・剣も魔法も存在しますが、あまり活躍しません。
・店主は普通のあんちゃんです。料理以外はできません。
・訪れる客は毎回変わります。ただし常連客もいます。
・今回はたまたまあったけどパンはベーカリーで買いましょう。
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ここはとある深い深い森の中。かつて強大な魔法の力で世界を手中に納めようとしたエルフの最後の都。森都。この森の始まりは千の年月を生きるエルフにとってもはるか昔。そしてその広さと、大樹海に住み着いた獣人、魔物、動植物が徘徊し、人間には手を出せず、入れば出られぬ『魔の森』と恐れられている。
「わ〜」
「わ〜」
だが実際はそこに住み着き、森の恩恵を受けている者からしてみれば、この森は都と呼ぶに相応しい豊かさがある。遥かに昔、旧き龍の時代より存在し続けた大樹は大地から強大な魔力を吸い上げていて、常識外れの豊かさを大地に還している。更には森に住まうエルフ達が得意の魔法で豊かさを保てる様に手を加えている有様である。
「お〜」
「お〜」
だが同時にこの豊かさは野生の暮らしを好む獣人も引き寄せていた。大樹海はエルフの都であるのと同時に東大陸最大の獣人の縄張りでもあったのだ。その森に。ふたばの引き戸はポツンと現れた。
「ねこや?」
「ねこや?」
その扉の前でくるくると観察するのはサリサとマル。獣人の仲間のリチとトトに連れられて行った、7日に1度のねこやのアップルパイを楽しみにしている幼い獣人の少女達である。彼女達は森の木の実集めの途中で木の穴で休もうとしたところこの扉を見つけたのだった。
「ねこやじゃない?へんなの。」
「ねこやちがう?」
引き戸など見た事のない2人は何やら良い匂いのする扉を開けようと叩いたり引っ掻いたりするが。よくわからない。そして木の枝で引っ掛けたところ横に動いたのを見て漸く開け方を学んだのだった。
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・・・・・・
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・・・・
・・・
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・
「らっしゃ・・・?」
「いらっしゃいま・・・せ?」
「いらっしゃいませー!!!」
「おお〜〜!!」
「おお〜〜!!」
てちてちと店内に進入したサリサとマルはねこやの店主と同じく白い服を来ている人間を店主だと推測した。店主はゆっくり近づいてきて目線を合わせて話しかけるのであった。
「おじょう・・・・・・ちゃん?合ってる?・・・・・・?」
「ここねこや?」
「ねこや?」
「違うよーここはふたば!ご飯を食べるとこだよー」
店主はこの体が毛で覆われ、服を着ていない体の半分程もある大きく長い尻尾を持つ種族は初めての種族の客だと判断した。声からして多分お嬢ちゃんだとの認識だが確信を持てなかった。しかし客は客。ねこやの客っぽくもあるが飯を食ってってもらおうと考えたが。
「ねこやじゃない?アップルパイない?」
「あっぷるぱいない?」
「あーえと・・・どうすっかな。」
「店長あれなら良いんじゃない。私たちのご飯だけど。」
「えーアーロイあれ出しちゃうのー」
「仕方ないじゃないミミ。この子たち定食はちゃんと食べられないわよ。」
「じゃあ・・・・・・すまんが。あれ出しちゃうな。アーロイちゃん達のご飯は俺が作るからさ。」
「はーい。」
「じゃ、お嬢ちゃん達。こっち来て。美味しいパン出してあげるから。」
「パン?」
「パン?なに?おいしい?」
「美味しいよーいっぱい食べて良いからね。」
獣人の子供達を座敷に案内し、足を拭いて座らせる。そしてアーロイが大皿に自分たちの昼飯にする予定だった惣菜パンを盛って持ってくる。この惣菜パンは店主が忙しい時に片手間に食べられるご飯として近所のベーカリーに注文しておいたものだ。
「おー!!いいにおい!!」
「おー!!おいしそう!!」
「はいこれ食べて良いからね。いっぱい食べてね。」
「もふ!」
「はむ!」
サリサが最初に噛り付いたのは表面がサクサクで黒いつぶつぶが混ざった中はフワフワのパン。チョコチップメロンパンだ。甘くてたまにちょっと苦い何かが口の中を駆け巡り未知の体験をする。一方マルが食べたのは固くて、されど固すぎず、中に燻製肉の入ったパン。ベーコンエピに噛り付いた。しょっぱっかったり、甘かったり。いろんな味のするパンは瞬く間に2人を虜にした。
「おいしー!!」
「おいしーよ!もっとちょうだい!」
「もっとか。ちょっと待っててくれ。アーロイちゃん。この際全部出しちゃって。」
「はーい!!」
2人にパンをあるだけ出してやった。
「こう言うことがあるのか異世界の扉は・・・・・・」
「え?なんですか?」
「俺はてっきり店に来るのは大人だと思ってた。だがよく考えてみれば普通は突然現れた扉なんか開けないよな。開けるとしたら好奇心だけで行動してる子供の方が多いはずだ。くそ、なんで今までそれに頭が行かなかったんだ・・・」
「まぁ・・・普通に考えれば怪しい扉を開けるのはよっぽどの人だけだね・・・・・・」
「一応子供向けメニューを考えよう。念の為。アーロイちゃん達も子供の対応を考えておいてくれ。」
「はい。」
「サリサ。これおいしーよ。しょっぱくてあまいの。」
「マル、これもおいしいよあまくてきのみのあじするの。」
「とりあえず。この子達を無事に返さなきゃな。」
「ですね。」
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「ぷふぅ。」
「ふにゃ〜」
サリサとマルは2人で30個ほど惣菜パンを平らげていた。膨れたお腹を撫でながら転がっている。
「お嬢ちゃん満足出来たかい?」
「おいしかった。またくるね。」
「おいしかった!これおだい。」
「え?あ、ああ・・・まいど。」
「じゃあかえるね。」
「ばいばい。」
獣人の子供達は帰っていった。そして店主の手に残った、置いて行ったお代。
「これ、どこの金貨?」
店主は今までで見たことの無い形の金貨を渡され、途方に暮れるのであった。