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22時38分
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「M.O.N.O.……始めてくれ」
そう告げたメイルの声に反応し、LEDサイネージがひとりでに起動する。
ブルースクリーンにプログラムのスタートアップステータスが表示され数秒後、
大きな画面上に現れたのは——
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《——随分と展開が早いじゃないか。メイル》
男声とも女声ともつかぬ低く掠れた声でそう返事をする、
3頭身のアニメーションのキャラクター。
ウサギをモチーフにしているのであろうその姿に、
般若間とアイルがつい「かわいい……」と声を漏らす。
一方で他の皆は、その見た目に不釣り合いな異質な声のアンバランスさに
半ば恐怖にも似た警戒心を露わにし、口を固く結んでいた。
そんな彼らを一瞥しながら、メイルがM.O.N.O.と呼称したソレに言葉を返す。
「ガスの量ミスった。配合の具合がどうも難しくてな……」
《……そのせいで意識の覚醒が早まり、双子に先手を許したというわけか。
まぁ、
管轄外の君にしてはよくやった方だろう》
「お褒めにあずかりどーも」
メイルはそうぶっきらぼうに返答しつつ、アイコンタクトでM.O.N.O.に「進めろ」と促した。
真名巳たちが割って入る隙もなく、画面の中の彼(?)は身を翻し、
大きな耳を揺らしながらお立ち台風の黒いブロックの上に立つと、
指のない短い両手を組みつつ、その小さな口を開いた。
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《……挨拶が遅れてすまないね。
はじめまして、特務生徒会。ワタシは
これから君たちが行うことになる“殺し合い”の、監視役だ》
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メイルと話していた時とは異なる、さらにおどろおどろしさを増した冷たい声色。
さらにその声で確かに告げられた“殺し合い”という単語に、一同が息を呑む。
探索の時点で予想も覚悟もできていたつもりだったが、
実際にその言葉を耳にすることで感じる緊張感と恐怖は、
想像の何倍もの重圧でもって、真名巳たちの四肢と心臓を縛り上げていた。
「…………」
先刻までの熱が引き、照明が点灯してもなお冷ややかな空気を沈黙が支配する中、
《君たちにとっては、よく見慣れたものだろうが……》
M.O.N.O.が言い終えると同時に再びフロアの照明が落ち、
唯一の光源であるLEDサイネージの中央に立つM.O.N.O.の背後、
真っ黒な背景の上部に表示されたのは“RULES”という赤い文字。
そこから連なるようにして、1,2,3……と、
この殺し合いにおいて真名巳たちに課されるルールが列挙されていく。
《“参加者”になるのは初めてだろう? 存分に楽しんでくれ》
「…………」
場の空気を掌握しているのは、言うまでもなくあちら側。
メイルは依然として車の屋根の上で佇んでいるが、その表情から読み取れる情報は皆無だ。
異論反論に不平不満は皆の内心に募るばかりだが、
ここで下手に騒ぎ立てることが悪手であることを、
真名巳をはじめ特務生徒会の一同は心得ている。
どう動くかを検討するのは、ある程度情報が出そろってからでよい。
今はひとまず、聞きに徹することとした。
そんな彼らの眼前に提示されたルールは6つ。
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【
-RULES-
◆1:施設内で殺人が発生した場合、
加害者側は報酬として被害者1人につき¥10,000,000を獲得する。
◆2:殺害された被害者の保有報酬は、死亡時点での全額が加害者側に譲渡される
(加害者が複数存在する場合は均等に分割譲渡される)。
◆3:参加者が自殺した場合、
その時点で生存している他の参加者全員には臨時報酬として、
自殺した参加者の死亡時点での保有報酬が均等に分割譲渡される。
「い、いっせんまん……」
思わずこぼした般若間に、真名巳が「おい」と釘を刺す。
その額の大きさに驚いたのは彼女もまた同じだったが、
だからといってゲームに乗るつもりはさらさらない。
「…………」
他の皆も表情にこそ出してはいないが、隠しきれない動揺の色が表れている。
本気にする者などいない、と信じたいが——
・
◆4:殺し合いの視聴者は、任意の参加者に対し
支払われた額はそのまま、対象の参加者の保有報酬として加算される。
◆5:殺し合いの視聴者には
(特典内容は参加者には開示されない)。
これらについては見知った内容だ。
殺し合いをショービジネスとして運営している犯罪組織は、未だ数多く存在する。
この殺し合いがメイルの手によるものだとしても、単独犯だとは考えられない。
支援している組織や集団が必ずあるはずだ。候補として最も有力なのはHALBERDsだが、
だとしたら敵の規模は計り知れないものになる。そこまでする目的は一体——
「…………」
「……特典、ってさ」
手すりに身を預けるアイルの声に、火零が頷く。
「えぇ。死亡した参加者の遺体やその一部の所有権……他には、
参加者に対するせ「ごめん、やっぱいいや……」
摘発任務を行う中で慣れたつもりでいたそれら悪趣味な文言の数々も、
実体を伴って自らに課されるとなると訳が違う。
アイルは手すりに突っ伏し、火零もまた1階の画面を見下ろす瞳を曇らせる。
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——そして最後、6つ目のルール。
◆6:この殺し合いは、メイル・アリアンロッドが死亡、
もしくはメイル・アリアンロッド以外の人間が全員死亡した時点で終了となる。
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「これは……」
雨頭目が小さく声を漏らし、ほどなくして照明が再点灯。
ルールの文言より前のレイヤーにM.O.N.O.が現れ、
《……ゲームの終了条件は、シンプルな方が良いだろう?
ここには先達たちが経験してきたような煩雑な“校則”も、
仲間を裏切った者を糾弾する“裁判”も“
あるのは血と死、そして痛みだけだ。どう動くのかは君たち次第だが……
特務生徒会。君たちがこのゲームを終わらせ、生き延びて外に出たいと言うのなら——》
つらつらと言葉を重ねていく。そのまま画面の中央まで浮遊し移動すると、声のトーンを抑え、
《メイル・アリアンロッドを殺すことだ。他に手はない》
——と、そう静かに結んだ。
・
………………
…………
……
・
22時45分
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「……長ったらしいルールだけど、まぁそういうことだ」
そう言いながら、メイルがくあっとあくびをする。
これ以上ないほどに張り詰めた空気の中、
ただ1つの異物として弛緩した雰囲気を纏う彼女に、恐怖、困惑、敵対、憤怒——
その全てがないまぜになった視線が、四方八方から突き刺さっていた。
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「……どうしてだよ、メイル」
「……?」
真名巳がつと前に出る。
車の屋根の上の彼女を見上げ、荒げることこそしないものの、
確かな怒りを孕んだ声で一歩、また一歩と詰め寄っていく。
「こんなことする理由は何だ……お前は、私たちのリーダーだったろ……!!」
・
特務生徒会の結成当初、経験値こそあれど技術に関しては素人同然だった真名巳に、
メイルは対人戦闘や制圧術の基礎を親身になって教示してくれた。
それは夏生や、他の皆も同様だった。
それぞれの長所や特徴に応じてレベルを合わせ、護身術や人命救助の技術を指南し、
組織としての特務生徒会は日を追うごとに強く、
普通に生きていればまず交わらかなったであろう彼らの間に、
普段は言葉にしないものの、確かな“絆”を築いたのは、他でもない彼女だ。
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真名巳のこめかみに、薄らと青筋が走る。
「……答えろよ、メイル。どうして私たちが殺し合う必要がある?
お前は金に困ってるわけでもねぇ。特務の仕事も上手くいってたろ……」
「…………」
なおも沈黙を貫くメイルの視界に、真名巳の姿はない。彼女は歯を食いしばり、ついに吠えた。
「——さっさと答えろッ!! お前の目的は何なんだ!!」
吹き抜けを貫き響き渡る怒号を浴びてなお、
メイルの表情は張り付けたように一定の温度を保っていた。
「——声がデケェよ真名巳。目的ねぇ……それ、今そんなに重要か?」
「……あ?」
メイルが屋根の上でしゃがみ込み、前方5メートル地点にいる真名巳と視点を合わせる。そして、
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「……そんなとこで突っ立ってる場合かって言ってんだよ」
表情は変わらぬまま、その声が色濃い殺気を帯びる。
やがて視線はガラス片の散乱する床に落ち——
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「お前ら全員、私の間合いだぞ」
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1階フロアのみならず、
彼女を囲んでいた9人全員の背筋に、本能的な恐怖を伴った冷たい電流が迸る。
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#4へ続く
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