When The "Saints" Go Marching In Ivalice   作:N22b

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17 Ready to cross the moutain range

B.B.760 4月1日 ユーリエフ村(旧:集落EB-14D)

 

 アジョラ達がこの集落に訪れてから1か月が経とうとしていた。街区の外側に広がる湿地帯では、村の男達が使徒セレーナの召喚獣の力を借りながら鍬を振るっている。差し当たって500人が自活できる程度の農地を整備した。土地柄を踏まえ、当面の間、植えるのは小麦ではなく米やサトイモ、レンコン等、湿地帯に適した作物を選んだ。収穫までの当面の食料は、既に開拓され、収穫を迎えた周辺集落からの提供を受けていた。「神の御子」の求めとあっては、断る集落などなかった。つい2年ほど前までは、自分達も似たような惨めな生活を送っていたのだ。鍬を振るう男達の中には、そんな周辺集落から集まってきた有志の者達もいた。アジョラや使徒達はそんな彼らを「天の国に最も近い者達」と褒めそやした。村には名前が付けられた。いくつかの候補が挙げられたが、「赤子ユーリが復活した奇跡」を記念して、ユーリエフとされた。ユーリエフの住人達にとって、この一か月は奇跡の連続だったが、アジョラ達にとってはこの3年ばかり、多少のアレンジを加えながら何度も繰り返してきたスキームであった。使徒たちの連携もいつも通り。ただひとつの例外、アドルフ・ゲルモニークの存在を除いて。

 あの「芋煮会」の後、アジョラに「保護」されたアドルフの処遇が彼女と使徒達との間で話し合われた。腹を満たし、安らかな顔で眠るアドルフを脇に置いて、13人が車座になって頭を捻る。当時、アドルフを引き取れるような余裕のある集落の住人はいなかった。既に開拓済みの集落で引き取らせる案も浮かんだが、当のアドルフ本人はアジョラ達と居ることを強く望んでいた。曰く、「僕を暗闇の底からすくい上げてくださった「天女様」のお側でお仕えしたい。」とのこと。まだ幼さを残した顔で琥珀のような目を潤ませながら懇願され、アジョラは動揺を隠すので精一杯という有り様だった。しかしそうなれば、これまで「作戦要員」で占められていた使徒メンバーに初めて「部外者」が入り込むことになる。作戦保全はどうするのか?そもそも彼に対する振る舞いからしてどうするのか?アジョラと使徒達はこれまで「内輪ではフランクに、外向きには厳粛に」のスタンスでやってきたのだ。彼を身近に置きながら、彼にだけ取ってつけたように厳粛な態度を演じる事などできるのか?ベルベニア組(旧マフディ団)とシルバニア組の双方から色々と意見が出たものの、出た結論は「リーダーに任せる。」であった。結局、アジョラはアドルフを同行させることを決めた。作戦保全には気を付けつつ、触れ合い方については、使徒達と同じように自然体で。何をしてもらうかは、今後、「何が出来るのか」を見定めてから決めていけば良い。セレーナが薄ら笑いを浮かべ、筒状にした手を上下に動かしながら「教祖サマなんて、ストレスたまるものねぇ。イタズラしちゃうつもりかしら?」とはやし立てる。アジョラは目をまん丸にしながら「何いってんのさ!このウサビッチ!!」と一喝したが、セレーナは「だって彼、可愛いじゃん。昔、アタシがいた置屋じゃあ、あんな子はそりゃもう老若男女問わず大人気だったもの。」と悪びれもせずに長い耳をハタハタと振った。

「出たよ。召喚士サマの娼館(しょうかん)トークだ。」

サドルが悪ノリする。車座が笑いに包まれた。

 翌朝、目覚めたアドルフがヨシフに呼ばれてアジョラの居室の扉を開けると、そこには椅子に腰掛けたアジョラと数人の使徒達。アジョラは「はぁい」と軽い調子でアドルフに呼びかけると手をヒラヒラと振った。椅子から立ち上がりアドルフの前に進み出ると、顔をずいと彼の目の前に突き出す。

「よーく寝れたかしら?」

住民達の前で見せる格式張った物言い、態度とのあまりの違いに戸惑ったのか、アドルフは目を丸くして固まってしまった。アジョラは少しばかり考える素振りを見せた後、アドルフに語りかける。

「あー、うん。大体、キミの考えてるコトは分かるよ?「一体なんだ、この軽薄な態度は?目の前にいるのは昨日と同じ人間なのか?僕はペテンにでもあったのか?」とか、そんな感じ?まぁ、コレにはワケがあるのよ。正直言うとね、今のコレが素のアタシ。でもね、考えてもみて?こんな調子で父様・・・ああ、これは神様のことね。その神の御言葉を伝えたってさ、多分、皆、マトモには取り合ってくれないよね。有り難みがないというか・・・こういうのって、やっぱり厳粛さとか威厳が求められると思うのよ。皆もきっとそれを期待してる。力強く、自分達を率いてくれる、ってキャラクターをね。だから、父様が私に託した言葉を伝える時や、皆を率いる時なんかはしっかりと求められる姿を演じるの・・・わかる、かな?」

早口でまくし立てた後、頭を掻きながらアドルフの反応を見る。果たして目の前のアドルフは一寸固まったままでいたが、やがて瞬きをするとニッコリと笑ってみせた。

「はい・・・はい、分かります。クラウンと同じですよね?」

「クラウン?」

「あ、サーカスのクラウン、道化師です。クラウンの人達って、実はとても気難しい人達が多いんです。お笑いなんか大嫌いって人も珍しくないんですよ。でも、だからこそ、何をすれば人が笑うのかがよく分かるんだそうです。自分は見聞きするのもイヤなことを演ればウケるんだって。で、丸盆の上では見事にひょうきんなクラウンを演じきるんですよ。そんな、感じですかね?」

今度はアドルフが首をかしげながらアジョラに問うた。

「あーうん。きっとそう。いや、アタシはそこまで極端じゃあないけど、まあ、使命を帯びた身ではあるからね。キミが言ったように、プロのクラウンと同じく、演る時はちゃんと演らなきゃいけないわけですよ。」

そう答えるとアジョラはアドルフの肩に手を置いた。「でもね。私が選んだ使徒の皆といる時はやっぱり自然体でいたいわけ。父様の言葉を一緒に形にしていくために、胸を開いて話し合わなきゃだからね。キミはちょっと事情が違うんだけれど、まあ、距離的に、こう近いとね。もう使徒みたいなもんだよね。だから、キミとはコレでいくことにした。」

アドルフは少しばかり戸惑った様な顔で、照れくさそうに目を泳がしている。

「キミが近くに居たい、ってゴネるからこうしたのよ?わかってる?」

そう言うとアジョラは人差し指で優しくアドルフの額を小突いた。

「あ、はい!あ、ありがとうございます!」

アドルフは恥ずかしそうにそう言うとペコリとお辞儀をした。

「あの、やっぱりコレって外向きには・・・」

「当然、ヒミツです。言ったでしょ?「神の御子」に厳粛さと力強さを求めている人達の期待を裏切っちゃあ、いけないわ。そこは気をつけてね!」

そう言うとアジョラは奥から椅子を引っ張り出してアドルフに促した。

「さ、座って。面接よ。」

「面接?」

「キミのこれまでのこととか、色々聞いた上で、やってもらう仕事を決めなきゃね。キミは・・・11、12歳くらい?でも、お子様扱いはしないからね。」

そう言われたアドルフは子猿の様に素早く椅子に腰掛けると背筋をピンと伸ばした。

「はい!あらためまして、アドルフ・ゲルモニークと申します!年はじゅう・・・11です。もうすぐで12になる・・・と、思います。多分。」

 

同年 8月15日

 その日は、アジョラ達がユーリエフ村を離れる日だった。彼女達はユーリエフの周辺の農地を復元し、最初の収穫までの算段を付けた。街区には井戸と水道を作り、清潔に暮らすためのインフラを整えた。さらに、ユーリエフを拠点に、似たような境遇のいくつかの周辺集落にも来訪し、概ね同じ手順で復興をプロデュースすると共に、住民達の帰依を得た。ユーリエフ村では、後は村長以下、村の執行部が下部組織として運営を任せられる状態にまで仕上がっていた。元が盗賊団だけに組織立って行動するのは得意だったのだ。食料は未だに外部からの供給に頼っていたが、住民達の顔は一様に明るかった。先行して豊かになった西ランベリーの集落群とも繋がりが出来、既に孤立集落ではなくなっていたからだ。最初の収穫までは、西ランベリー集落群の収穫やその他諸々、人手が必要な作業に男達を送り込み、手当として当面の食料を得るのだ。織機を購入し、女達は織物に精を出した。繊維は外部から取り寄せ、加工の手間賃を取るのだ。現金収入は心強かった。

 ユーリエフの住民達の心に余裕が出てきたのを象徴していたのが、アドルフに対する態度の変化だった。アドルフは教団の小間使いとして、アジョラや使徒達に諸々の雑用を預かってはユーリエフの街区や農地を駆けずり回っていた。アドルフがコソ泥の様に配給の食料をくすねようとした記憶も新たな最初の頃は怪訝な目で見ていた住民達だったが、「御子様」の使いとして健気に走り回る姿に徐々に心を許していった。やがて村の将来に展望が見えてくるようになると、笑顔で彼に接する住人も増え、同い年位の子供達が彼を遊びに誘ったりもしてくるようになった。ある時、アジョラが出し抜けに「アドルフという名前はどうにも堅い」と言い出し、「アディ」と略して呼ぶようになると、使徒達や村人までもが彼を「アディ」の愛称で呼ぶようになった。仕事でミスをすることもあったが、基本、健気な頑張り屋のアディは、「御子様のご一行」の中にあって、おいそれとは近寄り難いアジョラや使徒達とは違い、触れ合い易い存在として住民達の人気者になっていった。ある時、住民のお産に白湯が必要になった時、水汲みを買って出たアドルフが井戸に落ちてしまった時などは、100人近い村人達が救助に駆けつけたほどだった。

 そんなユーリエフ村の「成長」を見届けたアジョラ一行は、遂に山脈の「西側」に進出することにしたのだ。ベルベニアの様な基幹都市もなく、ユードラから棄民同然に身一つで追いやられたキルティア教徒達が多い山脈の西側が概ね東側より貧しいことは、東側の住民達も何となく共通認識として持っていた。それ故、「我等が御子様」が東側を離れることに抵抗はありつつも、西側の同胞達を救済に向かおうとするアジョラ達を押し留めることはしなかった。使徒達の内、5人を後発隊として残し、アドルフを含む8人が荷物をまとめ、広場に集まる。村人がほぼ総出で見送りの態勢を取っていた。婦人たちがアドルフへの餞別にと、なけなしの現金収入で買った菓子を次々と渡していく。子供達もまた、別れを惜しむようにアドルフを囲むと、同い年位の子らは「また、会おう」といってその手を握った。年端の行かぬ子らは、それぞれが思いのままに描いた手紙をアジョラ達に手渡していった。アドルフがローザという4歳の女の子から手渡された拙い四つ折りの広告用紙の裏紙を開くと、そこには色とりどりのクレヨンで描かれた2人の肖像があった。絵だけを見ても誰だかよく分からなかったが、それぞれの横には同じく拙い字で「アディ」、「ローザ」と書かれていた。字はアドルフが教えたのだ。

 アドルフの脳裏に、初めて子供達にクレヨンと紙を渡した時の光景が蘇った。あの喜びようったら!それまで子供達は絵を描きたければ廃屋の漆喰壁に木炭の欠片で描くか、それすらない時は石と木の棒で地面に描いていたのだ。それでも子供達は精一杯あるもので楽しんでいたが、ある時、ベルベニアの有志がチビたクレヨンの山と雑用紙の束を寄付してきたのだった。その日を境に、子供達の絵は黒一色から極彩色に変わった。アドルフが子供達に字を教えると、彼らは無数に絵手紙を書いては交換しあうようになった。古い絵本などが寄付されると、子供達は年上・年下の別なく競ってアドルフに読み方を教わりに来た。アドルフは時に絵本の読み聞かせ会まで企画した。劇団仕込みの朗読術は時に大人まで聞きに来るほどだった。アジョラや使徒達は村の復興と運営に忙しく、子供達の相手ができるのはアドルフだけだったのだ。寄付された児童書にセレーナとサドルがこっそり、少しばかりの「成年用」の写真集や漫画を混ぜ込んだ(彼女達曰く「10歳越えたら一番アガるのはコレ」「どこの子供クランでも結局、こういうのが一番の「宝物」になる」)のだが、対象年齢を考慮した上での子供達への仕分けと配布を担当したのはアドルフだったため、それら「大人の絵本」の手柄もまた、彼のものとなった。今や「神の御子」アジョラを奉じる大人達とは関係なく、ユーリエフの子供達にとって一番のヒーローは「読み書きの先生」であり「絵本のお兄さん」、そして「エロの伝道師」でもあるアドルフだった。

 そんな子供たちがアドルフとの別れを惜しまないはずはなく、7つに満たない子らなどは泣きながら彼にすがった。アドルフ、いやリュビにとってそれは全く新しい経験だった。かつて特別用務員付の「乳幼児タレント」として浸透先の子供達やその親達と交流を持ったことが無いわけではなかったが、それら全ては任務上必要とされる最低限の、ごく表層的な付き合い程度のものだった。特段、情を交わすこともなければ、去り際などは保護者役の特別用務員の任務が終了するか任期が切れれば、挨拶もなしに荷物をまとめて消え去るだけだった。だが、今、彼は自らの心の中に、味わった事のない感情を覚えていた。「親しき人との別離」の場面ならば劇団でイヤと偉うほど演練したはずだった。ト書きの字面と理屈では登場人物達の心情を完全に理解し、それを踏まえて演じれば誰もが感嘆し、拍手してくれたものだ。だが、それらの時に、今、実際に感じている様な感覚を覚えることはなかった。今回も彼自身は特別に情を込めたつもりではなく、ただ、置かれた状況、与えられた物資で最も効果を発揮するやり方を選んできただけのつもりだったのだが、それが人々の熱い「情念」という形で返ってきた・・・少しむず痒いが、体の中の今まで空っぽだった部分、今までそこに空間があることさえ知らなかったその部分に「情念」が注ぎ込まれていく。温かな、少なくとも悪くはない感覚・・・。正直、この感覚をどう処理すれば良いのか戸惑ったが、表面上は劇団仕込みの演技力で年のいった子供達には別離の寂しさと再会の約束を伝えて拳を合わせ、すがってくる幼児達には優しく頭を撫でて抱擁し・・・と、模範的な対応で返していく。

 やがてそれも一段落すると、アジョラと使徒達も大人達との挨拶を終え、出立しようとするところだった。アドルフはローブを被るとチョコボの背にまたがる。この年でチョコボを乗りこなせる特殊性は「サーカス団で仕込まれたので」の一言で納得させた。

朝日を背に受けて一行は西にそびえる山脈、正確にはその向こうへと歩を進めていった。

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