「見えた!」
正面モニターに映る赤い光点は60以上。つまり60機以上のMSが2基のコロニーに群がっているということだ。
やつら本気だな。本気でコロニーを奪い、地球に落とそうとしている。
『作戦は?』
「俺は母艦を叩く。おまえはコロニーの防衛を頼む」
『了解した』
2機のガンダムが左右に別れる。
MSの小隊がこちらに向かってきた。
先頭にいる機体の識別コードはGPZO-04。強奪された"キャンサー"だ。
ビームライフルをかわしながら距離を詰める。すれ違い様にサーベルで右腕と頭部を斬り飛ばした。
……うん? ずいぶんとあっさりいったな。まあ、そうだよな。機種転換には相応の時間がかかるものだ。MS乗りなら機種を変えてもある程度は動かせるが、その機体の全性能を引き出すには、相応の訓練が必要になる。
そう考えると、あの赤いのは相当おかしい部類に入るな。
あいつもガンダムと戦っている。
GPZO-12、"ピスケス"は僚機と連携を取りながら、辛うじてジェミニに食らいついている。
ガンダムには高性能のコンピューターが積まれているため、素人が乗ってもある程度は動かすことができる。相手が旧世代のMSなら、スペックで押し切ることもできただろう。だが機体の性能差はほぼなく、パイロットのレベルは比べるべくもなかった。動きを見切られたピスケスはコクピットを一突きされて沈黙した。
容赦なしだな。あいつの腕なら、パイロットを殺さずに無力化することもできただろうに。
まあ軍人としては、あいつの方が正しいのだろう。降伏勧告はしたけど、従わなかっただけかもしれないし。
それはともかく、こっちも仕事をしないとな。母艦は……チベ級が2隻、ムサイ級が6隻か。メガ粒子砲をかわし、ミサイル群をライフルで撃ち落とす。
チベに向けてブースターユニットを切り離し、ライフルで推進剤に点火する。ブースターユニットはチベを撒き込んで大爆発を起こした。
向かってくるMSをバルカンでけん制しながら、ムサイを落としていく。
敵MSは60機以上。こちらの射撃武器はビームライフルとハイパーバズーカが2丁ずつ。無駄撃ちはできない。
こちらが母艦狙いであることに気づいたのか、コロニー付近のMSがまとめてこちらに向かってきた。
当然だな。母艦の艦長は護衛命令を出すし、パイロットにしても母艦を落とされるわけにはいかない。
向かってくる敵を落とすのは、意外と簡単だ。向かってくるのがわかってるからな。機動が割と単純になるし、意識が攻撃に向いているので、比較的防御が薄くなる。
『ガンダム!! マレット様の仇!!』
半壊したキャンサーが後方からライフルを乱射しながら接近してきた。ゾディアックシリーズは全機全天周囲モニターが採用されているため、
とはいえ……まて、マレットだと?
まさかキシリアの護衛をしていたギャンか? いや、あの時親衛隊は全滅した。隊員が生き残っているのはおかしい。
「復讐は新たな復讐を生むだけだ。復讐で戦うのはやめろ!」
『うるさい! マレット様を奪った連邦も! ジオンの誇りを失った共和国も! みんな死んでしまえばいい!』
あー、そりゃあね。敵の説得くらいで思いとどまったりはしないわな。俺だって大事な人を殺されたら、そいつを憎むし、殺してやりたいとも思う。
けどマレットを殺したのは俺じゃないんだ、たぶん。仕方ない……やるしかないか。
『もうやめろ! マレットを殺したのは俺だ! 憎むなら俺を憎め! おまえの憎しみは、俺がすべて受け止めてやる! だからこんなバカなことはもうやめるんだ!』
どちら様!? 識別コードはGPZO-10、"カプリコルヌス"か。
いいタイミングで来て主人公みたいなセリフ吐きやがって。というかこの声は……あれ? もしかして本隊?
『うあぁぁっっっ!! キサマが! キサマがマレット様を! キサマがぁぁぁっ!!』
良いセリフだったけど、正気を失ってる相手に正論は通用しないぞ。
距離を詰め、サーベルで左腕を斬り飛ばす。ついでに両脚も斬り落としておこう。
ダルマになったキャンサーに、カプリコルヌスが接触回線で語りかける。
『こんなことをしても、なにも戻りはしない! 過去に囚われて、未来まで失うな! マレットはきっと、おまえが幸せに生きることを望んでいたはずだ!』
いや、マレットってそんなキャラじゃなかった気がするけど。
だがキャンサーのパイロットの心には響いたようで、泣き崩れたような声が聞こえてきた。
『フォルド、あまり無茶するな』
『わりぃ、ルース。でもうまくいったぜ。見ろ、敵も投降を始めたみたいだ』
遅れてもう1機のガンダムがやってきた。
母艦を失えば、MSも投降するしかない。味方に拾ってもらえることを期待して逃げ出す者もいたが、どうだろうな。救難信号を発すれば、連邦にも所在が知られる。まあ、撤退時の合流地点くらいは決めてあるのだろうが。
『あんたにも助けられたな。礼を言うぜ』
『バ、バカ! 申し訳ありません少佐。こいつちょっとバカなんです』
『なんだよバカバカって……少佐?』
『ブリーフィングで寝てたのかよ! アリエスのパイロットはウィリー・ケンプ少佐だ』
『ゲッ! も、申し訳ありませんウィリー少佐!』
ゲッて言ったぞコイツ。
「いや、かまわんよ。礼と謝罪は受け取っておこう」
『か、感謝します。俺た……我々はこの後デラーズを追いますが、少佐はどうされますか?』
まさか追撃隊がアルビオンではなくサラブレッドとは。
いかんな、原作に引っ張られすぎていた。
「捕虜の移送と、コロニーの警護を続けるよ。また襲ってこないとも限らないのでな」
『了解しました。では、失礼いたします』
2機のガンダムは人間のように敬礼して去って行った。
たしかにグワデンがいなかった。おそらくコロニー奪取後に合流予定だったのだろう。
まあそれは、本隊に任せよう。
あとはサイド3への核攻撃だが、国防隊でなんとかなるか。
軍縮はしているが、クランバトルでのゲルググを見るかぎりMSの改良はしているようだし、精鋭部隊はいると思うが……。
『ウィリー少佐』
思考を遮るように、シロウズから通信が入った。
『胸騒ぎがする。サイド3へ向かう許可がほしい』
「奇遇だな。俺もそう思っていたところだ」
◇
相談した結果、シロウズがサイド3へと向かい、俺はコロニー護衛のために残ることになった。とはいえ、補給なしですぐさま向かえるわけではない。
ブランリヴァルの到着を待って、一度補給したあとに向かうことになる。
テロリストたちは、拍子抜けするほどおとなしくなっていた。
まあ最大戦力であるガンダム2機があっという間に落とされ、母艦もすべて沈められればこうもなろう。
「早かったですね、あなた」
「ああ、実は途中まで来てたんでな」
「なるほど、そういうわけでしたか」
ララァは柔和な笑みを浮かべた。しかし、間近で見ると本当にキテレツな見た目だな、このザクレロもどきMSは。
「お
「おう、よくやったな、アルマ」
「はい!」
20歳を超えたってのに、妙に子どもっぽいんだよな。
それが人気なのか、結構モテているらしい。
だが独り立ちする様子はなさそうだ。
捕虜はコロニーのメインベイに集め、そのままサイド3へと運ぶことにした。
その後、俺たちは駆けつけて来たブランリヴァルに帰投した。
機体の補給が終わるまで、俺たちはパイロットの待機室で体を休めていた。
「なあシロウズ、一年戦争の勝利者は誰だと思う?」
「どうした急に?」
「別に。ただの雑談だ。補給が終わるまで、もうしばらくかかるからな」
「……ふむ」
俺の問いに、シロウズは顎に手を当てて考え始めた。
「引き分け、痛み分けと言いたいところだが、実質的な勝利者は連邦だろう。ジオンは自治権を手に入れはしたが、主権国家となって独立することはできなかった。だからこそテロリスト共に連邦の傀儡国などと呼ばれている」
「いや、真の勝利者はジオンだよ」
「……ほう。その心は?」
興味深そうに、シロウズは身を乗り出してきた。
「終戦直後、財政的に緊迫していた連邦は、莫大な戦時債務を抱えたジオン公国を再吸収することができなかった」
「併合すればジオンは連邦の一部となり、負債は連邦が抱えなければならない。財政破綻は目に見えていた」
さすがだな。そのくらいは読んでいたか。
「ジオンは復興資金を獲得するために、国家が保有するジオニックなど技術系企業の株式一斉売却に踏み切った。売却先は……」
「アナハイムか。たしかにあのファンネルを使用した時の感覚は、ジオングのものと似ていた」
「基本的なシステムは同じはずだ。有線が無線になったから、負担は増えたはずだがな」
「ああ。重さは多少増していた。しかしあそこまでの小型化に成功するとはな。さすがはアナハイムと言ったところか」
「ジオニックの基礎設計があればこそだと思うがね」
多少で済ませる辺り、やっぱりこいつも化け物の類なんだよなぁ。
「ジオンは連邦の10年先の技術を持つと言われていたが、誇張ではなかったようだな。だが売却先はアナハイムだけではあるまい。高く売るには、競合相手が必要だ。それは連邦だな? いち企業に軍事技術を牛耳られれば、安全保障政策など崩壊してしまう」
「そうだ。アナハイムと連邦を競わせた。価格はうなぎ登り。しかもジオニックは技術のすべてを吐き出したわけではなかった」
「当然だな。本当に大事なものは抱えておくものだ。なるほどな、読めてきたぞ」
莫大な資金を得たジオンはそれを使い債務を清算、さらに被害が少ないサイドであったため人も集まり、凄まじいスピードで復興を遂げた。
「俺がクランバトルで戦ったゲルググ、知っているか?」
「ああ、見たよ。外見は後期に生産されたゲルググだが、あの動きはかなり
「あからさまな新型を造らないところに奥ゆかしさを感じるな」
おそらく連邦を刺激しないためだろう。なんでクランバトルに出してきたのかはわからないが。
もしかしたら、性能テストだったのかもしれない。だとすれば、悪いことをしたな。バイオセンサー搭載機は、量産には向かない。コストがバカ高いというのもあるが、性能を十全に発揮できるパイロットがいないからだ。
「連邦は面子を守ることにこだわり、ジオンは実利を手に入れた。宇宙世紀は次の段階に進んだ」
「次の段階?」
「企業の重要施設は着々と宇宙へ上がり、各コロニーも遅々とではあるが確実に復興を遂げ、力を付けてきている。経済の中心は宇宙へと移りつつある」
「地球に価値はないと? だが連邦は力を取り戻している」
「そこだ」
「なに?」
青い瞳が鈍い輝きを放つ。
「ギレンは地球に固執し過ぎていた。ルナツーを戦略的価値がないと放置せず、大部隊を率いて早期に制圧するべきだったんだ。宇宙を制すれば、地球など放っておいても干上がる」
「ギレンほどの男が気づかなかったとも思えないが……」
「ずいぶんと買っているのだな」
「能力とカリスマだけはあった」
それだけあれば充分だとも思うが……まあスペースノイドって妙に地球にこだわるところがあるからな。連邦憎しという部分もあるんだろうけど。
というか、ザビ家が性急すぎるのか? ダイクンの計画を遠大すぎると暗殺したくらいだからな。堪え性がないのかもしれない。
「急激な変化は歪みを生む。ジオン・ダイクンの提唱した
「……なるほど。しかし、あなたにそれほどの政治的知見があるとは」
「ほとんどは受け売りだよ」
ゴップ先生のな。とんだ食わせ者だったわ、あの爺さん。
とそこで、壁に設置された通信機がなった。相手は格納庫の整備士だった。
「補給が完了したそうだ」
「では、先行させてもらう」
「ああ。こちらもなるべく急ぐ。頼むぞ」
「言われずとも、な」
サムズアップして、シロウズは待機室を出て行った。