・剣も魔法も存在しますが、あまり活躍しません。
・店主は普通のあんちゃんです。料理以外はできません。
・訪れる客は毎回変わります。ただし常連客もいます。
・うなぎは定食屋ふたばの二軒隣のうなぎ屋揚々で店主は修行しました。
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吸血鬼ロメロは愛する伴侶ジュリエッタと共に隠れ家を転々とし、日々を過ごしていた。吸血鬼は人間の血を吸い、糧とする為に敵が多く、そう簡単に外を出歩けない。しかも太陽の光を弱点とする為に昼間は更に身動きが取れないなどの多くの制約がある。
「ジュリエッタ、夜が更けた。出かけよう。」
「はい、ロメロ。」
今日も別な隠れ家へ移る為に夜を駆ける。蝙蝠に姿を変え移動し、時には徒歩、時には狼に姿を変え、遠くの隠れ家へ移る。そして隠れ家までもう少しのところで変身に慣れていないジュリエッタが疲労し、動けなくなってしまった。同時に夜明けが来てしまいロメロも身動きが取れなくなってしまうがここは隠れ家まで徒歩で行ける距離。強行策は取れないロメロは大人しくジュリエッタを介抱するのであった。
「大丈夫かいジュリエッタ。」
「ええ・・・・・・大丈夫。ごめんなさいロメロ・・・・・・」
「もう少し休んで行こう。」
この辺りは森の奥なので敵がくる心配は無い。だが魔物が来ると厄介だ。ロメロは周囲を警戒すると共に持ってきた水をジュリエッタに分けた。
「ごく・・・・・・ふぅ。ありがとうロメロ。」
「動けそうかい?」
「ええ。でも・・・・・・」
「そうだな・・・・・・日が高すぎる。」
洞窟の外を燦々と照らす忌々しい光に苛立ちながら。薄暗い洞窟の中を歩く。ロメロは気にしていなかったがこの洞窟は思ったより深く、そして長い。ジュリエッタが興味を持ち、奥に歩いていってしまう。
「ジュリエッタ、奥まで行くと危ない。」
「大丈夫よロメロ!」
ジュリエッタに着いていって奥に進むロメロ。そしてたどり着いたのは、光り輝く鉱石に満たされた地底湖だった。
「まぁ!見てロメロ!とっても綺麗!」
「ああ、すごいな。隠れ家の近くにこんなところがあったとは。」
地底湖のほとりを歩くジュリエッタは急に足を止めた。ロメロが訝しげにジュリエッタを覗くとジュリエッタは一点を見つめたまま静止している。
「ジュリエッタ?」
「ロメロ・・・・・・あれ、なにかしら。」
「?」
ジュリエッタが見つめる先・・・・・・それは看板と引き戸の扉があった。
「・・・・・・あれは、おそらくねこやと同じ扉だ。」
「まぁ!ではチョコレートパフェさんが言っていた、もうひとつの異世界食堂かしら!」
「おそらくね。ちょうどいいあそこに入って夜まで居させてもらおうか。」
「ええ!そうしましょう!!」
ジュリエッタとロメロは、2人で引き戸に手をかけるのであった。
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・・・・・・
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・・・・
・・・
・・
・
「らしゃっしゃしゃせい!!!」
「いらっしゃいませー!!!」
「いらっしゃいませ!!!」
「・・・・・・いらっしゃいませ。」
ジュリエッタとロメロはやはり、と感嘆した。ねこやと同じ、痛くない明るい光。そしてもっと不思議なのが窓から日光が差し込んでいるにも関わらずそれが痛くなかったということ。
「ふむ・・・・・・日が差しているのに、無事だ。異世界だと光も違うのか?」
「ええ、不思議ね。」
「・・・・・・お客様、カウンターと、お座敷、どちらになさいますか。」
「ザシキ?」
ロメロは手を差し伸べられた方を見る。奥の椅子の無いテーブル席は完全に日が入ってない。こちらの方が安全だなと結論付けた。
「ザシキで頼む。」
「・・・・・・かしこまりました、こちらへどうぞ。」
椅子の無いテーブル席というのは初めてだったロメロとジュリエッタ。意外と床に座ってるのに座り心地が良かった。このふわっとするクッションだろうかと考えるも後にして注文を決めようとした。
「ジュリエッタ、ここは初めてのねこやと同じにしようと思うのだが。」
「そうね。そうしましょう。」
「メニューです!!!」
「ああすまない。メニューはいらない。この店で一番高い料理を頼む。」
「一番高い料理・・・・・・するとうな重になりますが。」
「うなじゅう・・・・・・?ってなんですか?」
「うな重はうなぎ・・・・・・イースルを開いてソースを付けてじっくり焼いて、ご飯に乗せた料理です!!」
「イースルだと!?」
ロメロは驚いた。イースル、それは川の厄介者として有名な魚だ。漁をすると高確率で大量に網に入り込み、ぬるぬるしてて排除し辛く、食べようと思うと血に毒がある。しかも味も良くなく、食べる者は余程の傾奇者と言われる始末。そのイースルが一番高い料理・・・・・・まぁしかし、驚きはした。だがこれはねこやで通った道だった。
「ロメロ!イースルがどんな料理になるのかしら!」
「そうだな・・・・・・想像は出来ないが、ここはねこやと同じ異世界食堂だ。素晴らしく美味い物になるに違いない。」
「どうしましょうお客様。」
「ああ、すまない。そのうなじゅうをふたつ頼む。あとガレオを使ってたら抜いて欲しい。」
「はーい!!!少々お待ちください!!!うな重ふたつーーーーーーー!!!!!」
給仕が元気に注文を受け取ったのを見守った2人は店の観察をする事にした。
「・・・・・・ねぇロメロ、これは何かしら。」
「本・・・か?」
ジュリエッタが手にとったのは漫画週刊誌。ジュリエッタにとって読める物ではないがペラリペラリと捲るとジュリエッタは笑顔で目を見開くのだった。
「これ、絵の本よロメロ。すごいこれだけの絵を1ページに描くなんて・・・」
「どれどれ・・・・・・字は読めないが、この剣を持った少年の戦いの日々を描いているのか?」
ペラリペラリ。ジュリエッタは未知の本に興味津々であった。ロメロもそれに付き合い眺めていく。
「あ!ロメロ!絵が変わったわ・・・・・・つまりこの本は、複数の作者が描いている本なの・・・・・・?」
「ものすごく贅沢な本だ。絵ばかりなのが気になるが一体どういう本なのだろう。」
ジュリエッタは次々と本を手に取り眺めて行く。読めなくても、躍動感のある絵はそれだけで芸術で、楽しいものだった。
「ふぅ・・・・・・」
「お待ちどぉ!!!うな重でーーーーーーす!!!!」
「わぁ!」
「おお。」
ソースで光り輝き箱からはみ出すうなぎ。その香りは顔を殴られたかのように暴力的に強く香ってくる。
「おお・・・・・・これがイースル?ものすごく良い香りだ・・・・・・」
「ロメロ!!食べましょう!!」
「ああ!」
ねこやでカツ丼を愛する魔族に聞いたことがある。コメと一緒に口に入れる料理があると。おそらくこのうな重もカツ丼と同じ類の物だろうと推測したロメロとジュリエッタ。フォークでうなぎの身をほぐし、下のコメと一緒に掬い取り、口に運ぶ。その、瞬間。まるで口の中で旨みが炸裂魔法を発動させたかのような感覚。旨みと甘み、そして謎のスパイスの辛味。絶妙なバランスで彩られた味の暴力が2人の口の中を蹂躙する。
「はぁっ!?はぁ・・・はぁ・・・・・・」
「はふ・・・はぁっ・・・・・・!?」
生まれて初めて味わう味の暴力に2人は息を切らせていた。
「こ、これがイースル!?何をどうしたらあの雑魚がこんな味に!?」
「す、すごいわロメロ!!これとても美味しくて、すごくてふわぁぁぁぁぁろめろぉぉぉぉぉぉ。」
2人の頭の中は大混乱だった。美味くもない雑魚が、異世界に渡るだけでこれほどまでの絶品になるのかと。これだけの美味さになるなら川からイースルがいなくなるまで獲りまくるに決まっている。それが無いのは単にロメロたちの世界でイースルをうな重に出来る料理人がいないことだ。ロメロはその爆発的で複雑な味に唸っていてふとジュリエッタを見た。
「はぐ!はぐはぐ!」
「じゅ、ジュリエッタ、お行儀が悪いよ・・・・・・」
ジュリエッタは器を持ち上げフォークで口の中にうな重を掻き込むという淑女にあるまじき食い方をしていた苦言を呈したものの止まる様子はない。
「ふぅ!」
「ジュリエッタ・・・・・・」
「あら?ロメロ?食べてないの?わたし食べても良い?」
「だ、ダメだ!!これは僕のだ!!!」
いつにも増して食い意地の張ってる伴侶に呆れたがこれを奪われるわけにはいかない。そしてロメロもお行儀悪くうな重を掻き込むのであった。
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「お客さんどうでしたうな重。」
「店主か。まさしく絶品だったよ。」
「とても美味しかったですわ店主さん。」
「そうですかい!!!いや実はうちで一番自信がある料理がうな重でしてね?なかなか出ないので寂しく思ってたところなんですよ。」
「そうなのか!これはまた是非食べにこないといけないな。」
「ええ!ロメロ!また来ましょう!」
「ああ、じゃあ店主、勘定を頼む。」
「ああ、大丈夫ですよ。うちは初めての人はタダなんですよ。」
「そうなのか?これだけ美味い料理を食べてタダで帰るのは気が引けるな・・・・・・」
「そう思うんなら!また来て食べてくだせぇ。」
「わかった。ありがとう店主。それとなんだが・・・・・・」
「なんでしょ。」
「その、僕達は吸血鬼という種族でね・・・・・・日が沈むまで動けないから日没まで店にいさせてもらうかは可能かな・・・・・・?」
「なるほど!!!全然気にしないでくだせぇ!!!晩飯も食いたくなったら注文してくださっていいんで!!タダなのは今日1日なんでね!!!」
「い、いや、流石にそれは悪い・・・・・・」
判明したふたば店主得意料理のうな重。ロメロとジュリエッタはうなぎ料理の鬼リピーターになるのであった。