今夜もアノレトコ☆Music night!   作:つるみ鎌太朗

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波乱のトーク

 

 

 歓声と共にまたもCMが入り、プリンプリンのトークになった。

 トントンの主演映画のヒロインがまさに彼女なのでまとめてトークをしてしまえ、という算段である。

 花のアナウンサーがプリンプリンへにこやかに尋ねた。

 

「プリンプリンちゃんは初めての映画主演ですネ。TVドラマは引っ張りだこですが……」

「ええ。ドラマと違ってセットもSFだからか本格的で。

キンチョーしましたけど、皆さんとっても優しいからクランクアップまで頑張れました!」

 

 アイドルとして満点の回答。

 ここを崩すのが使命とばかりに花アナがけしかける。

 

「ところで……今作はラブストーリーですよねえ?

キスシーンもあるとお聞きしましたが、アレって本当にしてるんですか?」

 

 N○Kらしからぬゲスい質問。

 プリンプリンは目を丸くして言葉に詰まる。

 そんな彼女にトントンが助け舟を出してくれた。

 

「いえ。フリですよ。

昨今は俳優の意向を配慮するのが主流ですから。

それに彼女は未成年。仕事とはいえ、キスを強要するのはいけません」

 

 キッパリと事務的に答える彼に、花アナは苦々しい笑みで、

 

「ウーン。ま、そっかァ。

ごめんなさいね、プリンプリンちゃん。謝るから、セクハラで訴えないデッ」

 

 勢いよく頭を下げる。

 プリンプリンは慌てて彼へ告げた。

 

「いいえ、いいえ。もっと酷いネタも本編にありましたから、それくらいで怒ったりしません」

 

 後ろでオサゲがアホ毛をピョコンと立てる。

 

「あ〜あのボイ……」

「ハンコ! 印鑑!」

 

 危機を察したボンボンがオサゲの口を両手で覆った。

 カセイジンも眼力で『めっ!』と送っている。

 オサゲはモゴモゴしてから、

 

「ナンだい。あ〜あ、腹減ったなぁ」

 

 といつもの口癖を口にした。

 みんながホッと胸を撫で下ろすとボンボンが口を開いた。

 

「でもさァッ、プリンプリン。フリとはいえキスシーン撮ったあとボーッとしてただろ?

アレってやっぱりショックだったんだよね。好きでもない男とフリとはいえ」

 

 ギロリと下段のトントンへ目をやる。

 トントンは大きく表情は崩さなかったもののプリンプリンへ向き直った。

 

「……そうなのかい? 気づかなくて悪かった」

「あ、あぁ〜……別にあなたが悪いんじゃないわ。ビックリしちゃっただけで。

もう、ボンボンも変なコト言わないで」

 

 誠実に謝るトントンへプリンプリンは申し訳なさそうに顔を伏せる。

 軽くではあるが叱られたボンボンは唇を尖らせた。

  

「だって。マイホームさんだって直前まで『これはちょっと』って言ってたんだぜ?

芸能界ってコレだからヤダね!」

 

 業界全体を批判する彼をなだめたのは花アナ。

 

「これこれ。まーたペケ謹慎になりたいのォ? この炎上王!」

 

 呟き型SNS『ペケ』でボンボンは問題発言が多く、たびたび炎上を起こすためについた異名。

 それを持ち出されてはグッと口をつぐむしかなかった。

 ボンボンが大人しくなると花アナも話題を変えるべく軽めに話しかけた。

 

「やれやれ。そういえば、ボンボンも映画に出てたよネ。

ヒロインの幼なじみ役として……何気に映画出演は初めて? どだった?」

 

 話を振られてボンボンは映画の原作漫画をカメラに向かってバサッと開く。

 

「これ! おれの役だけど、プリンプリンの役とキスシーンあるんだよ! 主役より先に!

でも端折られちゃってェ! 何だよぉ、ココ大事な場面じゃない!?

ひいきだーッ!」

「ダメだこりゃ。ボンボンの頭はキスでいっぱいだ」

 

 花アナがさじを投げる横で、プリンプリンがわずかに頬を朱くしていた。

 トントンもコホンコホンと咳払いでお茶をにごす。

 と、そこへ客席から地を這うような声がビリビリとスタジオの空気を裂いた。

 

「黙れ、小童ども!

プリンプリンとのキスシーンだと〜? この私の目をかいかぐって、何たるハレンチ!

映画配給会社に言って、そんな映画は差し止めてやるッ!」

 

 観覧席で立ち上がり、他の観客を圧倒しているのはアラブ風商人の大男。

 ターバンを巻き、上等なマントの裏側で勲章をガチャガチャ鳴らしている。

 黒いおヒゲがチャームポイントの彼の名は……、

 

「ウワーッ、ランカーさん! 本番中なのでお静かにィ!」

 

 花アナが座るようにたしなめる。

 周囲のスタッフも止めに入るがランカーの巨体に敵う者はいない。

 バッサバッサとスタッフをなぎ払いながらランカーが叫ぶ。

 

「プリンプリン! 小さな事務所は辞めて、私の立ち上げた事務所へ来るがいい!

敏腕マネージャーをつけ、移動も高級車。ゆとりあるスケジュール管理まで至れり尽くせりだぞ!」

 

 前からランカーによる引き抜きを打診されていたが、プリンプリンはキッパリ言い放った。

 

「いいえ。わたしは、信頼できる大人に任せます。あなたの息のかかった人なんて信用できないわ!」

「そんな、プリンプリン! こんな素人集団に囲まれては、おまえの格が下がるというもの!」

 

 ボンボンたちを指さして喚くランカー。

 案の定ボンボンがムッとした顔で立ち上がる。

 

「言ってくれるじゃない。さっきからグダグダうるせえったらなんの!

おまえなんかの事務所に行ったら毎日セクハラパワハラでプリンプリンの身がもたねェよーだ!」

「やかましい! 私がそんなことをするはずがないだろう、十八になるまで蝶よ花よと大事に……」

 

 オサゲも青い顔で席を立った。

 

「成人したらどーするつもりさっ! このオジサンっ!」

「む? それは女性としての幸せを考えて……」

「勝手なマネは困りますよ、ランカーさん」

 

 メガネをクイと持ち上げ、カセイジンも青い目を光らせる。

 ランカーが三人組を鋭い目で睨めつけた。

 

「フン! 偉そうな口を聞きおって。

貴様らなど、わたしの指先ひとつで番組出禁にできることを忘れるなよ」

 

 首をはねるようなしぐさをする大男をぼんやり眺めながらオサゲが言った。

 

「すぽんさー……だっけ? ランカーが毎週プリンプリン呼んでくれてるんだよね?」

「そうそう。そんで、おれたちも事務所が同じだからねじ込んでもらえてる」

「ボンボン、あまり業界の裏事情を生放送で明かさないように。ちなみにコレはバーターというんです。

プリンプリンが哀しむから、という理由でランカーもワタシたちに手出しできないんですけどね」

 

 カセイジンの説明に客席がざわつきはじめる。

 

「怒ってるのにバーターは認めてるの? 変じゃん?」

「台本があるに決まってるよ」

 

 などという内緒話も聴こえてきた。

 花のアナウンサーが必殺CM割り込みを使うかどうかスタッフと目配せをする中、ランカーは権力をカサにまだ語りつづける。

 

「フフッ、プリンプリン。

おまえの意向を汲んで今は好きにさせてやるが、いずれわかる。

芸能界でやっていくには私の力が必要になると、な!」

 

 プリンプリンが険しい顔でランカーを見つめていると、後ろでボンボンが拳を振り上げた。

 

「ナンだい! スポンサースポンサーって、他の企業もいるんだからオマエだって好き放題できるワケねえだろ!

だいたい……結婚とか、年齢差を考えろ! このオッサン!」

 

 必死なボンボンをよそにランカーの口もとには皮肉めいた笑みが貼りついている。 

 

「成人さえすれば年齢など関係ない。

貴様もとっとと身を引け。地位も名誉もある私こそがプリンプリンにふさわしいのだ!」

 

 言いきられてカチンと来たのかボンボンが目をギュッとつむって叫んだ。 

 

「うるせー! プリンプリンはなァ、おれの恋人なのッ!

おととい来やがれ、このロリコン!」

「……!」

 

 プリンプリンが顔をあげ、ボンボンを食い入るように見る。

 

「な、何だと!?」

 

 さしものランカーものけぞるも、観客席は冷静だった。

 

「あ、いつものやつ来たわ」

「自称恋人ボンボンくんだ。今日も通常運転だな……」

 

 周りが動揺しないのでランカーも事情を察知し、すぐに大勢を立て直す。

 

「なんだ、方便か。

この調子では長らく実現しちゃおらんようだな。脈ナシと認めて諦めろ小僧」

「オマエのほうがプリンプリンから嫌われてるだろッ! 自分のコト棚にあげるな!」

「嫌われているだと? プリンプリンはまだ子どもでわからぬだけだ。いずれ私のダンディ〜な魅力に気づき……」

「いやいや、おれの二枚目ぶりのほうが……」

 

 ああでもないこうでもないと論争を繰り広げる男二人。

 泥仕合にトントンが閉口し、ヘドロが苦虫をつぶしたような顔で成り行きを見守り、ベベルとマノンが手を取り合って修羅場に震えていた。

 汗をダラダラ流す花アナがCM入りをアナウンスするより先にプリンプリンの堪忍袋の緒が切れる。

 

「……いい加減にして!

全国放送なのよ。二人して、事実無根をお茶の間に流すのは辞めてください。

わたしはまだ十五歳。結婚だの恋人だの、考えられません」

 

 とび色の目がすこし潤んでいるのも4Kカメラが捉えている。

 観覧席も視聴者も固唾を飲んで見守っていた。

 プリンプリンは震える声で続ける。

 

「それに……わたし、誰のものでもありません。

気持ちを無視して勝手なことばかり言わないで。

アイドルではあっても、賞品ではないのよ」

 

 乙女の言葉は切実だった。

 シンと鎮まるスタジオ。あのランカーでさえ眉毛を垂れ、口をぐっと閉ざしている。

 ボンボンもキャンキャンと吠えていたのが嘘のように呆然と立ち尽くしていた。

 碧の瞳で恋人と呼んだ少女を見据え、一言。

 

「ごめんよ、プリンプリン……おれ言いすぎた」

 

 ボンボンはすがるような口ぶりでプリンプリンへ問いかける。

 

「……嫌いになった……?」

 

 そろそろ放送事故の域に達していないかと観覧席もヤキモキする中、プリンプリンは彼から目をそらした。

 

「……嫌いじゃない」

 

 気まずい返事。隣のモンキーからも心配そうに見上げられる。

 やっと花のアナウンサーがカメラの前までやってきて宣言した。

 

「ア、エーット! とりあえずCM。CM入りまーすッ!

プリンプリンちゃん、スタンバイお願いねぇ〜〜ッ」

 

 無理やりトークが打ち切られ、プリンプリンはステージまで移動をはじめる。

 心配顔のワットが近寄ってきた。

 

「プリンプリンちゃん、大丈夫? これだから男はイヤァね。

我が夫、マイホームの紳士ぶりを見習ってもらいたいわ!」

 

 ボヤきながらプリンプリンのなだらかな額ににじむ汗をハンカチで拭ってくれる。

 同時進行でメイクさんが汗対策のパウダーを叩いた。

 されるがままのプリンプリンはモンキーをぎゅっと抱きしめている。

 

 そこへ細身の男性がユラリと歩み寄った。

 黒とネオインイエローのスーツ。トントンだ。

 

「プリンプリン。さっきは災難だったね」

「いいえ。騒ぎを起こしちゃって、ごめんなさい」

「きみのせいじゃないさ。スポンサーさんがこの令和の世を甘く見ているせいだよ。

SNSを見たかい? 各国がランカー商会の武器を買い控えると申し立てている」

 

 トントンがスマホ画面を見せる。

 ペケのタイムライン上で、いろんな言語でランカー商会に見切りをつけているのが訳されていた。

 

「まあ、本当だわ。TV番組ひとつで怖いわねぇ……」

「それほど、きみが魅力的なアイドルだって証明さ」

 

 これで不用意な発言を控えてくれるといいね。

 トントンが涼しい笑みを浮かべる。

 

「番組ハッシュタグを検索すると……きみへのエールがたくさんあるよ!

『プリンプリンが怒るのは当然です。同じ女性として支持します!』

『ぷりんぷりんちゃん、かわいいのにいつもハッキリしていてだいすき。コンサート行きたいなあ(五歳児です、ママ代筆♪)』

『ボンボンには悪いがオレがプリンプリンの恋人になりたい』

――おっと、コレはチョットなし」

 

 行きすぎたファンの発言をトントンの細い指先がスクロールで画面外に追いやった。

 プリンプリンは彼の慌てた物言いにクスクス笑う。

 

「ありがとう、トントン。本番前に緊張が薄れたわ」

「それならよかった。

……僕も、きみのファンだから。パフォーマンスに影響が出るのはつらい」

 

 スマホをスーツの懐にしまうトントン。

 プリンプリンは彼の気遣いに感謝しつつも、その背後へ視線を向けた。

 スタジオ外でボンボンがマイホームから説教されている。

 オサゲやカセイジンも見守る中、ボンボンはうつむいて靴裏を地面にこすりつけ、いかにも子どもっぽく拗ねていた。

 

「気になるの?」

 

 トントンが聞いてくる。

 プリンプリンはコクリとうなずいた。

 

「ボンボンはかばってくれたのに、チョット言いすぎちゃったかな、って」

「ウ〜ン。まあ、やりすぎなのは確かだからね。

アイドルで恋人発言は本来ご法度なのに毎度なあなあで済ませられるのは愛嬌か……?」

「ボンボンのファンの子が傷つかないといいのだけれど」

 

 プリンプリンが困ったように首をひねるとトントンに諭される。

 

「そんなこと気にしなくても。

いずれアイドルだって誰かと結ばれる日が来るんだ。現実を目の当たりにするのが早まるだけさ」

「ドライね」

「時代錯誤だと言っているんだ。こんな、ネットの発達した時代で夢ばかり追っていられないよ」

 

 トントンの鈍色の瞳がプリンプリンをまっすぐに見つめた。

 

「きみもそうさ。

いつか、本当に好きな相手ができたら……素直に好きだと言っていいんだ。

きみはアイドルである前に一人の人間なのだから」

 

 言われてプリンプリンはハッとした表情になる。

 彼女はトントンの言葉をゆっくりと噛み締めるようにしてから、やがて再び礼を述べた。

 

「トントン……ありがとう。そのとおりだわ。

わたし、まずはやれることをやってみる」

「その意気だ。いつも一生懸命なきみが、僕は好きなんだ。

――そろそろCMも明ける。いってらっしゃい」

 

 トントンがプリンプリンの手からモンキーを抱き上げる。

 相棒を任せ、プリンプリンはステージの中央へ躍り出た。

 眩しい後ろ姿を見送りながらトントンがモンキーへポツリと漏らす。

 

「彼女のただ一人として選ばれたのなら、きっと幸せだろうな」

 

 想いの交錯する中、花アナとイモアナが肩を並べて最後の楽曲を紹介する。

 

 

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