今夜もアノレトコ☆Music night! 作:つるみ鎌太朗
画面が切り替わり、ひな壇で花のアナウンサーがニコニコ顔でクチビルを震わせた。
「いやァ〜、フレッシュながらどこかヤンデレ? っぽいのがタマンないですねぇ。これが令和なんですねぇ!
さて、次はベベル&マノンですが。
どうでした? 今のアルトコボーイズのステージ!」
質問を投げかけられたべベルが『うーん』と首をかしげる。
「そうですね。私は舞台畑の人間ですが、アイドルソングもよく聴くので楽しかったです。あんなに小さいのにスゴいと思いました。
イマドキの子は『間接ちゅー』………なんて唄うんですね。
おマセで、いいのかな? なんて」
兄の発言にマノンが首を力なく振った。
「兄さん、たぶん問題はソコじゃないと思うよ。
……まあ、いいんじゃない? 最近の子ってやりすぎなくらいがちょーどいいらしいしさ」
マノンにうなずきつつ、花アナが話題を変える。
「ベベルは退団後、ホーリーウッドへ演技の勉強のために留学されるとか」
「はい。幸運なことに、向こうから呼んでいただけて。
いつか海外に挑戦してみたかったので、団長へ相談したら二つ返事で送り出してもらえました」
「劇団アクターズの看板俳優がいなくなると寂しくなるんじゃないですか?」
ねえ、とばかりにマノンへ目配せする花アナだったがマノンの表情は晴れやかだ。
「それは確かに痛いんだけど。兄さんの夢を止めることはできないから。
それに、僕がいるから大丈夫じゃない?」
さらりと言ってのける彼女に客席から若い女性の『マノン様ァ〜ッ』という声が届く。
女性ながら長身で中性的な美貌を持つ彼女には、いわゆるガチ恋の同性ファンが多い。
花アナも『わァ〜元気なファンが多いことッ』と軽く笑った。
「海外生活は大変そうですよね? 慣れないことも多そうですが……不安はないの?」
核心をついた問いにべベルはゆっくりと応じる。
「ないと言ったらウソになりますが、夢さえあればきっと乗り越えられます。
それに……私にはキティがいるので……」
長いまつ毛を伏せ、思わせぶりな態度。
周囲が『おっ?』とどよめく中、マノンだけがあっけらかんとしていた。
「え? 兄さん、キティ連れていく気なの?
ネコは環境変化に敏感なんだ。ウチに置いていきなよ、世話しとくからさ」
ネコかい。
スタジオ全員が心の中でツッコむがベベル当人だけが慌てふためく。
「!? ……そんな、嫌だ! あの子は私の心の支えなんだ。
キティがいないと生きていけない!」
顔は青ざめ、まさにこの世の終わりを見ているかのようだ。
しかしマノンは冷徹だった。
「いや世界に挑戦しようという人が何を言っているんだよ。ガマンしなよ。
写真送ってあげるし」
「や、ヤダーッ! 毎日キティのお腹を吸わないと活力が湧かない……!
私のルーティーンが崩れてしまう!」
「そろそろスタンバイお願いしまーす」
収拾がつかなくなってきたのでスタッフのカンペを見て進行を早めた花アナ。
ベベルは失意を隠そうともせずに愛猫の名を呼びながらトボトボと歩いていった。
マノンがその背をさする。
「ネコといえば、他にペット飼ってるヒトいますかねー? プリンプリンちゃんはお猿さんを連れていますが……」
花アナの質問にヘドロが肩をすくめた。
「アタシは手のかかる部下がペットみたいなモノね」
トントンも首を横に振る。
「私もペットはいませんね。オフの日は機械を弄るのが趣味です」
ここでステージから戻ってきたボンボンが手を挙げた。
「おれ、イヌ飼いたいなァ〜ッ!」
八重歯を見せて宣言する姿に花アナが笑いかける。
「おお、ボンボンはイヌ派なんですね?」
「そう。ネコもかわいいけど、やっぱりイヌのあのコッチ見たら走ってくるトコがかわい〜ンだ」
目を細めるボンボンを見上げながらプリンプリンが発言した。
「うふふ。ボンボンとワンちゃんって似てる気がするわ」
「えー、そうかなあ?」
下段に座るプリンプリンを覗き込むボンボンに、ありもしない耳としっぽが見えるような気がしたと番組ハッシュタグに殺到したそうな。
花アナが適当に話をまとめる。
「ハイハイ、かわいいですね。Wワンちゃん見てみたいもんだ。
あ、準備ができたようで〜!
それではお聞きください。劇団アクターズで、『アクタ
パチパチパチと拍手が鳴り、画面はセットの組まれた即席舞台へ。
廃墟に颯爽と立つ長身の青年が一人。
先ほどまでネコを新天地に連れていけるかで嘆いていたべベルだが、ひとたびスイッチが入れば完璧に役に入り込んでいた。
両手を天に向けて広げ、遠くを見つめている。
♪十五年越し 幕が上がる
♪復讐の幕が
歌詞とは裏腹に落ち着いた表情。
覚悟を決めた男の静かな熱が漂ってくる。
♪懐かしき我が城 憎き仇……
顔を城のシルエットに向ければ、軍服の劇団員たちが左右から舞台へ迫り上がってくる。
軍帽を被り、烏色の髪をした男の隣に長い金髪の女。
その背後に武器を手にした軍勢。
ベベルがしっかりとした足取りで彼らへ近づくと、一斉に銃口と刀身が向けられた。
だが朗々とした唄声は少しもブレはしない。
♪なぜ争うのか 彼らは何に従うのか
♪塗り替えられたしきたりの中
♪のろしを上げよ この赤き血で
♪いつわりの法を燃やせ
べベルが駆け出した。
銃声のSEが鳴るが立ち止まることはない。
軍勢が左右に割れ、大型モニターに階段が映し出される。
その前で揺れるゴンドラに捕らわれたマノンの姿が。
凛としたアルトがスタジオへ降り注ぐ。
♪なぜここへ来たのか 貴方は何に従うのか
♪塗りつぶされた絶望の中
♪踵を返し この地を去るがいい
♪魂の炎のまま生きよ
ベベルが前へ進めば、モニターもグングンと階段をのぼるかのように景色が変わっていった。
最上段で不自然に後頭部の大きな人影が現れる。
この舞台で最大の敵として君臨するルチ将軍だ。
影絵として表現されているが、蒼い炎が揺らめくバックがおどろおどろしさを上手く見せている。
団長の唄声が響き渡った。
♪ワタシがこの国の法で ワタシがこの国そのもの
♪異論は認めぬ
♪その証拠に国民たちは 立ち上がらぬではないか〜!
圧倒的な迫力だが、真正面からカメラがベベル決意の表情を切り取る。
♪いいや 人の命の火は
♪決して絶えることはない
♪かまどの火に ろうそくの明かりに
♪受け継がれてゆく
べベルが倒れ込むようにモニタへ向かって小刀を向けると、モニタが真っ赤に染まった。
同時に銃声。
ブラックアウトする舞台。
最中にゆっくりと下ろされるゴンドラ。
暗闇でマノンが横たわるベベルをそっと抱き寄せる。
♪生命の火が消えようと
♪貴方の炎は消させない
♪私の胸 私の瞳
♪永遠に燃え盛る……
すっくと立ち上がるマノン。
ステージが白いライトに満たされた瞬間、彼女の衣装が一瞬で深緑のドレスに変わった。
客席から拍手が巻き起こる。
♪人の想い それはしるべ
♪闇の中で きらめく灯
♪見失うことなく 生きていこう
ステージ下段に移動した軍勢たちがコーラスを合わせ、クライマックスを演出。
画面がマノンのアップを捉えている間に起き上がったべベルが隣に並ぶ。
見つめ合いながら二人は唄いあげた。
♪どんなに嵐が起ころうとも
♪決意の火は消えぬ
♪我らの心 折れぬかぎり
♪この火は絶えぬ
最後に天を見上げ、抱き合いながらもう一度。
♪この火は絶えぬ……
ステージが暗転し、静寂に鐘の音が鳴り響く。
しばらくスタジオは余韻に浸っていたが、一気に拍手の渦に呑まれていった。