異世界食堂 二軒目!   作:電動ガン

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・一応ファンタジーです。
・剣も魔法も存在しますが、あまり活躍しません。
・店主は普通のあんちゃんです。料理以外はできません。
・訪れる客は毎回変わります。ただし常連客もいます。
・鶏肉はよく火を通して食べましょう。

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てりたまチキン定食

とある貴族に仕える獣人のメイド、ジゼットは思案する。最近になって気づいたお屋敷の裏の林の放置された庭師の小屋。ジゼットは仕事をサボる口実にこの小屋を使っていたがある日、扉が出現した。驚いた。驚いたが好都合だった。このままではいずれサボりがバレる。獣人にしては魔法に聡いジゼットはこの扉が古代エルフのアーティファクトであると見抜き、そして転移の魔法で遠い場所、遥かに遠く異世界に飛ぶと推測した。異世界ならば絶対にあの口うるさいメイド長に見つからない!!そう確信してなんの躊躇いも無く扉を開けて先に進んだのであった。

 

「らっしゃいい!!!」

 

「ほへ?」

 

だがジゼットもこれは予想外だった。扉が付いているから戻ってくる事も可能だと踏んで潜ったわけだが。そこが何か椅子とテーブルがたくさんあり、良い匂いのする部屋に飛ばされ、白い服と変わった帽子を被る青年に挨拶されるとは思わなかった。

 

「お客さん早いっすねぇ!!!注文はもうしばらく待ってくだせぇ!!!」

 

「はへ。」

 

キョロキョロと見渡すも恐らく飯屋らしき事くらいしかわからない。ジゼットの知る飯屋からかけ離れすぎているからだ。だがこの匂いが、飯屋だと確信を得る材料だった。

 

「お待ちィ!!!コチラの席へどうぞぉ!!!」

 

「はひぃ!」

 

店主らしき人物の勢いに押され席に着いてしまったがジゼットは気づいた。持ち合わせがあまり心許ない。水とパンを注文するのが精一杯と言ったところ。このお金は先日屋台で買い食いし過ぎて無くなった。同僚にも考えて使えと口酸っぱく言われているがどうにも出来ない。食べたいものはすぐ食べたいし、欲しい物はすぐ欲しい。そういう場当たり的な生活をしている。そして、トン、と注文もしてない水が出てきて冷や汗が出た。

 

「あ、あにょ・・・あたし・・・・・・水頼んでない・・・・・・」

 

「え?ああ。うちは水タダなんですよ!!!それにお客さんうち初めてでしょ?うちは異世界だってんで初めての客は金持ってるかわからないから初めてはタダなんすよ!!!好きなだけ食ってくだせぇ!!!」

 

「!?」

 

水がタダで出てきた、という事は他の料理で元を取ってるということ。この帝国でそれをやっているのは一部の貴族向けの高級店の中でも更に高級店だけだ。そして、この店主らしき人間はなんと言った?初めては、タダ?好きなだけ食え?ジゼットは怖気がした。この店はあの扉の魔法から異世界、タダで料理を食わせて何をする気なのだこの店は。この帝国でタダより怖い物は無いと子供の頃から教わる。タダで何かしようとする輩は必ず陥れようとしていると・・・・・・マズイ。非常にマズイ。ここは異世界。頼りになるメイドの先輩の助けはない。それどころかここで食い殺される可能性が非常に高い。まず、いや、もう絶対、助からない。ジゼットは死の予見が頭に過ぎり、もう料理どころでは無かった。

 

「注文、何にしやす?メニュー無いんで食べたい物言ってくれれば近い物作りますよ。」

 

「・・・は、はひ!」

 

どうしよう。どうしようどうしよう。一応通った扉は後ろにある。だがこの店主、隙だらけのように見えてまったく隙が無い。店主はずーっと入口に注意を向けていて逃げられない。余計な動きをしよう物なら何をされるかわからない・・・・・・詰んでいる。キマイラに睨まれた羊のような気分だ。店主は注文はと言っているが今から食われるのは自分なのだ。食ってる場合ではない。

 

「あ、あにょ・・・わかりません・・・・・・!何があるのかも・・・・・・!!」

 

「あーそっすか。じゃあ朝食まだっすよね。朝食にします?」

 

「はひ・・・・・・」

 

「朝食定食いっちょぉ!!!」

 

どうして・・・・・・どうしてあたしはこうなんだろう。短絡的で、場当たり的で、浅慮なんだろう。今までもこの性格で困った事がいくらでもあったではないか。あたしはバカだ。バカすぎる。もう2度と帰れないかもしれないのに・・・・・・

 

「ぐぅ〜〜〜」

 

腹が、減っている。朝の洗濯をサボって、しれっと朝食に混ざろうとしていたから。命の危機なのに腹が減っている。

 

「う、うう・・・・・・ぐぅす・・・・・・ぐす・・・・・・ふにゃ・・・・・・」

 

「お待ち・・・・・・お客さん!?どうしたんすか!?」

 

「ふぇぇ〜〜〜〜〜!!!」

 

「お客さん!!!大丈夫っすかーーーーーーーー!!!!!」

 

・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・

 

・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・・

 

・・・

 

・・

 

 

 

「なるほどぉ。それで。」

 

「ぐす・・・・・・」

 

「大丈夫ですよ。うちは本当にただの飯屋なんで。気にしないで。」

 

「ぐす・・・・・・」

 

「ほら冷めないうちに食ってください。今日の朝食定食はてりたまチキンでさぁ。」

 

「?」

 

てりたまチキンと呼ばれたそれは何か・・・・・・ソースを付けて焼いたのか良い香りのするチキンと呼ばれた恐らく鳥の肉とそれに卵を焼いたものを乗せている。賽の目状に切られた鳥肉にフォークを突き刺す。パクリと口に運ぶとその甘くて、しょっぱいソースの味が口に広がっていた。ジゼットは、歓喜した。サボったらこんな美味しいものに出会えただなんて。とりあえずさっきまで感じていた命の危機など次元の彼方へ追いやったので何も考えずにぱくついた。てりたまチキン・・・と言ったっけか。この肉も美味しいが付け合わせのライスと呼ばれた白い粒々も味噌汁と呼ばれたスープもジゼットが普段食べているものと比べると冥府と天界の差がある様に感じた。屋台の肉で美味い美味いとバカみたいに騒いでいたあたしは頭が痛い。

 

「はぐっ!もふもふ!もぐ!!むしゃ!!」

 

肉を食い、ライスを食い、味噌汁を飲む。あっという間に平らげてしまって・・・・・・あたしは気づいた。

 

「(食べ終わったら・・・帰らなきゃならないのでは?)」

 

またもや冷や汗が出てきた。原因が違うが死の気配はさっきより濃くなった。メイド長に見つかったら命は無い。洗濯物と一緒に干されて干物にされてしまう。まいった。今度も逃げられない。逃げても追われて捕まる。飯屋は、飯を食ったら出ていかねばならない。

 

「・・・。」

 

「お粗末ぁ!!!」

 

ジゼットは流れるような動きで後にした。そして庭師の小屋を出たら・・・・・・

 

「ジゼット・・・!!」

 

「ひぇ・・・!!メイド長・・・・・・!!」

 

怒り心頭のメイド長が出迎えて、ジゼットの猫の耳を掴み、お説教に連れて行くのであった。

 

・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・

 

・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・・

 

・・・

 

・・

 

 

目処が、着いた。何のって?この貯まりに貯まった銅貨と銀貨を換金する方法が、である。俺は結局いろんな金属引取り店や貴金属店を回った。でも金属引取り店に行ったら貴金属店に行ってくれ、貴金属店に行ったら金属引取り店にいってくれとたらい回し。行く先々でそれ。これには堪えた。だが希望が見えたのだ。街の神社の後ろにある、骨董品店の前を通った時に、コイン買い取りますの看板が見えたのだ。俺は喜んで店に戻ってコインをお釣りを残して全部掴み持っていったのだ。

 

「・・・ニィ。」

 

「ヒェッ・・・・・・」

 

店に入ると怪しすぎる糸目のお姉さんが居て、ニヤニヤと銅貨と銀貨を換金してくれた。2ヶ月分の売り上げおよそ70万円分。見知らぬ世界の硬貨なのにこの怪しい店はちゃんと日本円換算でしっかり同じ額換金してくれたのだ。怪し過ぎる。

 

「・・・まぁ、いいか。」

 

だいたい銀貨700枚分の硬貨を換金して、銅貨200枚をお釣り用に残した。これでよし。

 

「さって、ただいまーっと。誰もいないけどな。」

 

俺の店。最初は異世界営業なんてどうなっちまったのかという感じだが、異世界の営業分はバカにならない売り上げだ。これを捨てると他の曜日がいくら繁盛してると言っても苦しくなる。それにただでさえ水曜日の営業は初めての客をタダにしている。このタダだというと初めての客はこれでもかと食っていくので結構赤字になる・・・と思いきや定連だと言える客達はそれ以上に金を払って食っていくのである。これはたまげたと同時にありがたい。良かった。

 

「さて!!!明日は水曜営業だ!!!気合い入れるぞ!!!」

 

どうか明日もトラブル無く終わりますように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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