イリアとレシアが士官学校へ行って、この家もずいぶんと寂しくなった。
今日は平日の休みのため、上の子は学校へ行き、下の子は幼稚園に行っている。家には俺とララァのふたりだけだ。
だらりとソファに腰掛け、テレビのスイッチを押す。クイズ番組がやっていた。いつの世も人の知的好奇心をくすぐる番組というのは、一定数の視聴率を稼げるようだ。
「どうぞ」
「ありがとう」
ララァの淹れたお茶を受け取る。ララァは俺の隣りに腰を下ろした。
今回は世界遺産特集のようだ。ティターンズが解体され、連邦政府の態度も軟化してきたため、スペースノイドも気軽に地球へ行けるようになった。そのせいか地球を特集する番組も増え始めている。
「これは、タージマハルかしら?」
ララァがクイズの答えを口にする。まあその辺りは地元だから……うん?
映像が乱れた。電波障害か? いや……これは……。
映像が回復すると、そこはスタジオではなかった。映し出された仮面の男は、見覚えがあった。
ものまね芸人かな?
そう思っていると、男はゆっくりと、優雅ともいえる仕草で仮面を取った。仮面の下の瞳は、吸い込まれるように蒼い。
「私の名は、シャア・アズナブル。かつて赤い彗星と呼ばれた男だ」
「あらまあ」
ララァが上品な仕草で口元を押さえた。
似てはいるな。少し若すぎるような気もするが……フル・フロンタルよりは似ていると思う。体格とか、髪型とか。
シャア・アズナブルであることを印象付けるためか、噂になっていた火傷の跡もある。
「本物だと思うか?」
「ふふっ、どうでしょう? 映像だけでは、なんとも言えません。あの人に、似ていると言えば似ていますが……」
答えがわかっているように、ララァは笑った。
シャアを
彼なりの誠意か、それとも信望を集めるためか。あるいは、シャアならばそうすると思ったのか。
「一応、確認してみるか」
端末を操作して、シロウズにメッセージを送る。
――なんでテロリストになったんだ? 悩みがあるなら相談してくれよ
こんなものか。10秒ほどで返信がきた。
――冗談ではない!
テレビではシャアが演説を続けている。どうやら本人ではなさそうだ。まあわかってはいたが。続けてメッセージが送られてくる。
――アレはなんだ?
いや、なんだと言われてもな、こっちが聞きたいくらいだ。とりあえず思いつくのはふたつくらいか。
①、ただのそっくりさん
②、クローン
好きな方を選んでくれ、と送信する。
返信はなかった。色々と調べているのかもしれん。テレビに視線を戻す。
カメラが動き、もうひとりの青年が映し出された。こちらも金髪のイケメンだ。ギレンの子どもらしい。へぇ、そんなのいたんだなぁ。つかこいつ、グレミーじゃねぇの?
彼こそがザビ家の真の継承者であり、ジオン公国の新たな総帥であるとシャアは語った。
俺の予想通り、その青年はグレミーと名乗った。彼が言うには、ジオン共和国の自治権は
たしかにジオン共和国の自治権は、原作と同じく宇宙世紀100年までの期間限定のものだ。自治権を返還した後は、地方自治体以上の活動は許されなくなる。
それでは、スペースノイドは真の自由を手に入れたとは言えない、というのがグレミーの主張だった。
だがそれは、外交次第じゃないかな。ジオン共和国も力を付けてきているし、連邦政府にしてみても、もう一度戦争するのは勘弁してほしいところだろう。
しかし、過日の30バンチ事件で行われたセイラさんの演説、あれが賛否両論だった。いわゆる弱腰外交。このまま宇宙世紀100年を迎えれば、連邦政府の言われるままにジオン共和国は解体されると、グレミーは語っている。
「気の早い話ね」
と、ララァがこぼした。たしかにそうだ。フル・フロンタルが語ったサイド共栄圏は、宇宙世紀0096年のことで、期限は4年後まで迫っていた。だが今は、10年以上の月日がある。大統領の交代だってありうる。
宇宙世紀100年なら、セイラさんは38歳か。政治家としては若手の部類だが、18歳で大統領に就任してるからな。よく考えたら18歳で大統領ってだいぶおかしいな。
しかし通信網に割り込んで電波ジャックをやるとは、デラーズより優秀だな。まあ戦場から逃げ出したオッサンと、自称とはいえギレンの息子では求心力が違うか。
「あなたの出番はあるのかしら?」
「さあ、どうかな」
デラーズ・フリートの件は、ゴップ議長も無関係ではなかった。だから俺が駆り出された。今回は、連邦軍全体のことだ。
あのシャアがどこまでやれるのかはわからないが、シャアを名乗る以上、腕に自信はあるのだろう。だが……。
「ひとりの活躍で勝てるほど、戦争は甘いものじゃあない。連邦は勝つさ」
本当に、そうであってほしいよ。