最強の英雄は壊れている   作:無能メンヘラ

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日常

「戦争反対!! 」

 

 怒号が空気を震わせる。

 国会議事堂の前は、人で埋めて尽くされている。彼らの顔は紅潮し、怒りに満ちている。空高く掲げられるプラカードのは『戦争をやめろ』『自衛隊は軍隊じゃない』などの文句が書かれている。

 

 声が波のように教え寄せては消えていく。

 彼らは中東の戦争に自衛隊を派遣することへの反対デモを行なっているのだ。

 だが、冷酷にも彼らの前にはフルフェイスのヘルメット、そしてライオットシールドを持った機動隊の隊員が一糸乱れぬ隊列を組んで立っている。

 このデモは国家から承認を受けていない、そのため、本来なら違法だ。警察は直ちに彼らを武力を用いて鎮圧し、拘束できる。だが、それをしない理由は別にあった。

 

 それは機動隊の後ろに立っている、カーキで迷彩柄の戦闘服を着た者たち、自衛隊の存在だ。

 

 今日、自衛隊は治安出勤の名目で国会議事堂の護衛についている。

 それは威圧のためだけではなかった。

 

 自衛隊員たちが持つ銃は()()()()()()()()()()

 安全装置は外されており、いつでも射撃が可能だ。

 

「おいなんとか言えよ! 」

 

 群衆から怒号が飛ぶ。それでも機動隊はなにも言わず、堂々と立っていた。

 バイザーから見える顔は感情のないロボットのようだ。

 

 次の瞬間、鈍い音が響く。

 

 機動隊に向けて、石が投げ込まれた。

 それを皮切りに瓶や缶などが投げ込まれていく。

 

 金属音。

 ガラスの砕ける音。

 

『敵性市民の攻撃を確認、国家安全維持法第17条に基づき、武力行使を行う』

 

 冷酷で無機質な、機械音声のような声が辺り一面にこだます。

 次の瞬間、俺は装甲車の機関銃の銃口を群衆に向けた。

 

 機関銃のグリップを強く握る。

 重い。

 

「逃げろ! 殺されるぞ!! 」

 

 群衆の誰かが叫んだ瞬間だった、俺は引き金を引いた。

 機関銃が甲高い音を立てながら火炎を吹く。

 銃弾が奏でる群衆たちの叫びの不協和音ははっきりと俺の耳に入ってくる。

 

 目の前に立っていた群衆は蹴飛ばされたドミノのように倒れていく。

 

 今、俺は非武装の市民を殺しているのだ。

 

 機関銃の引き金を引きながら、俺は実感した。

 だが、なにも感情が揺らぐことはなかった。この行為は肩についた羽虫を払う、そんな感覚に等しかった。

 

 赤い霧が舞い散り、死体の山が積み重ねられていく。

 

『射撃中止、これより機動隊が鎮圧を開始する』

 

 無線機から通信が入ると、俺はトリガーから手を離す。

 

 静かになった。

 

 違う。

 倒れる音、泣き叫ぶ声、咳き込む音。

 

 しかし、催涙弾が投げ込まれ、その中に機動隊が入って容赦なく群衆たちを拘束していく。

 

 俺はその光景をただ眺めていた。

 


 

『本日のニュースです、政府発表によると1週間前、国会議事堂を包囲していた暴徒を自衛隊が鎮圧行動を実施したことについて──』

 

 テレビの音が部屋に流れている。

 

「あらやだ、物騒ね」

 

 食卓に盛り付けられた料理を並べる母さんが呟くようにいった。

 

「……そうだね」

 

 俺は素っ気なく返す。あの機関銃の感覚が今も手に残っている。

 あのデモで撃ち殺された人間は少なくとも100人以上、そのうちの十何人かは俺の撃った弾で死んだ。

 それがどうしたというのだ、あの群衆は国家の法に反してたのだ、どちらかが悪かと聞かれれば間違いなく彼らが悪だ。

 俺は間違っていないはずだ。

 

「ダイキ、あんたも自衛官だけど……」

 

 母さんは言いかけて、やめた。

 

「……ごめん、やっぱいい」

 

「別に気にしてないよ」

 

 焼き魚の身を崩す。

 

「仕事だから」

 

 そうだ、ただの仕事だ。

 俺が生まれてすぐの頃、日本は変わったらしい。どう変わったか答えろ言われるとわからない。

 学校の教師がいうには政党が変わったからだとか、そういう理由だ。

 だが、それは俺の物心がついた頃はすでにこれだったから気にしてはいない。

 

 デモがあって、鎮圧で人が死ぬ。

 それが普通、当たり前。

 なぜ自衛官になったか?

()()()()()()()()()()()()といえば、正当な理由になるのだろうか。

 

「ご馳走様」

 

 箸をおく。

 

「あと言い忘れたけど。明日からまた駐屯地に戻る」

 

 俺の言葉に母さんの手は一瞬止まった。

 何か言いたそうにして、結局なにも言わない。

 少し、胸にちくりとくるものがあったが、すぐに切り替える。

 

「あと母さん、デモには行くなってミオに伝えといて」

 

 そう言い残すと俺は食卓を後にした。

 

 自室に戻るとポスターが目に入る。

 

『明日のヒーローは君だ! 』

 

 そこにはスコープを覗く凛々しい顔をした自衛官募集のポスターがあった。

 俺も、誰も知らなかった、そのポスターの銃口の向く先が市民だなんて。

 

 そうだ、今の自衛隊は暴力装置だ。国内でも国外でも武力行使を行う。

 なぜそうなったか?

 政治家がそう決めたからか、違う、()()()()()()()()()()()()()

 

 ベランダを出る。少しだけ、夜風に当たりたくなった。

 外からは監視用ドローンが飛び回る音が聞こえる。反政府的な集会が行われないか探すためのものだ。

 

 暗闇に包まれた街は沈黙していた。

 

「ねえ、そこの君」

 

 急に隣から明るい声が聞こえ、俺は驚いて振り返った。

 誰だ?

 

 そこには少女がいた、緑色の髪、緑色の目、おおよそ日本人とは思えなかった。

 

「誰……ですか? 」

 

 気でも触れて、幻覚でも見ているのかと思った……

 

「ふふっ、この状況で『誰ですか? 』って君狂ってるよ」

 

 少女は一泊おいてから口を開いた。

 

「私はマルレ、君はカナギ ダイキくん……であってるよね? 」

 

 なんで俺の名前を……、というかなんでベランダにいるんだ?

 

「驚いたでしょ? 今日はね、君に伝えなきゃいけないことがあって来たんだよね」

 

 マルレ、そう名乗った少女は俺に飛び乗って、耳元で囁いた。

 

「明日、東京都新宿区市ヶ谷のXXXXビルに来てね」

 

 この状況は明らかに異常だ。まずマルレは何者なんだ。

 身動きを取ろうとしてもできなかった。マルレは小さい、それなのに威圧感がある。無闇に動けば殺される本能でそう理解していた。

 マルレは俺の目の前に立つと、不気味に微笑んで言った。

 

「ダイキくん、君は……ヒーローになれるよ」

 

 夜風の中に溶けていきそうな甘い声は、冷たかった。




国家安全維持法

第一条(目的)

1 本法は、国家の安全を確保し、国民の生命、身体及び財産を保護するとともに、公共の秩序を維持することを目的とする。

2 前項の目的を達成するため、内外の脅威に対し、これを未然に防止し、又は発生した事態に迅速かつ適切に対処するために必要な措置を講ずるものとする。

3 前項にいう「脅威」とは、外国勢力による干渉、テロリズムその他これに類する行為のほか、社会の安定を著しく損なうおそれのある活動を含むものとする。

4 本法の適用に当たっては、国民の自由及び権利に配慮するものとする。ただし、国家の安全及び公共の秩序の維持が特に必要と認められる場合においては、この限りでない。




第一話読んでくださりありがとうございます!
これからダイキがどんなふうにヒーローになっていくか……楽しみにしてもらえたら嬉しいです!!
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