When The "Saints" Go Marching In Ivalice 作:N22b
B.B. 760 10月5日 0630時 シルバニア大公公邸
その広大さと赤瓦で統一された美しい屋根から”レッドルーフ・ヒュージ・ハウス”と渾名されるシルバニア大公公邸の裏庭に1機の公用飛空艇が着陸する。降りてきたのは真新しい情報軍上級大佐の礼服に身を包んだシュワルナゼ。降機を待ち構えるかのように、同盟諸国元首フレイジャーが出迎える。元首の姿を認めたシュワルナゼは慌ててラッタルを降りるとフレイジャーに整体し、敬礼した。
「陛下自らお出迎え頂くなんて!困りますよ!」
確かに、昇任したとはいえ将官ですらない一士官を元首が出迎えるなど礼式上はあり得なかった。実際、元首フレイジャーの後ろに控える典礼担当の官僚は、あからさまに不快な態度を隠しもせずに顔に出している。だが、当のフレイジャーはどこ吹く風だった。
「なに、早朝にわざわざこちらが呼びつけたんだ。しかもわざわざ郊外の大公公邸にな。元首官邸ならキミのオフィスから徒歩5分だというのに!」
「仕方ありません。今日、明日は諸国代表会同ですから。」
「各国代表が来る前のこの時間しか取れなくてな。歩きながら話そう。」
そう言うとフレイジャーは人払いをして、裏庭から公邸の方に歩き出した。シュワルナゼが後に続く。
「わざわざ呼んだのはな、キミが上申してきた「ゾディアック・ブレイブ計画」の事で言っておきたいことがあってな。」
「ご検討いただけたのですか?」
「キミからの上申を私が今まで検討しなかったことがあったか?」
「いえ!毎度毎度、かたじけない限りです。」
シュワルナゼは歩きながら頭を垂れる。
「定期報告で向こうの状況は把握している。随分と大変なようだが、よりによってゾディアック・ブレイブとはまた、大きく出たな!」
フレイジャーはそう言うと笑いながらシュワルナゼの背中を叩く。
「はい、大それた名前には違いありません。何せ洋の東西問わず、全イヴァリースにあまねく伝わる伝説ですから・・・」
「多少の地域差はあるがな。しかし、問題はそこだよ。キミはワールド・クラスの英雄譚を彼女達に背負わせるつもりなのか?正直、そこまでやる必要はないと思うんだが?問題の根源は、「使徒」だっけか?彼女のスタッフまでもが信仰の対象になり始めたことだろう?言うなれば、彼女の「幕僚」に過ぎない彼らにまで住民達が「奇跡」の類を求め出した、と。」
「はい、ですが、言われるとおり、彼らはただの幕僚に過ぎません。確かに人並み以上に魔法や召喚術を使える者も居れば、経理・マネジメント、農業知識に秀でた者もいますが、断じて奇跡の類の能力ではありません。ましてやメンバーの半分は教祖アジョラの「旧友」というだけの一般人あがりです。彼女自身には欠かせない存在ですが、あくまで彼女のための存在で、民衆のためのものではありません。ですが、あの地の住民達がそれを求めるのであれば、彼女だけでなく、彼らにも特別な能力の付与が必要です。」
「で、ネルベスカのバルビエ博士に相談したら、うってつけの技術があった、と。」
フレイジャーは公邸の裏口手前で足を止めた。シュワルナゼもそれに倣う。
「現在、「使徒」の数はちょうど十二人。それぞれにバルビエ博士の「クリスタル」を「神授の聖石」の体で与えれば・・・」
「あら不思議、名実とものゾディアック・ブレイブの一丁あがり、か・・・キミらしいな。神話伝承と作戦を巧みにミックスして「奇跡」を演出する。だが、今度は前みたいにマイナーなローカル伝承じゃあない。超メジャー級の大風呂敷だ。ガチガチのファラ教で固めるユードラですら上書き出来ない、イヴァリースのコモン・センスだ。いったん広げたら、もう引っ込みは付かない。分不相応な世界中の注目を浴びることになる。「十二宮の聖石を持つ勇者」には失敗も途中棄権も許されないんだぞ?」
フレイジャーは両手をシュワルナゼの両肩にかけると力をかける。
「この作戦を始める前にキミは言ったよな。本来、こいつは失敗しても失うものがない作戦だ、と。領土が無くなるわけでも、血が流れるわけでもない。そりゃあ、プライドはキズ付くだろうし私だって成し遂げたい。でも、いざとなれば引き返せるんだ。だが、ゾディアック・ブレイブを名乗った途端、それはできなくなる。彼女達にとって、そしてキミにもそれがどれほどのプレッシャーになるのか・・・」
シュワルナゼが肩にかかったフレイジャーの両手に自らの手を添え、真っ直ぐにその目を見る。
「お心遣い、有難うございます。しかし元首、彼女達にとって、もうこれはとうに引き返すことなどできない任務なのです。当初は、私が描き、貴方が与える任務でした。ですが今では、各人が自らに課した任務です。引き返せなどと言えば、私ですら刺されるかも知れません。それに・・・」
「それに?」
「ユードラのファラ教団ですら、上書き出来ない。これこそが重要なのです。この作戦に限って言えば皇帝派はもはや味方と言っても差し支えありません。ですが、法王府がどう出てくるかが分からないのです。良くて妨害、悪ければ実力行使で潰しに掛かってくる可能性も・・・。ですが、頑迷なファラ教信者達ですら一目置くゾディアック・ブレイブ伝説を彼女達が体現できれば、法王府とて下手な手出しは出来なくなります。」
「なるほど、それが真の狙い・・・か。理解した。」
そう言うとフレイジャーは両手をシュワルナゼの肩から下ろした。
「ネルベスカには準備を進めるよう、命じておく。いつでも発動出来るようにな。だが、やるかやらないか、そして、やるにしてもいつやるかは、私が決める。それで良いか?」
「それで問題ありません。ありがとうございます。」
「ところで、彼女達はこの話は知っているのか?」
「いえ、まだ。私とヒサーリ少佐、あとはネルベスカのバルビエ博士の頭の中だけの話です。」
「そうか。やるとなったら、矢面に立たされるのは彼女達だ。アジョラはまあ良いとして、使徒達は面食らうぞ・・・」
「抜かりの無いよう説明し、準備させます。」
そう言うとシュワルナゼは頭を下げ、フレイジャーは両手を腰に当てると観念したというふうに鼻息を吹いた。
「私からの話は以上だが、キミからは何かあるか?」
フレイジャーが問う。計画の専従部署をお膝元のシルバニアに作り、シュワルナゼをわざわざぜルテニアの統合情報軍本庁から異動させたのはコミュニケーションを取りやすくするためでもあったが、それでも多忙極まる同盟諸国元首が彼とその作戦のために割ける時間は限られていた。面と向かって話せる1分1秒が貴重なのだ。
「ええ、私からも簡単にですがお伝えしたいことが。」
そう言うとシュワルナゼは続けた。
「専従部署を立ち上げて頂き、特別昇任までさせて頂いたお陰で、随分と作戦を進めやすくなりました。先般の上申の際には、資金確保と部下数名程度の増員に元首のお口添えでも頂ければ満点くらいに考えておりましたが・・・」
「私のお節介が役立ったなら何よりだ。ぱっと見、まだその礼服に着られているようだが、なに、直ぐ慣れるさ。」
「ただ、その分、やはり見なければならないものも増えました。コレがあるので、半ば意図的に昇任は避けていたのですが・・・」
「観念したまえ。ソレがキミの能力に応じた本来の地位だ。」
「はい、その点については・・・。ですので、これまで私がやっていた、作戦を直接統括する役目は今後、ヒサーリ少佐に任せたいと思います。必要な申し継ぎも終わっております。」
「ヒサーリ・・・キミの右腕にして、彼女の叔父、だったか。」
「はい。半ば放任主義だった私よりもみっちりと彼女達をフォローアップしてくれるでしょう。」
「なるほど。ではヒサーリ少佐には、キミにとっての彼のような存在はいるのかね?必要なら情報軍司令官に命じて・・・」
フレイジャーの気遣いにシュワルナゼは笑って手を前にかざす。
「いえ、大丈夫です。既にとっておきの人材がおりますので・・・まあ、それだけです。今後、現地の状況を速やかににお知りになりたければ、ヒサーリ少佐を存分にお使い下されば。」
「分かった。覚えておこう!」
そう言うとフレイジャーは右手を差し出した。これまた元首から将官未満の士官に対して、礼式上はあり得ないことだ。
シュワルナゼがその右手を握り返す。今度は不快な視線を送ってくる嫌味な顔の官僚もいない。
「すぐ、行くのか?」
「ええ、もうすぐ各国代表が来られます。周囲10マイルが空域閉鎖になりますからね。」
「そうだな。もうそんな時間か。」
その時、シュワルナゼの公用艇のパイロットが慌てて走ってきた。
「失礼します。ランベリー大公が予定より早めに来られるとのことで、急きょ空域閉鎖の時間が早まったと。その、既に閉鎖時間に掛かってしまっていて・・・」
「出られない?」
「・・・はい。」
それを聞いたフレイジャーが軽快に笑う。
「それじゃあしょうがない。ランベリー公が来られるなら、私も早めに行かねばならんな。キミは空域閉鎖が解除になるまで、パイロット君と一緒に別棟で休んでいたまえ。あそこなら休憩室もあるし、今日はVIP連中ともかち合わんはずだ。自動販売機もあるぞ。元首からも金を取る鬼畜仕様だがな。今日は皆、会議と接遇に掛かりきりだからアテンドは付けれんが、まあ、上級大佐ならそう邪険にはされんだろう。それで良いか?」
「は、かたじけない限りです。」
「飛空艇はそこに停めておいて構わんからな。裏庭は誰も使わん。」
そう言い残すとフレイジャーは公邸の中へと姿を消した。
「何時になったら出れるんだい?」
シュワルナゼがパイロットに確認する。パイロットは手元のパッドを操作して、最新の航行情報を確認する。
「入域は明日一杯までダメですが、外に出るだけなら今日の1800時には可能になるそうです・・・。はあ・・・エラい人がちょっと気まぐれで予定を変更したりすると、こうやって下々が割を食うことになるんです。」
パイロットが愚痴る。こうなると公用艇のパイロットは何時間もの間、艇内で暇をもてあそばなければならなくなるのだ。シュワルナゼが気を利かせる。
「元首が別棟で休んで良いと言われたんだ。なに、レッドルーフ・ハウスで機上荒らしなんぞまず無いよ。飛空艇は置いといて、別棟でブランチでも取ろうや。で、その後はマッサージ・チェアで仮眠だ。知ってるか?ここの自販機は5つ星ホテルの厨房で作ったやつを冷凍してるんだ。昔、一度だけ元首の私邸に上司と行ったときに同じタイプの自販機があってな。量は少ないんだが、ウマかったぞ。一応、財布は持ってきたから、奢ってやる。な!」
パイロットを元気づけようと盛り上げながら、シュワルナゼは別棟に向かって歩を進めた。