ちょっと変わったガンダム世界を行く   作:乾燥海藻類

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幕間 「新生ジオン公国」

右手に浮かぶ太陽を背に、MSの小隊が近づいてきた。

 

「不意を打ったつもりだろうが、教本通りすぎるな」

 

放たれたライフルを旋回機動でかわしながら、シャアは3度トリガーを引いた。

横っ腹から突っ込んできた3機のジムⅢは、光球となって火星の海に沈んだ。

 

「悪い機体ではないが、量産機ではな」

 

ジムⅢは最近配備された連邦軍の量産機である。不評だったジムⅡと違い、性能は十分に高い。

近年の連邦軍は特機の開発を最小限にとどめ、高性能な量産機の開発に注力してきた。ジムⅢは性能とコストのバランスが良く、軍全体の戦力底上げに大きく貢献した。

量産機ながら高い運動性と追従性を実現しており、ベテランパイロットであれば上位機種相手でも十分に戦える機体である。

しかし、そのベテランパイロットの数も少なくなった。

 

「終戦から8年。大戦を知らぬパイロットも増えたということか」

 

シャアほどのパイロットとなれば、動きを見ればその技量はある程度把握できる。特にアポジモーターの使い方だ。推進剤を無駄に使うのは、素人か未熟なパイロットだ。

3つの光を見送りながら、シャアは次の獲物へと向かう。

 

連邦軍の攻勢が始まって一時間ほど経つが、シャアはまだサーベルを抜いていない。

ビームライフルが開発されて以降、MS同士の戦いはほぼ射撃戦で決まるようになった。つまり、どちらが先に当てるかである。格闘戦となるのは、砲撃をかわし、相手がこちらの間合いに入ってきた時のみだ。

 

「あちらも派手にやっているようだな」

 

シャアはSフィールドに視線を向けた。

いくつもの光芒を生み出しているのは、鋼鉄の巨人だ。要塞とも言える巨大MA、サイコ・ガンダム。

この新生ジオン公国には、元ティターンズの人間も流れてきていた。反スペースノイドだった人間が、スペースノイドの組織に頼るというのも皮肉が聞いているが、人材が不足している公国は受け入れざるを得なかった側面もある。

 

「勝敗は決したか」

 

さらに6機のMSを残骸に変えたところで、連邦軍が撤退を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大ホールには華美な装飾などなかった。目を引くのは中央の玉座と、その背後の壁面に掲げられたジオン軍旗だけである。

 

「シャア・アズナブル中佐、ただいま帰還しました」

「報告は聞いている。ご苦労だった大佐」

「自分は中佐でありますが……」

 

困惑するシャアを見ながら、グレミーは小さく笑みを浮かべた。

 

「昇進だよ。獅子奮迅の活躍だったそうではないか、大佐。勲章の授与も予定している。楽しみにしていたまえ」

「ハッ、光栄であります、閣下」

 

シャアは深々と頭を垂れた。

 

「しかし、歯ごたえのない相手でした。ガンダムタイプもいないようでしたし」

「初戦だからな。様子見だったのかもしれん。あるいは、軽く見られていたか。どちらにせよ、第2波は間を置かずやってくるだろう」

「連邦も数を頼みとした作戦は通用しないと学んだことでしょう」

 

失笑するようにシャアは笑った。つられて、グレミーもかすかに笑みを浮かべる。

 

「とにかく、ご苦労だった。しばらくは体を休めてくれ」

「ハッ、お気遣い感謝いたします。では、失礼します」

 

優雅な仕草で踵を返すと、シャアは退室した。

シャアを見送った後、グレミーは部屋を出て研究室(ラボ)へと向かった。

ここは一般兵の立ち入りを禁じている特別な区画である。

 

「これはこれはグレミー様、どうされました?」

 

グレミーを出迎えたのは、白衣を着た女性だった。慇懃な態度ではあるが、言葉にはまるで敬意が感じられなかった。実際彼女はグレミーを尊敬などしていない。研究に金を出してくれるスポンサーだから、多少は丁寧に接しているだけだ。

グレミーもまた、この女を好ましく思っていなかった。

 

元ティターンズの、ムラサメ研究所出身のイカレた女だ。ティターンズが解体され、ムラサメ研究所が連邦軍に接収された折に、その方針に納得できずに出奔した。そして、この火星にまで流れてきたのだ。

ティターンズに所属していた理由も、研究資金を出してくれたからという理由以外にない。彼女にとってはアースノイドもスペースノイドも関係ない。研究さえできればそれでいいのだ。

 

「いや、ただの視察だ」

 

こうして見張っておかないと、この女は何をしでかすかわからない。そういった不気味さを、グレミーは感じていた。倫理や道徳などを、この女に期待することはすでに諦めていた。

 

「そうですか。そうそう、アレはちゃんと使えたでしょう?」

「ああ、たいしたものだ」

 

サイコ・ガンダムのパイロットである強化人間。双子の姉妹であるが、実際には姉妹でもないし、双子でもない。そんな記憶を植え付けられているだけだ。

グレミーがこの女を好かない理由だった。強化人間は認めた。しかし、最初の報告書を読んだ時、グレミーは後悔した。だが人材の不足している現状では、貴重な戦力である。そしてこの女もまた、優秀だった。無能ならば、即座に処分していただろう。

 

あのシャア・アズナブルも、彼女の作品だった。シャア・アズナブルの素顔は不明だったが、いくつかの噂はあった。欧州系人種で金髪碧眼、その条件に当てはまる人間を用意して、火傷の跡を付けた。

そして記憶を改竄して、自分をシャア・アズナブルだと思い込ませた。人権を無視した悪魔の所業だ。この女は実験体を人間だと思っていないので、このようなことができるのだ。

 

「理論は完成しました。これからどんどん優秀な兵が提供できるでしょう」

「まて、そんなに増やしても、機体がない。これ以上はいい」

 

強化人間がその能力を十全に発揮するには、それに相応しい機体が必要だ。しかし、そういった機体は高価であるし、そう簡単に用意できるものでもない。一般兵に対する気遣いというものもある。

これ以上犠牲者を増やしたくはないという気持ちもあった。調達された子どもは、難民や不法滞在者などの、いなくなっても世間は気にも留めない者たちだった。そういった人間がいなくなっても、本格的に捜査されることはない。そしてこの女は、子どもをいくらでも調達できる消耗品としか思っていないのだ。

 

「……では、最優秀の個体をご用意しましょう。完成までにはもう少しかかりますが、良いものが手に入りましたので」

 

女がにんまりと笑った。こういった笑みを浮かべる時は、大抵ロクでもないことを考えている。聞きたくはなかったが、聞かないわけにもいかなかった。

 

「良いものとは、なにかな?」

「ウィリー・ケンプの髄液です」

 

ウィリー・ケンプ。一年戦争の英雄。これにはさすがのグレミーも面食らった。

 

「あの少佐も定期健診くらいは受けるだろうが……よく手に入ったな。少佐のデータは厳重に管理されているはずなのに……」

 

関係者の買収は難しいだろう。こちらの手の者を潜り込ませでもしたのだろうか。しかし連邦軍がいくら腐敗しているとはいえ、ジャブローはそう甘い場所ではなかろうとグレミーは首を傾げた。

 

「どんな人間にも弱みはありますから。ああ、後処理も終えてますのでご心配なく。今ごろは家族水入らずで仲良くやっているでしょう。いえ、水の中、ですかね」

 

ホホホ、と女は笑った。グレミーは眉間にしわを作り、聞かなければよかったと後悔した。

 

 

 

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