・剣も魔法も存在しますが、あまり活躍しません。
・店主は普通のあんちゃんです。料理以外はできません。
・訪れる客は毎回変わります。ただし常連客もいます。
・早朝からやってますので遠慮無くご来店ください。
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ある日の異世界営業日。早朝。俺は最近になって早朝の時間に来るようになったお客の料理を用意し始めた。他の日の営業を調整することで異世界営業日の仕込みを前日までに完全に出来る様になったのでアーロイちゃん達がまだ出勤してこない、おデジも起きてこない時間に店を開けるようになった。
「やってるかい。」
「いらっしゃっせ!!バルメデウスさん!!」
この簡素な金細工を施された細身の鎧を身に纏ったバルメデウスさん。本人曰く東大陸では結構有名な冒険者だったなんだそうで。今は冒険者を引退して街の衛兵の教育担当の仕事をしているそうな。俺はそういうのよく知らんがおちおち飯も食えなくなってしまったらしく初めて来た時は長い金髪を振り乱しながら入ってきて緊急避難の客かと身構えたほどだった。
「ふぅ・・・・・・すまないねいつもこんな朝早く。」
「いえいえ。ちゃんとやってる時間なんで構いませんよ。」
「そうか・・・・・・じゃあいつものを頼む。」
「はいよ。」
バルメデウスさんのいつものは肉吸い定食。白だしで作るしょうゆ味の肉吸いは牛のバラ肉と卵、豆腐で朝からでもいける美味しい定食だ。朝定食はあるがこれを見つけたバルメデウスは大層気に入ったらしい。
「お待ち。肉吸い定食です。」
「おお・・・・・・これこれ!」
いつのまにか上半身の鎧を外して肌着だけになり大きな胸を放りだしているのを見ないようにしながら俺は自分達の朝飯の用意をする。もうすぐおデジが起きてくるしアーロイちゃん達も来るしな。
「ふー・・・・・・ふー・・・・・・ん。美味しい・・・・・・毎度思うがこれはほんとに牛の肉なのか・・・・・・?」
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肉吸い。大阪で有名な肉のお吸い物のことであるが、異世界ではそんなことどうでも良い。バルメデウスが感じていたのは極上の美味しさである。謎のスープ、牛だと信じられない肉、不思議な白いトーフ、半生の卵。バルメデウスはこの未知の美味さを連日の夜勤の疲れを癒やす為に享受するのであった。
「ふふふ・・・・・・」
牛肉を匙で掬い、口へ放り込む。濃厚な赤身の肉の旨味が口の中で暴れ回り、飲み込むのが惜しくなる。
「ふー・・・・・・ふー・・・・・・あちち・・・・・・」
熱々の豆腐を頬張るとするりと喉元を通って胃に落ちていく。夜勤で冷えた身体が暖まり涙が滲み出てきそうである。
「ずず・・・・・・ん・・・・・・」
そしてこちらのものとは比べものにならない美味しさのスープ。これをこちらで出したら下手すれば金貨は取れるなと独りごちた。
「はふはふ。」
「どうすかバルメデウスさん、おかわりもありますよ。」
「ん、待ってくれ。もう少し堪能してから・・・・・・」
「そりゃ失礼しました。ごゆっくり。」
女の身でありながらも衛兵の教官の職に就いたが冒険者だった頃の名声のおかげで舐められることはなかった。だがどうしても男より強いこととから男女など詰られ、名前も女らしくないことから男と間違われることもしばしば。そういうやつは全員拳で黙らせて来たから良しとしているがそれももう疲れ果てた。バルメデウスは疲れ果てた状態でこのふたばの扉を開けることになり、その料理の虜になるのはもう時間の問題であった。
「ふふふ・・・・・・」
そして料理の虜になるだけで無く、自分をちゃんと女性として見てくれて優しく接してくれる店主の虜になるのもまた、時間の問題であった。が。
「店主・・・・・・おはよう・・・・・・ございます・・・・・・」
「おうおデジ。厨房入って小鉢の準備してくれ。」
「はい・・・・・・」
バルメデウスは涙した。仲睦まじくしているこの二人は、店主は既に男女の仲の伴侶がいたのだと。決して顔には出さないが心の中で大号泣したのだった。
「店主殿・・・・・・ニクスイとコメおかわり・・・・・・」
「はいよ!」
自分もいい歳であるバルメデウスは諦めも早かった。だが未練はある。もう少し、店主と出会うのが早ければ私も、と逡巡するくらいは。とりあえずこれを食べたら休みなので。明日の訓練は行き遅れと陰口を叩いた衛兵見習いをぶちのめそうと決心するのだった。バルメデウス29歳、まだまだいける。街の衛兵教官である。