今夜もアノレトコ☆Music night! 作:つるみ鎌太朗
花のアナウンサーが『ヘドロ、ありがとうございましたァ〜ッ』と言うとCMに入った。
三分後にはトントンのパフォーマンスなので、彼は劇団アクターズのセットが撤去されたステージへ急いでいる。
慌ただしい周囲をひな壇で見守るアルトコボーイズとプリンプリン。彼らのそばでモンキーが毛づくろいしていた。
「ナンだかみんなスゴくって……緊張するわ!」
プリンプリンが目をキラキラさせながら言うのに、オサゲが呑気な口調でお腹をさする。
「ぼく、出番済んだから腹へった!」
「コラコラ。まだあるでしょうが」
カセイジンが眉をひそめてオサゲに言い聞かせた。
「あれ、そだっけ?」
「忘れてンならオサゲ抜きでやろうぜ」
とぼけるオサゲに冷ややかなボンボン。
プリンプリンがクスクスと微笑む。
「まったく、オサゲったら。
マイホームさんが本番前に言ってたでしょう? サプライズをするって」
「! あ、ああ〜。それね。ホントは、覚えてたんだよ?」
目を泳がせながらオサゲが膝を打った。
彼らの事務所の社長を務めるマイホームは今も現場で控えていて、チョコチョコとサインを送ってくれる。
マネージャーのワットも隣でメガネを光らせ、子どもらを見守っていた。
「サプライズが成功したらネットニュースも大量に」
ボンボンがカメラ前では絶対に見せない悪どい笑みを浮かべる。
「プリンプリンの祖国にまで届くかもしれませんね」
カセイジンが言うとプリンプリンも首を縦に振った。
彼女がアイドルを目指したのは祖国を見つけるためだった。有名になれば、父や母の目に留まるのでは……という健気な動機である。
その想いに応えてマイホームが事務所を作り、ワットがマネージャーとして支え、ボンボンたちもアイドルグループを結成して常にそばでプリンプリンを守る体制を組んでいる。
まさか、ここまで人気が爆発するとは誰も予想していなかったが……。
「みんな、いつもありがとう。
トリなんて大役、ドキドキするけど頑張るわね」
プリンプリンが上段に座る三人組へ笑いかけると、みんなニコニコとうなずき返すのであった。
CMが明けた。
舞台袖のイモのアナウンサーが神妙な面持ちで視聴者へ語りかける。
「お次はテクノ界のプリンス、トントンによるパフォーマンスです。公開を控えた主演映画の主題歌でもある壮大な一曲。お聴きください――『New World』」
シューシューという煙音のサンプリングが下段のスピーカーから吹き上がる。
次いで電子音が何重にも重なり、一定のビートを刻む。
暗い中、楽器演奏者たちを背にトントンが椅子に腰かけていた。
♪古い世界 降り立つ僕に 湧き立つ感情
♪冷めた胸に 虚しいほどに つまらぬ感傷
ボソボソとした声だが音程はピッタリと合わせてある。
ヘドロのステージの熱気を一瞬にして冷やすかのような静謐さ。淡い青の燐光が細い体の輪郭を浮かび上がらせていた。
♪人はいつの世も 変わらぬ舞を踊り
♪きみも例外なく 同じだと予測していた
サァ、と天井より白いライトが降りてきて周囲にスモークが焚かれる。
トントンがライトを見上げながら切なげに唄った。
♪New World 新世界 信じいていた僕に
♪New World きみという 未知の太陽
♪世界がはじまる……
二番で少しトーンが上げ、映画を思わせる心の交流を唄いあげるトントン。
二番のサビが終わるとおもむろに立ち上がり、用意されていたキーボードのもとへ。
自らキーボードを叩きはじめた。
銀の髪、白い肌、鈍色の瞳。
クールな外見に反して情熱的なメロディ。
カメラが真剣なまなざしと意外と骨ばった指先を追う。
派手な演出もダンスも必要ないとばかりに。
女性客の『ワァァ』という悲鳴があちこちであがった。
最後の一音を叩きつけると、トントンはそのままクライマックスに突入した。
♪New World 新世界 信じいていた僕に
♪New World きみという 未知の太陽
♪世界がはじまる……
キーボードを奏でる指に一分の狂いもなく。
しかしながら、唄声はこれまでと違い、どこか狂おしい熱を帯びながら。
俳優としての顔もステージに盛り込み、自身の存在のみで場を支配する。
♪きみという世界 New World 僕を変える……
トントンが最後の一音をポーンと打ち鳴らした。
ピッ、ピッ、ピッ……と心臓の音を知らせるような電子音がフェードアウトしていく。