国内最大野党、日本改革連合の党ビルの前、1人の男が大勢の民衆を前に勇猛果敢に演説をしていた。
「現政権は積極的平和主義を騙り、軍拡を正当化している! そんなこと許されてはならない‼︎」
男の名前はゲンダ、彼こそがまさに、日革連の党首だ。
ゲンダが強く握った拳を空に掲げる。彼の一声、一声は民衆たちの心を強く訴えていた。
「私たちは……もう1度、この国に本当の平和主義を取り戻さなければならないのです!」
ゲンダの目は涙で一杯になっていた。
その涙は嘘偽りなく、彼の本心だった。
民衆の中から、一つまた一つと拍手が連鎖していく。次第にそれは小さく降る雨が嵐に変わるように大きくなっていった。
ゲンダは、演説台から降りて民衆の前まで歩き出して止まる。
そして、深くお辞儀をした後、大きな声でいった。
「皆様……ありがとう」
顔を上げると、ゲンダは党ビルの中へと入っていった。
ビルには『平和主義を取り戻す』とスローガンが大きく掲げられていた。
中に入るとすぐに、壁に1人の男がもたれて立っていた。
その男は、アジア人の顔にそぐわない巨大な体躯だった。布の上からでもわかる男の肉体の完成度は異様だった。無駄に大きいわけでも、細すぎるわけでもなかった。
言うならば、戦争を行うために最適化された体だった。
「平和を謳う政党の長が敵国と協力……ずいぶん上手くできた笑い話だ」
ゲンダは男を一瞬睨む。
男は鼻でゲンダを嘲笑った。
「……こちらも好きで君らと協力しているわけではない」
「それはお互い様だろう?」
男は胸元から垂れたドックタグを差し込む光で反射させる。
ローウェン、そう名前の刻まれたドックタグは鈍く光った。
「戦争を防ぐ気はあるのか?」
ゲンダの問いただす声は怒りに満ちていた。
視線はローウェンの腰元に向く、そこには拳銃が装填されたホルスターが装備されていた。
ローウェンは少し言葉を選ぶように顎を手でなぞった後、答える。
「そのために、ここにいる」
その目は真剣だった。
「じゃあ、なぜ武器を持つ」
「武器がなければ防げないからだ」
それは恐ろしく現実を反映した答えだった。
だが、ゲンダは納得できない。
「それは誰の理屈だ」
「世界の理屈さ、戦争のな」
ローウェンはどこか遠い地を見る目で話す。
「俺はシリアにいたんだ。そこは地獄だった、話し合いもクソもない。生き残った奴だけが正解になる」
彼の目はゆっくりと下を向いた後、ゲンダの目を真っ直ぐと通過した。
ゲンダもローウェンもわかっていた。自分の理屈が正しくもあり、間違っていることも。
「だから、あんたみたいな理想論でしか物事を考えられない奴を見ると反吐が出る」
深く呼吸をした。
「だが、嫌いじゃない」
2人の進む道は違う。しかし、その道の先にあるのは
「みんな集まったー?」
大東亜リサーチのビルの一区画、モニターの前にマルレが立っていた。
隣に座るタカハシは、机の上に出された書類を手に取り、それをペラペラとめくりながら読んでいた。
任務だ、それもおそらく重要な。
部屋の中には俺たちの3人以外にも、顔をバラクラバで隠した者が数人。
「今回の任務はね、じゃじゃん」
モニターには1人の男が映し出された。
ニュースやSNSで見る、知っている顔だった。
ゲンダ、対話外交、戦争反対、軍縮を主張し続け、政界屈指の平和主義者と評される男。
とても殺されるような人間とは──俺には思えなかった。
「みんなも知っていると思うけど、彼の名前はゲンダ マサヨシ。国内最大野党の日革連の党首」
マルレは一度、手を叩くと、笑みを浮かべながら行った。
「君たちにはゲンダを殺して欲しいんだよね」
モニターには日革連のデータが出される。
すべて、ニュースなどは見ないような情報だった。
「彼らは中国共産党から裏ルートで資金援助などの支援を受けてる。証拠もすでに押さえてる」
「ならなぜ、直接捜査を行わないのですか?」
タカハシがマルレに聞いた。
マルレはタカハシの言葉を理解したように頷く。
「確かに、フミアキくんの言う通り。でもね、政治っていうのは敵がいた方がやりやすいんだよ」
モニターが切り替わる。
写されたものは先ほどまでの写真と違い、異質な空気を放っていた。
破壊された車両、ドローン、銃痕がはっきりとした遺体。
紛れもない戦争の一部だった。
「彼らの背後には華龍安保ってPMCがついているみたい、だからここまで強気でいられるのかもね」
元人民解放軍兵士、多数配備の可能性あり。
マルレの声色が少し変わる。
「君たちにしてほしいことは2つ」
そういって、マルレは人差し指を上げた。
「ゲンダの殺害」
次に中指を上げる。
「それと華龍安保の介入阻止」
マルレは楽しそうに笑いながら言った。
「戦争を止めるために平和主義者を殺してきてね」