・剣も魔法も存在しますが、あまり活躍しません。
・店主は普通のあんちゃんです。料理以外はできません。
・訪れる客は毎回変わります。ただし常連客もいます。
・寿司を食べるときは腕時計を外しましょう。
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王国の貴族、キシャリーノ=サンブルクは退屈していた。
「来る日も、来る日も私の顔色伺いのパーティ・・・もう疲れたなぁ。」
キシャリーノは公爵である。武によって公爵の地位まで上り詰めた。最高位の爵位をもらったから戦場に出ることなく贅沢三昧の楽な生活が出来ると考えていた。だがその実態は下の爵位の貴族達に揉み手で顔色伺われつまらない献上品で誤魔化される日々。命を賭けた戦場にいた方がよっぽど退屈しない日々を送る事が出来ていた。
「あーあ。一緒に将軍やってたあいつらはまだ軍にいるし。一緒に軍に残れば良かった。」
そして机に置いてある大して美味くもない菓子をひとつまみして独りごちる。若くして公爵の地位をもらうなど何も良いことがなかった。金で地位を買ったと言われる方が陰口を叩くやつを叩きのめせて楽しかったかもしれない。だがサンブルク公爵家は武勲を上げての貴族になった為人望も厚く、敵対してくる者もおらず、陰口を叩くどころか称賛の言葉をかけてくる者ばかり。他の貴族の令嬢からの婚姻の申し込みまで多く来て選り取りみどりだがまだ独身でいたい。
「はぁ・・・なんか面白いこと・・・」
その時だった。窓など空いていないにも関わらず風がぶわっと吹き込みキシャリーノは思わず顔を覆う。なんだったんだ・・・・・・と辺りを見渡すと私室の部屋の角に何やら見慣れぬ扉が現れているではないか。
「面白いこと・・・・・・出てきた!!」
キシャリーノは椅子から飛び出して引き戸を開け放つのであった。
・・・・・・・・・・
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「っらっしゃしゃい!!!!」
「いらっしゃいませー!!!」
「いらっしゃいませー!!!」
「お、おお・・・」
キシャリーノはまず、この冬に向かいつつ寒くなっている日々だというのに春のように暖かい部屋に驚いた。どうなっている?と辺りを見渡すと。椅子の無いテーブルを囲むエルフの集団や、ドワーフの二人組が騒ぐところ。そしてカウンターで美味そうな匂いを放つ何かを食っている頭に花を咲かせた集団を目にして目を輝かせた。
「お客様初めてですよね。」
「あ、ああ!!ここは!?ここはなんだ!?」
「ここは定食屋ふたば。異世界の飯屋です!」
「異世界!?飯屋!?」
「はい!このふたばの扉は7日に1度、スイヨウの日に現れて行ける異世界なんです。美味しい料理がいっぱいあって、初めてきた人はタダなんで!いっぱい食べてくださいね!!」
キシャリーノは興奮で倒れそうだった。軍にいた時も出来なかった冒険をいましている事に頭が沸騰しそうだった。
「空いてるお席にどうぞ!!!」
髪を後ろでひとつ結びにした少女に促され席に座る。そしてデカイメニューを渡されるとまたもや興奮で目眩がした。すごい、すごすぎる。なんだここは。
「フー・・・・・・フー・・・・・・」
血が登る頭でメニューを読む。いろんなメニューがあるが頭に血が登り過ぎて全然理解出来ない。
「すまない!!!」
「はーい!!!ご注文ですか?」
「異世界でないと食えない。とんでもないものを食わせてくれ!!!」
「え?えと・・・・・・ちょっと聞いてきます!!」
「頼んだぞ!!!」
キシャリーノはいつの間にか置いてあった自分のと思われる水を飲み干す。少し冷静になった。だが興奮冷めやらず震えながら待っていると店主らしき男がやってきた。
「お客さん、なんか異世界じゃないと食えないもん食いたいんだって?」
「そうだ!ここは異世界なんだろ?俺の世界じゃ絶対出てこない物を食わせてくれ!!!」
「んーと・・・・・・それじゃあ俺は専門の職人じゃないんで質は劣るんですが。江戸前寿司なんてどうでしょ。」
「!!!!それは一体なんだっ!?!?!?」
「生の魚をちょいと加工してコメに乗せた料理でさぁ。」
キシャリーノは興奮が最高潮に達した。エドマエズシ。なんなのか全く想像出来ない。そういう、そういうものを食いたい!!!と店主に力説すると店主は気圧され気味にはいよと言って引っ込んでいく。カタカタと震えながら待っていると隣に座っていたエルフの女から苦言を呈された。
「ちょっと貴方、震えないでちょうだい。こっちに揺れが伝わってくるじゃない。」
「す、すまない。異世界に、興奮してしまってな。」
「貴方その服見ると貴族なんじゃないの?貴族ならもっとドンと構えてなさいよ。」
「だっ。だが!!?エルフの女よ!!ここは異世界だぞ!?!?こんな冒険に!!!昂るなと言う方が酷ではないか?!!?」
「はいはいじゃあもう好きにしなさいよ。」
エルフの女はそっぽを向いて灰色のパスタを食べ始めてしまう。それを見てキシャリーノはまた興奮した。異世界の料理だ!!!!と。
「江戸前寿司お待ちぃ!!!」
「来たか!!!!」
そしてキシャリーノは出された料理を見て、最高潮に達した興奮が噴火した。それは生の魚だったのである。キシャリーノのいる世界では生の魚なんて決して食べない。異世界では食えていると言うことは特殊な魚なのかキシャリーノのいる世界では絶対に出来ない何かをして食っていると言うこと。
「こちらがマグロの漬け、コハダの酢締め、炙りえんがわ、アナゴ、サヨリの昆布締めです。」
「ガクガクガク」
「お客さん大丈夫?!?!」
キシャリーノは最高潮に達して噴火し、お品書きを聞いて天に達した。すると・・・
「店主・・・・・・説明感謝する。して、これはどう食えばいい?」
「手でひとつずつ持ってこの醤油に付けてください。」
「ふむ、異世界の作法だなならばそれに従おう。」
キシャリーノは逆に冷静になった・・・・・・もう完全に頭に血が登り口の中は渇いているが。まずは水をいっぱい飲み、口の中をリセットする。そしてまずマグロと呼んでいた赤いエドマエズシを手に取りショーユと呼ばれるソースに付け口に運んだ。キシャリーノは生の魚を食うという冒険に酔いしれていた為抵抗など無かった。
「!!!!!!!」
そしてキシャリーノは天に登っていた己の精神を一気に自分の体に戻した。いま自分は何を食った!?という感触と共に。
「ネットリとしていて、旨みがすこぶる多くショーユと、それとはまだ別なソースに浸してあり・・・・・・ああああああああもう!!!!!美味い!!!!」
キシャリーノは美食家というほどではないが贅沢の限りをしているので美味い物など大抵食ったと思っていた。だがエドマエズシは未知の美味であり。そのあまりの美味さに興奮が全く治まってしまうのも道理であった。
「・・・次だ。」
エドマエズシは全部二つずつある。まずはひとつずつ順番に食べてみる事にした。
「全部・・・・・・全部美味い!!!!!」
生の魚を食べている事など当に忘れ、エドマエズシに舌鼓を打つ。異世界・・・・・・来て良かった・・・・・・と考えるうちにエドマエズシは全てキシャリーノの腹に消えていた。
「店主よ。」
「うす。いかがだったでしょ。」
「大変、大変大変大変大変に!!!!美味であった・・・・・・」
「それは良かったでさぁ。」
「店主、私は王国の貴族、キシャリーノ=サンブルクである。店主が何用かで王国に来た場合は私が歓待しよう。来ることがあれば声を掛けてくれ。」
「は、はぁ・・・・・・じゃあその時はよろしくお願い致しやす。」
「うむ・・・・・・して7日に1度扉が現れるのだったな?」
「そうです。」
「次回は必ず代金とは別に報奨も用意する。期待しててくれ。」
「いや、そんな、報奨だなんて・・・・・・報奨くれるくらいなら何度も店に食いにきてくれた方が助かるんですが・・・」
「そうなのか?欲が無いと損をするぞ店主よ。」
「ははは。まぁこういう性分なんでね。またきてくださいねキシャリーノさん。」
「うむ!!!またエドマエズシを食わせて欲しい!!!では失礼する!!!」
キシャリーノは店を後にした。して腹一杯になっていたことから夢の類ではなかったと確信し、7日後次に行った時、他の料理を食うかエドマエズシを食うか悩むのであった。