魔法が使えないS級魔女の荷物持ち〜後ろで僕が最強魔法を放っていることに、まだ誰も気づかない〜   作:ナカザキ

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3話:七賢人『疾風のガイル』

 賢人会議が終わった後は長い階段を降りる。

 

 階段の途中――周囲に誰もいないことを確認して囁いた。

 

「あの『傀儡のマリア』とかっていう魔法使い、きみに毒をもってたよ」

 

「はあああああ!? なにそれっ!」

 

 ずっこけそうになるアナスタシア。危ない。

 

「何でも、君の身体の主導権を一方的に奪取する魔法、正しく『傀儡』、だね」

「何なのよ、あの変態養女。私が何をしたって良うのっ!」

「君のあるべき姿が、彼女の欲望を刺激したのかもね」

「ハイソな方々の趣味・性癖は私には分かりませんよー!! といか、毒は! 毒はどうなんったんですかぁ!!」

 

 

 涙目で僕に滲みよるアナスタシア。僕は彼女の身体を引きはがし、毒はもう浄化したことを伝える。

 

 

「良かった。流石はカルタです!」

 

 『撃滅のシルバーブラスト』らしくない向日葵のような笑顔に僕は見取れる。

 

 が、そこに何の関係もない通行人が現れる。

 

「こほん」

 

「こほん」

 

「カルタ」

 

 通行人が去った後、アナスタシアは僕に問う。この声色は『撃滅のシルバーブラスト』としてだな。凛とした威厳がある。

 

「あなたはどうすべきだと思う?」

 

「塵一つ残らず『撃滅』すれば勝てるでしょうが、それではこちらが犯罪者です。証拠品のグラスと酒瓶は向こうが回収してしまったし」

 

「泣き寝入り、か。『撃滅のシルバーブラスト』には相応しくない行動ね。カルタ、それを私にやれと? 私が望むのは闘争。そして完膚なきまでの『撃滅』です」

 

「――――本音は」

 

「宿に帰りたいいい!!!!!!!戦争なんてしたくない!!!!」

 

「……なら、それでいいんじゃない。今回の件で、向こうも僕たちへの脅威殿の認識は上げたはず。……すぐにどうこうしてくることはない、筈さ」

 

「信じますよ」

 

 とアナスタシアは上目遣い。それ自分が可愛いと分かってやってるだろう。コミュ障はだまされんぞ!だまさー――。

 

「はあはあ」

 

「ど、どうしてんです、カルタ。そんなに息切れして……」

 

「長文喋ったの、久しぶりで――」

 

「あ、そう……」

 

 口の筋肉が痛い!!

 

 

 階段を降りる。

 ロビーで待ち構えていたのは、懐かしい……と言えるほど友好的ではない顔だった。

 

 アルマーク王国の騎士団長、レオナード。

 金の髪の美丈夫だ。アナスタシアに結婚を拒否された男でもある。

 

 今回の用向きは何だろう。まさか、またアナスタシアに結婚を申し込みにきたのか。だとすると、その胆力に男として尊敬の念を抱かざるを得ない。すごい。

 

「アナスタシア殿! 再びお会いできて光栄だ!」

 

 仰々しく膝をつくレオナード。

 

 だが、その横には不敵な笑みを浮かべた七賢人ガイルが立っている。数分ぶりだ。僕らと彼らの会議が終ったのは同時刻だ。……そこから急いで階段を駆け下りて、僕たちを待っていたと考えるとシュールだな。

 

「……何の用かしら? 私、これから美味しい紅茶を飲みに行く予定なのだけれど」

 

 嘘だ。彼女が今日飲むのは洒落た紅茶ではない。場末の酒場に、変装して安酒を飲みにいくのだ。数日前から彼女はそれを心の支えにしていた。

 

 そんな真実を知らないレオナードは、  

 

「アナスタシア様は紅茶を嗜むのですね。淑女然としてとてもいい趣味だ。いかかです。わたしの実家にも、中々の紅茶園がありましてね。2人で紅茶を摘んで、そのまま頂くのは?」

 

 ちなみにつんだ茶葉はそのまま飲むことをしない、発酵や乾燥と言った幾重にも分けられた工程を経て、初めて我々の口に届く。まあ、レオナード様もそのことは知っているだろうから、今のは言葉の綾だろう。多分。

 

「つんだ紅茶はそのままでは飲めないわ。発酵・乾燥といった幾重にも分けられた工程を経て、初めて我々の口に届く。そんなことも知らないの?」

 

「くっ!」

 

 あーーーー。あーーーー。

 

 アナスタシアが僕から聞きかじったばかりの知識を○パクリして、貴族を追い詰めている……!

 

「あなたは一体何をしにきたのかしら?紅茶談義?それもいいけど――」

 

 うまいぞ、アナスタシア。紅茶の話題が続けられていれば、必ずボロが出ていただろう。それをうまく切り返した――。

 

「単刀直入に申し上げよう。私は貴女を諦められない! ゆえに、この王国の法に基づき『代理決闘』を申し込む!」

 

 レオナードが指し示したのは、隣のガイルだった。

 

 この国には、貴族が実力者を雇って自らの代わりに決闘させる制度がある。そしてガイルは、その『決闘代理人』として悪名高い男だ。 

 

 金を積まれればどんな相手とだって戦う。ガイルは『傀儡のマリア』とは違った意味で七賢人の中でも黒い噂が絶えない人物だった。

 

 とはいえ、その実力は本物だ。

 

 彼は魔法使いの中でも、最も対人戦に特化した男だろう。その『決闘代理人』としての戦歴は無敗と聞く。『疾風』の名のごとく、風をふかした彼の姿を捉えられる者はいないのだとか。

 

 勿論、七賢人を雇うのだから報酬も法外だろうが……確かレオナードは実家が大貴族とかいってたな。

 

「私が勝てば、貴女を私の妻として迎える!」

 

「自分で妻を手に入れようとは思わなかったの?」

 

「そこについては散々悩んださ!だが、アナスタシアは妻になるという幸運に比べれば、全ては些事だ!」

 

 おお、潔いいな。

 

「その決闘に私が付き合う理由がないわ。決闘は双方の同意が必要なはず」

 

「貴女が勝てば、私の全財産の半分を君の出身だと噂される孤児院に寄付しても構わない! それに加えて、私のツテで教師を用意しよう!」

 

「……え?」

 

 アナスタシアがピクリと反応した。……あ、今の「孤児院への寄付」っていう言葉、彼女の急所に刺さったな。。

 

「貴女のことは散々調べたよ。そして分かった。貴女は報酬の一部を生まれ育った孤児院に寄付しているね。それも、自分とは分からぬように細工して。そんな細工をしていれば送れる金額にも限りが出てくるだろう?だが私は違う。私が大金を寄付したところでそれは気紛れ、ただのノブレフォリージュだ」

 

 良く調べてある。寄付の差出人の正体がアナスタシアだとは簡単に分からないように偽装してあったのだが。

 

「ふうん。お堅い生真面目なお坊ちゃんかと思ったら随分と私のことを調べてきたのね……勘違いしないでほしいんのだけど、その程度の言葉で私の行動を縛れる――」

 

「勘違いしないでほしい。私はあの孤児院に危害を加えない。この決闘の結果がどうなれ……絶対にだ」

 

 レオナードは真っ直ぐに熱い視線でアナスタシアを見た。

 

「本気で君を妻にしたいのでね。その気持ちは強くなるばかりだ。それにしても、孤児院への奉仕とは……まるで聖女の如き行いだ!」

 

「古巣が潰れる屈辱を我慢できないだけよ。でもいいわ。その情熱に免じて、その決闘、受けてあげる」

 

 アタスタシアは鼻で笑う。

 

 なんというか、僕はレオナードを見直した。最初は貴族を傘に来てる奴かと思っていた。けれど、アナスタシアの急所である孤児院を結婚への脅しとして使わないなんて、中々見どころのある奴かもしれない。

 

 そんな風にレオナードへの評価を改めていると――。

 

 そこで『疾風のガイル』が会話に入ってきた。

 

 

「ふん、シルバーブラスト。お前、さっき会議で散々俺をコケにしてくれたよな? ちょうどいい。ここでそのメッキを剥がしてやるよ。俺は前からお前のことが気に入らなかったんだ」

 

「勝てると思うの? 6席のあなたが5席の私に」

 

「だまれ! これは何かの間違いだ! 俺の勘はそう言っている!」

 

 

 ガイルが殺気を籠めた魔力を放つ。アナスタシアの肩がびくりと跳ねた。

 

 (カルタぁぁ! 助けて! 無理です! ガイルと戦うなんて死んじゃう! それに全財産の半分って何!? 欲しいけど怖い!!)

 

 

 僕にしか届かない心の叫びが聞こえてくる。

 

 僕はため息を飲み込み、彼女の背後に静かに立った。

 

 

(やるしか、ないみたいだよ……)

 

 

 それで覚悟が決まったらしい。

 

 

 

「いいわ。ガイル、その『疾風』がただのそよ風だってことを教えてあげる」

 

 

 

 アナスタシア、煽りすぎだよ……。

 

 

 

 

 

 

 魔導塔の中庭。

 

 レオナードが見守る中、ガイルとアナスタシアが対峙する。

 

 ガイルは双剣を抜き、風の魔力を全身に纏った。対するアナスタシアは、身の丈ほどもある杖を構えて棒立ちだ。

 

 

 

「死ねッ!」

 

 

 

 ガイルの姿が消えた。

 

 超高速の移動。風魔法による加速だ。

 

 音が遅れてやってくる。中庭を高速で移動しているのは分かるが、常人では彼の姿を捉えることができない。(ちなみに僕は常人ではない)

 

 

 

(ひええええええええ! 消えた! 死んだ! 私の人生ここで終了ーー!!)

 

 

 

 パニックで目を閉じようとするアナスタシア。

 

 だが、僕は逃がさない。別に僕は大技の魔法をぶっばなつことしかできない訳じゃないんだ。

 

 

 ――魔力糸、展開。

 

 

 

 僕は指先から、髪の毛よりも細い、不可視の魔力の糸を放った。それをアナスタシアの関節、指先、首、全てに接続する。

 

 

 ここからは、僕の操作だ。

 

 

 ガイルの神速の斬撃が、アナスタシアの喉元を襲う。

 

 しかし、アナスタシアの体は、物理法則を無視したような滑らかな動きで、紙一重でそれを回避した。

 

「なっ……!?」

 

 ガイルの驚愕の声

 

 

 

「なっ……!?」

 

 

 

 そしてアナスタシアも驚愕していた。

 

 そりゃそうだ。自分の身体が突然、意思を無視して動いたのだから。

 

 

 

「ちくしょう! 逃げんな! どうなってやがる!」

 

 

 

 アナスタシアの体は、まるで重力がないかのように舞い、次々と繰り出されるガイルの連撃を、あくびが出るほど優雅に避け続ける。

 

 

 

「……遅いわね。止まっているのと変わらないわ」

 

(えっ、えっ!? 私の体、なんでこんなに柔らかいの!? 股関節がメキメキ言ってるんですけど!)

 

「舐めるなぁぁぁ!」

 

 ガイルが奥義らしき旋風斬を放つ。

 

 魔法と斬撃を融合させた一つの極致。

 

 それをアナスタシアは正面から杖で受け止めた。勿論杖は(僕が)強化してある。

 

「なに! 俺の一撃を!」

 

「意外? 遠くからチマチマ獲物を屠る少女にはできない芸当だと思った?」

 

「っっ!」

 

 僕は彼女の杖を操り、地面を一突きさせた。

 

 

 

 ――グラビティ・ブレイク。

 

 

 

 杖の先から放たれたのは、見えない『重さ』だ。

 

 

 

「が、はっ……!?」

 

 

 

 突如として全身を襲った数トンの重圧に、ガイルが膝をつく。

 

 アナスタシアは(僕に操られて)ゆっくりと歩み寄り、ガイルの喉元に杖を突きつけた。

 

 

 

「風を読めていないのは、貴方のほうよ」

 

 

 

 静寂。

 

 騎士レオナードは、そのあまりに圧倒的な……魔法だけではなく体術すら極めた魔女の姿に畏怖の目を向ける。あるいは、もっと惚れたのかもな。

 

 

 

「まさかガイルを近接戦闘で倒すとは…」

 

 

 

「完敗だ……。魔法の撃滅だけじゃなく、接近戦でも俺を凌駕するのか……。シルバーブラスト、お前は……偽物じゃねえ。本物だな!」

 

 

 

 ガイルが力なく笑い、意識を失った。

 

 

 

 

 ガイルは愚かな男だった。

 

 有り余る才能があるというに、素行の悪さから留年を二回繰り返し、卒業。その後は多大な期待を背負って戦地にいくも、怪我の末帰国。

 虎の子の風魔法は遠距離での魔法の扱いが不得手だったため、近接魔法に舵を切った。

 

 他者からの期待に梯子を外し続ける、そんな男だった。

 

 勿論優秀である。七賢人の第6席。魔法使いたちの羨望の的だ。しかし、いまいちノリきれない。己を認めることができない。

 

 それはこれまでの半生のせいだろう。

 

 他人の期待を背負って背負って、最後には梯子をひっくり返す。

 

 事実、彼のことを「二流の一流」と揶揄う者すらいた。

 

 そんな彼が見つけた「絶対」がシルバーブラすトだった。

 

 経歴不明。使う魔法不明。詳細不明。全てが不明。

 ただ分かったいることはただ一つ、強い。

 

 そして、それを嘘だと感じた。彼の勘はよくあたるのだ。この勘のおかげで自分は地獄の戦地から帰ってこれたと言っていい。

 

 この勘に従って、その仮面を奪い去ってやりたいという情動にいつしか支配され、彼はアナスタシアとの決闘に挑んだ。

 

 しかし、結論からいうと、シルバーブラストは本物だった。己の領分、近接魔法戦闘でも自分を圧倒してみせた。彼女は、本物だ『撃滅のシルバーブラスト』は。

 

 己とは違って。これが、最強か……。

 

 認めるのは楽だった。しかし、そこで折れると二度と立ち上がれない気がした。

 

 だから、

 

 『ライバルとして認めさせてもらう!』

 

 

 そう、意識を失う限界に吠えた。この一言が彼らの人生をどう変えていくかは、まだ分からない。だが、今日、一人の青年が負けた。しかし、それが無様な負け方ではなかったことだけは確かだ。

 

 

 

 

 

 

 

 その夜、宿屋にて。

 

 

 

「死ぬかと思ったーーーー!! あの股割り! あのバク転! 私、筋肉痛で明日から一歩も動けませんよカルタぁぁ!!」

 

 

 

 床をのたうち回るアナスタシア。

 

 でも、彼女の隣にはレオナードから没収した「財産の目録」が置かれている。

 

 

 

「……孤児院に、結構送れるね」

 

「孤児院! 何のことでしょう!」

 

 

 

 なぜかアナスタシアは孤児院のこのをカルタに書くそうとする。

 

 

 

 

「うう……。まあ、これだけあれば……頑張った甲斐はありましたけど。……でも、ガイルが『ライバルとして認めさせてもらう!』とか言って去っていったのは、完全に余計でしたよ!」

 

 

 

 どうやら、また一人「勘違い」する人間を増やしてしまったらしい。

 

 僕はため息をつきながら、明日への荷造りを始めた。

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