   作:乾燥海藻類

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ジオン戦後編⑤

宇宙が光っている。光源は……イオマグヌッソ!? まさか、第2射が撃たれるのか!?

 

「艦長!」

「わかってますよ、准将閣下。スタリオン、全速前進! メガ粒子砲スタンバイ!」

「キシリアめ!」

 

准将は眉間にしわを寄せ、吐き捨てるように叫んだ。

 

「いざとなればこの艦をぶつけてやる!」

 

え、ちょっ!? それは聞いてない……。

でもまあ、地球を撃たれるよりはマシか。

 

「艦長! 光が!」

 

オペレーターが叫ぶ。イオマグヌッソから十字型の光が溢れ出た。その輝きに宇宙が照らされる。

遠方に浮かぶ艦艇、いまだ戦いを続けているMS、浮遊する残骸と多数の破片。それらすべてを呑み込み、閃光が宇宙を焼いた。

 

「……え?」

 

閃光の中に少年がいた。

白い、半透明な、メタル刹那みたいな。幽霊や亡霊のようにも見える。

そんなオカルトありえませんと言いたいが、ガンダムでは割と起こることだからなんとも言えない。

 

少年が俺に向かって手を伸ばしてきた。まるで握手を求めるように。

断れば呪われそうだったので、俺はその手を掴んだ。

その瞬間、軽い浮遊感が体を包み、意識が宇宙へと()んだ。

 

これは……ニュータイプ同士が交感するあの空間。

だがニュータイプではない俺がなぜこの空間に?

ただのオールドタイプである俺を招くことができるほど、この少年は強力なニュータイプなのだろうか。

少年はあさっての方向を見ながら佇んでいる。人をこんな空間に連れ込んでおいて無視とは恐れ入る。

その背後ではMS同士の戦いが映されていた。

 

ガンダムのビームサーベルが、赤いザクのコクピットを貫いている。

ガンダムのビームサーベルが、赤いアッガイのコクピットを貫いている。

ガンダムのビームサーベルが、赤いイフリートのコクピットを貫いている。

 

ガンダムのビームサーベルが、赤いグフのコクピットを貫いている。

ガンダムのビームサーベルが、赤いズゴックのコクピットを貫いている。

ガンダムのビームサーベルが、赤いギャンのコクピットを貫いている。

 

ふと、ララァの言葉を思い出した。

白いMSがいつも《彼》を殺してしまう。

これは……この光景は、並行世界で起こってきた出来事なのだろう。並行世界の、宇宙世紀の歴史。

 

心臓がドクンと跳ねた。

ララァの思惟が、俺の中に入ってくる。

ジオンの若い士官に対する小さな恋。身を焦がすような激しい愛情。いたわりの心。

白いMSのパイロットに対する、憎悪の裏返しの悲しみ、慈しみ。

だからといって、俺にどうしろというのだ!

 

「今回は上手くいくと思ったのに」

「……なに?」

「なにがいけなかったんだろう。なにが足りなかったんだろう。あいつは、ララァの護りがないとすぐに死んでしまう。余計なことせずに、おとなしくしておけばいいのに」

 

あいつって誰よ?

 

「けど、かなり正解に近づいたような……気がする」

 

あさっての方を向きながら、少年はぶつぶつと呟いている。

そして、その視線がこちらを向いた。究極の振り向き角度。意味深なアングルで、俺の心を覗き込むように。

 

「キミのことをずっと見ていたよ」

 

なんだよ急に。金の虎か? そういうのはもっと暇な人間に言ってくれ。

 

「向こう側の人間じゃない。こちら側の人間とも、少し違う。ナギサ・カミシロ。キミは異質な存在だ。だからこそ、もう少し付き合ってもらう。と、ガンダムが言っている」

 

いや、ガンダムはしゃべんないだろ。と言いたいが、中の人などいないと断言できないのがガンダムの恐ろしいところだ。

 

「――ッ!?」

 

なんだ? 耳の奥がツーンとする。

 

――la la

 

頭を貫くその"声"は、悲鳴のようにも、願いのようにも聞こえた。

全身に衝撃が走り、視界がぼやける。目の前を……白鳥が飛んで……俺は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ジオン公国の諸君、そして連邦軍の方々に告ぐ。私はシャア・アズナブル。かつてジオン公国軍で"赤い彗星"と呼ばれていた男だ』

 

シャアが演説を行っている。ダカールの演説でも、逆シャアの演説でもない。隣にはアムロとララァがいる。

宇宙に映し出されるその映像を、俺は宇宙に浮かびながら見ていた。

 

『そして私は、もうひとつの名を持っている。今はその名前、キャスバル・レム・ダイクンとして、ジオンの遺志を継ぐ者として語りたい。父ジオンの遺志は、ザビ家のような欲望に根差したものではない。それをまずわかっていただきたい』

 

シャアが素性を明かす。逆シャア時よりは若い。年齢的にはクワトロ時代に見える。クワトロとは髪型が違うが。

 

『宇宙に出た人類は、生活圏を拡大したことによって、人類そのものの力を身に付けたと誤解をして、ザビ家のような勢力をのさばらせてしまった。私の父、ジオン・ダイクンが宇宙移民者、すなわちスペースノイドの自治権を要求した時、父ジオンはザビ家に暗殺された。そしてザビ家一党はジオン公国を(かた)り、地球に独立戦争を仕掛けたのである。そして勝者となったザビ家は増長し、傲慢となり、宇宙を顧みず、身内で権力を争い、互いにその身を食い合うようになった。その結果多くの難民が生まれた。あまつさえ彼らは地球すら消し去ろうとしている。この蛮行を許してはならない』

 

どこかで聞き覚えがあると感じたのは、たぶんZと逆シャアの演説が脳裏をよぎっているからだろう。内容が似ているような気がする。まあ同じ人間の演説だしな。

というか、ジオンが勝ったということは、この世界線か。

地球を消し去ろうと……? そうだ! イオマグヌッソはどうなった?

 

『ギレンは父デギンを暗殺し、キシリアは兄ギレンを暗殺した。そして地球そのものを破壊しようとしたキシリアは私が誅殺した。宇宙に混乱をもたらしたザビ家は潰えた』

 

え、キシリアをバズーカしたのか? だがガルマは? ミネバは? そこなんとかしとかないと、ザビ家信者がまたやらかすんじゃないの? もしかして今まで姿を現さなかったのは、そこを対処していたからなのか? だがミネバはともかく、ガルマが死んだらニュースにくらいなりそうなものだが……。

というかミネバを殺すシャアは見たくないな。生まれの不幸を呪うがいい、とか言いながらサクッと殺しそうではあるが……。

 

『人は長い間、地球というゆりかごの中で戯れてきた。しかし、時はすでに人類を地球から巣立たせようとしているのだ。地球を自然のゆりかごの中に戻し、人は宇宙で自立しなければ、地球は水の惑星ではなくなるのだ。それほどに地球は疲れ切っている。思い出していただきたい、ジオン・ダイクンが語った、真のジオニズムを!』

 

ジオニズムはエレズムとコントリズムを統合した思想なのだが、たぶん本当に理解している人は少ないと思うぞ。そんな余裕がある人たちばかりじゃないし。

 

『ジオン公国と地球連邦政府は互いに手を取り合い、コロニーを増設し、難民のための政治を行うべきなのである!』

 

良いことを言っているような気がするけど、オールバックのシャアはいまいち信用できない。デュランダル議長と同じくらい信用できない。

というか、なにを見せられてるんだ? 俺は。

 

『そしてすべての人類は宇宙へと上がり、地球を護るべきなのだ。赤子を護る母のような慈愛を持って!』

 

シャアが母とか言うとヤバみを感じるのは、俺がおかしいのかな? ララァが隣にいるせいか、よりヤバみを感じる。

 

『すべての人類がスペースノイドとなった時、人類は新たな……』

 

映像にノイズが走る。まるで古いテレビのように。

これは俺の見ている夢か?

それとも、ララァの思い描く未来なのか?

あるいはあの少年の望む未来なのか?

ピシッとガラスにヒビが入るような音が響いた。

宇宙が、割れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

声……女性の声だ。オペレーターだろうか。艦は、どうなったんだ?

目を開ける。視界に飛び込んできたのは、まだそばかすの残る、栗色の髪の少女だった。

 

「フ、フラウ・ボゥ?」

「え? どこかでお会いしたこと、ありました?」

 

若い。どうみても10代だ。だとすればここは……。

 

「サ、サイド7?」

「はい。そうですけど……」

 

どういう……ことだ? これも夢か? いや、さっきまでと違って現実感(リアリティ)がある。

まさか、タイムスリップ? これもララァの仕業(しわざ)か? それとも、あの少年か?

エンジン音が聞こえた。周囲に視線を巡らせる。丘陵の向こうから、1台のジープが姿を現した。コロニーでは珍しいガソリン車だ。

運転手と助手席の男は、ともに連邦軍の制服に身を包んでいる。

 

「最近軍人さんたちが慌ただしくって。開発区でなにをやってるのかしら」

 

サイド7はまだ平和のようだ。そうだよな。ホワイトベースが来るまでは、平和だったんだ。

なにかの気配を感じて川の方に視線を向けた。水面にいた白鳥がチラリとこちらを向く。

そして飛び立ち、コロニーの空に消えていった。

 

 

 

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