・剣も魔法も存在しますが、あまり活躍しません。
・店主は普通のあんちゃんです。料理以外はできません。
・訪れる客は毎回変わります。ただし常連客もいます。
・熱い料理はよく冷ましてお召し上がりください
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ある日の異世界営業日。キシャリーノさん一家+1がやってきて食事をしていったのだがなぜか残っていた。キシャリーノさんは子供たちにアイスを食べさせながら昼営業が終わるまで残っていて人が完全に途絶えた頃に俺に切り出してきた。
「店主よ。今日の食事も大変美味であった。感謝するぞ。」
「うす。で、どうしたんです?今日はお客さんも一緒のようですけど。」
「まぁなんだ……こいつは。我が家の料理人なのだ。」
「へぇ。」
キシャリーノさんの家の料理人はバルテュスと名乗って挨拶してくれた。
「店主よ。それで、だな……どこから漏れたかわからんが私がこの世のものではない美食を味わっていると噂がながれてしまってな。」
「なるほど。」
「まぁここのことだが。何故漏れたかはわからない。だが嘘を吐くと後で非常に困る。だからウチの料理人のせいにしてのらりくらりと躱してきたのだが……」
「だが?」
「ついに、断れないところから美食を味わいたいと言われてしまってな……」
「はぁ。それで。」
「ウチの料理人に、料理を教えてやってくれないか。」
「……うーん。」
「頼む。報酬は望む物を用意する。」
「いや……キシャリーノさん。無理だってわかってませんか?」
「やはりか……」
「ええ。そちらのバルテュスさんだってプライドがあるでしょうから自分より料理の腕が劣る者に教えは乞いたくないでしょう。」
「……どういうことだ?」
「店主さんはこれだけの料理を作れるのに、俺より腕が劣る……?」
「キシャリーノさんや、うちに来るお客さんは盛大に勘違いしてるんですよ。俺が神の腕前を持っていると。」
「事実そうではないか。何か違うのか?」
俺は一旦厨房に戻り今すぐ使うものではない仕事道具を持ってきてバルテュスさんの前にだした
「美しい……見たことない道具もあるけど。包丁でさえこれほどの……いや、なるほど。」
「バルテュス?何がなるほどなのだ?」
「店主さんが言いたいことがわかりましたキシャリーノ様。」
「バルテュスさんは流石ですね。あなたは俺と違う間違いなく真の1流の料理人です。」
「どういうことなのだ……」
「キシャリーノ様。この道具は美しいですが、ある物が足りないんです。」
「あるもの?」
「はい。それは癖です。」
「癖?」
「その通り。」
そして今一番使っている包丁を見せて、これが一番の相棒だとバルテュスさんに確認させる。
「なるほど、わかりました。」
「でしょう。」
キシャリーノさんは頭に?を浮かべており何もわかっていない様子だった。
「店主さん、あなた。学ぶことは学んだのだと思うのですが師匠がいないんじゃないですか?」
「その通りです。俺には料理人の師匠がいない。」
「バカな!!師匠も無しにこれほどの料理をだと!??!?」
「一応修行した店はあるんですが、うなぎ……イースルのさばきと串うち、焼きの修行だけです。しかも5年だけ。」
「なる、ほど……」
「店主よ、それは本当の話なのか……?」
「ほんとですよ。」
「で、では!!なぜこの美味な料理が作れる!?!?明らかに修行してない者の味ではない!!!」
「えーとまぁ。俺の世界では調理師学校というものがありましてね?そこで勉強して、免許を取るだけで料理人は名乗れるんですよ。」
「その、ガッコウとやらで学ぶだけで美味な料理が作れると……?」
「美味というかはさておき安全な料理は作れます。」
「お、おどろいた。」
「キシャリーノ様。おそらく店主さんは食材の良さと厨房の良さだけで美味な料理を作っているのです。」
「ば、バルテュス、では店主でなくともこの料理は食べられるというのか……?」
「恐らくそうです。」
キシャリーノさんは驚きを隠せず真っ白になってしまいそうだった。まぁでも俺の料理って量産型の勉強すれば簡単に作れて食える味だしな。
「……めん。」
「キシャリーノ様?」
「認めん!!!」
「うお。」
「キシャリーノ様!!」
「ここの味が誰にでも作れるのだとしても!!!店主が魂を込め私達に出してくれた料理に違いはない!!それを誰が作っても変わらない味だなどという侮辱は例え作った店主だろうと断じて認めん!!!」
「キシャリーノさん……」
「店主よ、誇り給え。貴様が作った料理は確かに我々も感動させた奇跡の味だ。それは確かに貴様の、店主だけの味なのだ。」
「へへ……ありがとうございます。」
ちょっとしんみりしてしまったが切り替えよう。何の話だっけ。
「そうそう断れない相手からの注文でしたよね。」
「うむ。どうすべきか……」
「料理人の腕も急に上げられないですしなぁ。」
三人でうんうん唸っていると。漫画を眺めていたライルちゃんがてててっとやってきた。
「パパ。アイスもう一個食べて良い?」
「む、いいぞ。店主よアイスをライルとミイルにもらえないだろうか。」
「いいですよ。でもこれ三つ目なんでこれで勘弁してくださいね。」
「うむ。」
ライルちゃんとミイルちゃんがアイスの冷蔵庫に向かったのを見てバルテュスさんがふと何かひらめいたようだった。
「そうだ……」
「?」
「どうしたバルテュス。」
「ここに連れてきちゃえばいいんですよ。」
「あ、そうか。」
「いや、それは、うむ、むむぅ。」
キシャリーノさんがうむうむ唸るが伸びたり縮んだりして悩む。ちょっと面白かった。
「出来る……か。」
「何か決心がついたようですね。」
「うむ……思えば帝国の皇女が来ていたから出来るだろう……店主。こんど連れてくるから身分を突っつくなどしない配慮を頼む。」
「そんなことしませんよ。うちのルールを守って注文してくれたらその時からウチの客です。」
「そうか……わかった。」
そうしてキシャリーノさんたちは帰っていった。誰を連れてくるんだろうな断れない相手つってたから王族とかか?キシャリーノさん公爵だし。
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それから2営業日ほどしただろうか。キシャリーノさんは現れずお小遣いを持った子供たちだけが来てそのあとバルテュスさんだけが当日の注文をしに来た。バルテュスさんから話を聞くところやっぱり王族……王位を退いた人らしい。まあでもうちは神様来てるんで。
「店主よ。待たせたな。」
「うす。大丈夫っすか。」
「まぁな……まぁでもこの店に来たら王族ではなく、私の従祖伯父だと考えさせるようにしたから……それに頭の固いお方でもない。多分大丈夫。」
「まぁわかりました。こちらとしては飯を出すだけっす。」
「助かる……」
キシャリーノさんが入口の戸を開け声を掛けると意外にもシャンとしたじいさんが入ってきた。従者らしき壮年の男性を添えて。
「ここかキシャリーノの秘密の厨房は。」
「そうです。陛下、こちらの席に。」
「ふむ、椅子が無い……なるほど。これが異世界の作法か。実に楽しみだ。」
恭しくじいさんを案内するキシャリーノさんを見て俺も準備する。今日のメニューはこれだ。
「してキシャリーノ、ここで食うておるのが生の魚だとは本当か?」
「真です陛下。ここでは魚を生で召し上がることが可能です。」
「それが本当に美食か?悪食と言う方が正しいのではないか?」
「間違いなく美食です。ここで生の魚を食べてしまったら、何度向こうでも魚を生で食べようかと思ったことか。」
「そうか……」
「陛下にも私が食べている魚とは違いますが生の魚を召し上がっていただこうかと……」
「……わかった。元はと言えば私が美食を分け与えよと言ったのだからな。」
「お待たせしましたァ!!!海苔巻き定食です!!!!」
「ほう。私はバイガスールという。店主と見受けるが……これはどういう料理だ?」
「こちらは魚や、卵、野菜をコメという穀物で包み、海苔と呼ばれる海藻で巻いたものです。こちらが熱いお茶。そして同じく海苔の味噌汁です。」
「ふむふむ……どれが生の魚だ?」
「こちらの赤いのがマグロ、鉄火巻きです。そしてこちらのオレンジのが鮭、サーモンロールです。この二つが生の魚になります。」
「あとの三つも頼む。」
「はい。こちらがとんかつ。豚の肉をパンくずの衣をつけて揚げたものです。そしてこちらはうなぎのかば焼き、イースルにソースを付けてやいたものです。最後がツナマヨ。先ほどのマグロを油漬けにマヨネーズというソースを和えて巻いたものです。」
「そうか。どれも食べたことがないものだな。」
「手で持って召し上がっても良いですが嫌ならばフォークをお使いください。」
「いや大丈夫だ。キシャリーノも手で持っているようだしな。」
「何かお申しつけがあればいつでもお声がけください。」
「うむ。」
じいさんたちはキシャリーノさんに任せよう。俺は念のためおかわりの用意だ。
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「キシャリーノよ。まずは生の魚だ。これだな?」
「そうです陛下。こちらのショーユというソースに付けて召し上がってください。」
バイガスールは手で鉄火巻きを持ち醤油に一度付けると迷わず口に運ぶ。キシャリーノと従者は固唾を飲んで見守り、バイガスールは満面の笑みを浮かべた。
「美味い……!!これは間違いなく美食だ……!!」
ほっと胸を撫でおろしたのも束の間にバイガスールはサーモンロールに手を伸ばす。こんどは醤油をたっぷりと付けて口の中に放り込む。
「素晴らしい……サケ、サーモン?といったかな?なめらかな油の甘さとねっとりした身の旨味が口の中にひろがる。人とは真に美味いものを食した時は月並みな言葉しか出てこんとは……」
「陛下、こちらのツナマヨも珍味でございますよ。」
「そうか!アインズも味わっておるか?これほどの美食、ここでしか味わえんぞ。」
アインズと呼ばれた従者もその強面からは想像出来ないほど満面の笑みであった。
「キシャリーノよ……何故もっと早く報告しなかった。私は老い先短いのだぞ。」
「申し訳ありません陛下……しかし異世界の扉が出ましたといって陛下をどういうお考えになると思いますか?」
「キシャリーノに公爵の位は早すぎたと疑うだろうな。」
「でしょう?」
「しかしこれほどの美食、生きているうちは毎日味わいたいものだ。」
「陛下。この店は7日に1度、スイヨウの日にしか現れないのです。」
「そうなのか……?慎重に日付を調整していたのはそのせいか。」
「はい。もしよろしければ陛下も我が家の扉を一緒に使えればと思いますが……」
「良いのか。であれば7日に1度必ず来るぞ。」
「構いません。この扉はスイヨウならばずっと存在し、何度も使うことが出来ますゆえ……」
「なんと……」
「ですが陛下。事前にお伝えした、ルールは必ず守られますようお願いします。」
「うむ。暴れず、強請らず、強張らずだな。」
「はい。それさえ守れば客でいられます。」
「わかったキシャリーノ。それとだ私の指示で屋敷を守らせよう。娘もおるようだしな。」
「ありがとうございます。」
こうしてキシャリーノ一行は海苔巻きを堪能し帰っていった。そして次の営業日からライルとミイルを孫のように連れて来店するバイガスールが現れるのであった。