When The "Saints" Go Marching In Ivalice 作:N22b
B.B 760 6月25日 ランベリー城
築城から300年以上経ちながら大理石で覆われた白亜の美しさを保つランベリー城、かつて若年騎士団員の詰所として使われたその一角が、現在の同盟諸国統合陸軍幕僚監部戦力整備部の幕僚執務室だった。事務室の扉が乱暴に開くと、高さ2メートルはあるカーボン製の強化外骨格に身を包んだ一人のモーグリが大股で部屋を突っ切る。執務室の中央奥手にしつらえられたマホガニー製のデスクに外骨格を着込んだままこれまた乱暴に腰掛けた。デスクには「戦力整備計画課長 大佐 リィ・アメミヤ」の表札。その様子を部屋の隅のデスクから遠目に見ていた幕僚達が小声でささやき合う。
「あー、課長、今日はダメだな・・・一日、「狂犬」モードだよ。」
「マジかよ・・・俺、午後に報告あるんだぜ?ああ・・・」
「昇任人事の決裁が出たからな。大方、また同期か後輩に抜かれたんだよ。しばらくは特別、機嫌が悪いぞ。半年前もおんなじだった。」
「でも半年前はあんなアーマー付けてなかったぞ?ネルベスカの試作モニター品らしいけど、誰だよ?よりによって「狂犬アメミヤ」に渡すなんて・・・」
「コレまでは罵声だけだったのが、アーマーのせいで手まで出るようになったからな。」
「この半年で3人潰れた・・・早くどっかに転出してくれないかな?」
「ダメだよ。戦闘部隊に置いたら致命的に士気にかかわるってんで、どこからも総スカン食らってるらしい。」
「補職困難指揮官ってか。そりゃ、部隊の気持ちもわかるけどさ。幕僚監部だって同じだよ。とっとと陸軍大学にでも行ってくれ・・・」
部下達から「狂犬」と呼ばれたアメミヤ本人はマスタースレイブ式のアーマーを器用に操作して未決文書の束を手繰り寄せると目を通してはモーグリ特有の甲高い大声で担当者を呼び付ける。いずれも指導内容は至ってシンプル。「ダメだ」「やり直し」「意味が分からん」等々、最も有り難い指導は「合議欄の印章の角度が曲がっている。回覧し直せ。」であった(なお、「指導」を受けた文書類の内、半分は後日、機嫌の良い時にそのまま見せたところ、何のケチもつかずに裁可された)。
ひとしきり文書類を捌き部下達を追い散らすと手元の端末を立ち上げる。
「何だってシュワルナゼの野郎なんかが俺より先に・・・!」
小声でブツブツと独り言ちりながら文書データベースを立ち上げた。検索機能の文書関係者欄に「チェスター・シュワルナゼ」の名前を入れてサーチをかける。魔導式の自動計算機が、クリスタル・サーバー内で管理される同盟諸国統合軍の膨大な文書データベースの中から、シュワルナゼの名が載った文書を探し出す。デブチョコボが口をモゴモゴさせる待機アニメーションが流れる間、アメミヤはツメを齧り貧乏ゆすりをしながら画面を睨みつける。アーマーが動きをトレースし、サムアップのような姿勢でガタガタ揺れるので、部下達から沈黙の内に失笑を買った。
「狂犬」アメミヤは「序列マニア」の別称も賜っていた。主だった高級士官の功績と序列は全て頭にインプット、特に統合軍キャリアの同期生以下の序列に対してはパラノイアじみた執着を見せた。同期生や後輩期が自身より先に昇任しようものなら、過去の功績から業務実績からを調べ上げ、納得がいかなければ人事課に殴り込むこともしばしばで、関係部署からは完全に腫れ物扱いされていたが、個人としては切れ者でそこそこ能力も高く、部下を潰しながらも業務成果自体は水準以上のモノを出すのと、何よりも「ランベリー大公の甥」という看板が、彼の日頃の所業に与えられるべき真っ当な報いから彼自身を強力に保護していた。そして今回、彼の執着の槍玉にあがったのが、統合軍中級士官学校同期生であるシュワルナゼの中佐から上級大佐への抜擢人事だった。中級士官学校での成績序列は自身が350人中40位だったのに比べシュワルナゼは230位。平時にあって各級士官学校での成績が昇任序列の基準となって久しい中、犯罪でも犯さない限りこの成績差で階級が逆転するなどあり得ない。そもそも序列上位50%に入らない者が上級大佐以上になることがあり得ない。加えて人格的にも、飄々としたシュワルナゼの立ち振る舞いはアメミヤの気に障るところであった。
(一体どんな魔法を使ったというのか・・・)
ディスプレイ上からデブチョコボのアニメが消え、シュワルナゼが起案、合議、決裁にかかわった過去全ての文書、そして命令や表彰等、文面内に彼の名前が載った文書データの一覧が表示される。アメミヤは中級士官学校卒業後のデータを目を皿にしながらスクロールしていく。思ったとおり、アメミヤから見ればクソのような業務実績しかない。どこの部署でもやっている定例の業務管理報告や、消耗品の購入、部下の出張に関する命令等々・・・表彰歴も年功で授与されるモノや、通称「頑張ったで賞」と呼ばれる「平時に普通にやっていれば貰える」表彰ばかりで、てんで大したことはない・・・キーボードを端末に投げつけそうになった刹那、一件の表題がアメミヤの目に付いた。
「オペレーション・ウォール・ブレイカー 定期報告(第13期:4th-Winter solstice)」
文書起案者にはシュワルナゼの部下らしき少佐の名前、シュワルナゼ自身は文書作成者の立場。そこまでは普通だが、まず異様なのは報告先が直接、同盟諸国元首宛になっていることだった。通常、中佐クラスが直接元首に報告書を出すことなどあり得ない。そして、「定期報告」と銘打っている割には、この一件しか検索にヒットしていない。文書の取扱い区分表記はC11-7。これは「統合情報軍の指定者並びに同盟諸国各国の閣僚又は、侯爵以上の王族・爵位保有者で公職に従事する者」が閲覧する事が出来る文書である事を意味する。アメミヤ自身はランベリー大公の親族且つ同大公国の侯爵位を持ち、統合陸軍大佐という公職従事者であるが故にこの文書が検索結果に出てきたのだった。
勘の良いアメミヤはすぐに気付く。これは「取扱い区分の登録ミス」だと。シュワルナゼが文書を作成した時、でなければ、文書管理室の担当者が文書をデータベースに登録する際にタイプ・ミスをしたのだ。そうでなければ唐突に「第13期」の報告文書だけが自分の検索リストに出てくる説明がつかない。仮にコレが「C1-7」になると、閲覧権限は一気に狭まり、「同盟諸国元首、統合情報軍司令官及び両者が特別に指定する職員」となる。元首が直接関わるトップ・シークレット級の文書だけに付される区分だ。もしシュワルナゼがそんな作戦に関わっているとすれば、今回の異常な昇任人事も説明出来なくはない。
(一体あの序列下位の成績不良者が、元首から何を任されたというのか?)
アメミヤはリスト上の「定期報告」を開く。当初は好奇のままに読んでいたが、読み進めるたびにそれは激しい怒りへと変わっていった。それから数時間、目を血走らせながら(とはいってもモーグリなので傍目にはほとんどわからないのだが)端末と睨み合い、印刷機を唸らせ、メモを殴り書き続けた。途中、幾人かの部下が報告や相談に訪れたが全て追い返した。
(なるほどな。ここ数年、「西ランベリー」がどうにも気に食わねえことになってると思っちゃあいたが、そういうことクポか・・・)
アメミヤは先程とは打って変わって静かに端末を閉じると小さく呟いた。
「裏でコソコソ、他人(ひと)の土地をダシにして昇任たぁ、舐めたマネしてくれるじゃねえか。あのクポ(クソ)野郎・・・」
アーマーごとやおら立ち上がると大声で叫ぶ。
「オレはランベリー大公邸に行く!休暇手続きしておけ!」
驚いた部下の一人が問いただす。
「一体、どうしたんですか急に?・・・いや、いいんです。が、事由をお教え頂いても?」
「派出元国の公務」だ。それで処理しておけ!」
それだけ言うとアメミヤはアーマーを降り、背後のロッカーを開けると統合陸軍の制服をランベリー大公国の礼服に着替え、足早に部屋から退出した。
部下の一人が慌てて飛空艇の手配を始める。1カ月前、アメミヤが急な出張のために外出した際、指示が無かったのと近場だったために飛空艇の手配をしなかった結果、幕僚室の全員が小1時間説教された挙句、数人がアーマーで投げ飛ばされていたからだ。休暇のために公用飛空艇を用意するのは筋違いだったが、ソレを言えば今度はランベリー侯としての立場で文句を言ってくるのは明白だった。曰く「それが同盟諸国統合陸・海軍への最大派出貢献国の侯爵位に対する態度なのか」と。
用意された高速飛空艇に乗り込むと、ランベリー郊外の別荘地に向けて出発させる。グロセア・エンジンの軽快な響きと共に、飛空艇は一気に音速近くまで加速する。ヤクトの外でさえあれば、同盟諸国の飛空艇技術はユードラのそれに全く引けを取らなかった。
ものの15分も経たずにランベリー大公の別荘中庭に着陸すると、駆け寄ってきた警備員達を「顔パス」で引かせ、一直線に大公書斎に向かった。
年季の入った分厚い扉を開けると、年老いたモーグリが安楽椅子に身を沈めながら対面に座る書記に何やら口述筆記をさせている。
「やっぱりここクポか、ルーフの叔父貴ィ!相変わらずの回顧録クポ!?」
ルーフと呼ばれた老モーグリはアメミヤの突然の参上と大声に動じることなくゆっくり顔を向けると落ち着いた声で
「そちらも相変わらずのようクポ。色々噂はきいてるクポよ。礼服でそんな声を張り上げるのはおぬしだけクポ。」
と、たしなめる様に返した。
アメミヤ自身は、箴言もどこ吹く風といった感じで、書記を顎で追い出すとその椅子に跳び乗る様に腰掛けた。
「今日は是非、耳に入れたい話があってな。まあ、良い話じゃあないクポ・・・もっと端的に言えば胸糞の悪くなるような話クポが、ランベリーの国威にかかわる話なんクポでな。」
そう言うと、20ページ程の文書をルーフに寄越す。シュワルナゼの定期報告文書のコピーだった。促されたルーフが読み出すのど同時に、アメミヤがその文書の存在を知った経緯と、その概要を話して聞かせた。文書を流し読み終えたルーフは静かに紙面を脇の卓上に置くと、安楽椅子に背を預けた。
「国境地帯の、特に西ランベリーのことは統合軍任せにせずウチ(ランベリー)の情報機関でも調べさせてはきたつもりだったけれど・・・まさかあの教団が元首の「ヒモ付き」だったとはねぇ・・・」
「コイツは同盟国に対する背信だクポ。まるであの地が無主地みたいに好き勝手してやがる。」
「そうだねぇ。あの地帯の半分以上が、「ランベリーの国土」だということを彼は忘れてしまったのかな?それとも意図して隠しているのか・・・いずれにせよ、こんな事をやるのに、私に話がないのは、確かに頂けないクポねぇ。」
ランベリー大公ルーフの口調はなおのんびりとしていたが、その手は不快感を示すかのようにガウンの飾り紐をいじり続けている。
「しかし、元首は何のためにこんな事業を始めたのかな?文書を見る限り、驚いたことにユードラの一部ともつるんでいるようだけれど・・・」
ルーフの疑問にアメミヤは我が意を得たりとばかりにまくし立てる。
「それはな叔父貴、奴を同盟諸国の元首代表だと思うから分からなくなるクポ!虚飾を取っ払って、タダのシルバニア大公だと思えば合点がいくんだクポ。」
そして懐から一束のメモを取り出してルーフに差し出した。
「文書に名前が出てくる関係者の名前をリストアップしたクポ。元首と情報軍司令官にしか見せないつもりで作ってるから全員、実名。軍関係職員名簿との照合も簡単だったクポ!」
「ほう、それで?」
ルーフが身を乗り出す。
「まず、照合できなかった関係者は文書から読み取るにベルベニア人クポ。「教祖」のグレバドスは名前どおりブルオミシェイスの家系だが、調べたら曽祖父の代からベルベニア籍だったクポ。まあ、そこは良いクポ。問題は、照合できた「職員」達。文書作成者のシュワルナゼを含めて、全員がシルバニア軍からの統合軍派出者か、シルバニア本国の契約職員だったクポ!」
アメミヤはそう言って胸を張ってみせた。
ルーフは対照的に大きな溜め息をつきながらうつむく。
「つまり、主要なメンバーがすべからくシルバニアの出身者ということか。まるで地縁主義のマフィア、クポ。」
「良い例えクポ。「シルバニア組(ファミリー)」ってわけだ!この件に関しちゃあ、元首もグル。大方、100年以上、手つかずの西ランベリーをシルバニアのヒモ付きでコソコソ再開発して既成事実化した後に、アガりを独占するつもりなんクポ!」
「ユードラとの関わりは?」
「今のままじゃ、ただの地元民の自主開拓事業クポ。シルバニアが公に参入して利益を回収するためにはユードラ側と話を付ける必要があるクポ。」
「で、シルバニア大公の身分ではユードラ皇帝との交渉など無理だが、同盟諸国元首としての立場を使えばそれも可能、と・・・」
「ビンゴ!クポ。同盟諸国元首としての立場を悪用した一大疑獄クポよ!」
ルーフは暫く沈黙して考え込んだ。アメミヤの説明で論理が通らないわけではない。しかし、いかんせん偶然漏れ出た報告文書群の一編だけでは大半が推論の域を出ず、なんとも判断しがたい。コレは真に追及すべき案件なのか?
ルーフの悩みを察するかのようにアメミヤがたたみ掛ける。
「おそらくはこの計画の実行責任者のシュワルナゼ、コイツは統合情報軍の中佐だったんだが、今回の定期昇任人事で一気に上級大佐に抜擢されたクポ。戦時功績をあげたわけでもないのに不自然だクポ。」
「元首からの論功行賞なのか、あるいはこの先、計画を進めやすくする為に子飼いに階級を与えた、ということか?」
ルーフの仮説にアメミヤが首を縦にふる。ルーフがしばしの沈黙の後、アメミヤに問うた。
「それで?お前はどうしたいんだクポ?私に各国代表の前で同盟諸国元首を吊るし上げさせたいクポか?」
問われたアメミヤがふと考え込む。しばし逡巡するような素振りを見せた後、今度は首を横に振った。
「そんな畏れ多いこと!ワタクシはただ祖国ランベリーへの愛と同盟への忠誠ゆえに、不正を見過ごしてはおけなかっただけクポよ?」
アメミヤは悪びれもせずもせずに芝居がかった物言いで返す。
「さっきまで元首をボロカスに言ってなかったクポか?」
「ふむ、少し頭に血がのぼっていたかも?では、こういうのでどうクポ・・・」
アメミヤは頭のポンポンを左右に振ると、小憎たらしい顔で続けた。
「元首陛下は単にたぶらかされたのかもクポ。欲深い筋書きを書いたのはここにあるチェスター・シュワルナゼあたりで、元首ご自身は、より広いご視点から、同盟諸国の為になればと裁可されたのかもしれないクポ。ひょっとしたら叔父貴にはもっと、西ランベリーが豊かになったのを確かめてから知らせたかったのかもしれないクポよ?当然、公正なる元首陛下のこと、シュワルナゼ如きが何を考えていようと、アガりは我がランベリーに下賜くださるおつもりに違いないクポ!」
アメミヤの口八丁にルーフは半ば呆れたといった顔をする。
「つまりは、どうとでも言える、ということクポか・・・大体、お前さんが何をしたいのか分かってきたクポ。要はこの、シュワルナゼとかいうのをどうにかすれば良いクポね?」
アメミヤは咳払いで答える。ルーフは溜め息を一つ付いて続けた。
「元首にお会いした際に、お伺いしてみるクポ。何、私とて同盟にキズを付けたいなどとは夢にも思っとらんクポ。陛下も、子飼いの部下一人などよりは、我がランベリーとの良好な関係をきっと最優先にお考え下さるに違いないクポ・・・」
満足のいく回答を得られたアメミヤは満面の笑みを浮かべると身を乗り出して老叔父の頬にキスをする。
「流石は偉大なる大公陛下、敬愛してるクポよ!」
そして踵を返すと書斎を後にした。
ルーフはキスされた頬を袖で拭うと、静けさを取り戻した書斎の中でひときわ大きな溜め息をついた。
「・・・ほとほと、我が血族の面汚しクポ。とてもアレにランベリーは託せんが・・・」
そう呟きながら、卓上に残された文書に目をやった。
「バカにしては悪くない釣果クポ。フレイジャーの尻を叩くネタにはなるだろう・・・。「時」が来たら、彼にはご決断願わなければならんクポからな・・・」