フィジギフオリ主in新エリー都   作:しじみを食べるクジラ

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感想、ご指摘ありがとうございます。作者はハーメルン初心者なのでとても助かっています!


絶影、報酬を受け取る

若者達の笑い声が辺りに響く。自分達の可能性を信じ、いつの日かその名が新エリー都中に轟くと疑わない、そんな笑い声だ。

あのデュラハンを狩った後、俺は依頼主に依頼の達成を報告するため、ここリバーブ・アリーナに来ていた。

 

「報酬だ。受け取れ」

 

「……確かに受け取った」

 

場所は小洒落たバーの一角、周りには誰もいない。手のひらサイズの袋に詰められたディニーの重みを確認すると、俺は用は済んだとばかりに席を立とうとした。

しかしその途中で依頼主の初老の男に引き止められる。

 

「待て。少し世間話をしよう。一杯どうかな?」

 

「悪いが遠慮しておく。それで話とはなんだ?」

 

珍しいなこのおっさんが世間話なんて。俺は訳あってガキの頃孤児になったが、前世が日本人だったので当然ながらこの世界にはない知識も数多く持っていた。しかしいわゆる「知識チート」と呼ばれる行いはできなかった。理由は単純。まず俺に前世の知識を応用するような知能がなかったことと、この新エリー都は現代日本と遜色ないくらい技術が発展していたため、前世の知識を生かせる場面がなかったことだ。もちろん並外れた身体能力はあるにはあったが、いくら前世で生きてきたと言っても所詮はまだ子供。表社会で雇ってくれるとこなんてなかったし、裏社会の入り口みたいなところもどこにあるのかわからなかったため、依頼も受けられなかった。結果的に俺は金がなく、飯も買えないため、餓死しかけてた。死なないためには人から金や飯を奪わなければならない。しかし日本人としての感性がそれを邪魔する。そんな八方塞がりな状況に現れたのがおっさんだった。

おっさんは行き倒れの俺に無償で飯をくれた。さらに仕事を紹介してくれるとまで言ってくれた、もちろん表社会でのだ。だが俺には明確な身分もないし、当然この世界での学もない。そんな状態で表社会で真っ当にやっていけるとは到底思えず、無理を承知で裏社会での仕事を斡旋してほしいと頼んだ。そう言うとおっさんは明らかに難色を示した。当然だ、さっきまで餓死しかけてたガキがいきなり「危険な仕事を紹介してほしい」なんて言い出したんだから。おっさんはまだガキの俺がそう言ったことに驚いていたが、その時俺は俺で別の事に驚いていた。何故かというと表社会ではやっていけないことを確信し裏社会での仕事をくれとは言ったものの、優しく諭されるか、そもそも裏社会の伝手なんかないと言われるとばかり思っていたのに、おっさんがなんか真剣に悩み出したからだ。

これはいけるか?そう思った俺は自分の利点——身体能力しかないが——をこれでもかと(当社比)力説しまくった。俺の説得が効いたのかおっさんは「ホロウで私に実力を見せろ。その言葉が単なる虚仮威しではないのなら、仕事を斡旋してやる」と言った。

あとは言うまでもない。俺が今でもおっさんから依頼を受けている事が何よりの証拠だ。おっさんの驚愕する顔が小気味良かったとだけ言っておこう。

 

 

 

そんなこんなでこのおっさんとはかなり長い付き合いなのだ。

 

「一つお前の耳に入れておきたい話があってな」

 

そう前置きしてからおっさんは話し始める。

 

「赤牙組がホワイトスター学会の研究所から()()()()を盗んだらしい。そのせいで業界は蜂の巣をつついたような騒ぎだ。噂だとその金庫を赤牙組から奪うために腕の良いホロウレイダーを雇ったやつもいるとか」

 

赤牙組……なんか聞いたことあるような、ないような。

まぁいいや、それよりも気になることがあるしな。

 

「で?その金庫の中には何が入っているんだ?」

 

そう聞くと、おっさんは少し考え込むような仕草をした後に口を開いた。

 

「私も詳しく知っているわけではないのだが……

『ホロウ探索の常識を大きく覆すもの』、そう聞いている」

 

「……そうか。それで、何故その話を俺にしたんだ。俺にもその金庫を()ってきて欲しいのか?」

 

「いや違う。ただ気をつけておいた方がいいということを伝えたくてな。いかんせん、業界全体が騒がしくなっている。いくらお前と言えども巻き込まれる可能性がある」

 

「別に心配しなくとも巻き込まれるつもりはない。そもそも、その『赤牙組』とやらに近づかなければいい話だろ」

 

俺の言葉を聞いて何故か少し呆れた顔をするおっさん。

……ほんとに何だその顔。

 

「……自覚がないのかもしれないが。絶影、お前は面倒ごとを引き寄せる体質だぞ。この前治安局の『特務捜査班』と鬼ごっこをしたことをもう忘れたのか?」

 

そう言われたことで俺にとって苦々しい記憶が思い出される。

 

 

 

 

あの日いつものように依頼を終わらせホロウから出ようとした矢先、目の前の曲がり角からバットのような物を持った若い男が飛び出してきた。

そいつは前方にいた俺を認識するやいなや、

 

「邪魔だ!どけ!」

 

と叫びながら襲いかかってきた。いきなりのことでテンパってしまった俺は、思わず相手の首を掴んで持ち上げてしまっていた。

 

「グッ!?」

 

突然のことに驚く相手。当然だ、襲いかかった相手がいきなり消えて次の瞬間には自分が宙吊りになっているのだから。

かくいう俺も反射的に首を掴んでしまっただけで、ここからどうするかとか何も考えていなかった。

これどうしようかな……と考えていると、今つるし上げている(物理)男が出てきた曲がり角からものすごい勢いで三人の男女が飛び出してきた。どうやら三人の服装を見る限り治安局の人達らしい。

よし、あとはこの暴漢をあちらに引き渡すだけだな!

まぁ俺もホロウレイダーだから捕まる可能性があるが……

きちんといきなり襲いかかられたことをしっかり説明して尚且つ「実はまだホロウレイダーになったばかりで今から初めて犯罪をしようとしていたところなんです。それがこんなことに……」とか何とか言って誤魔化せば何食わぬ顔で帰れるだろう。事実、俺の仕事はエーテリアスの処理であって、ホロウ内にある金目の物を盗ることじゃない。なので身の潔白はすぐに証明できる。そうしたことを考えながら、意気揚々と

「こいつ捕まえときましたよ!」と言おうとして

 

「ッ!今すぐ彼から手を離しなさい!」

 

三人が各々武器を構えたことによって俺の出鼻は挫かれるのであった……

 

 

 

「断じてあれは俺のせいじゃなかった。むしろ早とちりしてきたあの治安官に非がある」

 

あのあと問答無用とばかりに襲いかかってきた猫耳が生えたイケメン治安官——あれはネコのシリオンか?まぁ何でもいい——によって俺の弁解の機会はなくなったし、力を入れすぎたのか気絶した暴漢をその辺に投げ捨ててトンズラここうとしたら、髪に赤色のメッシュが入った治安官と一瞬子供かと思ってしまうほど背の低い治安官の見事な連携により、完全に逃げるタイミングを失ってしまった。そこから三人の息のあった攻撃に苦労しながらも、何とか持ち前のスピードで逃げ切った。

だが正直もう治安官を一ヶ月くらい見たくない。ちなみにおっさんに聞いたところあの治安官達は治安局の「特務捜査班」という組織に所属する、いわば超エリート集団だったらしい。どうりであんなに強いわけだ。

 

一人でうんうんと納得していると、おっさんが水を差してきた。

 

「どうだかなぁ、お前は少し言葉足らずなところがある。それに加えてその『絶影』としてのオーラもある。おそらく普通の人より勘違いされやすいんだろうな」

 

「だが……それよりもダメだったのがお前の行動だ。自分が治安官だとして考えてみろ。もう少しで捕まえることができそうだった犯人、それが曲がり角を曲がった先で全身黒づくめのフードを被った不審者に首を絞められている。さて、お前ならどうする?」

 

「………」

 

それを聞いて俺は黙り込んでしまう。

確かにめっちゃ怪しいヤツですやん。俺だったら問答無用でヤリにいく。

 

「分かったか?お前は面倒ごとに巻き込まれやすい。巻き込まれるのはまだいい。最悪なのはお前が良かれと思って行動したことが全て裏目に出ることだ。私が奇跡でも起こっているのかと驚くほどに」

 

そこでおっさんは一息おく。

 

「だからな、自分には関係ないと思わず常に油断するな」

 

そうして力強い言葉で話を締めくくったのであった。

 

「……分かった。でもどうせ赤牙組とやらが逃げ込んだのもホロウの中だろ。この新エリー都にホロウが何個あると思ってる?俺とそいつらが鉢合わせ、尚且つ金庫を巡る争いに巻き込まれる確率なんてほぼゼロみたいなもんだろ」

 

「またお前はそうやってすぐ……」

 

おっさんが頭を抱え始める。

 

「ま、とにかく心配するな。……もうこんな時間か。そろそろ帰らせてもらうぞ」

 

「帰る……お前確か宿無しじゃなかったか?」

 

訝しげにするおっさん。

 

「今はもう違う。宿無しから居候に昇進だ。それじゃ、またな」

 

世間話のはずなのにまさかこんなに忠告されるとは。とりあえず早く帰らないとな。

 

 

 

 

 

 

 

遠ざかっていく背中を見つめながら、クロウ曰く「おっさん」と呼ばれている男が大きく息を吐く。

 

「あれは確実に巻き込まれるな」

 

クロウは「赤牙組と遭遇して、尚且つ巻き込まれる確率なんてゼロに近い」と言っていたが、特務捜査班が追っている犯人と偶然遭遇して、そのまま戦闘に発展する確率の方がよっぽど低いだろ、と男は考えていた。

ふと昔のことを思い出す。男とクロウが初めて会った時のことを。

 

 

男は元々新エリー都の権力者達の集まりである、TOPS財政ユニオンに所属しており、その中でもそれなりに高い地位にいた。

水面下で様々な争いが起こっているTOPSだが男の仕事は順調そのもの。家に帰れば愛する妻と幼い一人息子までいた。

確かに幸せの絶頂にいた、あの旧都陥落が起こるまでは。

あの日男は最愛の妻と息子を失った。何とか生き残れはしたが、自分にとっての全てを奪われた男の精神的ショックは計り知れなかった。何故自分一人だけが生き残ってしまったのか、何故死ぬのが自分ではなかったのか、常に自責の念に苛まれるようになった。そんな状態で仕事ができるはずもなく、あっという間に男はその地位から蹴落とされ、裏社会に堕ちることとなる。

それから数年後、男はTOPSで培った知恵や知識を惜しみなく使うことによって裏社会の中でも大きな立場に君臨していた。しかし男は焦り始めていた。このままではやるべきことがなくなってしまう、と。

商売敵を潰す、優秀な傭兵を見つけ出す、元々の地位を利用して大企業とのパイプをつくる。もう男は何かしていないと精神の安定が保てなくなってしまっていた。クロウと出会ったのはそんな時だった。

 

ある雪の降る日、男は業界の中でも有名な犯罪組織のボスと交渉をするために彼らの根城であるスラム街へと来ていた。周りを見渡すとまだ年端もいかない子供達が数多く目に入る。その誰もが痩せ細り、目から光が失われ、おおよそ一般的な「子供」とはかけ離れた姿をしていた。

男はその姿に哀れみを抱くも、決して助けようとはしない。

「一欠片の慈悲すら見せてはならない」

それが男が裏社会で学んだ最初のことであり、信条でもあった。

しかしある子供を見て、ふいに足が止まってしまう。その子供の目は他と違い、爛々と輝き、体は痩せ細っているものの、雰囲気は自分が見初めてきた優秀な傭兵達と酷似していた。その明らかに異質な姿に思わず自身の信条すら忘れて声をかけてしまう。

 

「君は喋れるのか?」

 

「……あぁ」

 

ひどく掠れた声だったが、それでもしっかりとした意思を感じた。

そしておもむろに男は懐から携帯食料を取り出し、目の前の子供に渡す。

 

「食べるといい。腹が空いているんだろう。心配せずとも何か要求するつもりはない」

 

そう言うと子供はしばらく迷っていたが、やがて勢いよく携帯食料の封を開け、ものの数秒で食べ終わった。男はこの際乗りかかった船だと思い、

 

「もし金がないのなら、私がきちんとした仕事を紹介してあげよう」

 

と言った。

様々な場所でつくった自分のコネを使えば、子供一人を働かせてくれる場所を見つけるぐらい簡単だ。しかしこの提案に子供はまったくもって予想外な返答をしてきた。

 

「じゃあ、表じゃなく裏の業界の仕事を斡旋してくれ」

 

「……きちんと意味を理解して言っているのか?」

 

「あぁ」

 

先ほどよりも力強い返事。それを聞きながら、男は考えを巡らしていた。

このような小さな子供を自分の手で死地に送るわけにはいかない。それは亡き妻と息子への裏切りとなってしまう。しかし単純にこの頼みを切って捨てれない何かを目の前の子供は持っている。

そうやって悩んでいる心情を見抜いたのだろうか、子供はその歳に似つかわしくない好戦的な表情を浮かべて言った。

 

「あんたが思っているよりも俺は遥かに強いぜ。ホロウにだって入れるし、並のエーテリアスなんか目じゃない」

 

「……ホロウで私に実力を見せろ。その言葉が単なる虚仮威しではないのなら、仕事を斡旋してやる」

 

間違いなくこの子供には何かある。そんな思いと、「この子から目を離すとあっという間に消えてしまうのではないか」という()()が男にこの決断を下させることとなった。仮にもし自分の目論見が外れていたとしても、今度こそ真っ当な仕事を紹介してやればいい。

……数時間後、その子供——クロウと共にホロウへと入った男はその規格外の力に目を見開くこととなるのであった。

 

 

 

今思えばらしくないことをしたと思う。しかし、らしくない世話を焼いた少年は男の生活に安らぎを与えてくれた。気づけば裏社会での仕事ではなく、クロウの様子を見ることを求める自分がいた。たまに面倒ごとを引き連れてくることもあったが、それすらも良い気晴らしになった。いつしか男はクロウのことを実の息子のように感じ始めていた。だからこそ、なるべく良い依頼を持ってくるようにしているし、注意するべき情報を常に収集、または伝えるようにしている。さらに住む場所まで紹介しようとしたが、「そこまでしなくていい」と言われ——そこでさっきの話の最後に「もう宿無しではなく、居候をしている」と言っていたことを思い出す。義理の息子とも呼ぶべき彼が信頼に足る人を見つけたことを喜ばしく思う反面、男にはいささかの不安があった。

 

「……あいつからすごい甘い香りがしたな」

 

その匂いたるや、一瞬クロウ本人か疑ってしまうほど。

前依頼をしたとき——正確には三ヶ月ほど前だが——はまだ宿無しだったと記憶している。この短期間でいったい何が?

……いや不安を感じたのはそこではない。

 

「どう考えても牽制だよな……」

 

あの()()()()()()()()()()()()()()()匂いが自然についたとは考えにくい。あれは威嚇だ。これは自分達のものであると。誰にも渡すつもりはないという。これでも五十年近く生きている。女の勘ならぬ男の勘とも言うべきものが警鐘を鳴らして——

そこまで考えて思考を放棄する。様々な問題ごとだけでなく、痴情のもつれまで持ち込まれては父親を自負している自分であっても、対処のしようがない。いつの間に義理の息子はプレイボーイになったのやら。

 

「背中。刺されないようにしろよ」

 

そう言って面倒な息子を持ってしまった一人の父親は大きくため息を吐き出した。

 

 

 




「なんか主人公、心の中で考えていることと違って、口調めっちゃ落ち着いてない?」と思った方がいるかもしれないので一応説明しておきます。といっても単純に「心は賑やかだけど外面上はおとなしく見える」という「陰に生きるもの」特有のアレです。これのせいで周りからの勘違いを加速させているところがあります。
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