偽りの零能者~キャンセルで第三勢力ポエマーとなる~ 作:たいやき三世
能ある鷹は爪を隠す――良い言葉だ。
「……」
「「「――!」」」
大和帝国の帝都にある帝立第壱守人学校。
十五の歳となり、俺は能力者としてこの学校への入学を許された。
いや、許されたというよりは強制されたが正しいだろう。
現代では、特別な力を持った存在たちを能力者と呼ぶ。
彼らは戦時中には帝国の為に戦争の最前線へと送られて。
無敗の力を有し、大和帝国を世界の支配者とも呼ばせるほどの強国にした。
……が、それも過去の話だ。
第88第統治者である
第89第統治者として“娘”の森羅様が帝になられた。
当時はかなり騒がれた事で、何せ初の女性の帝であるからだ。
が、あの方は齢10歳で誰もが統治者として認めるほどの才を有しておられた。
だからこそ、反対派の意見もねじ伏せて、そのまま帝となり――現在、帝国は更に発展していた。
昔の他国を仮想敵として定めた軍国主義は終わり。
神羅帝が御作りになられた異文化を学び吸収する考え。
それによって、帝国にも他国の文化が流行り。
今となっては外国人も当たり前のように歩いていた。
たった十五年の出来事であり……まぁそれはいい。
俺は教室の中で、黙々とこてこてのラノベを読む。
瓶底のような眼鏡に七三訳で。
明らかながり勉の風貌であるが、俺はこの中の誰よりも――劣っている事になっている。
「――あ、いたいたぁ。ちょっとぉ、おーい。零能者の豚ぁ♡」
教室の扉を開けて入って来たのは――戦闘科第二班の
赤毛のツインテールに、猫のような細めた目で瞳は赤。
胸はまな板であり、身長は目算で158といったところだ。
守人の制服であり、戦闘服でもあるそれは“赤色”で。
能力の強さを“色別”によって制服で表しているからこそ、誰しもがこの女を見て――恐怖する。
そんな彼女が好戦的な笑みを浮かべながら俺の隣に立ち。
げしりと机を蹴れば――俺は怯えた目を彼女に向ける。
「あ、明沢さん。お、おは――うべ!?」
挨拶しようとすれば、手に持っていた馬用の鞭で叩かれた。
彼女は嬉しそうな顔をして俺を嘲る。
「ちょっとぉ。なぁに勝手に挨拶しようとしてんのぉ? アンタの言葉は……ぶひ、でしょ♡」
「あ、ぶ、ブヒ!」
「ぷ、ふふふ……てかさぁ。言わないといけないのかなぁ?」
彼女は片手をひらひらとさせる。
俺は今気づいたと言わんばかりに慌てて鞄を開けて――ノートを渡す。
「……ふーん。まぁまぁかなぁ……じゃ、次もよろしくねぇ」
「う、うん。いや、ブヒ!」
「ふふ、じゃあねー豚ぁ♡」
「「「……っ」」」
彼女はそのまま教室から出て行く。
俺は小さくため息を吐いた……良いぞ。
俺の思い描いていた通りの――学校生活だ。
顔を伏せて、ほくそ笑んでいれば――クラスメイト達が近寄って来る。
「た、田沢君? 大丈夫?」
「嫌だったら嫌って言ってもいいんだよ? 明沢さんだって、田沢君が何も言わないから面白がってるだけで……」
「……いや、私たちが助けないのも悪いよ。ごめんね」
「皆……ありがとう。でも、俺は大丈夫だから、ね?」
「「「……っ」」」
心優しいクラスメイト達。
彼らの真っすぐな心に感謝はする。
が、俺にとってはこのまま明沢にいいように使われていた方が好都合なんだ。
先ほど、奴が俺に対して言っていた言葉――零能者だ。
アレは別に侮辱で使われているだけのものじゃない。
俺の能力そのものを表す言葉で。
端的に言えば、俺には――能力が無い。
赤子の時の診断では能力があると判断された。
が、どのような能力かを調べる為に行われた五歳の検査では能力は不明であった。
いや、実際には検査では何も起こらなかったのだ。
つまり、赤子の時の診断が間違いで。
それを認めたくないからこそ、能力不明者として俺は此処にいる。
色別によって能力の強さを制服の色で判別するこの学校において。
俺の制服の色は“黒”。
黒は最強である者しか身に着ける事が許されないが。
俺の制服はただの学ランだった。
識別できないからこそ、平凡な制服を支給されているだけだ。
不満は無い。
寧ろ、俺はこうなるように三歳の時点から――仕込んでおいたのだ。
無垢な赤子では診断を防ぐ事は出来なかった。
しかし、一歳になる頃には俺は己の能力を正しく理解していた。
そうして、三歳になるまでにほぼ完ぺきに己の能力を支配し。
五歳になった時の検査では、見事に能力が無いように仕向ける事に成功した。
結果、俺は一般人の小学中学に類する戦闘指南学舎では零能者と呼ばれて虐げられた。
能力もない癖に、守人になる為の技術を学ぶ異端者。
帝国で育った能力主義の人間たちにとってみれば、俺は道端の糞ほど汚く映っただろう。
校舎裏でボコボコにされて。
パシリに使われて、雑務を押し付けられて――心が躍ったよ。
俺は別に痛めつけられる事に興奮を覚えている訳じゃない。
これは料理を作る前の下ごしらえのようなものだ。
俺というこの世のカスが。
実際には、最強をも上回る――強者であればどうだ?
今まで見下していたカス野郎が。
自分よりも遥か上の存在で。
手も足も出なかったような敵を瞬殺する……あぁ良いじゃないか!!
素晴らしい光景。
俺はそういったシチュエーションが大好きなんだ。
……が、まだその時ではない。
入念に準備はしてきた。
正体を明かすのはずっと先だが。
その前に、俺は俺で正体を隠して暗躍する。
俺がバトル系のラノベを参考に思い描いた立ち回り。
主人公と敵組織とは別の――第三勢力を演じる。
フィクサーのようなものであるながら、場をかき乱す存在だ。
俺はその存在に感銘を受けて、七歳の頃よりとある都市伝説を広めていた。
ネットの掲示板であったり、関係ないような張り紙など。
至る所で、俺は世界の真理を知る男――ロゼを広めた。
ロゼとは、影の支配者であり。
全知全能の神的なあれだ。
本気になれば、世界を葬り去る事が出来る力を有している。
が、彼はそんな事はしない。
彼の目的はこの世界を観察し、新たな支配者を見つける事なのだ、と。
最初は誰も信じなかった。
馬鹿にされて、玩具にもされていた。
が、俺が隠れてロゼとして動いてみれば。
少しずつロゼの事を探そうとする人間が現れ始めた。
今では、ロゼを信奉する人間も出始めており……そろそろだ。
下ごしらえも本格的に進める。
先ずは、ロゼという存在を――知らしめよう。
俺はそんな事を考えて――警報が鳴り響く。
《帝都拾番街にて堕落者の出現を確認。戦闘科第二班並びに、後方支援科第二班は現場に急行されたし。繰り返す――》
「「「……」」」
全員が無言で動き出す。
誰しもが不安げな表情ではある。
それもその筈であり、俺たちは戦闘科でも後方支援科でもない――救護支援科だ。
救護支援科は、とどのつまり落ちこぼれの集まりだ。
戦闘能力は無く、専門的な知識もないからこそ治療なども出来ない。
が、能力はあるからこそせめて肉体労働で活躍しろと作られたのが此処だ。
彼らが優しいのは、自分たちも虐げられていたからだ。
傷の舐め合いであり、悲しい事ではある。
彼らが戦う事は無いだろうが。
堕落者たちが近くにいる場所で活動するんだ。
死のリスクは一般人よりも遥かに高い。
……まぁ、俺としては美味しいポジションではある。
俺も立ち上がり、教室の後方にあるライフルなどを携帯し。
そのまま同じ班であるクラスメイトたちと行動を共にする――
+++
《此方戦闘科第二班!! 堕落者の進化を確認!! 増援を求む!! 増援を送ってくれ!! 俺たちじゃ対処――
「……」
瓦礫の上に座り、戦闘科の人間の無線を聞く。
最後はぶつりと消えていて、恐らくは死んだんだろうと思った。
俺の班の仲間たちは、取り残された市民の救助などで忙しい。
先ほど、俺にとっては都合の良い事に堕落者の“眷属”と遭遇し。
俺は仲間たちを逃がす為に囮になった。
きっと彼らは俺が死んだだろうと思っているだろう。
もしも、生きて帰れば……良いじゃないか。
俺はくつくつと笑う。
そうして、拾った無線を瓦礫の傍に落ちていた誰かの手の上にそっと置いた。
肩を軽く鳴らし、眼鏡を外して学ランの下のポーチの中に仕舞う。
小さなポーチの奥へと手を突っ込んで――純白のローブを出す。
それらはひらひらと宙を舞い。
一瞬にして俺の体に巻き付いて――ロゼの装束となった。
ローブの一部は俺の顔を隠す白銀の仮面となる。
声にもノイズが掛かり、これでもう俺が誰かは分からない。
隠れて堕落者を狩り。
裏へと回した事で得た金だが。
それを使って、上位の堕落者の素材を使って作られた“特殊戦闘着”が買えた。
後は残った金で買った“ガマの口”と呼ばれる特殊な鞄があれば……何処ででもロゼになれる。
俺はゆっくりと歩き出し――“突如、街の中に躍り出た”。
「さぁショータイムだ」
「「「……!?」」」
移動の短縮で能力を使ったが。
どうやら、戦闘域が此処まで伸びて――堕落者の攻撃が迫る。
俺はそれを見つめて――奴の横に移動する。
奴の攻撃はそのまま地面にぶち当たり。
土煙が待って、亀裂が走った。
かなりの衝撃であり、その威力は正に進化を果たしたばかりの堕落者のそれだ。
戦闘科の人間たちが距離を離し、俺と敵を警戒する。
俺はそんな彼らを無視しながら、堕落者を観察した。
今回の堕落者は、ライオン……いや、猫の形態か。
人と猫が混じり合った不気味な姿。
顔は人間であり、体は猫。
体から無数の骨が飛び出し、その目は針で縫い付けられていた。
周りには同じような姿だが小型である眷属も確認できる。
進化を果たしたのなら能力を使うだろうが――奴が叫ぶ。
「ぐぅ、あああぁ!?」
「頭がぁぁぁ!!!」
「いやぁぁぁぁ!!?」
超音波だ。
空気を震わせるほどの威力。
それによって、耳を塞いだ状態であっても第二班の人間たちは苦しんでいた。
俺はと言えば、耳から血を流しながらも平然としている。
「……ふーん」
そんな奴の攻撃を体で感じて――“キャンセル”。
瞬間、耳は元に戻る。
そうして、奴の攻撃も――キャンセル。
「……!?」
奴は戸惑っていた。
それもそうだ。
能力を発動していた筈が、何もしていなかったんだからな。
俺はそんな奴を見ながら、拳を掲げて――瞬間、奴の胴体に無数の風穴が開く。
「……え?」
「うそ、だろ?」
第二班が驚いている。
が、俺は平然としていて――瞬間、死にかけの堕落者が走り出す。
その眼前には、呆気に取られたままで固まっている――明沢がいた。
「――ぃ!?」
彼女はハッとした。
が、時既に遅しであり、彼女は堕落者の口に――入らない。
「――え?」
「……怪我はないか?」
俺は彼女を横抱きにしていた。
そうして、背後で堕落者が木っ端みじんとなり地に伏す。
明沢はぼけぇっと俺を見つめていた。
俺は彼女をゆっくりと地面におろす。
そうして、ロゼとしての仕事は終わりだと帰ろうとし――
「ま、待って! 貴方は一体」
明沢は問いかけて来る。
俺は足を止めて振り返り――
「ロゼ。ただのロゼだ。可憐な花よ」
「……っ!」
俺が言葉を吐けば、彼女はぽっと顔を赤らめる。
俺はそのまま能力を使い――ビルの中のトイレにいた。
「ふぅ、まぁこんなところか……くくく」
ロゼとして初めて守人の目に触れた。
なり立てであり、歴戦の猛者たちではないが。
それでも、ようやく表舞台にロゼを出せた。
さぁ、明日からどうなるのか。
これから第三勢力として、俺は大いに場をかき乱そう。