CHERNOLOGUE   作:あるぺす

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大五郎!!!


#4 REPERCUSSION

 

 

22時46分

 

 

「……お前ら全員、私の間合いだぞ」

 

その宣告が9人の耳に届いた時には既に、

 

「——そうかよ」

 

(夏生)”の影は、その眼下にメイルの背を捉えていた。

3階通路、手すりからの跳躍。

重力に身を任せた猛スピードの落下に乗せ、両の拳を固くひとつに組み結ぶ。

 

「ん」

 

振り返ったメイルの視界に飛び込んできたのは、遥か頭上から迫り来る夏生の巨躯。

彼女はその大きな影から視線を外さないまま、

足元で外れかかっていた車のフロントドアに手を掛けた。

 

跳躍から3秒。夏生が振り上げた鉄槌に更に力を込め、

メイルもまた、ドアを持つ手に細くもくっきりとした血管の筋を浮かばせる。

その直後——時間にしてコンマ数秒ののち、1階フロアに再び激しい衝突音が響き渡る。

 

 

 

 

「フーッ……」

 

 

 

果たして夏生が叩き込んだ拳の一撃は、

メイルの即応により引き千切られたフロントドアで阻まれていた。

 

フラウが落下してきた時点で大きくひしゃげていたそれは、

既にドアとしての原型を留めてはいないものの、まともに食らえば

骨の数本は失っていたであろう彼の急襲によるダメージを、大幅に軽減していた。

 

「…………」

 

しかし落下と重力が加わった彼の拳は、

急拵えの盾をもってしてなお完全に防ぎ切ることは叶わず、

屋根の上で膝をつきドアを支えるメイルの右前腕からは、

少なくない量の血が流れ落ちていた。しかしその表情に驚きや焦りの色はなく、

 

 

 

「星介……お前が一番手か?」

 

 

 

歪んだ窓枠越しにそう口角を上げる彼女の顔には、期待にも似た危うい高揚が表れていた。

 

 

 

「あー……どっちかっつーとアンカーかな」

 

 

 

対する夏生に笑みはなく、拳に込められた力とは対照的な冷ややかささえ感じる声色で、

二番手三番手を出すつもりなどない、

自分一人で“これ”を終わらせるつもりであることを暗に伝える。

彼はそのまま組んだ両の拳を解き、右手を窓枠へ。

 

「!」

 

思いの外機敏な動きに虚を突かれたメイルの両足が宙に浮き、

 

「——ッらぁ!!」

 

彼はフロントドアごと、ハンマー投げの要領でメイルを投げ飛ばし、

彼女の身体は夏生の左前方、生鮮食品などを取り扱う大型食料品店の

サッカー台の上で跳ね、背の高い商品棚へと叩き付けられた。

 

「…………」

 

目を細めた夏生が商品棚の下敷きになったメイルにまだ動きがあることを確認すると、

この十数秒の大立ち回りを前に圧倒され立ち尽くすばかりの皆へ、

 

「ハァ……お前ら——」

 

普段の彼がまず見せることのない、鬼気迫った表情で告げた。

 

 

 

「——走れ!!」

 

 

 

その真意は“死にたくなければさっさと逃げろ”。

 

「——ッ!!」

 

真名巳たちは彼の顔つきと声からそれを即座に汲み取ると、

声を出すことはなく小さく頷き、踵を返して散開した。

 

 

………………

 

…………

 

……

 

 

22時49分

 

 

「……相変わらず、荒っぽいなぁ星介」

 

左手にはプロテインバー、右手には缶入りのフルーツジュース。

いずれも先ほどの衝突で棚から吹き飛んだ商品を口にしながら、

商品棚の下から這い出たメイルがゆっくりと彼の方へと歩み寄る。

銀色の空袋を捨て、中身を飲み干した缶を手の中で遊ばせつつ、

 

「…………」

 

低く腰を落とした臨戦態勢で彼女の出方を窺っている夏生に対し、

人差し指を向けながら鷹揚に声を投げる。

 

「いつも言ってんだろ? 力の配分雑すぎんだよお前は。もっとコンパクトに戦えって」

 

「……ハッ」

 

フロア一帯に殺気が漂う張り詰めた空気から一転、

聞き慣れたトーンの彼女の声に夏生もつい破顔しつつ、

少々無理をさせた右手首を何度か振りつつ答えた。

 

「こんな時にお説教かよ——“先生”」

 

 

監視カメラの冷徹な視線が見下ろす、殺し合いの最前線。

特務生徒会最強の指揮官、メイル・アリアンロッドに相対するは、

同じく特務生徒会最強の——

 

 

 

「……本気で来いよ。したいんだろ? 殺し合い」

 

 

 

“悪童”、夏生星介。

 

 

 

「あぁ。お前んこと片付けたら、他の奴らも皆殺しにしてやるよ」

 

 

 

両者の顔にはあろうことか、この状況を楽しむかのような笑みが浮かべられていた。

邪魔立て無用の一騎打ち。視線をかち合わせる2人の間に、

皮膚を焼くようなザラついた空気が湧き()でる。

 

 

「…………」

 

次第に口角を下げつつ、熱の引き始めた頭で夏生が思案する。

 

 

——ひとまず、1vs1の状況に持ち込むことはできた。

自分よりも頭の回る真名巳たちであれば、

こうして彼女を引き付けている間にこの殺し合いの突破口を見つけ出してくれるだろう。

フラウとアイルの精神状態は若干気がかりだが、彼らも訓練された人間だ、

下手なパニックを起こすことはないだろうとひとまず結論付け、

目の前の(メイル)に集中する。彼女を“敵”として相手取ることになるとは

想像もしていなかったが、いざ正面に立つと、その威容にらしくもなく筋肉が緊張する。

 

彼女がこの殺し合いを企てた動機も、あのようなルールを敷いてショーのように

仕立て上げた目的も分からないままだが、今そこに思考を割いている時間はない。

 

 

◆6:この殺し合いは、メイル・アリアンロッドが死亡、

もしくはメイル・アリアンロッド以外の人間が全員死亡した時点で終了となる。

 

 

彼女を自ら手にかけることは現実的には可能だが、

わざわざルールとして明記しているあたり、

その“後”に何かが隠されている気がしてならない。ここは——

 

 

 

「……させねぇよ。まずはその口割らせてやる。

オレたちの命使って何するつもりなのか、洗いざらい吐いてもらおうか」

 

 

 

戦闘不能な状態にまで彼女を追い込み、この殺し合いの動機と目的——

全ての情報を、白日の下に引きずり出す。

 

 

………………

 

…………

 

……

 

 

22時55分

 

 

「……で、どうすんだよこっから」

 

8人と2頭が逃げおおせた先、3階フロアのフードコート。各々適当な席につき、

煤波羅の一言から今後の動き方についての検討を開始する。

 

「メイルのことは一旦夏生に任せる。

私たちが下手に周りでうろついてたら足手纏いだからな。それでいいか?」

 

短くまとめた真名巳に水を向けられ、アイルが難しい顔で頷く。

隣のフラウは雨頭目の応急処置を受けてなお痛む左手首を押さえつつ口を結んだまま、どこが心ここにあらず、といった表情をしていた。

 

「……フラウくん?」

 

撫切の呼びかけに少し遅れて「……あぁ」と答え、顔を上げる。

 

「異論はない。力量的にも、奴以上の適任はいないだろう……」

 

その声に普段メイルとやり取りをしているときのような覇気も、

彼女以外の皆に見せるようなトゲのある圧力もなく、

言葉には出さずとも、その内心は真名巳たちに容易く見透かされていた。

 

「…………」

 

無理もない。戦災孤児としてアリアンロッド家に拾われて以降、

親衛隊として、そして特務生徒会として生活と活動を共にしてきた自身の人生の指針、

命の恩人たる彼女が突然、自分たちの敵である“殺し合い”を企てる者へと反転、

明確な殺意と悪意を、真正面から見せつけてきたのだ。

 

「——ほんとに大丈夫?」

 

普段は他者の心の機微に鈍感な般若間もその沈痛な面持ちを前に眉を下げ、

いつになく真面目なトーンで彼の顔を覗き込む。

フラウは努めて声が震えないよう「あぁ」と返すが、

 

「嘘が下手すぎますよ、フラウ。そのような状態で、

冷静に話し合いなどできないでしょう」

 

そう諭す雨頭目の脳裏には、先刻提示されたル殺し合いのルール。

今のフラウの精神状態を放置しておけば、あのルールを本気にしかねない。

加えて気がかりなのは、今はまだ何も起きていないものの、

ドネーションを行った視聴者に与えられるという“特典”だ。

 

その中に自分たちに直接、または間接的に干渉するものが含まれていた場合、

今のフラウが狙い撃ちされれば最悪の事態を招きかねない。

今優先すべきは、彼の心のケア。

 

「……少し、時間をいただけますか?」

 

雨頭目がフラウの手を取り、席を外そうとする。

才能こそ“超高校級のハンドラー”である彼だが、

その先に目指しているのはさらに多くの人々の命を救う医者の道だ。

超高校級とまではいかないが、セラピストとしてのスキルも多少は会得している。

具体的な策を話し合う前に、まずは彼を「ダメだ」

 

「八咫莱さん……?」

 

椅子から腰を上げた雨頭目を制し、立ち上がった真名巳がフラウに向き直る。

 

「んな悠長なことしてる場合かよ。

フラウ、頭ん中ゴチャゴチャしてんなら、サクッと発散してこいよ」

 

言いながら、自身の背後を指す。

その親指の向いている先にあるのは、大型のテレビや

デジタルカメラなどが所狭しと並ぶ、家電量販店。

要領を得ない顔のフラウに、真名巳が続ける。

 

「“施設内の物品の破壊を禁ずる”なんてルールはなかったはずだ」

 

視線の先には、椅子に立てかけてあるマチェーテ。

フラウは彼女の言わんとしていることを理解し、フッと口元を緩ませた。

 

 

 

「……メイル様に見られたら勘当ものだな」

 

「そのメイル様が現在進行形でもっとヤベェことしてんだよ。気にすんな」

 

 

 

フラウがマチェーテを手に取り、雨頭目に「すまないな」と声をかけつつ

フードコートから離れていく。眼前の家電量販店は、

今や彼の頭と心に湧き積もった(ストレス)の受け皿たるレイジルーム。

敬愛する主であるメイルは、既に明確な“敵”となった——

受け入れがたいその事実との折り合いをつけるため、

彼はマチェーテをゆっくりと振り上げた。

 

 

………………

 

…………

 

……

 

 

まもなく背後から鳴り響き始めた怒号と破壊音をバックに、

真名巳たちはメイルの攻略と施設からの脱出の両面から、

具体的な方法と作戦を検討する話し合いを開始し——

 

 

23時16分

 

 

約20分後。ちょうど家電量販店が静かになったタイミングで、大枠での方針が決まった。

肩で息をしながらその輪に合流した弟の顔を見て、

アイルが少し驚いた表情を見せたのち、歯を見せて微笑む。

 

「……どう?」

 

フラウは計108点の大型テレビやノートPC、

調理器具に蛍光灯などの品々を錆として喰らったマチェーテを肩に乗せ、

 

 

 

「——絶好調」

 

 

 

一点の曇りもない表情でそう答えると姉の隣に立つ真名巳と視線を合わせ小さく頷き、

雨頭目とテツ、ギンもまた、彼の声と匂いから、

その内にあった負の沈殿物が霧消していることを確信した。

 

「それで、これからどうするんだ?」

 

マチェーテを降ろした彼に促され、

前に出た火零が来店客用のフロアガイドをテーブルの上に広げ『RRRRRR……』

 

 

唐突に鳴り響いた着信音に、その手が止まった。

スマートフォンのモバイル通信が不可能な状態にされていることは、

この場の全員が目を覚ましてすぐの段階で各々確認している。

 

鳴るはずのない音が鳴っているという不自然さに先ほどまでとは違う緊張感が走る中、

鳴動するスマートフォンの持ち主である般若間が、

パーカーのポケットからそれを取り出す。

画面上にはやはりアンテナの表示はなく、Wi-fiと繋がったわけでもない。

そして発信者名の表示は“Unknown”——

 

「え、何……?」

 

小さな画面に視線を落としたまま不安げに呟く彼女だったが、

万に一つ、警察関係者や、それこそ天坂からの着信の可能性もある。

無視という選択肢はなく、般若間は“応答”をタップして端末を耳に当てた。

 

「はい…………」

 

皆が見守る中、電話口の向こうから聞こえてくる声に耳を傾けること約20秒。

般若間の顔から次第に血の気が引き、25秒を過ぎたところで——

 

 

 

「——ッ!! マッジ……あぁッ最悪!! 最ッ悪!!」

 

 

 

“通話終了”をタップする間もなく、短い叫びと共にスマートフォンを力任せに投げ捨てた。

かわいらしい装飾の施されたケースが壁面との衝突で派手に割れ、

放射状にひびの入った画面を上にして床に転がる。

 

まだ通話中となっている端末からかすかに聞こえてくるのは、

般若間を呼んでいるようにも聞こえる男声の怒号と、荒く不規則な息遣い。

 

「はぁ……はぁ……“特典”って、そういうこと……?」

 

般若間は力なく床にしゃがみ込み、長い髪に震える指を通して搔きむしる。

 

「般若間さん……?」

 

すかさず雨頭目が膝をついて何があったのかを聞こうとするが、

彼女が耳にした内容が、口に出すことも憚られる悪辣かつ醜悪極まるモノであることは、

その表情と瞳の震えから明らかだった。

 

 

◆5:殺し合いの視聴者にはドネーション(投げ銭)の額に応じた特典が与えられる

(特典内容は参加者には開示されない)。

 

 

撫切とアイルが雨頭目に代わって般若間に寄り添い、

彼はちらと視線を投げた先で未だ喚き声と不快な水音を漏らす端末に向け指を差し、

 

「ギン……噛み潰せ」

 

明確な怒りを込めた声でそう命じた。

彼の背後から飛び出したギンはスマートフォンを起用に口で拾い上げると、

 

 

 

『……ッ!! んだろッ!! 俺の——』

 

バツン。

 

 

 

その鋭く尖った牙で端末の薄いボディを()し折り黙らせると、

真っ二つになったそれを一瞥して主人の元へ。

般若間が2人の手を借り立ち上がり、雨頭目に礼を伝えたところで、彼らの背後、

フラウが破壊の限りを尽くした家電量販店で未だ原形を保っていたテレビモニターが、

床に落ちた状態のままひとりでに起動する。ほどなくして聞こえてきたのは、

 

《今のは、合計¥500,000のドネーションを行った視聴者への特典——

“任意の参加者との音声通信権”だ。時間制限は30秒……

無理に壊さずとも少し待てば通話は終了したというのに、貴重な端末を失ってしまったな》

 

液晶が割れ、断片的に黒いノイズの走る画面の中でそう語るM.O.N.O.の声。

 

「……チッ。スマホが残ってたら、また(おんな)じような変態野郎からの電話が

何度も来るってことでしょ。ブッ壊して正解だよ」

 

そう食って掛かるアイルの表情には弟やメイルを守る際のそれとは似て非なる、

鋭利に尖った敵意が込められていた。

前髪がはらりと揺れ落ち、その狭間から覗く双眸に深い影が差す。

 

 

 

《怖い顔をするなよ。どう捉えるかは勝手だが、君たちの「どこにいんだよ」

 

 

 

真名巳がテレビモニターを踏みつけ、M.O.N.O.がアイルに返そうとした言葉を中断させる。

更に体重をかけ液晶にヒビを増やしながら、温度のない声で続けて問う。

 

「答えろよ。私たちのこと観てる奴らはどこにいる」

 

次第に大きくなるミシミシという音の隙間から、M.O.N.O.が掠れ声を返す。

 

《……ふふ。存外近くにいるかもしれないぞ? もっとも、正確な場所も人数も、

ワタシは把握していないがね。言っただろう? ワタシはただの“監視役(モニター)”だ。

この殺し合いの展開に直接介入することも、

君たちとメイル、どちらかの側に与することもない……無力な第三者さ》

 

質問に答えた流れで語られた内容に、真名巳の背後で火零が眉を動かす。

 

「では貴方は……スタンスとしては“中立”だと?」

 

《あぁ。元より私は、メイルの所有物というわけでもない。

どちらかと言えばむしろ……ワタシは君たちの側の存在だ》

 

「……ど、どういう意味だよ」

 

不安げに自身の手首を握る煤波羅の声に反応し、

明滅を繰り返すテレビモニターの中、M.O.N.O.は淡々と続けていく。

 

 

《——今のワタシは、いわゆる“切れ端”のようなものでね。

本体である量子AIは既に壊れて……いや、壊されている、と言った方が正確かな》

 

聞き慣れない単語の登場はひとまずスルーし「壊されて……て、誰に?」

と返したアイルに、M.O.N.O.が少し間を置いて答える。

 

《無論、メイルだ。本来のワタシは、到底ひとりの人間に扱えるようなモノではない。

破壊したうえで欲しい機能だけをサルベージし、彼女はワタシを手中に収めたんだ》

 

「…………」

 

M.O.N.O.とメイルの間にいつ、何があったのかは判然としないが、

彼の語る内容を真として採用するならば——雨頭目が顎に手を当て

「……どうして、彼女はそんなことを——」とこぼした声に、

 

《さぁね。これも言っただろう?

ワタシに与えられた役割は“監視役(モニター)だ。彼女が何を目的として

何をするつもりなのか……詳しい情報は一切、ワタシには共有されていない》

 

M.O.N.O.は今までよりも少しだけ穏やかな口調で答え、

ほどなくしてテレビモニターはぷつりとブラックアウトし事切れた。

すぐさま彼は棚の上で無傷のままディスプレイされていたPCモニターに移動すると、

 

《……今のワタシに残された機能は、今しているようなテキストベースの会話と、

この施設における監視カメラの操作権限。それだけだよ》

 

「…………」

 

つらつらと語られ明かされた真偽定かならぬ情報の断片に戸惑うばかりの一同。

そんな中、火零はひとり前に出ると、

 

「……その割には、随分と表情というか……感情が豊かですね。まるで……」

 

《……?》

 

一歩一歩PCモニターに近づき、その瞳にM.O.N.O.の姿を映しながら、

その3頭身のモデルの“向こう”を覗き込むように小首を傾げ、囁くように告げた。

 

 

 

「——人間みたいだ」

 

 

 

 

………………

 

…………

 

……

 

《……ふふ》

 

しばしの沈黙の後、M.O.N.O.が静かに瞳を閉じる。

 

 

 

《隠し通せると思っていたんだが……慧眼だね、その通りだよ。

このような形になってもなお“魂”の所在を見抜くとは……流石に“超高校級の僧侶”だ》

 

 

 

「…………」

 

対する火零に表情の変化はなく、ただM.O.N.O.を見据える。

 

《そう。ワタシはかつて君たちと同じ、生きたひとりの人間だった……

しかし不幸なことに、道半ばで殺されてしまってね。

やり残しがあまりに多かったもので、こうして輪廻転生を果たし——》

 

「…………」

 

《……すまない、冗談が過ぎた。ただ、やり残しが多かったというのは本当だ。

輪廻転生は叶わなかったが、保険を残すことはできた。

命が狙われていることを察知したワタシは自分自身の脳を……脳を構築している情報を、

量子AIを用い、データとしてクラウド上に保存し、人格のコピーを生成した》

 

「……アルターエゴ、ってやつか」

 

呟く真名巳に頷き、続ける。

 

《あぁ。そしてワタシの死後ほどなくして、メイルが量子AIを破壊し、

その一部を殺し合いの監視役(モニター)としてサルベージした。

アルターエゴとしてのワタシは量子AIを用いて生成された人格だったから、

その動きも正確にではないが察知できた。手を出したのがメイルだということもね。

そこでワタシはこの繋がりを手繰り、監視役(モニター)と簡単な会話機能だけを

与えられた量子AIの切れ端に、安っぽい言葉だが“乗り移った”のさ》

 

「……なぜだ」

 

ここで、フラウが口を開く。

自白するように語るM.O.N.O.——正確にはその向こう側にいる“何者か”はなぜ、

何が目的でそのような行動に出たのか。目の前の“彼”は、何を知っているのか。

 

 

 

 

《……止めたかったのさ。メイル(あの子)の凶行を》

 

 

 

「…………?」

 

明らかに毒気の抜けたその声に、真名巳たちの表情からも一瞬、警戒心が消え失せる。

次の言葉を待つ皆に対し、M.O.N.O.はゆっくりと、言い聞かせるように告げた。

 

《動機や目的、その内容は不明だが……彼女のやろうとしていることは、

ワタシが生きた世界に、君たちが生きる世界に、大きな仇をなすものだ。

もし実行されれば、世界は様変わりしてしまうだろう。それだけの力を、

今の彼女は持っている。しかし先も言った通り、今のワタシは“無力な第三者”だ。

できることは限られている。殺し合いのシステム自体は、彼女の管轄だからね。

だからこそ——》

 

感情の乗った口調に気圧されるように、雨頭目や般若間の額を汗が滑り落ちる。

8人と2頭の視線が注がれる中、彼ははっきりと、

 

 

 

《……だからこそ、君たち特務生徒会に、正式に依頼したい。

どうか彼女を……メイル・アリアンロッドを——》

 

 

 

 

 

 

《……ワタシ()の娘を、止めてくれ》

 

 

 

 

血の通った、心からの言葉を口にした。

 

 

#5へ続く

 

 

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