マゼランに先導されて、ホワイトベースはルナツー基地に入港した。
パオロは医務室へ運ばれ、ブライトとテム・レイは事情聴取のためにホワイトベースから降りた。それ以外のクルーと避難民は、そのまま艦内に留置されることになった。
「お久しぶりです。テム博士」
「ワッケイン少将もご健勝のようで。
ワッケインは硬い笑顔でテムに敬礼した。
01ガンダムはガンダムの1号機であり、プロトタイプだ。ルナツーで研究用として稼働テストを行っていた。
「実戦はまだですが、順調ですよ。2号機はすでに実戦を終えているようですね。しかも相手は、赤い彗星と聞いております」
「ええ。ケンプ中尉はよくやってくれています。テストパイロットとして経験を積んだだけのことはある」
「そのケンプ中尉ですが……」
ワッケインは眉をひそめて、言葉を続ける。
「博士もお気づきではありませんか? あれは、ウィリー・ケンプ中尉ではない」
「少将はケンプ中尉と面識がおありで?」
「ええ、何度か。最初はキャノンやタンクと同じく、民間人を現地徴用したのかとも思いましたが……」
「しかし、ジオンのスパイというわけでもなさそうです」
スパイなら、ガンダムを持ってシャアに合流しただろう。
テムは手元のタブレットを操作して、ガンダムの戦闘データを表示させた。
「確かにケンプ中尉のテストデータと、先の実戦データには大きく乖離があります。成長したとか、そういう次元ではない。おそらくは、別人でしょう。データは嘘を吐きません。しかし、気づいていたのならなぜ拘束しなかったのですか?」
「軍人を騙るというのは、重罪です。襲撃によってIDを紛失した。軍服も階級章も失くした、というのは、スパイにしてはお粗末に過ぎる。あの混乱に紛れて、民間人として乗り込むというのならまだしも、なぜケンプ中尉のフリをしているのか。博士の意見を伺いたく思いました」
「……彼は、優秀ですよ。あの赤い彗星を相手に戦えるというだけでも相当なものだが、機体にほとんど負荷がかかっていない。つまり彼は、常に余力を持って戦闘を行っているのです。あの赤い彗星相手にですよ? あれほど上手くガンダムを扱えるパイロットを手放すのは、私は反対です」
それは技術者としての意見だった。彼がジオンのスパイでないのならそれで良い。ケンプ中尉であるかどうかなど、些細なことだったのだ。しかし軍人であるワッケインとしては、すぐにでも逮捕したいところだった。軍の最高機密であるガンダムを無断で動かしたのだから、これは軍人を騙るよりも重罪である。
だが連邦軍においてMSのパイロットができる人間は貴重だった。
「ガンダムだけではなく、もっと深いところを探っている可能性もあります。それこそ、いざという時まで秘匿しておきたい量産機の詳細を突き止めるのが目的かもしれない」
「それはさすがに悠長過ぎるでしょう。たしかに目的はわかりませんが、ジオンのスパイではないと思いますよ。いっそのこと、ズバリ聞いてみてはどうです? 悪人ではなさそうです」
「たしかに、スパイとしては色々と杜撰ですが……いえ、しばらくは泳がせましょう。データ取りの役に……」
突然に床が揺れ、ワッケインの言葉は途切れた。壁に設置された通信モニターの電源を入れる。
「何があった?」
「砲撃です! ジオン艦が撃ってきています!」
「シャアか! マゼランを出撃させろ!」
ワッケインは港に向かった。
だがその頃、すでにジオンの特殊部隊はルナツーに侵入していた。
◇
「管制室管制室。回頭してゲートに進入します。オーケー?」
「オーケーオーケー、貴艦の健闘を祈る」
すでに管制室を制圧していたジオン兵が、管制官を
マゼランの進入先には、感知式地雷が設置されていたのだ。それに触れたマゼランは大破炎上し、ルナツー基地を大きく揺らした。
さらにその場で座礁し、メインゲートを塞ぐ形になってしまった。
その混乱の中、シャアはガンダムの前まで到達していた。
「封印状態か。持ち出すのは無理だな。ならばデータだけでも……」
「動くな! 腰のレーザーガンから手を離しなさい!」
凛とした声が格納庫に響いた。シャアはその指示に従い、両手を挙げた。
「勇ましい
「妙な動きをすれば撃ちます。ヘルメットを取りなさい。そのマスクもです」
「ふふっ、なかなか注文の多いお嬢さんだ」
銃を向けられているにも関わらず、シャアは悠々とヘルメットを取り、マスクを外した。金の髪と蒼い瞳があらわになる。それを見たセイラは息を呑んだ。
その一瞬の隙を、シャアは見逃さなかった。足元にあったスパナを蹴り上げ、セイラの銃を落とす。距離を詰め、その右手を取り捻り上げた。
「形勢逆転だな、勝ち気なお嬢……さん」
今度は、シャアが息を呑む番だった。
(似ている……)
時が止まったように、ふたりは見つめ合った。
「セイラさん! こんのぉっ!」
割って入ったのは、少年の声だった。鉄パイプを振り上げ、シャアに向かってくる。だがシャアは落ち着いてレーザー銃を構えると、少年の持つ鉄パイプに向けて発射した。
その衝撃で、少年は壁まで吹き飛ばされた。
「アムロ!」
「整備兵まで、子どもとはな。連邦軍はよほどの人材不足とみえる」
嘲笑う様に、シャアは笑みを浮かべた。
「そろそろ潮時か」
基地内にはうるさいくらいに警報が鳴り響いており、銃撃戦の音も聞こえた。
長居すれば、数で圧殺されるのは目に見えている。
マスクとヘルメットを拾い上げ、シャアはセイラを一瞥した後、その場を離れた。