妙な日だと思った。念願叶って開いた俺の店。田舎に構えた店だが周りの飯屋が畳み始めて町に俺の店ただひとつとなった。そして週に3日営業だったのを増やして欲しいって言われて、増やした。
「な・・・」
「あら。」
水曜日の営業をしてからの事だった。やけに昼時も人が来ないと思ったら。急に、なんか、ファンタジー?な格好で弓を持った耳の長い女の子が入ってきた。俺はテーブル拭きに勤しんでて姿を見ず元気よくいらっしゃい!と声を掛けて絶句してしまった。
「私、ファルダニアって言うの。やってるわよね。」
「やってまぁす!!!」
それに入口の引き戸の先が俺の見慣れた町じゃない。何かやべぇことが起きてるのは確かだった。
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「はぁ。するってぇとファルダニアちゃんは異世界から来たっていうわけね。」
「そうよ。というか店長貴方気づいてなかったの?」
異世界。聞いたことがある。地獄や天国。他は剣と魔法の中世みたいな世界。パラレルワールド。そういうところに俺の店は繋がってしまったらしい。
「じゃあ今日は異世界の客が来る日なんか?というかなんで言葉が通じて・・・・・・」
「細かいことはいいじゃないの。それよりご飯屋なのよね。私が食べれるものある?私肉も魚も卵も乳も食べられないんだけど。」
「なんか・・・・・・そういう無理難題が通る前提で話してない?」
「通らないの?」
「通るけど・・・・・・」
ファルダニアさんが店の店内を見渡す。俺の店は壁掛けのメニューでファルダニアさんはなんて書いてあるか読めないようだ。言葉は通じるのに。
「えーっと多分パンはダメですなぁ。それと味噌汁も。うちはかつおだしだから・・・」
「ねこやと一緒ね。」
「ねこや?」
「ええ。ここと同じ異世界食堂よ。」
「俺と同じ状態の店がもう一軒あるってこと?たまげたなぁ。」
「それで?何が食べられる?」
「そうさなぁ。山菜そばなら。」
「さんさいそば。」
「ああ、山菜っていうのは山の菜って意味で・・・そばは蕎麦の実っていうのがあってそれで作った麺・・・パスタ?みたいな物だよそれを醤油・・・えーと。」
「あ、ショーユはわかるわ。ショーユに浸すの?」
「ああいやそうじゃなくて。醤油で作ったスープに浸すんですよ。このそばのだしは鰹出汁じゃなくてしいたけ出汁と昆布出汁なんで。」
「そう。じゃあそれお願いするわ。」
「合わなかったら言ってください。」
厨房に戻り二つの鍋を用意し片方に水、昆布、干ししいたけを入れて加熱する。沸騰直前で昆布としいたけを出して中火で一煮立ち。そしたら弱火に。そして別の鍋でも水を沸騰させて打って置いたそばを茹でる。時折優しく混ぜながら取り出す。流水で洗いぬめりを取ったらどんぶりへ。ここで弱火にしていた出汁の鍋にみりん、しょうゆを適量いれてまた少し煮る。どんぶりに移したらそばをひと掻き。そしてゼンマイ、ワラビ、なめこを刻んで整えそばにかける。これで完成。
「山菜そばお待ちぃ!!」
「へぇ!これがそば!」
「薬味に七味を少し振ると美味いですよ。」
「シチミってこれ?」
「あ、いや。赤い蓋です。」
「これね。」
「ふた振りくらいでいいですぜ。」
「ふた振り・・・・・・大丈夫そうね。じゃ・・・・・・」
くんくんとファルダニアちゃんが匂いを嗅ぐ、それで食べられるか判別してんのかな。
「うん!大丈夫そう!というか厨房に入って料理してる時から獣の匂いはしてなかったわね。」
「そうですかい。」
「じゃ食べるわね。」
「おあがりよ!!」
ファルダニアちゃんはまず蕎麦をフォークで掬った。多分箸は使えないと思ってフォークにしたけど大丈夫そう。ちゅる・・・・・・とお行儀良く口に含むとぱあぁっと顔が明るくなる。
「美味しい!そばってこういう味なのね!」
「そりゃ良かった。」
「それと山菜って初めて見るわね。どういう味なのかしら。」
「異世界じゃこういう山で菜っ葉や野菜採ったりしないんですかい?」
「するわよ?でもこういう形の物は見たこと無いしこのぬめぬめする小さなキノコとかも初めて見たわ。」
「へぇ〜」
ひょいぱくとファルダニアちゃんは山菜を口に運んだ。するともぐもぐと少し考え込みながら咀嚼し、ごくんと飲み込むとぱっと口を開いた。
「あーこれあれね。」
「あれ?」
「エルフ野菜。」
「なんですかいそれは。」
「エルフが森の奥で育てる野菜のことよ。見た目は全然違うのに味はそれに近いわ。」
「ほぉ。」
「あと全然違うのはこっちの方が断然に美味しいってことよ!!」
そう言ってファルダニアちゃんはバクバクと食べ始めた。異世界の人に初めて飯出したけど気に入ってくれてよかった。
「ふぅ。ありがと。」
「お粗末さま!!」
「お代を置いて行きたいんだけど・・・・・・」
「あー・・・・・・」
「初めて繋がったのよね。銅貨や銀貨で払っても・・・・・・」
「そうさなぁ・・・・・・あ、そうだ。」
「なにかしら。」
「さっきねこやって言ってた別な店があるだろ?そっちでの代金がいくらなのか教えてくれないか?それで推測しておくから。」
「そうね・・・・・・トーフステーキが銅貨8枚、ナットウスパが銅貨7枚・・・持ち帰り用のヤキオニギリが3つで銅貨5枚くらいだったわね・・・」
「ああーだいたい推測出来た。なら山菜そば銅貨7枚だわ。」
「そう?じゃあはい。銅貨7枚。」
「まいど!」
「じゃあ行くわね。美味しかったわ。」
そう言ってファルダニアちゃんは引き戸を開けて出て行った。やっぱり知らんところに繋がってる。こわ。
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結局、その日はファルダニアちゃんの他に3人ほど客が来た。3人とも開けた引き戸は別なところに繋がってて戦慄した。そして今日の売り上げ銅貨22枚。これどーすんの。
「ははは、はぁ・・・」
異世界。まじで異世界だった。俺の店、異世界に繋がっちゃってる。これ戻れなくなったらどうすんの。俺帰れるの。
「はぁ・・・」
そうして俺は2階の自宅件倉庫に帰って、風呂にも入らず寝た。明日の朝入ればいい。そして翌日。入口の引き戸を開けていつもの町の風景が広がってる事に安堵した。
「ねぇ店主。フタバってお店知ってる?」
「え?フタバ?知りませんね・・・」
「こないだねフタバっていうこことは別の異世界食堂に行ったのよ。サンサイソバを食べたの。」
「え?蕎麦?」
「ええ。ここと比べるのは悪いんだけどフタバもすごく美味しかったわ。」
「へぇ〜うちの他にもそういう店があるとは・・・・・・」
「でも次いつ扉が現れるかわからないの。初めてだから7日に1度とかの法則があるかもわからないし。」
「そこの店主は何か言ってました?」
「今日はスイヨウ・・・・・・とかって言ってたような・・・・・・」
「ああ。ならうちは土曜なんでうちの扉が現れた日の4日後に現れると思いますよ。」
「そうなの?何か、店主の世界の法則があるのね。」
「ええ。じゃあはい、お持ち帰りの焼きおにぎり。」
「ありがとう。じゃ、行くわね。また来るわ。」
ファルダニアとねこやの店主がしていた会話は・・・まだ他の客がいる時にされていた。図らずとも、会話を聞いていたのである。ここの客は大小差異はあるものの、食いしん坊である。美味いものが食えるという情報を聞き逃し見過ごす事など万が一にもありえないのであった。