最強の英雄は壊れている   作:無能メンヘラ

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この物語はフィクションです。


日常

 2022年、中東某国で発生した戦争に対し、日本国政府は積極的平和主義の下、戦後史上最大となる地上戦力の派遣を行なった。

 派遣自衛官の総数は1万名を超えるとされており、現地での邦人保護を名目に武力行使が行われた。 

 結果として派遣された自衛官の30%以上が何らかの精神障害を患い、深刻な社会問題と化した。

 


 

「戦争反対!! 」

 

 怒号で空気が震える。

 国会議事堂の前は、人で埋めて尽くされている。群衆の顔は紅潮し、怒りに満ちていた。空高く掲げられるプラカードのは『戦争をやめろ』『自衛隊は軍隊じゃない』などの文句が書かれている。

 

 声が波のように教え寄せては消えていく。

 彼らはアフリカの内戦に自衛隊を派遣することへの反対デモを行なっているのだ。

 だが、冷酷にも彼らの前にはフルフェイスのヘルメット、そしてライオットシールドを持った機動隊の隊員が一糸乱れぬ隊列を組んで立っている。

 このデモは国家から承認を受けていない、そのため、本来なら違法だ。警察は直ちに彼らを武力を用いて鎮圧し、拘束できる。だが、それをしない理由は別にあった。

 

 それは機動隊の後ろに立っている、カーキで迷彩柄の戦闘服を着た者たち、自衛隊の存在だ。

 

 今日、自衛隊は治安出勤の名目で国会議事堂の護衛についている。

 それは普段のような威圧のためだけではなかった。

 

 なぜなら、自衛隊員たちが持つ銃は()()()()()()()()()()

 安全装置は外されており、いつでも射撃が可能だ。

 

 しかし、群衆の頭の中には、撃たれるという思考はなかった。

 

「おいなんとか言えよ! 」

 

 群衆から怒号が飛ぶ。それでも機動隊はなにも言わず、堂々と立っていた。

 バイザーから見える顔は感情のないロボットのようだ。

 

 次の瞬間、鈍い音が響く。

 

 機動隊に向けて、石が投げ込まれた。

 それを皮切りに瓶や缶などが投げ込まれていく。

 

 金属音。

 ガラスの砕ける音。

 

『敵性市民の攻撃を確認、国家安全維持法第17条に基づき、武力行使を行う』

 

 冷酷で無機質な、機械音声のような声が辺り一面にこだます。

 

 自衛隊員の無線に攻撃命令が通達されていく。

 


 

 命令が無線を通過した瞬間、俺は装甲車の機関銃の銃口を群衆に向けた。

 

 機関銃のグリップを強く握る。

 重い。

 

「逃げろ! 殺されるぞ‼︎」

 

 群衆の誰かが叫んだ瞬間だった、俺は引き金を引いた。

 機関銃が甲高い音を立てながら火炎を吹く。

 銃弾が奏でる群衆たちの叫びの不協和音ははっきりと俺の耳に入ってくる。

 

 目の前に立っていた群衆は蹴飛ばされたドミノのように倒れていく。

 

 今、俺は守るべき市民を殺しているのだ。

 

 白熱した機関銃の銃身の匂いが鼻につく。

 

 機関銃の引き金を引き続ける、1発、1発と弾が吐き出されるたびに、()()()()()()が脳裏をよぎった。

 心拍が高まる。手から酸素が抜けてパチパチとした感触がする。

 

 赤い霧が舞い散り、死体の山が積み重ねられていった。

 

『射撃中止、これより機動隊が鎮圧を開始する』

 

 無線機から通信が入ると、俺はトリガーから手を離す。

 

 静かになった。

 

 違う。

 倒れる音、泣き叫ぶ声、咳き込む音。

 

 しかし、催涙弾が投げ込まれ、その中に機動隊が入って容赦なく群衆たちを拘束していく。

 催涙弾の刺激臭が風に混じってこちらに流れてきていた。

 

 俺はその光景をただ眺めていた。

 


 

『本日のニュースです、政府発表によると1週間前、国会議事堂を包囲していた暴徒を自衛隊が鎮圧行動を実施したことについて──』

 

 テレビの音が部屋に流れている。

 

「物騒ね……」

 

 食卓に盛り付けられた料理を並べる母さんが呟くようにいった。

 

「……そうだね」

 

 俺は素っ気なく返す。あの機関銃の感覚が今も手に残っている。

 あのデモで撃ち殺された人間は少なくとも100人以上、そのうちの十何人かは俺の撃った弾で死んだ。

 それがどうしたというのだ、あの群衆は国家の法に反してたのだ、どちらかが悪かと聞かれれば間違いなく彼らが悪だ。

 俺は間違っていないはずだ。

 

「ダイキ、あんたも自衛官だけど……」

 

 母さんは言いかけて、やめる。

 

「……ごめん、やっぱいい」

 

「別に気にしてないよ」

 

 焼き魚の身を崩す。

 

「仕事だから」

 

 そうだ、ただの仕事だ。

 俺が生まれてすぐの頃、日本は変わったらしい。どう変わったか答えろ言われるとわからない。

 学校の教師がいうには政党が変わったからだとか、そういう理由だ。

 だが、それは俺の物心がついた頃はすでにこれだったから気にしてはいない。

 

 デモがあって、鎮圧で人が死ぬ。

 それが普通、当たり前。

 なぜ自衛官になったか?

()()()()()()()()()()()()といえば、正当な理由になるのだろうか。

 

「ご馳走様」

 

 箸を置く。

 

「あと言い忘れたけど。明日からまた駐屯地に戻る」

 

 俺の言葉に母さんの手は一瞬止まった。

 何か言いたそうにして、結局なにも言わない。

 少し、胸にちくりとくるものがあったが、すぐに切り替える。

 

「あと母さん、デモには行くなってミオに伝えといて」

 

 理不尽に家族が傷付くのは、見たくない。

 そう言い残すと俺は食卓を後にした。

 

 自室に戻るとポスターが目に入る。

 

『明日のヒーローは君だ! 』

 

 そこにはスコープを覗く凛々しい顔をした自衛官募集のポスターがあった。

 

 命をかけて市民を守る。そう言葉を聞けば聞こえはいい。

 ヒーローになれるなら、妹が幸せになるなら何でもよかった。でも、違った。

 

 俺も、誰も知らなかった、そのポスターの銃口の向く先が市民だなんて。

 

 そうだ、今の自衛隊は暴力装置だ。国内でも国外でも武力行使を行う。

 なぜそうなったか?

 政治家がそう決めたからか、違う、()()()()()()()()()()()()()

 もはや、この仕事が正しいか間違っているかなんてわからない。わかる必要もない。

 

 だから、俺には関係ない、そう言えば許されるだろうか。

 

 ベランダを出る。少しだけ、夜風に当たりたくなった。

 外からは監視用ドローンが飛び回る音が聞こえる。反政府的な集会が行われないか探すためのものだ。

 

 暗闇に包まれた街は沈黙していた。

 

「ねえ、そこの君」

 

 急に隣から明るい声が聞こえ、俺は驚いて振り返る。

 誰だ?

 

 そこには少女がいた、緑色の髪、緑色の目、おおよそ日本人とは思えなかった。

 

「誰……ですか? 」

 

 気でも触れて、幻覚でも見ているのかと思った……

 

「ふふっ、この状況で『誰ですか? 』って君狂ってるよ」

 

 少女は一泊おいてから口を開いた。

 

「私はマルレ、君はカナギ ダイキくん……であってるよね? 」

 

 なんで俺の名前を……、というかなんでベランダにいるんだ?

 

「驚いたでしょ? 今日はね、君に伝えなきゃいけないことがあって来たんだよね」

 

 マルレ、そう名乗った少女は俺に飛び乗って、耳元で囁いた。

 

「明日、東京都新宿区市ヶ谷の大東亜リサーチビルに来てね」

 

 この状況は明らかに異常だ。まずマルレは何者なんだ。

 身動きを取ろうとしてもできなかった。マルレはぱっと見少女、それなのに威圧感がある。無闇に動けば殺される、本能でそう理解していた。

 マルレは俺の目の前に立つと、不気味に微笑んで言った。

 

「ダイキくん、君は……ヒーローになれるよ」

 

 夜風の中に溶けていきそうな甘い声は、冷たかった。




第一話読んでくださりありがとうございます!
これからダイキがどんなふうにヒーローになっていくか……楽しみにしてもらえたら嬉しいです!!
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