ファイアーエムブレムifのIf   作:鰻天ぷら

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12話

紫色の霧が這う、音のない世界。

崩れ落ちた巨大な石柱や、空中に静止したままの瓦礫が、ここがかつて栄華を極め、そして滅び去った透魔王国であることを無言で物語っていた。

 

「……足元、気をつけてね。フェリシア、フローラ」

「は、はいっ! カムイ様こそ、お疲れではないですか……っ、きゃあ!?」

 

足元の崩れた石畳につまずき、フェリシアが僕の背中へと勢いよくぶつかってきた。

 

「わっ……と」

「も、申し訳ありませんカムイ様っ! この世界、薄暗くてなんだか不気味で……」

 

フェリシアは謝りながらも、僕の腰に回した腕を解こうとはしなかった。むしろ、怖さを口実にするように、その豊満で柔らかな体を僕の背中にぴたりと密着させてくる。先ほどの泉での水浴びの熱がまだ残っているのか、彼女の高い体温と甘い香りが、衣服越しにじっとりと伝わってきた。

 

「フェリシア。あなたがカムイ様にのしかかってどうするのです。カムイ様はまだ、お疲れのはずですよ」

 

左側を歩いていたフローラが、冷ややかな声でたしなめる。しかし、彼女自身も僕のすぐ真横に張り付き、ひんやりとした指先で僕の腕をしっかりと抱え込んでいる。

 

「……少しでも、私の冷気で心地よさを感じていただければと存じますが。歩くのがお辛ければ、私がお背負いしましょうか?」

 

フローラの氷のような冷たさが、僕の小さな体に奇妙な安心感を与えていた。

 

「……二人とも、静かに。何かが来るわ」

 

先頭を歩いていたアクアが、ふと立ち止まり、透き通るような声で警告した。

彼女の視線の先、紫色の霧の奥から、ゆらりと複数の影が立ち上がる。

実体を持たないような、それでいて禍々しい殺気を放つ異形の兵士たち――透魔兵だ。

 

「敵……っ!」

 

僕が腰の夜刀神に手をかけた、その瞬間だった。

 

『疾ッ!!』

 

霧を引き裂くような鋭い裂帛の気合いと共に、銀色の巨大な槍が空を舞った。

重々しい一撃が透魔兵の胴体を両断し、紫色の霧と共に敵を霧散させる。

そこに立っていたのは、歴戦の傷を刻んだ漆黒の鎧を纏う、見覚えのある老騎士だった。

 

「……え……?」

 

僕は自分の目を疑った。

無限の渓谷の吊り橋で、あの恐ろしい暗黒の魔法に呑み込まれ、谷底へと落ちていったはずの――。

 

「ギュンター……っ!?」

「……ッ!! カムイ様……!?」

 

老騎士――ギュンターは、信じられないものを見るように目を見開き、そして手から槍を取り落とした。

 

「お怪我はありませんか、カムイ様! まさか、生きておいでとは……っ! おおぉ……ッ!」

 

ギュンターは膝をつき、僕の小さな体をその逞しい腕で力強く抱きしめた。鉄の鎧の冷たさと、彼が生きているという確かな温もりが、僕の胸に熱いものを込み上げさせる。

 

「ギュンター……よかった、本当によかった……っ! ずっと、死んでしまったと……」

「私こそ……お守りできず、奈落へと落ちてしまった己の不甲斐なさを呪っておりました。……ん?」

 

ギュンターは僕から身を離すと、僕の背後で涙ぐんでいるフローラとフェリシア、そしてアクアとリリスを見て、驚愕に目を見開いた。

 

「お前たちは……フローラに、フェリシア。アクア様まで……。なぜ、ここにいるのだ? ここは無限の渓谷の底……落ちれば助からぬ死の世界のはず」

「……私たちは、カムイ様と運命を共にする道を選んだのです」

 

フローラが静かに、しかし揺るぎない声で答えた。

 

ギュンターは深く息を吐き、そして深々と頭を下げた。

 

「そうか……。お前たちがカムイ様をお守りしてくれたのだな。礼を言う」

僕は、ギュンターにこれまでの経緯と、アクアから聞いた透魔の真実を簡潔に話した。

 

「……なるほど。白夜にも暗夜にも戻れず、この世界の底で真の敵を討つと……。いばらの道ですな。ですが、このギュンター、我が命尽きるまでカムイ様の剣となり、盾となりましょう」

「ありがとう、ギュンター。君がいてくれるなら、百人力だよ」

 

「しかし、カムイ様」

 

ギュンターは周囲の廃墟を見渡した。

 

「真の敵と戦うにしても、今の我々には武器も、食料も、休むための安全な拠点もありません。このまま彷徨えば、いずれ力尽きます」

 

「……それでしたら、私にお任せください」

 

それまで静かに控えていたリリスが、一歩前に出た。

 

「私は星界の門を開くことができます。この透魔の魔力溜まりと竜脈を利用すれば、皆様が心安らかに休める絶対の聖域――『マイキャッスル』を構築することが可能です」

「異空間に、城を……? そんなことができるのか?」

「はい。そこであれば、白夜の目も、暗夜の追手も、透魔の兵も届きません」

 

リリスが両手をかざすと、紫色の霧が円を描くように晴れ、そこに美しく輝く光の扉が出現した。

 

「さあ、カムイ様。お入りください。……私が、あなただけの居場所をご用意いたしました」

 

光の扉をくぐると、そこは透魔王国の薄暗さとは全く違う、清浄な空気に満ちた美しい空間だった。

空にはオーロラのような優しい光の帯が揺らめき、見渡す限りの豊かな大地と、その中心には堅牢でありながらどこか温かみのある立派な城がそびえ立っていた。

 

「すごい……これが、星界……」

 

太陽の眩しすぎる光はない。僕の体が、芯からほっと安らぐのを感じた。

 

「カムイ様。ギュンター殿との防衛設備の確認は後ほど行います。今は、まずは私室でごゆっくりと羽をお伸ばしください」

 

フローラがテキパキと指示を出し、僕の背中をそっと押して城の奥、最も奥まった豪奢な私室へと案内した。

 

扉が閉まり、部屋の中には僕と、アクア、フローラ、フェリシアの四人だけになった。

外界の脅威から完全に遮断された「絶対の安全地帯(我が家)」。

その事実が、彼女たちの僕に対するタガを、決定的に外してしまったようだった。

 

「カムイ様……やっと、私たちの『お城』に着きましたね」

 

フェリシアが、吐息交じりの声で近づいてくる。

 

「ええ。これからは、白夜の者たちに邪魔されることもありません。……カムイ様、お履物を脱がせますね」

 

フローラが僕の足元にひざまずき、氷のように冷たい、けれどひどく丁寧な手つきで僕の靴を脱がせ始めた。

 

「あ、フローラ、フェリシア。靴くらい自分で……」

「いけません」

 

立ち上がろうとした僕の肩を、背後からアクアが両手でそっと押さえ込んだ。

 

「あなたは、この城の主。そして、私たちの……すべてなのよ。だから、自分の手で何かしようとなんて、思わないで」

 

アクアの冷たい指先が僕の頬を滑り、彼女の湿り気を帯びた吐息がうなじにかかる。

 

「これからは、歩くことも、食事をすることも、眠ることも……すべて、私たちが管理してあげる。……あなたはただ、身を委ねていればいいの」

「そ、そんなの……僕、一人で何もできなくなっちゃうよ……っ」

「それでいいんです。……いいえ、そうでなくては困ります」

 

フローラが僕の脚を自身の膝に乗せ、冷たい指先でふくらはぎをゆっくりと揉みほぐし始める。ぞくりとするような快感が足先から全身に這い上がってくる。

 

「カムイ様が私たちなしでは生きていけなくなるまで……私たちが、隅々までご奉仕させていただきますから」

「はいっ……! カムイ様の身の回りのこと、ぜーんぶ、私がやりますっ! だから、ずっと……ずっと私たちに甘えてくださいねっ」

 

フェリシアが僕の背中に回り込み、その豊かな胸の谷間に僕の頭をすっぽりと包み込んだ。彼女のむせ返るような体温と甘い香りが、僕の視界と呼吸を完全に塞いでいく。

 

アクアの絶対的な支配の言葉。フローラの冷たくも執拗な愛撫。フェリシアの逃げ場のない温かな拘束。

完全なる密室。

絶対の安全地帯であるマイキャッスルの私室で、僕を縛り付ける彼女たちの濃密なスキンシップは、癒やしを超え、「すべてを奪い、依存させる」という恐ろしくも甘い支配の儀式へと変わり始めていた――。

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