When The "Saints" Go Marching In Ivalice 作:N22b
B.B. 760 10月6日0230時 ネルベスカ島
野外発着場
「アカツィア25、 ネルベスカ・タワー。 スポット7 への着陸を許可します。」
「アカツィア25、着陸許可了解、スポット7、 ありがとう。」
研究所の野外発着場にセイレーンが降りたつ。エンジン・ストップ。キャビン・ドアが空き、ラッタルが降ろされるが、中々誰も出てこない。ラインマンが怪訝に思って近づくと、機内から騒がしい声が聞こえてきた。
「いいんです、大尉!あとはやっときますから!ね。行ってください!」
「ウェス!まだある?」
「スイマセン!スイマセン!」
「大尉が謝るこた、ないですよ。お嬢!大丈夫ですかい!?」
「これ!フライトスーツと私の私服!降りたら、着替えて!」
騒ぎが一段落し、ラッタルから男女のペアが降りてくる。
「はい、手すり持って!もう片方はオレの肩に・・・足下気をつけろよ・・・もう。」
「ゴメンね、ハリさん・・・ゴメンナサイ。うう・・・」
ラッタルから降りたサディアと、抱えられたアジョラに1機のアーマーが無骨な金属音を立てながら近づく。
3m以上ある白銀のアーマーが怪訝な顔をするサディア達の前に立ち止まると、軽快な電子音声を発する。
「ピー!大気センサー、化学物質検知。解析シマス・・・塩酸及ビ酪酸ヲ検知・・・アルコール検知・・・発生元ハ本機前方2m。視覚情報ト統合・・・97%ノ確率デ、ヒュム ノ 吐瀉物ト推定。毒性ナシ。」
続いて、アーマーのスピーカーから今度は肉声が響く。サディア達には聞き覚えのある声だ。
「なんだこれは!?折角、おどろかしてやろうと思って来たのに・・・酔ったのか?ちゃんと除染室でシャワー浴びて、着替えてから来いよ。そのまま来ることは許さん。」
「あー、バルビエ博士。はい、スイマセン。」
アーマーに案内されて地下に降り、除染室で身体を洗う。サディアはネフスカヤから借りた予備のフライトスーツを、アジョラは私服を着た。
案内がなければ迷うこと間違いなしの入り組んだ通路を引き続きアーマーの先導で進み、バルビエのラボに入った。
「はい、いらっしゃい!ちゃんとキレイにしてきたか!?」
2人の視線の先で、端末に向かって座るバルビエが、2人に背を向けたまま聞いた。
サディアは驚いて脇に立つアーマーを見る。
「博士!なんでここに?じゃあ、このアーマーは?」
バルビエが椅子から立ち上がり、サディアを見る。
「だから、おどろかしてやろうと思った、って言ったろ?ゲロまみれで現れて台無しにしおって。まあ、いい。どうだ?オレが乗ってると思ったろ?」
そう言って得意げに鼻を鳴らす。
「そりゃ、スピーカーから博士の声がしましたからね。誰が乗ってるんです?」
バルビエは(いい質問だ!)という風にサディアを指差すと手元のキーを叩いた。試作汎用重作業アーマー「ワークマン」の胸元が開く。中を覗き込んだサディアは驚愕した。
「え!無人!?」
「そうだ!コイツはただのワークマンじゃあないぞ。まず、見てのとおり、完全自律制御!魔導式でお茶を濁したようなのはもう何十年も前からあるが、コイツは完全機械式だ!さっきの動きも遠隔操作じゃあない。お前等2人の顔写真を覚えさせてな、で、「この写真の奴等を、除染室経由でココに連れてこい。」とコマンド入力しただけだ。あとは自分で判断して行動する。このレベルに達するまでに6台、オシャカにしたがな。」
「じゃあ、コイツは7号機ってことですか?」
「うむ。バルビエ式ワークマン7号・改だ」
「改?」
バルビエが再度、サディアを指差す。
「オマエは質問が上手いな。褒めてやる。」
そして続けた。
「さて、ここネルベスカでワークマン・シリーズがロールアウトしてからもう5年になる。ハイパワーで、鋼鉄製だが分厚く作ってあるのと特殊な皮膜処理で腐食にも強い。なのに未だに本土の軍からも土建屋からも引き合いがない。何故だか分かるか?」
「分厚い鉄なんでしょ?動かすのにパワー要りそう。」
今度はアジョラが答えた。
「ご明察!85点の回答だが、まあ良しとしよう。」
バルビエはそう言うと前に進み出て「7号・改」のメンテナンス・ハッチに手を突っ込む。
「なんと言っても、コイツの泣き所は稼働時間の短さだ。ミミック菌の腐食に長く耐えるよう、全ての金属パーツを分厚く、「あそび」も余裕をもって作ってある。その分、エネルギー・ロスが激しくてな。電池式もクリスタル式もせいぜい15分しか保たん・・・コイツが・・・出来るまではな・・・ッ!」
ハッチの奥から手のひら大の赤色のクリスタルを引っ張り出す。表面には十二宮・巨蟹宮の刻印。
「ゾディアック・ストーン!」
サディアとアジョラがほぼ同時に声を上げた。
「実在したのか・・・いや、待て。博士、今「出来た」って言いませんでした?」
「なーんだ。偽物か。」
アジョラがガッカリといった顔をする。
バルビエは「チッチッ」と舌を鳴らすと首を横に振った。
「では、お嬢さんにお聞きしよう。偽物だなんて言うからには、本物を見たことがおありなんでしょうな?」
「そんなのあるわけないじゃん。お伽話のアイテムなのにさ。」
アジョラはムスッとしながら答える。サディアの服に吐き、シャワーを浴びて幾分マシになったとはいえ、まだ頭痛が響いていた。
「では、サ・・・レイレナード君に聞こう。ゾディアック・ブレイブの元になった戦争の話は知ってるな?」
「千年神戦争でしょう。イヴァリースの人間なら、誰でも知ってますよ。」
「では、こちらも荒唐無稽なお伽話かな?」
サディアは首を横に振る。
「そっちは、お伽話じゃあ片付けられない。戦争の片割れ、「闇の異形者」達は実在してるし、軍でも召喚術として使われてますからね。使える人間はメチャクチャ限られるけど。師団に5人も居ればいい方なんじゃなかったっけか。」
「そうだ。「闇の異形者」は実在する。だが、「光の異形者」と、「ゾディアック・ストーン」は話にあるだけで、実際に見た奴はいない。俺の仮説では、石は「はなから無かった」だ。」
「随分と結論を急ぐんですね。ただ単に、見つかってないだけかも知れないのに。」
いぶかしむサディアに、バルビエは余裕の表情で返す。
「当てずっぽうで言ってるわけじゃあないさ。科学的考察の結果だ。コッチに来な。」
(このままでは、延々、年寄りの自慢話につきあわされそうだ)
サディアはバルビエを呼び止める。
「あの、我々は元首の指示でここに・・・それに夜明けまでには山脈の西まで戻らないとなんです。あまり、時間が・・・」
バルビエが振り返った。その目は真面目そのものだ。
「聞いてるさ。元首から直々にな。だが、これからオレが話すことは、よく理解しとかなきゃならない。それがいかなる「力」なのかも知らずに、ただ使おうとするのは野蛮人の所業だ。特にアジョラさん、アンタはな・・・」
「あ、アタシ?」
アジョラが素っ頓狂な声を出す。相変わらず、残った酒のせいで精彩を欠いた顔だ。
バルビエがため息をつく。
「そんな状態で聞かれても困る・・・ちょっと待て。」
そう言うと、ポケットからクリスタルを一つ、取り出した。念を送ってアジョラに手をかざす。次の瞬間、淀んでいた彼女の瞳に光が戻った。
「あ・・・酔いが、飛んだ。」
バルビエがその手にクリスタルを握らせた。
「お前さん、ハタチになったんだって?大人の付き合いってやつは、大変だろ。お前さんみたいな稼業なら、この先いくらでも酒席に呼ばれることはある。キツくてぶっ倒れそうでも盃を乾かして泰然自若としてなきゃならん事もな。だが、いちいち酔っぱらってたら、カリスマもクソもないわな。コイツはオレの私物だがアンタにやるよ。血中アルコールを速やかに分解するバルビエ様オリジナルの魔法だ。平時なら黒魔法の1万倍は役に立つ。」
バルビエはアジョラの事情をとうに察していた。好き好んで酔っぱらっていたわけではないことも。伊達に200年以上、生きているわけではなかった。
「ありがとう・・・ございます。」
「礼には及ばんよ。因みに、副作用があってな・・・」
バルビエが言い終わらないうちに、アジョラが腰をモジモジさせだした。
「通路に出て右。50m先」
これまた言い終わらないうちに、アジョラは回れ右すると猛ダッシュで部屋から出ていった。
「アルコールは最終的には水に分解される。自然の摂理に反して、魔法で一気に分解すれば・・・当然、尿意も一気に来る。」
戻ってきたアジョラにバルビエは忠告した。
「使うなら、トイレの場所を確認してからだ。人前で失禁なんぞしたら、信仰もへったくれも無いぞ。」
「もしそうなったら、「聖水です」とか言っとけば・・・・ごめんなさい。」
バルビエとサディアの反応が悪いのを察したアジョラが頭を下げる。セレーナのせいだ。シュワルナゼが連れてきた、あの「アングラ」ヴィエラのデリカシーのないジョークの数々は、人前で常に「清く正しい神の使い」を演じる「実際には清くも正しくもない」アジョラと使徒達にとっては、ささやかな内輪の清涼剤になっていたが、スベるとこうも気まずいものかと自覚した。金輪際、「外」ではやるまいと、アジョラは心に誓う。
「さて、続けるぞ。実際、時間はないんだ。」
バルビエが1本の透明の筒を引っ張り出す。筒の中には、土や石が層をなして詰まっている。
「地層サンプルですか?」
サディアが勘良く答える。
「そうだ。この島のな。さて、千年神戦争があったと言われる時期は、学術的にも大胆、特定されてきている。地層で言えばここ、大体、7千年程前だ。どうだ?この辺り、特徴的じゃないか?」
「割とくっきり分かれてますね。ケーキのスポンジとクリームみたいに・・・5層くらい?」
「そうだ。地質学は専門外だが、詳しいやつに言わせればこうだ。まず最初の境目は、大体1万年前らしい。ここより前の地層はどうだ?」
「まあ、概ね均一って感じ?」
「うむ。つまりは、安定した環境だったってことだ。最新の学説では、ここイヴァリースで複数の知的種族が爆発的に進化したのが100万年程前、そこからこの1万年ほど前までの環境が安定した時期に、それぞれの種族が文明を構築するに至った。爬虫類ベースのバンガ、一番多いのは哺乳類ベースのヒュム、ヴィエラ、モーグリ等々、オレ達、ン・モウもだな。
そして一万年程前、地層にもはっきり表れるレベルでの環境の激変が始まった。イヴァリースの何処でサンプルをとっても同じ、つまりは「星」レベルでの環境変化だ。」
「星レベル・・・」
「隕石でも落ちたのかしらね?」
「そこはまだわかっておらん。この時点でイヴァリースの知的生命の霊長たる種族は、頭足類ベースで進化したオキューリアだ。昔はヤツらにもちゃんとした「身体」があったんだよ。他の種族より一足早く進化し、ミストとクリスタルの扱いに長け、頭抜けて高度な文明を築いた彼らは他の種族からは「神」として崇められていた。」
「オキューリアの研究が進んだのって、ホントにここ数十年のことですよね。」
「永らくギルヴェガンに引きこもって半ばお伽話扱いだったのが、ダルマスカ戦役で表舞台に出てきたからな。まあ、すぐにまた引っ込んじまったが・・・。彼らをギルヴェガンから引っ張り出したのは、伝説の科学者と空賊、シド・ミド親子の「学術史上の」最大の功績だ。それまでは、オキューリア関係の研究なんぞ異端扱いだったからな。アカデミア界の冷や飯食い。そんなもん調べてる暇があったら、使える魔法か薬でも作れと、日陰者扱いよ。」
「それって、博士のこと?」
アジョラの問いにバルビエは口元だけの笑顔と鼻息で返す。
「とにかく、万物の霊長たるオキューリアを頂点とする生態系が確立されて永らく経った、今から一万年前に、この環境激変は始まった。気候、植生、ミスト・・・・天変地異というほどのペースではないが、連鎖的に変質を続けた。この薄い地層、時間にして千年程度の期間で土中の有機物量、大気中の酸素濃度が有意に下がっている。大量の生命が失われた痕跡だ。このままのペースで変化が続けば、5千年程度で星の約9割の種が絶滅する計算らしい。だが、大量絶滅は起きなかった。なぜか?オキューリアが介入したからだ。「闇の異形者達」を使ってな。レイレナード、「異形者達」が単なる生物兵器の類いでないことは知ってるな?」
「ええ。士官学校でやりましたよ。それぞれがイヴァリースの環境や風水、秩序を護るための役割を与えられて造られた、って。まあ、軍が重視したのはあくまで召喚術としての戦闘能力だけでしたけれど。」
「そうだ。本来、そんなモノを造らずとも全ての種の頂点に立っていたオキューリアが、「異形者達」を創る必要に迫られた。それが概ね9千年前、その間の「苦難の千年」を経て変動は止まった。環境は維持・回復し、生命も繁栄を取り戻した事を、地層も証明している。その後の二千年は、いわば安定期だ。ここまで話せば、「異形者達」の正体も分かるだろう。」
「本来は召喚獣でも兵器でもなく、オキューリア製の環境維持システムだった、ってことか。」
「そうだ。大量絶滅へと向かう自然の流れを人為的に止めるために造られた。鈍化する生命の還流を加速し、コントロールするために「聖天使」が、淀んだミストを強制的に浄化するために「不浄王」が造られた。他の異形者達も同じような感じだ。中には知的種族間の調停や指導を取り持つ「統制者」のように、社会的役割を与えられた異形者もいた。システムは、おそらく効果的に稼働した。この二千年の間はな。その後に起きたのが・・・」
「千年神戦争。正体は分からないけれど、「堕天使」に汚染された「聖天使」を筆頭に、全ての異形者が創造主たるオキューリアに反旗を翻した。オキューリアは彼らに対抗するために「光の異形者」達を創り出し、戦争は千年続いた。「聖天使」達、「闇」の異形者は敗れ、封印された。「光」の異形者のその後は、誰も知らない。何の伝承も、形跡もないから・・・。ただ、これらの光の異形者達が、ゾディアック・ブレイブの起源なんじゃないか、とも言われていますね。」
「そう。「言われている」だけだ。今オレが話して聞かせたような、科学的な証明を誰も出来ていない。ましてや、ゾディアック・ブレイブの力を宿した「聖石」の話など、オキューリアの時代には全く出てこないんだ。そんなモノ無かった、と仮定しても、世界は問題なく現代にたどり着くんだよ。」
「・・・なるほど。」
「二千年の安定期の後、千年ほど環境が不安定な時期があったこと。その時期の地層から高温で焼かれた岩盤や自然由来ではあり得ない多量の放射性元素が見つかり、大規模な戦闘が間違いなく起こっていたことから、当時「異形者達」のシステムが破綻し、オキューリアが実力行使を伴う何らかの対抗策を取ったことは科学的にも間違いないと言って良い。ひょっとしたら本当に、光の異形者なんてものを作り出して戦わせたのかもしれない。だが、千年神戦争以来、闇の異形者は封印されたまま。それ以来、現代に至るまでイヴァリース中に幾つもの「ゾディアック・ブレイブ英雄譚」が生まれたが、千年神戦争のように、科学的に裏付けできるデータは一切なし。ま、大方、数多起きた戦争や、革命の類に無理やりゾディアック・ブレイブを括り付けたんだろうな。その中で、馬鹿な大衆にも分かりやすい、目に見える証、「神授の破魔石」宜しく形ばかりの「神授の聖石」なんて物をでっち上げた輩も居たんだろう。だが、そんな紛い物の「ゾディアック・ブレイブ・ストーリー」と「聖石」達は、何れも歴史の中に埋もれていった。ただのお伽話として。」
そこまで話すと、バルビエは手に持った「聖石キャンサー」をワークマン7号・改に戻す。白銀の鉄巨人の目に再び光が宿った。
「そう。「聖石」なんて存在しなかった。今までは、な。」
バルビエが不敵な笑みを浮かべる。7号・改がその場に立ち上がる。
「OS起動。自律判断プログラム起動。オペレーション・ノーマル。ゴ主人サマ、命令ヲ、ドウゾ。」
そう発声すると、石像のように動きを止める。バルビエのコマンド入力を待っているのだ。
「かつて、我々の理解の及ばぬところで古代の霊長が起こした「奇跡」と「戦争」。それに乗っかって出来たホラ話に過ぎなかった「聖石」・・・だが、それは今、ここに実在する。オレが創った。歴史上初めての「本物の聖石」だ。」
「分かりません。何をもって「本物」だと?」
サディアは疑問をぶつける。バルビエは棒立ちになったワークマンをポンポンと叩く。
「随分と前置きが長くなったが、それこそが、コイツが「改」である理由さ。」
「?」
「コイツの動力源は何だと思う?」
「さっき、これ見よがしに出して見せた、キャンサーのクリスタルでしょう。」
「そのクリスタルのエネルギー源は?」
「そりゃ、蓄積魔力・・・」
サディアの答えにバルビエは首を横に振る。
「十二宮が一つ、巨蟹宮の異形者「断罪の暴君」。それがコイツのエネルギー源だ。ゾディアック・ブレイブ伝説の原初たる、十二宮の「異形者」から力を得てこその、本物の「聖石」というわけだよ。この石は時空を超えて「断罪の暴君」本体と繋がり、エネルギーを得ている。事実上の永久機関だ。」
「はい!」
アジョラが勢い良く挙手をする。バルビエが促した。
「えっと、察するに、その石があと11個あって、で、その力で永久に動く、ネルベスカ特製の何かスゴイ兵器があと11組あって・・・で、ソレが私達を守る「武力」になる・・・みたいな感じ?」
バルビエが腕を組み、首を大きく縦に振ってから答える。
「ウンウン・・・10点!100点満点のな。」
「えぇ~・・・」
「エネルギー源だけ無限でどうする?弾薬は?パーツが摩耗したら?回路が焼けたら?お前さんの「事業」はこの先何十年も続くんだろ?その程度なら、オレだってこんなもったいぶった説明はしない。じゃあ、折角だからレイレナード、お前さんの予想も聞こうか。」
サディアは少しばかり頭を捻る。こんな聞き方をしてくるということは、どう答えたって正解になんかならないってことだ。万が一当てでもしたらバルビエからしけた顔で「つまらん奴だ!」と悪態の一つでもつかれるのだろう。
「その石が、闇の異形者と直に繋がってるんですよね?じゃあ、異形者を時間制限無しで召喚仕放題になる、とか?」
「20点!まあ、アジョラさんよりは近いかな。だが、まだまだだ。」
バルビエは満足げにニヤニヤと笑う。
「でも、他に想像もつかないわ。」
アジョラは首をひねる。
バルビエがサディアに問うた。
「異形者の召喚術を見たことはあるか?」
「統合陸軍の公開総合火力演習の動画でなら。さすがに12柱、全部はないですけど・・・」
バルビエが身を乗り出す。
「正直、アレを見てどう思う?アレが、かつての万物の霊長と千年ぶつかり続け、その後数千年、現在に至るまで語り継がれた「至高の力」に見えるか?」
サディアは腕組みをして頭を捻る。
「そりゃ、まあ、初めて見た時は素直に「スゴイ!」って思いましたよ。デモンストレーションだけで半径50mは下らない範囲の標的車両や高危険度等級の魔物達が跡形もなく消し飛びましたからね。丸腰の個人が発揮できる火力、という意味では最高レベルだと思います・・・。ただ、伝説・伝承の類と比べると流石に・・・まあ、この手のやつは大体、伝承が盛ってる位に理解してました。」
「要するに「ショボかった」ってわけだ。」
サディアは少し迷ったが、首を縦に振った。
「お前さんのその感覚は間違ってない。何故か?術者が呼び出してるアレは、「異形者そのもの」ではないからだ。彼らが数千年前に暴れ回っていた際に遺した思念がミストと絡まって具現化したもの。身も蓋もない言い方をすれば「思い出の残りカス」だ。俺達、現生種族は、その程度のものを、やれ「神々の化身」だの、「至高の召喚術」だのと言って有り難がっとる。陸軍じゃあ、あんな「チンカス」共を喚び出せるってだけで、給料が2倍以上に上がるんだぞ?そりゃ、オキューリア共に下等生物扱いもされるさ!」
「まあ、その「チンカス」と契約するために、彼らは命、張ってますからね・・・」
「時間がないって言ってる割にはよく脱線するよね、博士。」
サディアと違い異形者の召喚術など見たこともなくイメージが付かないアジョラは、つまらなそうな三白眼でバルビエを横目に見る。
「脱線なんぞしとらん!オレが創った聖石を使えば、あんなチンカス共じゃあない、異形者の「本体」にアクセス出来るんだ!」
「そこの永久発電機みたいな感じに?」
アジョラの指摘にバルビエは鼻を鳴らす。
「今のままでは、な。ここからが重要だ。耳の穴かっぽじってよく聞け。」
バルビエが凄む。
「異形者の「本体」はオキューリアが厳重に封じている。何故、滅していないのかは分からんがな。封じられた場所は誰にも分からなかった。」
「レイスウォール王墓や、リドルアナ灯台は?」
「アレはただのミストの溜まり場だ。思念体が現出しやすい場所に過ぎん。例えるなら、風呂場の排水口のネットみたいなもんさ。」
「どうしても落としたがるのね。」
「オレが成し遂げたことに比べれば、という話だ。まずオレは、「異形者達」が封じられた場所を特定した。この現し世ではない。だから誰も見つけられなかった。アジョラさん、アンタはその場所を見たことがあるはずだ。」
そう言ってバルビエはアジョラの胸元を指差す。
「聖天使の「玉子」?・・・あ!」
その脳裏に光の粒子と大河が流れる、あのこの世ならざる光景が思い浮かんだ。
「星の龍脈。異形者達はその空間にそれぞれ隔離された状態で封じられてる。「龍脈」は、地面を掘っても出てきやしない。なぜなら、次元を異にする不可知領域だからだ。オキューリア共は、そこに俺達、下等種族が辿り着くなんてことは夢にも思ってなかったんだろうな。だが、オレはやってのけた。今から20年ほど前のことだ。」
「博士も、あの光景を見たの?キラキラして、キレイだよねー。」
アジョラが同意を求めたがバルビエは首を横に振った。
「ああ、だが当時のオレには今、「玉子」を使っているお前さんみたいに視覚的には観測出来なかった。観測値として、データの中で判別したんだ。傍から見れば奇妙な光景だったろうな。文字列が並んだディスプレイ相手に発狂して奇声を上げるン・モウなんぞ。」
そしてバルビエは続ける。
「異形者達の場所は分かった。次はアクセスだ。クリスタルを媒介に、龍脈の中にいる異形者を観測した。その結果、本体には過剰なまでのセキュリティが掛けられていてアクセス出来なかったが、本体から放射されるエネルギーにアクセスし、これを回収することに成功した。これが10年前。」
「それがこの「キャンサー」?」
「御名答。お陰でオレの聖石は「永久エネルギー供給機関」に発展した。ちなみにな、その「聖天使の玉子」も、同じ原理だ。流石は生命の還流を司る「聖天使」、本体にアクセスできなくても、周囲を囲う力場経由で「星の龍脈」に干渉できることが分かった。死んだ、つまり現世から龍脈の次元に移動した魂を現世に還し、生き返らせる能力は、それ故だ。」
「この力が「魔法」じゃない、ってのは、そういう事だったのね。」
アジョラはそう言って胸元の「玉子」に手をやる。
バルビエの「独演会」はまだ続く。
「だが、コレだけではつまらん。本体に比べれば微々たるおこぼれのエネルギーをチマチマ頂戴しているだけでホクホクしておったら、排水溝のチンカスを有り難がっとる連中と大差ない。オレはさらに研究を続けた。そして、異形者達の力を完全に手中にする方法を発見した。オキューリア共は異形者達を相当、中央集権的なシステムとして整備しておってな。システムの根幹たる「聖天使」の制御さえ掴めば、他の異形者達を含むシステム全体を掌握出来る事を解明した。徐々にゴールが見えてきたわけだ!・・・だがここで問題が発生する。」
「問題?」
「なになに?」
気がつけばサディアとアジョラは絵本の読み聞かせを聞く幼児のようにバルビエの話に引き込まれていた。
「研究資金が尽きたんだ・・・。」
一気に現実に引き戻され、兄妹はずっこけそうになる。バルビエは構わず続けた。
「オレは追加の資金を得るため、それまでの成果をまとめて統合陸軍に売り込んだ。元々、陸軍からは「次世代戦略〜戦術級戦闘システム」の開発を依頼されていてな。この成果を使って発展させれば、異形者達の力を完全な形で使役出来る!といって報告を上げた・・・。何期かは奴等の興味を引いたが、結局、却下された。」
「聞くからに凄そうなんですけど、どうして?」
サディアが問う。
「異形者本体の力を使うのに、個人との「接続」が必要な点は、召喚術として思念体を使う場合と同じだったんだ。軍としては問題が2つあってな。1つは、一旦、異形者本体と何処ぞの誰兵衛が接続してしまうと、それまでのように複数の人間が思念体を召喚出来ていたのが、一切、できなくなることだった。「本体」との接続は、その力の行使権が完全に契約者個人に付与される事を意味したんだ。こうなると「接続」というよりは「融合」だな。」
「それは、確かに大きなデメリットですね。でも、異形者本体の力が、それを補って余りある伝承どおりのモノなら、メリットが上回りそうなものですが・・・」
サディアの指摘にバルビエが首を横に振る。
「お前さんはまだ下級士官だからわからんかもだが、仮にお前さんが軍の戦力を整備する将官クラスだとしよう。そんなスーパー・パワーを持った一個人を、どうやって軍の編制に盛り込む?何かの事情でその個人が戦えなくなれば、代えも利かずに戦力整備自体が成り立たなくなる。さらに、その個人が何らかの事由で反旗を翻したら?強大な力を個人に委ねて依存するなんて、マトモな軍事組織なら採用するわけがない・・・。あの時、オレは資金を打ち切った陸軍士官を随分となじったが、後で冷静に考えてみれば、正しいのは奴等だった。」
「でも、研究は続いたんだよね?」
アジョラはそう言いながら胸元から「聖天使の玉子」を取り出す。
「ああ、続けられた。ちょうど、その時に出会ったチェスターが、情報軍の資金を回してくれたんだ。オレの人脈との取引でな。・・・元首から聞いたが、あんな形で逝っちまうとは・・・。」
サディアが問う。
「大佐は、博士の研究を知っていたのですか?」
バルビエは首を横に振った。
「いや、当初は知らなかった。彼に情報のアクセス権が無かったのもあるが、仮に当時、伝えていたとしても興味は持たなかったただろうな。彼は戦闘システムには興味は持っていなかった。それは、これまで彼がオレに融通させたここの技術の数々を見れば分かるだろう?」
そう言ってアジョラの腰を指差した。その腰に結わえつけられたクリスタルの数々。そこに詰め込まれたのは、いずれも人を癒し、助けるための力だった。
「一気に事情が変わったのは今年に入ってからだ。国境地帯の民衆が、お前さんの「使徒」にまで奇跡の力を求め出したこと。そしてよく分からん政治闘争のお陰でチェスターとアンタ達の作戦が急に打ち切られたこと。元首は直々に言ってきたよ。「もしお前さん等がここに来ることがあれば、最後にできる限りのサポートをしてやって欲しい。」とね。」
バルビエはアジョラの前に進み出る。
「今の状況、アンタにはかなりマズい事態になっていることは分かるな?」
アジョラはため息を一つつくと、小さくうなずいた。
「今までみたいな、小手先の「奇跡」の類では、この事態は抜け出せん。何より、オレがこの任を託されたということは、これはもう運命だと思っている。」
そう言うともう一歩、アジョラに近づき、上目遣いにその瞳を射抜くように見た。
「アンタ、「人間を辞める」覚悟はお有りか?」
「人間を・・・辞める?」
眉間にシワを寄せるアジョラにバルビエは少しばかりはにかむと、手のひらを横に振った。
「なに、モンスターになるとか、人間性を失うとか、そういう意味ではない。だが、今からオレが言う事をやれば、厳密にはアンタは人間ではなくなる。」
「ええと・・・もう少し、説明が必要、かな?」
アジョラは引きつった笑みを浮かべた。
バルビエはうなずき、説明を続けた。
「さっき、異形者達の力を制御するためには「聖天使」を掌握しなけりゃならん、と言ったのを覚えてるな?」
「まあ、概ねそんなコトを言ってたのは・・・」
「それはつまりアジョラさん、アンタが「聖天使」と融合する必要がある、ということなんだ。」
「アタシが・・・融合?・・・あの、外から操る・・・とかじゃなくて?ほら博士、アクセスがどうの、とか言ってたじゃん?」
バルビエは鼻でため息を一つついた。
「まあ、いきなりそんなコトを言われてビビるのも分かる。お前さんの言うように外から操れればエエんだがな。それが出来んのだ。システムの根幹たる「聖天使」へのアクセス・セキュリティは特別頑丈に組まれておってな。この数年、オレはほとんどの時間を、その防壁を破るためのプログラムの作成に費やした。プログラムは完成したさ。だが、使えるのは一度きりだ。もし聖天使の本体に干渉したと分かれば、オキューリアの連中は全力で対処してくるだろう。そうなったら、流石のオレもひとたまりもない。攻撃は奴等がオレ達「下等種族」相手に油断しきっている一度だけ。ゼロデイ・アタックに全てを掛ける。そして制御を奪った「聖天使」をそのままにはしておけない。奴等の干渉の及ばない場所に「移動」させる必要がある。「龍脈」から聖石を経由して・・・ここへだ。」
バルビエはアジョラの胸に指を置いた。
「そうしたら・・・アタシは、どうなるの?」
アジョラは息を呑む。
「理屈の上では、お前さんと「聖天使」は一体化する。お前さんは、「聖天使」の力を行使することができるようになる。チャチな召喚術なんぞじゃあないぞ。「龍脈」の本流、「生命の大河」に干渉し、この星のエネルギーの流れを自在にコントロールできる。サブ・システムたる他の異形者達を完全な形で使役できる。それぞれに対応した聖石を経由させれば、その力はお前さんの「使徒」達のものだ。
今までお前さんらが四苦八苦しながらやってきた国境地帯の農地復元や作物の世話なんぞ、一瞬で片がつく。そして「武力」だ。オレ達にしてみりゃ無限ともいえるこの星と、そこに生きる全ての生命のエネルギーを「聖天使」は自らの「力」としても行使できる。龍脈を流れる莫大な「生命エネルギー」のほんの一部を熱と光に変換させれば、おそらく都市の一つや二つ、容易に消し飛ぶだろう。死都ナブディスを知ってるか?お前さんがその手に気を込めるだけで、アレと同じレベルの事が起きる。その「力」は、使わずとも最大級の抑止力として機能する。何人たりともお前さん自身と、お前さんの「事業」に手出しは出来ん・・・。正直、一個人に持たせるには過ぎた力だ。だが、オレが今、お前さんに与えられる「力」はコレだけだ。受け取るかどうかは、お前さんに任せる。その一方で時間がない。決断は「今」だ。」
そこまで言うと、バルビエは手近な椅子に身体を預ける。
「オレからの説明は、以上だ。ボールは、お前さんにある。一人で決めても良いし、そこのレイレナード大尉と相談しても良い。」
バルビエから全てを聞いたアジョラは大きく息を吸うと、特大の深呼吸をした。
「やるよ!アタシは、やる!」
バルビエも予想外の即決だった。コイツは本当にオレの話を聞いてたのか?と思わせるほどの。「レイレナード大尉」への相談も無かった。
「簡単だよ。「それをやらなかったら、どうなるか」と比べたんだ。今のアタシには、借り物の力しかない。今まで頼っていた人たちには、もう頼れない。もう大人にもなったんだし、独り立ちしなきゃだけど、そうするには抱えてるものが大きすぎる・・・私は、何もできない「ベルベニアの生き神様」に戻りたくない!今までどおり、農地は作る。人も助ける。街を吹き飛ばしたりはしない。大佐が目指した、「壁のないイヴァリース」を作る。邪魔はさせない。全部、今までどおりにやるだけ。だったら、問題ないでしょう?」
その目は先程までの淀みが嘘だったかのように爛々と輝いている。
サディアには何も言えなかった。妹と「異形者」との融合?尋常ならざる事態に違いない。マトモな環境であれば「やめてくれ」の一択だ。だが、今の状況はマトモではない。妹には2つの選択肢しかない。「分不相応な究極の力」か「積み上げてきたものを理不尽に踏み潰される無力」か。アイツの言うとおりだ。「やらなかった場合」を考えた時、その結末は耐えられるものではなかった。
バルビエがサディアを見る。その目が「お前はそれで良いのか?兄貴よ?」と問うている。サディアは目を閉じ、大きく一回、うなずいた。
兄妹の反応を得たバルビエが大きく手を打つ。
「わかった!では、やろう!下に降りたまえ。用意は出来ている。」
そして傍らのワークマン7号・改に命じた。
「オレ達が上がってくるまで、誰もラボに入れるな。」
「コマンド確認、了解シマシタ。」
7号・改が軽快な電子音声で返した。
B12F 特設ラボ
暗く、コンソールだけが青く光る特設ラボでは既にバルビエのスタッフ達が段取りを整えていた。
バルビエがアジョラに「聖天使の玉子」を要求する。言われたままにアジョラは「玉子」を手渡した。
「お前さんの「聖石ヴァルゴ」はコイツをベースに加工する。」
そして「玉子」を解析・加工器にかける。
ディスプレイに表示された文字列をバルビエの目が追った。
「OK、しっかりお前さんに馴染んでるな。これなら問題ないだろう。」
「問題?」
アジョラが問う。
「クリスタルに入った聖天使の「意識」をお前さんの統制下に置ける、ってことさ。もし融合しても、意識はお前さんのままのはずだ。」
「そう、よかったわ。」
アジョラは用意された薄い不織布の患者着に着替えると、案内された寝台に横になる。その腕に管のついた針が刺されると、血液が管に送られた。管の先では透析機のような機器が彼女の血液を循環させる。その血液の通路はラボを上下に貫く直径20cm程の透明の筒を水平に貫いていた。管が筒の中に入り、その中心に到達したところで、管の形が枡のように変形し、血液が滞留する。その箇所に、検査・加工器から取り出された「玉子」が設置されていた。無色透明で楕円のような形をしていた「玉子」は、透き通るような青色の涙滴型に加工されていた。アジョラの血液に浸けられたそのクリスタルの真ん中には、処女宮の印。
「儀式」に必要な全ての段取りが完了したことを、バルビエのスタッフが伝える。
「OK! 彼女以外は管制室に移動しろ。」
バルビエが指示し、アジョラの介添えをしていたスタッフも退避する。介添えの様子を近くで見ていたサディアが移動しようとしたその時、その手をアジョラが掴んだ。サディアが少し驚いた顔で振り返る。寝台に横になったアジョラは、真っ直ぐに真上を見つめながら言った。
「ハリさん・・・ここにいて・・・手、握ってて・・・」
サディアは目を丸くする。アジョラは真上を見たまま続ける。
「そ、そういうのじゃあ、ないのよ?ただ・・・やっぱり・・・ちょっと、こわい。」
サディアはうなずくと、ガラス越しの管制室にいるバルビエに目で合図をおくった。バルビエが、しょうがない、といった顔で手を挙げる。
「バイタル、心拍上がっています。170。」
バルビエのスタッフが報告する。
「まあ、そりゃ、なあ。これで緊張するなってのが無理な相談だよ。」
バルビエはそう言うと、マイク越しにサディアに呼びかけた。
「しっかり、握っててやんな。兄(あん)ちゃん!」
そして、スタッフに指示を飛ばした。
「シーケンス開始!チャンスは一度きりだ!チェックリスト始めろ!」
命令一下、セクション毎に分かれたバルビエのスタッフが担当するシステムを確認する。
「バイタル!」
「循環器系、ノーマル」
「脳波、ノーマル」
「体温、ノーマル」
「バイタル、GO!」
「マシーナリー!」
「電流・電圧、ノーマル」
「抵抗、ノーマル」
「オート・チェックリスト、コンプリート」
「マシーナリー、GO!」
「ミスト・システム!」
「グロセア・スタビライザー、ノーマル」
「ミスト、濃度ノーマル」
「ミスト、フレクエンシー、ノーマル」
「ミスト・システム、GO!」
「ネットワーク!」
「ライン・トゥ・ライフストリーム、レディ・トゥ・コネクト」
「アンロック・プログラム、レディ・トゥ・エクセキュート」
「サルベージ・プログラム、レディ・トゥ・エクセキュート」
「トランスファー・アンド・フュージョン・プログラム、レディ・トゥ・エクセキュート」
「ネットワーク、GO!」
「オール・セクション、レディ・トゥ・GO!コマンダー・ハヴ・コントロール!」
各セクションを横断して統括するミッション・スーパーバイザーがバルビエに報告する。
「レディ・トゥ・GO。アイ・ハヴ・コントロール。」
バルビエは復唱した。
「諸君、幸運を祈ろう。」
そう言うと、手元の端末のエクセキュート・キーを人差し指で叩いた。
その後もラボの様子が変わることはない。空調の音と、アジョラの血液を循環させる、透析機じみた機械の駆動音が静かに鳴り響き続ける。ただ、状況表示ディスプレイ上でネットワークの表記が「ディスコネクト」から「コネクテッド」に変わっていくことが、シーケンスが進行していることを示している。
「ライン、イズ、コネクテッド、トゥ、ゲート1」
「アンロック・プログラム、エクセキュート」
シーケンスは全て自動で進行、スタッフがモニターを見ながら、状況を読み上げていく。
「ゲート1、2、3、アンロック。引き続き4、5、6、7・・・オール・ゲート、アンロック。」
「アクセス、トゥ、「アルテマ」・・・コネクテッド」
「サルベージ、エクセキュート」
その瞬間、ラボを上下に貫通する筒が激しく発光する。頭の2メートル横で突然閃光と振動、轟音に見舞われたアジョラは、掴んだサディアの手を思わず強く握る。サディアもまた、その手を強く握り返した。力が掛かった双方の手に、熱がこもり、汗がにじむ。
「バイタル!心拍オーバー200」
「続けろ!」
スタッフの報告にバルビエが右手を上げて答えた。
閃光と振動は10秒ほどで落ち着いた。シーケンス開始時と同じ静寂がラボを包む。寝台の上ではアジョラが目を飛び出しそうなまでに見開いて、浅い息を繰り返していたが、徐々に呼吸は落ち着いていった。サディアの手に強く掛かった力も同時に緩んでいく。
「「アルテマ」、サルベージ、コンプリート。」
「インストールド、トゥ、「ヴァルゴ」、アンド、トランスファード、トゥ、サブジェクト・・・コンファームド」
コールしたスタッフの目の前のモニターには「FUSED(融合完了)」の文字。
「オール・シーケンス・サクセスフリー・アコンプリッシュド・・・やりました。」
ミッション・スーパーバイザーが脂汗にまみれた顔を手で拭う。
バルビエが手元の端末を操作し、いくつかの波形がリアルタイムで描画されていくのをモニターする。
そしてボソリと呟いた。
「・・・へっ、ざま見ろ、イカ野郎共。オレの勝ちだ。」
管制室からバルビエの声がマイクで響く。
「レイレナード大尉、お嬢ちゃんの様子はどうだ?」
サディアはアジョラに目線を合わせる。
見た感じは、何の変化もない。瞳の色くらいでも変わっているかと目を覗き込むが、それすらも変わっていなかった。あとは本人の自覚症状?だ。眼下で固まったまま、ゆっくり息を整える妹に聞く。
「聞こえた?調子はどうか、って?」
アジョラはまず、目を上下に動かす。次には足の指を閉じたり開いたり・・・最後に手を動かそうとしたところで、「レイレナード」の手を固く握ったままだった事に気付き、慌ててその手を離した。
「あ、ああ、ハリさん。あ、ありがと、ね。なんかスゴイ、安心できました・・・」
「それは、何より。」
サディアは淡々と返す。思い返せば、何処に行くにもまとわりついてくる妹の手を引いていくのはいつものことだった。少しうざったく感じることもあったが、温かくて、愛おしい気持ちになったのを覚えている。特に、知恵と体力がついて小憎たらしくなる前、生きているだけで可愛かった3歳頃までは・・・。
「今のところ、特に、問題は無さそう・・・です。」
アジョラが答える。
「分かった。ひとまず、血液を全部戻すから、指示するまでそのまま寝てろ。」
バルビエに指示されたとおり、腕に刺された針を抜かれるまではそのまま寝っ転がる。包帯を腕に巻かれ、スタッフの指示を受けてゆっくりと寝台から身を起こす。特にめまいなどは感じなかった。不織布一枚で身体を隠していただけの患者衣から、元のネフスカヤの私服に着替える。サディアと2人で管制室に入ると、バルビエのスタッフ達が拍手で出迎えた。口々に「お疲れ様です!」の声。バルビエ自身は端末に向って黙々と何やら打ち込んでいる。
「何してるの?博士。」
アジョラの問いに、バルビエは端末の方を向いたまま答える。
「聖石に「カギ」を掛けてるのさ。あの石はお前さんに合わせて最適化してはいるが、今の状態では、理論上は誰にでも使える状態だ。通常の魔石と同じと思ってもらっていい。なので・・・」
最後にいくつかのコマンドらしき文言を打ち込み、エクセキュート・キーを叩く。
「今、お前さんの遺伝情報をベースにしたロック・プログラムを掛けた。これで、聖石ヴァルゴはお前さんとだけ、リンク可能な状態になったわけだ。」
「博士はオキューリアの「カギ」を破ったわけですよね?同じようにやられる可能性は?」
サディアが問う。
「絶対にない、とは言い切れん。だが、思いつく限り、コレが一番確実な方法だ。まあ、自然発生的にカギに使った遺伝情報と同じ「型」を持った人間が出てくる可能性もあるが、確率にすれば、1000年から1500年に一度、世界の何処かに生まれるかどうか、といったレベルだ。心配するほどのものじゃあない。」
「はい!」
またもアジョラが手を挙げる。バルビエが顎をしゃくって促す。
「どうぞ?」
「あの・・・ほんとに、何の変化も感じないんだけど・・・ホントにその、成功したの?」
バルビエは鼻でため息を吐きつつ、腕組みをする。
「正直、ここから先は全くの未知数でな。さっきは、融合すれば「聖天使」と同じことが出来る・・・とは言ったが、あくまでも理屈の上での話だ。実際に、何がどうなる、とか、こうだったら問題ない、とかはオレからも言えんのだよ・・・。本当に、感じない?何も?」
アジョラは首を縦に振る。
「これは、単なる仮説なんですが・・・」
サディアが口を開いた。
「電算機と同じなんじゃないですかね?」
「電算機?」
「電算機にソフトウェアをインストールする。そのソフトを使えば、色々な機能を使えるわけですが、もし、ソフトに取扱い説明書もヘルプ機能もなかったら、ユーザーはソフトを使いこなせない。初めて使うソフトなら尚の事・・・」
「なるほど。「聖天使」はソフトウェア、というわけか。」
バルビエは合点がいったような顔をする。
「アジョラさんよ、「聖天使の玉子」を使う感覚で、精神を集中してみてくれ。」
アジョラはうなずくと、目を閉じて神経を集中する。手元に「玉子」はなかったが、すぐに「あの光景」が眼前に広がった。
「入れた。光の粒と大きな河・・・龍脈が見える。」
目を閉じたまま答える。
「よし、何か手掛かりはないか?例えばこう、魔法を使う感覚で、力をたぐり寄せられる、とか・・・」
アジョラの眉間にシワが寄る。目を閉じたまま、首を縦にしたり横にしたり。1分ほど頭をひねっていたが、やがて断念したかのように溜め息をつく。
「ダメ。よく分かんない。色々イメージしてみてるんだけど、力が集まるような感覚はないわ。」
「分かった。もういいぞ。」
バルビエの声でアジョラは目を開く。
「あ、でも、凄く楽に泳げた!」
「泳ぐ?」
「あの空間って、「泳いで動く」感覚なの。で、これまではなんだか、凄く粘っこい油をかき分けていくイメージだったんだけど、今のは、何の抵抗もなく、まるで飛んでるみたいに動けた。」
「手元に石が無くても龍脈にアクセスできる。龍脈内での挙動も変わった。つまり、融合する前から使っていた能力には磨きがかかっている。その一方で、新しい能力の使い方については、今のところ見当も付かない。大尉の仮説は正しいかもな。となると、どうしたものか・・・」
バルビエは腕組みをして考え込む。しばしの沈黙の後、アジョラが口を開いた。
「いいわ!力の使い方はこれから何とかトレーニングしてみる。ほら、家電だって、説明書が無くても色々弄ってれば、何となく使えるようになるじゃない。大丈夫、大丈夫!今日、使いこなせないと死ぬ、ってわけじゃあないんだから!」
自分に言い聞かせるような、周りを元気づけようとしているような、そんな口ぶりだった。バルビエも「お前さんがそう言うなら」と首を縦に振った。
スタッフがバルビエに耳打ちをする。バルビエはボソリと返す。
(イケた?・・・「霊樹」も?)
(ハイ。「聖天使」と同じプログラムで抜けました。ラッキーか・・・単に、舐められていたか・・・)
(まぁ、いいさ!)
ボソボソ話を終え、バルビエはスタッフに満足げな笑顔を浮かべてサムアップした。
「よし、「聖天使」を掌握できたおかげで、他の異形者の制御権も奪取出来た。「聖石」経由で喚び出す事が出来る・・・ハズだ。」
「召喚獣みたいに使えば良いの?」
バルビエはまたも頭を掻きながら一寸黙る。オキューリアから「1本取る」ことに集中し過ぎて、奪い取ったものをどう使うかまでは、正直、深くは考えていなかったのだ。
「お前さんが「聖天使」の力を使いこなせるようになるまでは、喚ぶのは止めたほうがいいだろうな。どうなるか予想がつかん。」
そして続けた。
「当面は、使徒の連中に聖石を持たせて、「聖天使の玉子」の要領で、チマチマと力を拝借するのが良いだろうな。やってみなけりゃ分からんが、うまく行けばお前さんが「玉子」で死者を生き返らせたのと同様、異形者の特性に応じた能力を発揮できるかも知れん。本来なら、全員ここに呼びつけてお前さん共々、1カ月でも2カ月でも検証すべきなんだがな・・・残念だが、時間がない。お前さんも、オレもな。」
「博士が?」
「色々と、きな臭い情報が入ってくるのさ。ランベリーがここの施設の接収を目論んでる、とかな。」
「どうしてランベリーが?」
サディアが声を上げる。バルビエは肩をすくめた。
「さあな。大方、オレとオレの息のかかった連中を排除する為だろう。ヤツらに作戦が露見したってことは、オレの関与もバレたかも知れんしな。オレはお前さん達に肩入れし過ぎた。ヤツらにとっては邪魔なはずだ・・・」
「そんな、アタシ達のために・・・」
アジョラが申し訳なさそうな顔をする。バルビエは笑いながらその肩を叩いた。
「そんな顔するな!チェスターからの借りを返したまでだ。それに何より、オレが好きでやってたんだ。楽しかったぜ。特に今日は人生の総決算と言ってもいいイベントだった。お互い切羽詰まってたとはいえ、実験台になってくれてアリガトな。」
「実験台って!」
アジョラがバルビエの肩を叩き返す。
スタッフがセットになった「聖石」を持ってくると、デスクの上に並べた。バルビエが立ち上がってハッパをかける。
「さて、色々とやっつけな所はあるが、コレでお前さんは晴れてイヴァリース初の「ゾディアック・ブレイブ」だ!向こうに帰って、石を使いこなせるようになったら、堂々と名乗りを上げると良い。そうすりゃ、そうそう誰も手出しは出来んさ!」
アジョラとサディアは鈍く光を放つ石達を見る。それぞれが十二宮をイメージした造形に造られ、あたかも数千年前の神代から存在していたかのように神秘的な威容を放っている。
「アレ?「キャンサー」はないけど、12個ある・・・」
アジョラが最後に並べられた緑のクリスタルに目をやった。
「ソイツはサーペンタリウスだ。十二宮ではないが、異形者「戒律王」をインストールしてある。当面の「キャンサー」の代わりとして用意した。「キャンサー」はチョットばかり借りておきたくてな。7号・改を動かすにはアレが要るんだ。」
そして続けた。
「オレだってわが身は可愛い。むざむざランベリーの脳筋共に殺られるつもりはないさ。かといって、おめおめとシッポ巻いて逃げるほどタマ無しでもない。もしランベリーのバカどもが来たら、コイツでひと通り暴れてから、うまいこと脱出してそっちに行く。石はその時、返すさ・・・。お前さんがこの老いぼれを歓迎してくれりゃあ、だがな。」
アジョラの顔が明るくなる。
「いい!いいよ!いいに決まってんじゃん!でも、それなら、今、一緒にくれば・・・」
申し出にバルビエは首を横に振った。
「この立場になると、色々とやらなきゃならんことがあってな。イザコザに巻き込まれたくない職員を異動させたり、万が一の時のための防衛態勢を整えたり・・・それに、ここに居れば、ギリギリまで研究ができる。今日一日のおかげで、俺のラボのデータベースは宝の山だ。コイツを解析しないで放っておく手はないし、お前さんが「力」を使いこなすための手掛かりだって見つかるかもしれない。」
「そうか。残念だけど・・・じゃあ、次に会うときまでに、立派な説明書作っといてね!あ、でも、辞書みたいに分厚いヤツはイヤよ。」
バルビエは小さく笑いながら鼻を鳴らして答える。そして、2人についてくるよう促した。管制室を出て、倉庫区画に移動する。スイッチを入れて機械式の分厚い扉を開くと、そこには直径2メートル近くはある白銀の玉が鎮座していた。バルビエが玉に設置された手のひら大のハッチを開けると、そこには宝瓶宮の印。
「「アクエリアス」をはめてみな。」
バルビエが促し、アジョラは言われた通りに聖石「アクエリアス」をはめ込んでハッチを閉める。軽快な電子音、引き続いてモーターの起動音が鳴り出す。次の瞬間、玉のロック機構がけたたましい金属音とともに外れ、四肢と頭部が顔を出し、一気に直立する。
「ああ、びっくりした!・・・ワークマンじゃないですか。非稼働時は玉なんだ・・・」
起動音に驚いて腰を抜かしかけたサディアが声を上げる。バルビエが立ち上がった鉄巨人に手をかざした。
「改めて紹介しよう。ワークマン8号だ!」
「「改」じゃないの?」
「7号は、電池式からの改造だったから「改」だが、コイツは最初から聖石仕様で作ったからな。お前さんへの「餞別」だ。」
「な、餞別・・・って」
今度はアジョラが腰を抜かしそうになる。
「「聖石」をセットした人間を「主人」として認識する。試しに何か命じてみろ。」
「えっ、ヤダ・・・なんか、コワい。」
「何言ってるんだ!さっき、オレが7号・改にやってたのと同じだよ。」
「ゴ主人サマ、ゴ命令ヲ、ドウゾ」
「いや、わかってるんだけど、こんなデカいのに「お前が主人だ」とかいきなり言われると、ねえ・・・」
尻込みするアジョラに、バルビエは呆れたという風に両手を挙げて顔を横に振る。
「こいつは動作確認も兼ねてるんだ。何でも良いから!」
強く促されたアジョラは頭を捻ると仕方なく命じる。
「じ、じゃあ・・・踊れッ!」
「ハッハッ!「踊れ」って・・・」
素っ頓狂な命令にサディアは笑い出したが、命令通りにドジョウすくいのような動きを始めた「8号」に目を丸くする。その様子をみたバルビエは感心した様子だ。
「よしよし。踊らせるとは、中々良いセンスじゃないか。四肢の動作とバランサーの精度を見るにはうってつけのコマンドだ。」
「そ、そう?」
褒められたアジョラは満更でもなさげな笑顔を浮かべる。気分が乗ったのか、バルビエに質問を投げかけた。
「ねえ、この子って、強いの?」
バルビエは胸を張る。
「ああ!一番の売りは耐久力と耐腐食性だが、戦闘力も中々だ。重作業用のをオレが改造したからな。」
それを聞いたアジョラは悪戯っぽい笑みを浮かべると新たな命令を出した。
「じゃあ・・・ハリさんを、やっつけちゃえ♡」
「っお前・・・!」
サディアは凍りつく。
(コイツは調子に乗るといつもコレだ。さっきだって、村人に煽てられてバカみたいに呑んだ挙句に機内で全部ぶち撒けたってのに、今度は・・・)
サディアが次の言葉を発する前に、鋼鉄の剛腕がその胸にめり込む。骨が砕ける鈍い音を残して、その身体は10メートル近くも飛ぶとコンクリートの壁に叩きつけられ、そして床に崩れ落ちた。ピクリとも動かないその身体から血溜まりが広がっていく。
大して深く考えもせずに、拳闘のノックアウトくらいをイメージしていたアジョラは一瞬で凍りつき、やがて腰を抜かすと、子供時代に兄に尻をつねられて以来の金切り声をあげて泣き出した。
一瞬で起きた余りに予想外の出来事にバルビエもまた呆然としていたが、はっと気を取り直すとまずサディアの方に駆け寄り、脈を取った。
(うむ、見事に、死んでいる。フェニックスの尾なんぞでどうにかなるレベルではないな。)
次にアジョラの方に駆け寄ると、ハリの名を繰り返しながら涙と鼻水にまみれて混乱するその顔にビンタをかまし、両肩を掴んで強く揺さぶり呼びかける。
「おい!こっちを見ろ!オレの目を見て、深呼吸だ!深呼吸!」
「でも!・・・だって!・・・」
言葉にならない言葉を繰り返しつつも少しずつ落ち着きを取り戻してきたアジョラにバルビエは諭すように語り掛ける。
「よし、落ち着け、いいな。よく聞け。大丈夫・・・確かにアソコにあるのはレイレナードの死体だ。」
死体という言葉を聞いてアジョラの肩が再び震えるが、バルビエはそれを押さえつける。
「落ち着け!お前さんは死人を生き返らせたことがあるか?あるだろ?」
「・うぅ・・ヒック・・・ある・・・」
「そうだ。あるな。「聖天使」の力だ。さっきお前さんは、何と融合した?」
「うっ・・・聖・・・天使・・・」
バルビエは大袈裟に頷くと、励ますように言って聞かせる。
「そうだ!だからコレは、大した事じゃない。ちょっと死んじゃっただけだ。だからほら、ちょっと行って、サクッと生き返らせてこい。そうすりゃ、ただの笑い話だ、な?」
「う・・・うん・・・」
アジョラは頷くとゆっくり立ち上がり、”ハリ”の亡骸の側に立った。これまで幾人かを蘇らせてきたが、ここまで惨たらしい遺体は見たことがない。思わずまた泣きそうになる。
「大丈夫!鉱山とか戦場に比べたら大したことない。」
バルビエが励ます。
アジョラは今までやってきたのと同じように、亡骸に触れると意識を胸元に集中する。
目を開けるとそこは既に「星の龍脈」、赤く輝く”ハリ”の「魂」はあっけないほど直ぐに見つかった。その光に触れ、身体へと戻るように念じる。「魂」が、電流のように彼女の身体を突き抜けたその時、”ハリ”の見てきた記憶のイメージが、高速の走馬灯のように再生された。最近のものから巻き戻るように・・・定期報告で対面に座るアタシ、オニクス叔父さん、ネフスカヤのおばさん、何処か知らない国・・・軍隊の・・・学校?・・・また、叔父さん、でもなんか凄く若い感じ・・・父さん・・・確か、会ったことある、って言ってたっけ・・・母さん?・・・そして、アレ?・・・この子は・・・アタシ・・・?
その瞬間、大きな叫び声が鼓膜をつんざき、目が覚める。振り向くと、”ハリ”が、上半身を起こして目を飛び出さんばかりに開き、荒い息をしていた。
「あ、あれは・・・あの光景は・・・死んだ?オレは死んだのか?」
バルビエがしゃがみ込んでその肩を叩く。
「はい、お帰りなさい。無料の天国体験ツアーはどうだった?あ、ひょっとして地獄旅行だったか?」
サディアは息が落ち着いてきたところで胸元を見る。肌には傷の一つも残ってはいなかったが、ネフスカヤから借りたフライトスーツはまだ生暖かい鮮血に染まっていた。口の中も、血の味がする。身体はピンピンしているのに、身体も服も血まみれという状況に混乱したが、ほんの数分前に自分の身に何が起きたかはハッキリと覚えていた。
「ああ!ハリさん!良かっ・・・」
“ハリ”の生還を喜ぶアジョラが言葉を発し終える前に、サディアの平手が彼女の頭を上から引っ叩いた。すぐ後に怒声が続く。
「オマエは本ッ当に昔っからいつも!いつも!考えなしに調子に乗りやがって!どれだけやらかしたら気が済むんだ!あぁ!?」
2発、3発と頭をはたく。アジョラはたまらず頭を守りながら叫んだ。
「ゴメンナサイ!ごめんなさい兄ちゃん!ゴメンナサイ・・・って、痛いよ!謝ってんじゃん!」
「兄ちゃん」と呼ばれ、サディアはハッと我に返った。ロボ・パワーの強烈なパンチで殺害され、すぐさま生き返らされた事で完全に我を失って激昂してしまった。その結果、完全に「少年サディア」に退行した状態でアジョラに突っかかってしまったのだ。手を収めて短く深呼吸し、心を落ち着ける。
「誰がお前の「兄ちゃん」か!」
アジョラもそこで我に返る。
「え?あ、アタシ、そんなコト言った?」
「覚えてないなら、いい。とにかく、俺はキミの父さんでも兄さんでもないからな!」
サディアは言い含めるように言い、アジョラも頭を縦に振る。そしてふと気付いたかのように口を開いた。
「そうだ・・・さっきの叱られ方と、叩かれ方が、昔、兄さんにやられたのと一緒だったんだ・・・」
「イヤな共通項だな。まあ、いいや。」
そう言うとサディアは立ち上がって身体を回す。特段何の異常もない。さらに言えば、今日一日、ひたすら動き回った疲労感も無かった。まさに「生まれ変わった」感じだ。バルビエに問いかける。
「博士、やっぱり俺はさっき・・・」
バルビエは大きく頷く。
「ああ、完全に死んでたぞ。戦闘不能とか仮死とかチャチなもんじゃない。この子が居なかったら、そのまま葬式だ。」
「居なけりゃ、そもそも死んでませんけどね。」
バルビエはアジョラに訊ねる。
「どうだい?「生き返り」をやった後の疲労感は?」
問われたアジョラは、ハッとする。
「そういえば、ない。だるくも、眠くもない。」
「やはり、な。元々できてたコトは、より高精度に、かつ無理なくできるようになっている。きっと、キッカケさえあれば、他の力もすぐに使いこなせるようになるだろう。」
バルビエはそう言ってアジョラの肩を叩いた。
アジョラは立ち上がると、改めてバルビエに問うた。
「で、何でこのアーマーをアタシに?」
「別に、深い考えはないさ。お前さんが「力」をすぐには使いこなせないなら、使徒の連中だっておそらくそうだろう。しばらくは聖石を持ってる、ってだけで、何もできんかも知れん。その間のボディガードにどうか、と思っただけだ。ランベリーの連中がいつ仕掛けてくるか、分からんのだからな。聞くところじゃあ、あそこの大公様は「カミュジャ」を抱え込んでるらしいし。」
「あの、ウェット・ワーク(汚れ仕事)専門の国際傭兵部隊ですか?」
情報軍に所属するサディアには聞き覚えのある名前だった。余りに非人道的だったり、露見すれば軍や国家のメンツにかかわるような汚れ仕事を「外注」する時には真っ先に名前が挙がる組織だ。
「そうだ。国境地帯に潜入するくらい、奴等なら造作もないだろう。この子は、他の誰かなら造作もなく生き返らせることが出来るが、「力」を使えなきゃ、自身の防御は恐らく「ただの女の子」のままだ。もしかしたら、そうじゃないかも知れんが・・・何なら試してみるか?」
バルビエはそう言うと、アジョラの「命令」を完遂して棒立ちになっている「8号」に目をやってから、アジョラを見る。アジョラは凄まじいスピードで首を横に振った。
「野盗やあの辺りに出るモンスターくらいなら、「使徒」の皆や、集落の自警団でも対応できるけれども、軍の正規部隊やプロの傭兵相手となると、話は変わってきますね。まあ、あのパンチ力なら、相当頼れるボディガードになりますよ。痛いと思う暇も無く、三途の川でしたから。」
サディアが、最後は少しばかりの嫌味を込めて言う。アジョラが肩をすくめた。
バルビエが気を利かして助言する。
「幸か不幸か、ワークマン・シリーズは全機がここでの試作止まりのワンオフ品だ。シリアルの刻印も無いし、パーツから足取りも辿れないから、その点は気にしなくていい。しかも動力は聖石仕様だ。「ゾディアック・ブレイブの証として神様から頂いた」とでも言っておけば良いさ。」
サディアは時計を見る。既に午前4時前になっていた。
「そろそろ、行かないと。」
バルビエはうなずき、見送りを買って出た。3人と1機が、地上行きのエレベーターに足を向ける。
バルビエが口を開いた。
「同盟諸国の作戦としては、コレでオシマイだ。だが、お前さんの戦いはまだまだ続く。時が来れば、オレも加わりたい。異形者と融合した「勇者」達と新しい世界を作る、なんて面白そうなもの、捨て置くわけにはいかんからな。」
アジョラが頷く。
「じゃあ、「オペレーション・ウォールブレイカー」もおしまい?」
「目指すところは概ね変わらんが、作戦名は変えた方が良いだろうな。その方が心機一転、しっくり来るだろう。大尉、何か案はあるか?」
いきなり振られたサディアは頭を捻るばかりで良い案が浮かぶ気配もない。そうしているうちに、バルビエが口を開いた。
「・・・「オペレーション・ファイナル・ファンタジー」・・・どうだ?」
「なんだか格好素敵なネーミングですね。何か思うところが?」
サディアがそのこころを訊ねる。
「オレはこの名前に2つの意味を込めた。まず一つ目は、現状だ。お前さん達には後がない。死んじまったチェスターが頭に描いた「幻想(ファンタジー)」を実現するために打てる手はすべて打って、あとはやるだけ。背水の陣の「最後のチャンス」だ。」
「じゃあ、もう一つは?」
問われたバルビエはアジョラの方を向く。
「な、何さ?アタシがファンタジー級の美女だから・・・ってわけではなさそうね。」
バルビエはゆっくりと首を横に振った。
「お前さん、今日は実にいろんなモノをぶち撒けたな。ゲロに小便、涙に鼻水・・・」
アジョラの顔が真っ赤になる。バルビエは気にせず続けた。
「いいか、お前さんは、指導者だ。それもただのリーダーじゃあない。「神の御子」なんていう、他に変えられない存在なんだ。民衆にとって、そういう存在のことをなんて呼ぶか、知ってるか?・・・「偶像(アイドル)」だ。」
「アイドル?アタシが?・・・いや、流石にそこまで自惚れちゃあいないわよ。」
「ああ、お前さんのは、いわゆる「セックス・シンボル」の方じゃあない。」
「なっ!」
アジョラの顔が引きつる。自分で言うのと他人から言われるのとではわけが違った。だが、バルビエはアジョラが言い返そうとする口を遮ると続けた。
「いいから聞け。容姿や歌声で魅了する偶像(アイドル)がいりゃあ、言行やカリスマで魅了するお前さんのような偶像(アイドル)もいる。だが、どちらのアイドルも、民衆から求められるモノは同じだ・・・「幻想(ファンタジー)」だよ。現実離れしたその時の、或いは未来の幸福。それを信じさせてくれる幻想(ファンタジー)を与えてくれるのがアイドルだ。こんな格言を知ってるか?「アイドルはウンコもシッコもしない。アイドルが穴から出して良いのはファンタジーだけだ」ってな。」
「何それ!?そんなの、死んじゃうじゃない!」
「もののたとえ、だよ。だが、それこそが、民衆がお前さんに求めてるモノなんだ。お前さんは、いつ終わるかも知れん最期(ファイナル)の時まで、幻想(ファンタジー)を撒き散らしながら進むしかないんだ。ゲロも「聖水」も、もってのほかだ。」
「それで、「ファイナル・ファンタジー」・・一つ目は良いけど、二つ目はなんか複雑だわ・・・」
アジョラは眉間にシワを寄せて頬を膨らませる。バルビエがヤレヤレという顔をして続けた。
「「セックス・シンボルじゃない」って言われたのが不満か?まあ、安心しろ。何だかんだ言って、アイドル稼業に容姿は重要だ。もしお前さんの容姿が人並み以下だったら、今の地位は確立してないさ。だから大丈夫。コレで良いか?」
「博士、アナタ、女性にモテないでしょ!もういいわ!」
そう言い放つとアジョラはサディアの方を向く。
「そもそも違う種族に聞いたって意味なかったわ。ハリさんは、どうなの?初めて会った時、キレイだ、って言ってくれたわよね!?」
「どうなの・・・って・・・」
(一番、そういうコトを聞くべきじゃない相手に聞くんじゃねぇよ・・・それにアレは「子供の頃と比べて」の話だ・・・)
サディアは辟易しながらも、人生で一度も浮いた話も無く成人を迎えてしまった憐れな妹の為に答えを探す。心を殺して「キレイだよ」と言ってあげれば良いのは分かっていたが、どうしてもそれが言えない。
「うん・・・キミは、お父さんに似て、ハンサムだ。そう、ハンサム・ガールだな!」
サディアの「逃げの一手」の回答を聞いたアジョラはサディアからも目を逸らすと特大の溜め息をつく。
「ハァ・・・もう、いいわよ!アンタ達に聞いたのが間違い。今度は、森のクマにでも聞いてみるわ!」
一通り不満をぶち撒けると、小さく鼻息を吹いて天井を仰いだ。
「・・・オペレーション・ファイナル・ファンタジー、ね。分かったわ。それで頑張る。」
そう話しているうちに、3人はエレベーターを経て地上の入り口を偽装した神殿跡に辿り着いた。東の地平線が白んでいる。
「じゃあ、オレはここまでだな。」
バルビエはそう言うと、腰に括り付けたクリスタルの一つに念を送って、サディアに手をかざす。次の瞬間、血糊にまみれたフライトスーツが一瞬で洗いたてのように綺麗になった。
「バルビエ様オリジナルの洗濯魔法。衣服に付着した皮脂、汚れの色素、雑菌をまとめて分解する。シトラスの香り付きだ。これも、平時なら黒魔法の100万倍は役に立つ。」
「あ・・・ありがとうございます。」
借り物のスーツを血まみれにしてどう言い訳するか悩んでいたサディアはバルビエに礼を言った。
「じゃあ、向こうで待ってるわね!説明書、お願いよ!」
アジョラはそう言うと笑った。空気も冷たい黎明を背景に、その白い歯が映える。
「ちょっと、待て!」
踵を返してセイレーンに向かおうとしていた二人をバルビエが呼び止める。何事かと振り向こうとしたその時、バルビエが両の手で二人を抱き寄せた。二人も身を任せる。そのまま数秒間の時間が過ぎた。バルビエが手を離す。
「どうしたの、博士?急に。」
「さあな、友人を失って、少しばかり寂しくなったのかもしれん。あとは、お前達が少し可愛く思えた。」
「可愛く・・・って、そんな年じゃあ」
サディアは肩をすくめるが、バルビエは鼻息を鳴らした。
「へっ、20や25なんぞ、オレにしてみりゃ、赤ん坊みたいなもんだ。爺ィが赤ん坊を抱いて、何が悪い。そら、感傷タイムは終わりだ、とっとと行け、行け!」
そう言うとバルビエはシッシッと手で二人を払う。
サディアとアジョラはバルビエに手を振ると、背を向けてセイレーンに向かった。機内ではアジョラがぶち撒けた”モノ”の掃除を終えたクルー達が仮眠を取っていた。彼らを起こさないようにコックピットに向かうと、アジョラが座席をリクライニングして眠るネフスカヤの肩を軽く叩いて起こした。
「終わったの?何か収穫はあった?」
ネフスカヤの問いにアジョラはうなずいてサムアップをしてみせる。
「それでおばさん、ちょっと載せるモノがあって、カーゴベイを開けてほしいんだけれど・・・」
ネフスカヤがラッタルから外を見ると、そこには「ワークマン8号」が直立していた。
ネフスカヤは目を丸くすると、カーゴマスターのギュネイを叩き起こす。事情を聞いたギュネイもまた目を丸くしながら、慌てて計算尺を取り出し、重量・重心の計算を始める。
「コイツはいったい、何kgあるんですかい?」
「ワタシノ全備重量ハ3250kgデス」
「8号」が問いに答え、ギュネイがそれを元にカーゴ内に「8号」を載せる位置を計算する。
「ふう、「バニシュ」込みで何とかギリギリ収まりますぜ。重量はともかく、重心の許容範囲がね。まさかこんな大物の土産を持ってくるたあ、お嬢、やってくれますね。」
カーゴベイを開け、「8号」を載せるために一通りバタついた後、セイレーンは離陸し、ネルベスカを後にした。
キャビン内では、見張り窓から漏れてくる朝ぼらけの光が少しずつ強くなり、機内を少しずつ明るくしていく。離陸後、しばらくは無言で座っていた二人だったが、先に口を開いたのはアジョラだった。
「ねえ、ハリさん。怒らないで聞いてくれる?」
サディアは「ああ、いいよ。」と答えると、横目に視線をアジョラに向けた。
「アタシね、今日、凄く色んなことがあって、ドキドキして、楽しかった・・・メチャクチャだよね。大佐があんな事になって、作戦はご破算になって、しかもハリさんも一回、死んじゃったのにね。でも、他に表現が見つからないの。」
サディアは特に怒る気にはならなかった。何となくだが、彼女の思いが理解できる気がしたからだ。
「この朝日が昇るのと同時に・・・軍の作戦だったキミの任務は、キミがキミ自身のために遂行する作戦に変わる。大佐やオレ達、保護者を失う代わりに、新しい超常の「力」を得て・・・」
一寸、黙った後、サディアは続けた。
「分かるよ。高揚感、あるよな。選択肢を出したのは元首だけれど、選んだのはオレ達だ・・・。道は・・・天国への階段か、或いは地獄への片道切符か・・・」
そこまで言うと、アジョラの肩を軽く叩いた。
「取りあえず、もう死ぬのは怖くなくなったよ。だって、もう、行き先見ちまったからな!」
そして小さく笑い出す。釣られてアジョラも笑い出す。「一回、ホントに死んだからもう死ぬのが怖くない」などと、なんてナンセンスな会話なのだろう。2人の笑い声はシンクロしながら次第に大きくなった。ひとしきり大笑いした後、2人そろって深呼吸する。
「アタシ、ハリさんともっと早くに会いたかったな・・・1年とちょっとしか一緒に仕事出来なかった。しかも、素で接してくれたのなんて、昨日・今日だけじゃん。」
アジョラの言葉に、サディアは鼻を鳴らして言い返す。
「フン・・・惚れたか?」
「そういうんじゃ、ないって!ただね、もし・・・」
「もし?」
「・・・ううん、いいや。やっぱやめた。」
そう言ってアジョラは首を横に振った。
セイレーンの高度が下がる。見張り窓越しに「聖別の森」のLZが見えた。
着陸態勢に入った機体が旋回しながら小刻みに揺れ、やがてランディング・ギアが地面を捉える軽い衝撃が座席越しに響いた。クルー達が整列する。今度はコックピットからネフスカヤ、アキュラ、フセインも出てきて並んだ。
「皆には言ってあるわ。今日が「ラスト・フライト」だってことだけはね。」
ネフスカヤが淋しげな笑みを浮かべた。
「ラストなんかじゃないよ・・・」
アジョラの目が一気に赤くなる。
「アタシは、上手くやってみせるんだから・・・そして、アタシの国が出来て、国境が開かれたら、また、皆で飛んでくるんだから・・・!」
詰まりそうな涙声でそう言うとネフスカヤに抱きつき、その大きな胸に顔を埋めた。ネフスカヤがそれを強く抱きしめる。
「じゃあ、また会えるように、頑張るのよ!」
胸の中でアジョラの頭が無言のまま縦に揺れる。
抱擁を終えると、アジョラはクルー達といつものように拳を合わせていく。
「お嬢、頑張って!」
「オレが定年するまでに終わらせろよ、お嬢」
クルー達が励ましと惜別の言葉を掛けていく。そして最後にサディアが拳を出す。
「キミがさっき言った通りだ。コレで最後じゃあない。また会おう。」
アジョラは何も言わずに、笑顔で拳を合わせる。
ラッタルを降りると、機体後部のカーゴベイが開き、そこから「8号」が降りてきた。
ラッタルが上がり、キャビン・ドアが閉まる。エンジン音が高まり、離陸の態勢に入ろうとしたその時、再びエンジン音が下がると、空いたままのカーゴベイからサディアが布袋を持って駆け下りてきた。アジョラに布袋を押し付ける様に渡すと叫んだ。
「聖石!」
アジョラは目をまん丸に見開きながらそれを受け取った。
「そういうところ!ほんっとに、そういうところだからな!たのむぞ!ホントに!」
サディアはそう言い残し、アジョラの尻を叩くと踵を返して機内に戻っていった。
再びエンジン音が高まり、今度こそセイレーンが飛び立つ。機体が30mほど離れ、「バニシュ」の圏外に出た途端、その機影は消え、静寂と風だけがアジョラを包んだ。
深く、深く深呼吸をし、足を森に向ける。「8号」が、令なく、その後について歩く。森を出る頃には朝日が出きっていた。森の外で寝ていたチョコボを起こし、またがると「8号」の歩みに合わせてゆっくりと歩を進める。
深夜まで宴で盛り上がった集落は、まだ眠りについたままだった。間に合ったことに胸を撫で下ろす彼女を小さな人影が呼び止める。
「おはようございます。」
振り向くと、そこにいたのは広場に散らかっていたのであろうゴミを抱えたアドルフだった。笑顔だが
、その目が赤い。酒宴には縁のない分、寝ずに片付けをしてくれたのだろう。
「おはよう、アディ。」
アジョラはそう答えると、小さな「使徒見習い」に笑いかけた。