0079年、3月1日。
ジオン公国軍は第1次降下作戦を開始した。続けざまに第2次、第3次降下作戦を行い、多くのジオン将兵を地球へと降下させた。
そこで手に入れたのは、領土と重力下での戦闘データだった。ジオンの人間のほとんどは地球を知らない。重力下でのMS運用試験は行ったが、当然本物の重力ではなく疑似重力だ。
元々ザクは汎用性が高く、地上での運用も想定されていた。それが地上用に改修されたザク、いわゆるJ型と呼ばれるものだ。
しかし軍部はザクの性能の限界を早期に察知し、地上戦に特化したMSの開発に着手していた。
そうして生み出されたのがグフである。
グフである!
おそらくみんな、一度は思ったことがあるのではないだろうか。
グフっていらないんじゃないかな、と。
いや、コンセプトはわかるんだよ。高濃度のミノフスキー粒子下では、有視界戦闘が主となる。しかも地上は宇宙と違って遮蔽物も多い。白兵戦を行う機会も増えるだろう。
つまりグフは、いずれ必ず来たるであろう、対MS戦を強く意識して開発された機体なのだ。
それが強く出すぎてしまったのか、白兵戦用のMSを、という結論に至ってしまったのだろう。しかもなんで精密操作を必要とする
まあその失敗から生まれたのが、腕部装着型のマシンガンやガトリングシールドなのだろうが。
あと
一応、リーチが長いという利点はあるが、連邦MSがビームサーベルを標準装備することを予見して提案したとは思えないんだよなぁ。
「ムチとかいいんじゃない?」
「意外性があっていいね。それ採用!」
という感じで決まったのかもしれない。いや、これはさすがにないと思いたいが。
スペックは悪くないんだけどな、スペックは。
結局、地球を知らない設計者が地球侵攻用MSを造るとこうなるという見本みたいになってしまったのだな。
「ふむ。たしかにキミの言うことにも一理ある」
モニターの向こうのレム少佐が髭を撫でながらうなった。
「レム少佐はグフの開発に関わっていないのでしたね」
「ああ、私はザクを超える新たなザクの開発に忙しいのでな」
この人もたいがいザクキチだからな。ちなみにレム少佐はジオニックの本社勤務。俺はニュータイプ研究所の所長で、ジオニックグラナダ支社の副主任でもある。
「まあ、上層部にも理由はあるのだろう。ザクの改修機よりは、新型MSの方が軍部のウケは良いからな。どうも、ルウムが上手く行きすぎたな。参謀本部は戦局を少々楽観視……」
「レム少佐、それ以上は……」
「むっ、すまんな」
俺にたしなめられ、レム少佐はゴホンと咳払いした。
◇
サイコミュの開発は順調に進んでいる。
そして立ち上がったのがサイコミュの兵器転用、「ビショップ計画」だ。
この計画で最初に製造されたのが、サイコミュシステム初期試験型ザク、通称ビショップ
両腕にオールレンジ攻撃用の有線式5連装メガ粒子砲を装備しており、どことなくジオングを彷彿とさせる。サイコミュシステムやビーム兵器の小型化が現状では困難なため、有線サイコミュを内蔵した腕部が大型化し、背部には大型のジェネレーターを背負っている。
パイロットはアンネローゼとマリオンのふたりとし、彼女たちには軍籍が与えられた。
そして最初の試験は、散々な結果だった。
まずは稼働時間。データ収集が目的とはいえ、この稼働時間の短さは到底実戦に投入できるものではなかった。
またAMBACがほとんど機能していないこと。こんな不格好なのだから当然ともいえるが、サイコミュを操作しながら機体制御も行うというのは不可能に近い。
出力を上げすぎたせいか、廃熱にも問題があった。
「突貫で造らせたとはいえ、ここまで問題が出てくるとはな」
「設計の段階でわからなかったのか?」
「わからなかったからこうなってるんでしょ」
「目下の問題はサイコミュ・デバイスとジェネレーターの小型化だな。いや、逆にMS自体を大型化すれば整合は取れるか?」
「それはそれでコストがかかりすぎるだろう。ザク20機分のコストなんて、上が認めるはずがない」
スタッフたちが喧しく議論を交わしている。しかし、技術の進み方がかなり早い気がする。スタッフが優秀なのはあると思うが、俺の記憶がたしかならサイコミュ搭載機が実戦に投入されたのは、戦争も後期になった頃だったはずだ。
もしかしたら、ニュータイプ研究所の設立が原作よりも早かったのかもしれん。設立時期までは覚えてないからなぁ。
「パイロット以前の問題ね。まずはMSを仕上げる必要があるわ」
「いっそのこと複座式にするのはどうでしょうか?」
そんなアイディアを出したのはローレン博士だ。複座式というのはアリかもしれない。たしかブラウ・ブロも3人で操作していたはずだ。
「でも息が合うかしら?」
「ニュータイプ同士なんだから大丈夫だろう」
「待て、操縦とサイコミュ操作にふたりもニュータイプを使うのはもったいない。操縦はアルマに任せてみてはどうだ?」
物言いをつけたのはクルスト博士だ。アルマはニュータイプの素養はあったものの、ニュータイプ能力は5人の中で最も低かった。しかしパイロットとしての技量は随一だったのだ。
「方針は決まったようだね。MSは複座式にして、メインパイロットをアルマ・シュティルナー、サブパイロットをマリオン准尉にして、MSが完成次第、2回目のテストを行う。よろしいですね、所長」
「ええ、了承します。では解散」
◇
それから5日後、
なんというか、
ほかにも色々と小技を仕込んだらしい。
あんまり自由にやらせるのも問題だな。今度から基本設計は俺がやろう。
「では試験を開始する。ふたりとも搭乗してくれ」
『はい!』
フラナガン博士の命令で、アルマ准尉とマリオン准尉が搭乗する。アルマもパイロットに選ばれたことで、軍籍が与えられた。
「ねーねーしょちょー、わたしも乗りたい!」
「140㎝になったらな」
「ぶーぶー」
俺のズボンの裾を引っ張りながら、イリアは不満を口にした。というか、あの大推力のMSに乗ったりなんかしたら、下手すりゃ内臓が破裂するぞ。
「よろしいですね、所長」
「うむ」
「では、セリーヌ博士」
フラナガン博士に促され、セリーヌ博士が通信を開く。
「アルマ准尉。試験を開始する。発進タイミングは任せます」
「了解です! アルマ・シュティルナー、ビショップゼロ改、発進します!」
新緑の機体が
相手はトリスタン少尉とセルジュ少尉だ。状況としては、哨戒中の2機が敵不明機と遭遇といったものだな。
先手を取ったのはセルジュ機。バズーカを放つが、ビショップゼロ改はスラスターを噴かして回避した。
回避方向にマシンガンの雨が降り注ぐが、それもロールしながら回避。
「機体性能に頼りすぎな気もしますが……」
「性能テストなんだから、それでもいいんじゃない?」
ローレン博士が苦言を呈するが、セリーヌ博士的には良いようだ。というか、あの加速はかなりのGがかかっていると思うが、大丈夫なのだろうか。一応、リニアシートを改造して、Gの負担を軽減してはいるが。
ちなみに、トリスタン少尉とセルジュ少尉の乗機はザクのカスタム機で、現行機の中ではハイスペック機である。とはいえ、ワンオフ機のビショップゼロ改に比べると多少劣っている。
2機のザクの上を取ったビショップゼロ改の腕部が射出され、オールレンジ攻撃が開始された。
「セルジュ機、脚部に被弾。撃墜判定には至らず。試験を続行せよ」
『くっ、了解!』
脚部を吹っ飛ばされたら、AMBACに支障が出ると思うが、エースパイロットなら制御できるものなのだろうか?
「間合いだな」
モニターを見ていたニムバスがぼそりと呟く。彼の言う通り、間合いを詰められるかどうかで勝敗は決まるだろう。
セルジュ機はバズーカを捨ててヒートホークを構えた。トリスタン機もマシンガンでけん制しつつ、巧みな操作で距離を詰め、ヒートホークを振りかぶった。
そこで勝負は決まった。
ビショップゼロ改の胸部から放たれた閃光ビーム砲でザクの動きが止まる。その瞬間を見逃さず、ビショップゼロ改は腰部の隠し腕でヒートサーベルを抜き、トリスタン機のコクピットをひと突き。
さらに腕部の5連装メガ粒子砲がセルジュ機のコクピットに命中した。
ザク2機に撃墜判定が出され、マリオンの勝利となった。