ルナツーで懐かしい人物と再会した。マチルダ中尉だ。ジャブローでホワイトベースの改修を主導してくれたウッディ大尉の細君である。
原作のように、ホワイトベースでの関りがなかったためか、クルーたちが結婚式に呼ばれることはなかったが、原作の悲劇を知る者としては喜ばしいかぎりである。
格納庫でアムロと会話している彼女が、こちらに気づいて敬礼をした。
「ご無沙汰しております、ケンプ大尉」
「ご苦労様です。これが、新型のガンダムですか?」
ホワイトベースに新型のガンダムが回されてきた。てっきりアレックスかと思ったが、どうも違うようだ。
「はい。V作戦におけるガンダムシリーズの
なんでいきなりMk-Ⅷなんだよ。そこは素直にガンダム8号機でいいだろ。後々開発されるMk-Ⅱがおかしなことになるでしょうが。
とも言えず、無言でうなずく。開発者にはこだわりがあるのかもしれない。
「フルアーマー化も検討されましたが、大尉の戦闘データを勘案して見送られました。汎用性を維持しつつ、装備の換装によって、さらなる火力の強化を図れる機体となっています。もちろん、機動力も保証しますよ」
「追加武装のジェノサイドアーマーもすごいんですよ! ビームキャノンを4門装備していて、大型スラスターと大容量プロペラントタンクの増設により、戦艦にも匹敵するスピードと航続距離の獲得に成功したんです。絶大な戦闘力ですよ! さすが父さんだ!」
興奮したアムロが早口でまくし立てる。どう考えてもGで死にそうなんだけど。もっとパイロットに優しい機体にしてほしい。
あとそんな砲門増やしても扱いきれんぞ。ハイマットフルバーストでもしろってのか? コーディネイターじゃない俺には無理だろ。
名称も不穏過ぎる。ジェノサイドて。
色々と文句を言いたいが、キラキラしているアムロの目を見ると何も言えなくなってしまった。ニュータイプなんだから察しろ。
「ところで、今まで使っていたガンダムはどうするので?」
「予備機としてそのままお使いください」
「いいんですか? どこもガンダムを欲しがっているのでしょう?」
実際ガンダムを3機運用しているホワイトベースは結構やっかまれているらしい。ただその内の2機は試験機だし、割と不具合も起こしている。致命的な不具合ではないが、やはり試験機はあまり信用できない。
「そうですね。ですが、大尉ほどガンダムを上手く扱える方というのも、そうはいないもので。Mk-Ⅷも問題はないとは思いますが、いかんせん実戦経験はないですから、不具合の可能性がゼロとは言えません」
マチルダ中尉はばつが悪そうに言った。別の部隊に回されている3号機から7号機は、それなりに小破・中破を経験しているらしい。俺は、今のところ大きな被弾はない。どうもこれが、高く評価されているようだ。
「ほかのやつを乗せるのは?」
「最終的な判断を下すのはブライト艦長でしょうが……正直おすすめできません。ガンダム……正確にはガンダムに搭載されている学習型コンピューターには大尉のクセが強く残っています。並のパイロットでは振り回されるだけでしょう」
どうもこの世界では教育型コンピューターが学習型コンピューターになっているようだ。物自体は同じのようだが。
「ふむ。で、学習型コンピューターを再調整しようものなら……」
「ガンダムの強みがなくなります。パイロット候補はリュウ・ホセイ曹長かジョブ・ジョン曹長でしょうが、明け透けに言わせていただければ、いささか技量に不安があります」
ふたりとも今までキャノンとタンクを担当していて、基本的に砲戦メインの戦い方だった。白兵戦用のガンダムを扱うには、相当な慣熟期間が必要になるだろう。
それならば、Mk-Ⅷに不具合が出たり、破損した場合に備えて、そのまま予備機とする方が良い、ということか。
まあ、そこはブライトの判断に任せるか。
「大尉のご要望であった
マチルダ中尉に倣って視線を格納庫の隅に向けると、そこには10メートルくらいのドでかい槍が鎮座していた。
「名称は"ロンギヌスの槍"というみたいですね」
だからさぁ、そんな大仰な名前なんてつけなくていいのよ。ランスでいいんだよランスで。ハンマーだってシンプルにガンダムハンマーでしょ? ミョルニルとか付けないでしょ?
いや、あったな。ミョルニルとかいうハンマー。宇宙世紀じゃないけど。
「あんなもの、何に使うんですか?」
アムロが眉をひそめながら訊いてくる。まあ気持ちはわかるよ。格納庫に置いておくのは邪魔なんだろ?
「ビームが通じない敵に使うのさ」
「ビームが通じない敵? もしかしてIフィールド・バリアのことですか? でもあれは発振器が巨大ですし、エネルギーの消費量もバカになりません。父さんもガンダムに積めないか考えたみたいですけど、サイズが大きくなるし稼働時間にも問題があるし、結局は見送ったと言ってました」
連邦軍にはMAのノウハウがないからな。そういった尖った技術というのは、やはりジオンの方が優れている。
ジオン脅威のメカニズムってやつだ。ただジオンの技術者はロマンに溢れすぎていて、時に
「まあランスは保険だ。普通のビームライフルとしても使える」
ランスにはビームライフルが内蔵されている。撃ち尽くしても刺突武器として使えるというわけだ。
「でも、ガンダムっぽくありません」
そうかな?
つーか俺に言わせれば、この世界のガンダムそのものがガンダムっぽくないけどな。歴戦のガノタ100人に訊いたら78人くらいが「これはガンダムではない」と言いそうなガンダムだぞコレ。
厄介だからな、歴戦のガノタというやつらは。
「そういえば、エンゲージにも追加武装があると聞いているが?」
「はい。シイコ少尉の要望で。ワイヤーアンカーですね。グフのヒートロッドから着想を得たみたいです」
ワイヤーアンカーねぇ。確かストライクノワールが使ってた記憶がある。後は……ダークハウンドとか?
「ワイヤーを撃ち込むなら、ビームライフルを撃ち込んだ方が良くないか?」
「みんながみんな、大尉みたいにマニュアルで当てられるわけじゃないですよ。ジオンの戦闘コンピューターも進化してますし、ビームライフルの軌道も予測され始めています。それに視認性の観点から見ても有用性はあると思いますよ」
意外だな、アムロがそんなこと言うなんて。やっぱりパイロット視点じゃなくて、技術者視点で見てるんだな。まあ、強襲突撃用に開発されたエンゲージとは合っているのかもしれない。ダメでも何かしらのデータは得られるだろうし、そういうデータがほかで役立つことはよくある。
「ところで、次にどこを攻めるのか、マチルダ中尉は知っているのか?」
「大尉が知らないことを、
苦笑しながら、マチルダ中尉は言った。だが現場の大尉と、補給部隊として様々な場所を訪れている中尉とでは、得られる情報が違う。
ソロモンかア・バオア・クーか。サイド3を攻めるのは、まあないだろう。
「ですが、そうですね。断言はできませんが……」
そう前置きして、マチルダ中尉は言った。
「ソロモンではないかと」
「……なるほど」
結果から言えば、その予想は当たっていた。
どうやら連邦軍は、グラナダ、ソロモン、ア・バオア・クーというジオンの要衝すべてを制圧するつもりのようだ。完全勝利を目指しているのかもしれない。
なんでこんなにイケイケなのかはわからない。これもテム博士生存が関係しているのだろうか。水爆で結構ダメージ受けたはずなのに、やっぱり連邦の底力は凄いな。
『チェンバロを鳴らせ』
その号令と共に、ソロモン攻略戦は開始された。
パブリクが要塞に突っ込み、ビーム攪乱幕を展開する。これにより、要塞のビーム兵器は無効化される。パブリクを援護するために、後方からボールとMSが援護する。
ボールの上部に装備された180mm低反動キャノン砲は強力な火砲であるが、機動力はお察しだ。接近を許してしまえば、然したる抵抗もできずに撃破される。
MSが活躍するのは、要塞兵器が無力化されてからだ。要するに、白兵戦である。ソロモン要塞内部に進入し、司令部を押さえる。それでソロモン攻略は完了する。
それは、ジオンもわかっている。だから必死で抵抗する。そこに、必殺の一撃を叩き込むわけだ。
ソロモンのぶ厚い岩盤を撃ち抜く巨大な光芒。
宇宙をふたつに分かつ光の本流だった。
太陽光線は長大な槍となってソロモンに突き刺さった。その途上にあるものを全て焼き払って。
無数の生命が灰燼と化し、虚空に消えていく。
ソーラ・システムの一撃により、戦の趨勢は決した。
最後の抵抗とばかりに出てきたビグ・ザムは、強力ではあるが所詮は初見殺しの兵器である。対処法がわかっていれば、攻略はたやすい。
ドズルには
火線の薄い下方から攻め込み、股下にあるIフィールド発振器を破壊する。後はコクピットを潰せば処理完了だ。やはりビグ・ザム1機を造るより、ゲルググ20機を造る方が有用な気がする。まあパイロットの問題はあるだろうが。
戦場を離脱する兵を追う命令は出なかった。
宇宙要塞ソロモンは、以後コンペイトウと改称され、連邦軍の基地となった。
◇
ソロモンを制圧した後、間を置かずア・バオア・クー攻略戦が開始された。
「決戦である!」
「今度の戦闘は徹底したMS戦だ。これが、先のソロモン戦とは決定的に違う! ソーラ兵器の攻撃によって大きな損害を受けた現状にたてば、これ以上の艦船の損耗は許されない!」
ジオンのソーラ・レイによって、連邦艦隊の半数近くが轟沈したのだ。
パブリクが縦深攻撃を行い、MSが内部に進入する。
「ギレンのいる司令部まで侵入しろ! 食い破れ!」
興奮気味にブライトが叫ぶ。
「諸君らの奮闘に期待する! 総員かかれ!」
『了解』
全員が持ち場に向かって駆け出す。
「大尉、本当にアーマーはいらないんですか!?」
コクピットに向かう俺に向かってアムロが叫んでいる。
「侵入する時、邪魔になるからな」
「パージすればいいじゃないですか。敵に使われることはないんですから」
火器管制システムがあるため、武装がジオンに利用されることはない。だが機密が詰まっていることに変わりはない。捨て置くというのは、なんとなく落ち着かない。
そういえばアムロは躊躇なく武器を捨ててたような気がする。
「アーマー、準備しておきますからね!」
「……了解、頼むよ」
たしかに取り付くまでどれほどかかるかわからないし、補給に戻れる保証もない。ここは素直に従っておこう。
コクピットの隅に吊るされたお守りを指ではじく。ララァにもらったお守りだ。こういうのに頼るタイプではないが、どうも連邦軍では伝統のゲン担ぎらしい。
まあ重要なのはお守りそのものではなく、込められた想いだ。それが俺を守ってくれるだろう。
『大尉、発進準備OKです!』
アムロから通信が入った。
「了解だ。ウィリー・ケンプ、ガンダムMk-Ⅷ、発進する」
発進後、ジェノサイドアーマーとドッキングする。
「先行する」
『了解です。お気を付けて』
ブロッサムもエンゲージも、この形態の加速にはついてこれない。
かといって推進剤を使い過ぎるわけにもいかない。最初にスラスターを噴かして、あとは慣性速度で前進する。ゲルググの編隊が見えた。ビームキャノン4門に火を入れ、右肩を吹き飛ばす。
動きが悪いな。学徒兵か?
「むっ……光が……」
奥の宙域に光が見えた。
MSの爆発光ではない。戦艦クラスの大きさだ。
味方の戦艦がやられている。ギレンめ、相当の戦力を温存していたようだな。
MSを退けながら、要塞の砲門を潰していく。すでに味方のMSはア・バオア・クーに取りつき始めていた。
とそこで、ホワイトベースから通信が入った。
「こちらウィリー・ケン……」
『ケンプ大尉! セイラがガンダムで飛び出した!』
「なんだって?」
『だから! セイラがガンダムで無断出撃したんだよ!』
「カツかよ!」
『カツじゃない! セイラだ!』
焦って意味の通じないことを言ってしまった。まずはブライトを落ち着けなければ。
『ごめんなさい大尉。セイラはなにか思い詰めていたようで……こっそりシミュレーターはやってたんです。でもみんなには黙っていてと言われて、私……ああ、こんなことになるなんて……』
なんと、ミライさんも共犯だったか。いや、さすがにセイラさんがカツするとは思わないか。
「回線は?」
『閉じているみたいで。でも信号は出ています。頼まれてくださる?』
さすがにここで断るわけにはいかないだろう。ガンダムの信号をモニターで確認する。
ア・バオア・クーに取り付こうとしているのか? 無茶をする。
「了解。なんとかやってみよう」
『お願いします』
スラスターを全開にしてガンダムの信号を追う。
……見つけた。速度を緩め、しかし多少の勢いを残しながら、ガンダムに抱きついた。
「お転婆なお姫様だ。出撃したいならブライト艦長の許可を取ってからにしてもらいたいね」
『……大尉は、気づいていらっしゃったのね』
「キミが、アルテイシア・ソム・ダイクンだということにかね?」
短い沈黙が落ちる。
『私は、行かなければならないのです』
「なんのために?」
『兄に……いえ、ギレン総帥と会うために、です』
会ってどうするのだろう? あのギレンが指揮権や政権を渡すとも思えないし、正直会ってどうなるものでもないような気がする。下手をすればその場で射殺されて終わりだ。
思慮深いようで、割と衝動的に行動するお姫様だからな。だがまあ、ダイクン派の兵もいるだろうし、局面に変化が生まれるかもしれない。
万が一上手くいったら、シャアも止まるだろうし。
「わかった。俺も同行しよう」
『……え?』
「意外かい?」
『いえ、助かります。正直、心細かったので』
その声は、心から安堵したよう聞こえた。
要塞の破損個所から内部に進入する。
「ガンダムはロックをかけておくように。やり方はわかるね」
『はい。大丈夫です』
「では行こう」
セイラさんがコクピットから姿を現す。ヘルメット越しでも、緊張しているのが見て取れた。
「銃は抜かなくていい」
「え?」
「そんな拳銃では大して役に立たんし、相手を警戒させるだけだ。堂々と行こう」
「……ずいぶんと、肝が据わってらっしゃるのね」
「そうかな」
言われてみれば、たしかにそうだ。敵の本拠地に侵入して、敵の大将に会いに行こうとしているのに、不思議と落ち着いている。
あえて声のする方に向かった。こちらに気づいたジオン兵がハッとなった。
「れ、連邦兵?」
こちらがあまりに堂々としているせいか、判断に困っているようだ。それでも、反射的に小銃を向けている。
「貴様ら! 誰に銃を向けているか!」
「え? え?」
「こちらにおわすお方をどなたと心得る! 恐れ多くも先のジオン共和国首相、ジオン・ズム・ダイクン公の御子、アルテイシア・ソム・ダイクン様であらせられるぞ! 一同、頭が高い! 控えおろう!」
「あ、え、は? ア、アルテイシア……様……?」
「銃を下げんかぁっ!」
「は、はいっ!」
3人の兵は銃を下げて直立不動の姿勢を取った。やはりこういうのは勢いで押すにかぎるな。
「アルテイシア様はギレン総帥との対話を望んでおられる。すぐに取り次げ!」
「はっ、いえ、しかし……」
「これは極めて高度な政治的な問題である。貴様の裁量の範疇を超えているだろう。だから、速やかに取り次ぎなさい」
そう言って、兵の肩をポンと叩く。
「駆け足!」
「りょ、了解しました!」
ジオン兵たちは全速で駆けて行った。
◇
俺たちは兵士の待機所らしきところに通され、そこで待たされた。
しかし完全にこちらの言い分を信じたわけではないようで、部屋の内外に兵士が立っている。
拘束はされていないし、身体検査もされていないが、警戒の色はある。
しばらくして、ひとりの下士官が飛び込んできた。
彼は3秒ほどセイラさんを眺めたあと、敬礼の姿勢を取った。
「アルテイシア様にはご機嫌麗しく! 司令部付き警護中隊をお預かりしております、ドノバン・マトグロス大尉であります! 若い頃には、ランバ・ラル様にかわいがられました……」
目じりに浮かぶ涙を拭きながら、ドノバン大尉は続ける。
「地球におられるランバ・ラル様も、お喜びになるでしょう」
ランバ・ラルは死んでなかったか。まあそういう話は聞かなかったしな。
彼の性格上、味方の脱出を助けるために、地球に残ったのかもしれない。
「なんという奇跡……いえ、これは天祐に違いありません」
ドノバン大尉がセイラさんの耳元に顔を寄せる。
「キシリアがギレン総帥を撃ちました。ザビ家はもうダメです。あなたの御名前の下で、戦わせて下さい!」
うん。まあ狙い通りではあるんだが、この期に及んで派閥争いするあたり、やはりジオンはダメなのかもしれない。いや、この状況で
セイラさんは無言で部屋の外に向かって歩き始めた。そこには多くの兵がいた。どよめきが起こり、それは歓声に変わった。
「ジーク・ジオン!」
「ジーク・ジオン!!」
「ジーク・ジオン!!!」
ああ、これはあれだ。本人の意思とは関係なく話が進むパターンだ。
兵たちが慌ただしく動き出した。
司令部に向かって突き進む。
「――ッ!?」
「どうかして? ケンプ大尉」
この脳髄を貫くような感応……この重さは……。
「危険な男が来る。セイラさん、ここは任せます」
セイラさんに説得してもらうのが一番良いのだろうが、彼女が今ここを離れるわけにはいかない。
俺が出るしかない。