ファイアーエムブレムifのIf   作:鰻天ぷら

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最終話

透魔王国の戴冠式から、幾星霜の月日が流れた。

 

星界の澄み渡る夜空には、いつかと同じように穏やかな星の瞬きが広がっている。

戦火の記憶も、ハイドラの放っていた淀んだ瘴気も、ここには一切届かない。

 

「……カムイ様、お待ちしておりました」

 

星界の入り口で僕を出迎えてくれたのは、見慣れた素朴な衣服に身を包んだ一人の青年だった。

 

「久しぶりだね、ロンタオ。……その様子だと、畑の調子も良さそうだ」

「はいっ。おかげさまで、今年の星の恵みは最高です」

 

ロンタオが、隣に立つ優しげな現地の女性と顔を見合わせ、照れくさそうに笑う。

かつてハイドラの呪いに侵され、自我を失う寸前だった彼は今、アクアとリリスの命懸けの偽装工作によって救い出されたこの星界の地で、妻を娶り、平凡だが何にも代えがたい確かな幸せを手に入れていた。

 

「アクア様や、リリス様……そしてカムイ様には、どれだけ感謝しても足りません。僕のこの命は、皆さんが繋いでくれたものですから」

 

ロンタオの瞳には、かつての怯えたような色はなく、一人の男としての静かな強さが宿っていた。

彼がここで幸せに生きているという事実こそが、僕たちが泥を被ってでも守り抜いた「未来」の、最も美しい証明だった。

 

「……気にしないで。君が幸せでいてくれることが、僕たちにとって一番の救いなんだから」

 

僕はロンタオの肩を軽く叩き、妻の女性に軽く会釈をして、星界の奥――僕たちだけのプライベートな領域へと足を踏み入れた。

 

***

 

「……ふふっ。カムイ様の後ろ姿、本当に大きくなられましたね」

 

星界の奥の神殿。柔らかな絨毯が敷かれた談話室で、紅茶を淹れながらフェリシアが目を細めた。

 

「ええ。昔のカムイ様は、私たちが少し強く抱きしめただけで、苦しそうに顔を赤くするほど小さくて、華奢だったのに……。今ではもう、見上げるほどですね」

 

フローラが、氷の魔法で冷やしたグラスをテーブルに置きながら、どこか懐かしむように、そして今の僕の体躯を艶かしく見つめるように息を吐いた。

 

「……本当に。あっという間に、立派な『王』であり、『男』になってしまったわ」

 

僕の隣に座るアクアが、僕の広く厚くなった肩にそっと頭を乗せ、その金色の瞳で僕を見つめ上げてくる。

 

暗夜と白夜の争いが始まる前から、僕を知る彼女たち。

リリスもまた、少し離れた席から、淹れたての紅茶の香りを楽しみながら、静かな微笑みを浮かべて僕を見つめていた。

 

「みんな、大げさだよ。……でも、君たちがずっと支えてくれたから、僕はここまで成長できたんだ」

 

僕は、自身の大きく、分厚くなった手を見つめた。

かつては、夜刀神の重さにすら振り回されそうになっていた小さな体。しかし今、透魔王としての途方もない重責と歳月が、僕の骨格を逞しく作り変え、背を高くし、一人の成熟した「雄」としての威厳を完全に備えさせていた。

 

「……あら? ずいぶんと水入らずで楽しそうじゃないの」

 

その時、談話室の扉が開き、むせ返るような大人の香水と、騒がしくも心地よい熱気が雪崩れ込んできた。

 

カミラ、ヒノカ、サクラ、エリーゼ、ルーナ、そしてユウギリたちだ。

彼女たちの背後には、星界の広場で元気に駆け回る、僕と彼女たちの間に生まれた子供たちの賑やかな声が遠く聞こえている。

 

「……私の可愛いカムイ。お仕事の疲れは、お姉ちゃんのお乳の奥でたっぷりと癒やしてあげるって言ったでしょう?」

 

カミラが、いつものように妖艶な笑みを浮かべ、圧倒的な双丘の暴力で僕の後頭部を包み込もうと、背後から深く腕を回してきた。

 

「カムイ! カミラになど甘やされるな! お前の熱を上げるのは私だッ!」

ヒノカもまた、正面から僕の首に腕を絡め、自身の引き締まった熱い胸へと僕の顔を引きずり込もうとする。

 

かつての僕なら。

彼女たちのこの理不尽なまでの情念と、女としての圧倒的な質量の差に為す術もなく押し潰され、息を詰まらせてドロドロに溶かされるしかなかっただろう。

 

だが、今は違う。

 

「……わっ……!?」

「あっ……!」

 

僕の顔を胸に埋没させようとしたカミラ姉さんの細い腰を、僕は太く逞しくなった右腕で、いとも容易く『抱き留め』、逆に僕の膝の上へと強引に引き寄せた。

同時に、正面から組み付こうとしたヒノカお姉様の背中を左手で包み込み、彼女の体を僕の広い胸板の中へと、すっぽりと閉じ込めるように抱きすくめたのだ。

 

「……いつもありがとう、二人とも。でも、今日は僕から君たちを癒やさせてよ」

 

僕の、低く響く大人の男の声が、至近距離で彼女たちの鼓膜を震わせる。

僕の分厚い胸板の熱と、彼女たちを完全に制圧できるだけの雄としての絶対的な腕力。

かつては彼女たちが僕を包み込んでいたはずが、今や圧倒的な体格差によって、彼女たちの方が僕という巨大な熱源に『捕食』されるように包み込まれていた。

 

「……あ、ぁっ……カムイ、あなた……っ」

 

カミラの妖艶な余裕が、一瞬にして弾け飛んだ。僕の大きな手が彼女の背筋をゆっくりとなぞると、彼女は力なく僕の胸にすがりつき、顔を真っ赤にして熱い吐息を漏らした。

 

「……ば、馬鹿者……みんなの前で、そんな、強く抱きしめられたら……力が入らなく、なるだろう……っ」

武人としての誇りを持つヒノカすらも、僕の体温と包容力の前に完全に腰を砕かれ、抗うことをやめて僕の肩に顔を埋めた。

 

「カームーイッ! あたしの場所も空けてよーっ!」

 

エリーゼがいつものように無邪気に、しかし確かな独占欲を孕んで勢いよく飛びついてくる。かつてならその勢いで押し倒されていた僕だが、今は大きく逞しくなった左腕で、彼女の体をふわりと軽々と受け止め、自身の胸へと甘やかすように抱き寄せた。

 

「えへへっ……カムイ、おっきくて、すっごくあったかい……っ」

「お、カムイ様……! わたしも、わたしも……っ!」

 

サクラも潤んだ瞳で僕の腕の隙間に飛び込んでくると、僕は空いた手で彼女たちの頭を優しく、深く撫でた。

 

「あぁ……主様のその逞しい腕に抱かれるなんて……背筋がゾクゾクしてしまいますわぁ……」

 

ユウギリが恍惚と身をよじらせ、

 

「ちょ、ちょっと! アタシの場所も空けなさいよねッ! ……カムイ、もっと強く抱きしめないと、怒るんだからッ!」

 

ルーナが僕の背中にしがみつき、僕の首筋に熱い顔を押し付けてきた。

 

嫉妬と独占欲に狂う妻たちの重すぎる愛。

僕はそれらを一つ残らず、王としての途方もない器と、成熟した男の余裕で真正面から受け止め、甘く深く抱きしめ返していた。彼女たちはもはや僕を支配するどころか、僕の絶対的な熱量に絆され、安心しきってとろけることしかできなかったのだ。

 

「……相変わらず、すごい光景ね」

 

その光景を、アクアが自身の紅茶に口をつけながら、面白そうに微笑んで見つめている。

 

だが、甘く蕩けるような時間の中、カミラ姉さんがふと、僕の膝の上で紫色の瞳を細めた。

 

「……そういえば、カムイ。私たちが来る前……あなた、リリスと一緒にこの奥の神殿で随分と長い時間を過ごしていたわね?」

 

その一言で、談話室の空気がピリッと凍りついた。

ヒノカが顔を上げ、エリーゼとサクラが僕を見上げ、ルーナが僕の背中でピクッと反応する。

 

「……ええ。星界の管理人とはいえ、私たちでさえ滅多に入れない一番奥の聖域で……二人きりで、一体何をしていたのかしら?」

 

フローラまでが、絶対零度の嫉妬を滲ませて冷たい視線を向けてくる。

 

しかし、僕は慌てることなく、ゆっくりと視線を動かし、少し離れた席に座るリリスを見た。

 

僕の視線に気づいたリリスは、紅茶のカップをそっと置き、他の妻たちからは見えない絶妙な角度で、僕に向けて、微かに、しかし確かな意味を孕んだ『艶やかな微笑み』を返してきた。

その頬はほんのりと朱に染まり、目を伏せる仕草には、誰にも踏み込めない深淵の秘密を共有する者だけの、絶対的な優越感が漂っていた。

 

「……ふふっ」

 

僕は、リリスとだけ視線で静かな会話を交わした後、嫉妬に狂うカミラ姉さんやヒノカお姉様たちを抱きしめたまま、余裕のある、深い笑みを浮かべた。

 

「さあ、どうだろうね。……星界の奥の秘密は、星にしか分からないよ」

 

「……っ、カムイッ!誤魔化す気ね!?」

「抜け駆けなんて許さないわよッ! 今夜は絶対に寝かせないんだからッ!」

 

肯定も否定もしない。最も残酷で、最も想像力を掻き立てるその回答に、ヒロインたちは限界まで独占欲を刺激され、さらに強く、僕の体に己の存在を刻み込もうとすがりついてきた。

他の誰も介入できないアクアとの「共犯関係」と、決して真実を明かさないリリスとの「星界の聖域」。

そして、ヒロインたちのこの重く狂気的な愛情のすべてを、僕は透魔の王として、一人の男として、生涯をかけて愛し、抱きしめ続けるのだ。

 

「……いいわよ、カムイ。あなたのすべては、この私が掌握しているのだから」

アクアが僕の唇に、誰にも見えない速さで、熱く冷たい支配の口づけを落とす。

 

星界の澄み渡る空の下。

狂王の呪縛を断ち切った僕たちは、いつまでも終わることのない、永遠に続く甘く濃密な『愛の牢獄』の中で、確かに、そして極上に幸せな未来を生きていた。

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