今夜もアノレトコ☆Music night!   作:つるみ鎌太朗

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4、トントン『New World』

 

 

 花のアナウンサーが『ヘドロ、ありがとうございましたァ〜ッ』と言うとCMに入った。

 三分後にはトントンのパフォーマンスなので、彼は劇団アクターズのセットが撤去されたステージへ急いでいる。

 慌ただしい周囲をひな壇で見守るアルトコボーイズとプリンプリン。彼らのそばでモンキーが毛づくろいしていた。

 

「ナンだかみんなスゴくって……緊張するわ!」

 

 プリンプリンが目をキラキラさせながら言うのに、オサゲが呑気な口調でお腹をさする。

 

「ぼく、出番済んだから腹へった!」

「コラコラ。まだあるでしょうが」

 

 カセイジンが眉をひそめてオサゲに言い聞かせた。

 

「あれ、そだっけ?」

「忘れてンならオサゲ抜きでやろうぜ」

 

 とぼけるオサゲに冷ややかなボンボン。

 プリンプリンがクスクスと微笑む。

 

「まったく、オサゲったら。

マイホームさんが本番前に言ってたでしょう? サプライズをするって」

「! あ、ああ〜。それね。ホントは、覚えてたんだよ?」

 

 目を泳がせながらオサゲが膝を打った。

 彼らの事務所の社長を務めるマイホームは今も現場で控えていて、チョコチョコとサインを送ってくれる。

 マネージャーのワットも隣でメガネを光らせ、子どもらを見守っていた。

 

「サプライズが成功したらネットニュースも大量に」

 

 ボンボンがカメラ前では絶対に見せない悪どい笑みを浮かべる。

 

「プリンプリンの祖国にまで届くかもしれませんね」

 

 カセイジンが言うとプリンプリンも首を縦に振った。

 彼女がアイドルを目指したのは祖国を見つけるためだった。有名になれば、父や母の目に留まるのでは……という健気な動機である。

 その想いに応えてマイホームが事務所を作り、ワットがマネージャーとして支え、ボンボンたちもアイドルグループを結成して常にそばでプリンプリンを守る体制を組んでいる。

 まさか、ここまで人気が爆発するとは誰も予想していなかったが……。

 

「みんな、いつもありがとう。

トリなんて大役、ドキドキするけど頑張るわね」

 

 プリンプリンが上段に座る三人組へ笑いかけると、みんなニコニコとうなずき返すのであった。

 

 CMが明けた。

 舞台袖のイモのアナウンサーが神妙な面持ちで視聴者へ語りかける。

 

「お次はテクノ界のプリンス、トントンによるパフォーマンスです。公開を控えた主演映画の主題歌でもある壮大な一曲。お聴きください――『New World』」

 

 シューシューという煙音のサンプリングが下段のスピーカーから吹き上がる。

 次いで電子音が何重にも重なり、一定のビートを刻む。

 暗い中、楽器演奏者たちを背にトントンが椅子に腰かけていた。

 

♪古い世界 降り立つ僕に 湧き立つ感情

♪冷めた胸に 虚しいほどに つまらぬ感傷

 

 ボソボソとした声だが音程はピッタリと合わせてある。

 ヘドロのステージの熱気を一瞬にして冷やすかのような静謐さ。淡い青の燐光が細い体の輪郭を浮かび上がらせていた。

 

♪人はいつの世も 変わらぬ舞を踊り

♪きみも例外なく 同じだと予測していた

 

 サァ、と天井より白いライトが降りてきて周囲にスモークが焚かれる。

 トントンがライトを見上げながら切なげに唄った。

 

♪New World 新世界 信じいていた僕に

♪New World きみという 未知の太陽

♪世界がはじまる……

 

 二番で少しトーンが上げ、映画を思わせる心の交流を唄いあげるトントン。

 二番のサビが終わるとおもむろに立ち上がり、用意されていたキーボードのもとへ。

 自らキーボードを叩きはじめた。

 銀の髪、白い肌、鈍色の瞳。

 クールな外見に反して情熱的なメロディ。

 カメラが真剣なまなざしと意外と骨ばった指先を追う。

 派手な演出もダンスも必要ないとばかりに。

 女性客の『ワァァ』という悲鳴があちこちであがった。

 最後の一音を叩きつけると、トントンはそのままクライマックスに突入した。

 

♪New World 新世界 信じいていた僕に

♪New World きみという 未知の太陽

♪世界がはじまる……

 

 キーボードを奏でる指に一分の狂いもなく。

 しかしながら、唄声はこれまでと違い、どこか狂おしい熱を帯びながら。

 俳優としての顔もステージに盛り込み、自身の存在のみで場を支配する。

 

♪きみという世界 New World 僕を変える……

 

 トントンが最後の一音をポーンと打ち鳴らした。

 ピッ、ピッ、ピッ……と心臓の音を知らせるような電子音がフェードアウトしていく。

 

 

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