最強の英雄は壊れている   作:無能メンヘラ

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選択肢

 静寂が支配する部屋に一人女が入ってくる。

 女はマルレに問う。

 

「マルレ、本当にあんなやつで良かったのか? 」

 

「うん、むしろ彼が一番()()()に相応しいよ」

 

 スクリーンには大学の中へ走っていくダイキの姿が映っていた。

 

「私が思うに人生っていうのはマイナスから始まるんだ」

 

 マルレは呟くように言った。それは自分に対しての言葉のように思える。

 

「少なくともダイキくんは、ずっとマイナスだね、今も、そしてこれからも」

 

 そう言うとマルレは笑みを浮かべる。

 

「でもヒーローのバックストーリーは悲劇的なほうが美しい。そしてなにより、そのほうが()()()()()()()()()からね」

 


 

 大学の中は叫び声とうめき声、それと銃声で溢れていた。

 俺がついたときには、大学の中は血に塗れ、人が倒れている。

 血の匂いが溢れかえり、喉が焼けそうになる。

 

「……ミオ! 」

 

 ミオは血の水溜まりの上に横たわっている。

 

「お兄ちゃん……? どうしてここに……? 」

 

 ミオはか細い声を漏らす。

 急いでミオに駆け寄り、抱き抱える。

 

 ──まだ脈が、浅くだが呼吸もしている。

 

 助けられる。

 

 体を見ると太ももが撃ち抜かれおり、黒く染まったそこから血が吹き出ていた。

 大腿からの出血は最低でも3分以内で死に至る──時間はない。

 

「お兄ちゃんが助けてやるからな……、少し我慢しろよ」

 

 靴紐を外し、太ももに巻きつけ止血をしようとしたときだった。

 

「……向こうに……友達が隠れてる……助けて……お兄ちゃん」

 

「そんなことより、今は! 」

 

 無線から、マルレの声が聞こえる。

 

『ダイキくん、そこを進んだ講堂に生徒が取り残されている。銃撃犯もそこに向かっている』

 

 は……?

 

 もし銃撃犯が講堂に辿り着けば、より多くの人間が殺される。いますぐ向かわなければいけない。

 でも、そうすればミオは──。

 

 クソ!

 

 俺は間違わない、いつも正しい選択してきたはずだ。

 

 そして、今日も間違わない。

 

 ──正しい選択を選ぶんだ。

 

『急がないと全員死ぬよ? 』

 

 マルレの冗談めかした声が無線を通る。

 時間は1秒、また1秒と過ぎていく。

 その1秒で人が殺される、俺が見殺しにしている。

 

 俺は間違えない、間違っちゃいけない。

 

 そう言い聞かせた瞬間、最悪の答えがよぎった。

 

 ミオはほんの少しの力で俺の腕を握ろうとしたが、血の後をつけただけで滑り落ちてしまう。

 

「お兄ちゃん……お願い……」

 

『進むんだ、ダイキくん。ヒーローになりたいんだろう? 』

 

 か細い声と嘲笑う声が入り混じる。

 

 ヒーローは弱者を救う、だがその弱者に悪役は含まれない。

 本当のヒーローなら悪役すら救えるのか?

 

 違う、ヒーローの本質は弱者を選別する、その合理性にある。

 

 俺がするべきなのは、1人を見殺しにし、その他大勢を救う。

 例え、その1人が──自分の肉親だとしても……。

 

「……ごめん」

 

 俺は地面を蹴り飛ばす。

 だけど世界は止まっているかのように、ゆっくりと進んでいた。

 

 正義とは間違いを正すことではなく、間違いを正しく見せることにある。

 

 講堂のドアを蹴飛ばし、リボルバーを構えた。

 

 1+1が3になる可能性を考えない、その答えの2が間違っていたとしても正解とする、それが正義だ。

 

 リボルバーには弾丸が2発しか装填されていない。

 銃撃犯は2人、1発も外せない。

 

 選択肢すべてが正解とは限らない。

 

 俺は照準を銃撃犯の頭に合わせて、引き金を引く。

 

 選択肢すべてが不正解とは限らない。

 

 銃撃犯の頭は飛び散り、斃れる。

 

 正解がないなら、それは選択肢ではない。

 

 銃弾が俺の肩を貫く。

 

 選択肢とは自らから生まれるものだ。

 

 遅れて熱と痛みが伝わる。

 

 弱いヒーローはいない。

 

 シリンダーが回転する音が聞こえる。

 

 強いヒーローはいない。

 

 照準を2人目に合わせる。

 

 弱いならば、それはヒーローではない。

 

 引き金を引く。世界から音が消える。

 肩に衝撃が走り、銃弾が全身する。

 

 鈍い音とともに、銃撃が止んだ。

 世界は悲鳴の中、沈黙した。

 


 

 マルレはスクリーンを見ながら愉快に話し始める。

 

「人生ってさ、マイナスなことが多いんだよ。それも自分じゃなくて誰かが選んだマイナスが」

 

 クスりと笑い続ける。

 

「好きだったソシャゲがサ終した、彼女と別れたとかね? 」

 

 人をバカにしたような話し方だった。

 

「でも、それって、ソシャゲをしなければ、彼女を作らなければよかっただけじゃん? 」

 

 目からこぼれた嘲笑の涙を拭う。

 

「要は選択しなければ不幸にならないってこと」

 

 スクリーンにはニュース番組が映され、そこには少女を抱えて歩く男の姿あった。




【速報】都内大学で銃撃事件、自衛官の青年が犯人を制圧 多数の死傷者

本日午後、東京都内の法治大学において銃撃事件が発生し、学生および教職員に多数の死傷者が出た。警察および防衛省の発表によると、現場に居合わせた自衛官の青年が犯人2名を制圧し、事件は終息した。

■計画的犯行か

捜査関係者によると、犯人は同大学に在籍していた男子学生2名で、いずれも過去に学内での孤立やいじめを受けていた可能性がある。自宅からは犯行声明とみられる文書や動画が発見されており、長期間にわたり犯行を計画していたとみられている。

また、犯人らは違法に入手したとみられる軍用ライフルおよび爆発物を所持しており、学内の講堂を主な標的としていた可能性が高い。

■現場は一時騒然

事件発生直後、大学構内は銃声と悲鳴に包まれ、多くの学生が避難する事態となった。講堂付近では多数の学生が取り残されていたとみられ、被害は拡大した。

現時点での発表では、死亡者および重軽傷者は数十名にのぼる見込みで、警察は引き続き被害状況の確認を進めている。

■自衛官の青年が単独で対応

防衛省の発表によると、現場に居合わせた陸上自衛官の男性(20代)が銃撃音を聞き、単独で犯人のもとへ向かったという。

青年は拳銃を用いて犯人2名を射殺。自身も銃撃を受け負傷したものの、これ以上の被害拡大を防いだとしている。

現場にいた学生は

「あの人が来なければ、もっと多くの人が死んでいた」

と証言しており、英雄的行動として評価する声が上がっている。

■「迅速な判断が被害を抑えた」

政府関係者は今回の対応について

「極めて迅速かつ適切な判断であり、多くの命が救われた」

とコメント。今後、当該自衛官に対する表彰も検討されている。

■一方で情報の精査も

ただし、事件の全容については未だ不明な点も多く、犯人の動機や銃器の入手経路について警察が捜査を続けている。

また、SNS上では「事件の経緯に不自然な点がある」とする指摘も出ており、今後の詳細な調査が待たれる。

■専門家の見解

犯罪心理学の専門家は今回の事件について

「強い被害者意識や社会的孤立が背景にある可能性が高い。模倣犯を防ぐためにも報道の在り方が問われる」

と指摘している。
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