When The "Saints" Go Marching In Ivalice 作:N22b
B.B.760 10月6日 0600時 「聖別の森」
僕は繁みの中で「あなた」を待つ。麻紐で枝葉と草を撚り合わせて作ったマントで身体を覆って、姿を隠しながら。ここは「聖別の森」。「あなた」以外は誰も入ってはいけない場所・・・でも、だからこそ、僕はここで確認しなければならない。
ー あなたは、誰なの? ー
僕の頭は「きっと、そうに違いない。」と言っている。でも心は「そうであって欲しくない。」と叫んでいる。こんなにも僕の胸を掻き乱すなんて・・・「あなた」は・・・あなた達は、ひどい人だ。
目を伏せて思い返す。あなた達と一緒になってからの半年と少しばかりのこと。
正直、僕から見て、あなた達は、隠し事が上手な人達じゃあなかった。断言してもいい。あなた達の作戦保全は穴だらけだ。まずは訛。あなた達の内、半分はベルベニアのそれだったけれど、そうじゃないほとんどの人達からは、シルバニアかゼルテニアの訛を「隠そうとしている」のが分かった。完璧だったのは召喚士のセレーナさんくらいなものだ。「何十年も諸国を渡り歩いてきた。」っていう、あの人の言葉は嘘じゃないだろう。特にモリタさんの偽ランベリー訛は壊滅的だった。モーグリは語尾の「クポ」とその前の文節の言い方で大体の出身が分かる。一生懸命、西ランベリーの訛に合わせようとしてたみたいだけど、少し気を抜くとシルバニアの「クポ」になってしまう。本人も気にはしてたみたいで、ランベリーに近い山脈南東部の住民達の前ではほとんど喋らなかった。ただ、技師としては超一流で、資材や設備が限られたこの地方でも整備できる大型農具や治水設備を設計した技量は神がかっていた。寡黙さも手伝って、西ランベリーのある集落では神聖視されてしまい「農業と治水の聖人モリタ」の像が作られてしまったほどだ。
セレーナさんやモリタさんみたいに、ベルベニア以外で「使徒」になった人達を僕なりに一言で総括するなら「教団を機能的に運営するためにイヴァリース中から掻き集められた特技集団」だ。僕の仮説が正しければ、「誰か」が、セレーナさん達をスカウトして組織し、「あなた」に仕えさせている。ここに潜入して2カ月もする頃には僕はこの仮説にたどり着いた。
そしてお金。「教団」と「外」との繋がりを立証するために、僕はお金の流れを追いたかった。お金を管理してるのはバンガのヨシフさんとヴィエラのフレアさん。でも、流石にいきなり帳簿を触らせてくれるわけはない。僕は、村の子供たちに算術を教えることから始めた。二人の目に留まるように・・・あの二人が毎日遅くまで眠そうな目をこすりながら算盤を弾いているのは分かっていたから。
少しして、目論見どおりヨシフさんが僕に助けを請うてきた。計算間違いが見つかる度にフレアさんに小言を言われるのがこたえるんだとか。「オレは小・中学校で算術がちょっと得意だっただけで経理の専門家なんかじゃないんだ。」と泣き言を言うのがヨシフさんの口癖だった。僕が任されたのはヨシフさんの検算、フレアさんにバレないようにコッソリやって欲しいという。願ったりだった。いくら僕が子供だからって、帳簿を部外者に見せてしまうなんて、ヨシフさん、脇が甘すぎるよ・・・。帳簿を追いかけた結果は、案の定だった。「教団」に帰依した集落からの収穫・収益じゃあ、とても支出は賄えない。ヨシフさんに頼んで、僕が来る前の帳簿も見せてもらったけれども、あちこちで不自然な収入の水増しの痕跡が見つかった。篤志家からの寄付だとか色々な名目で「外」から資金が入ってきているのは明白だった。
そして、極めつけは「あなた」自身だ。昨日、突然村に連れてきた謎の男。いったい誰なんだ?衣装だけはこの地方のものだけれど、この村の住人じゃないのは明らかだった。流石に2カ月も滞在していれば村人かどうかの区別くらいつく。村人達は酔っぱらって気づかなかったみたいだけれど、もしあの男が「外」のエージェントだとすれば、余りにも不用心だ。そして「あなた」は、その男と二人で村から出ていった。そんなモノを見せられたら、追わないわけにはいかないじゃないか・・・。「あなた」以外には誰にも入れないはずの「聖別の森」にその男と入っていった。そんなの、確認しないわけにはいかないじゃないか!おかげで僕は、今、こんな所に隠れている。
何故、あなた達はこうも脇が甘いんだ・・・。
でも、そんなあなた達のガサツな姿を思い浮かべる時、僕の頭の中であなた達はいつも笑っている。思い通りにいかなくて苦しい時でも、やっぱり笑っていて、僕の名を呼んでくれるんだ。
「やったぞ!アディ・・・」
「やっちゃったよ!アディ・・・」
「どうしよう、アディ・・・」
何で、そんなに僕の事を構ってくれるんだ?
僕はあえて、あなた達に見せる能力を低めに設定した。何でもできすぎるとカバーストーリーにそぐわないし、悪目立ちすると思ったからだ。僕は虐待に耐えかねてサーカス団から逃げ出した憐れな少年。読み書き算盤は人並み以上だけれど、それ以外は年相応の子供並・・・いや、小柄な童顔を活かして、年齢も低めにサバを読んだ。捨てられないよう一生懸命だけれど、勢い余ってミスも目立つ。それが僕が演じるアドルフ・ゲルモニークだ。特別な利用価値があるわけでもない。本国で周りの大人たちが僕を持て囃したのは、僕の才能故だ。そう・・・褒められたのは僕の「能力」だ。記憶力、応用力、計算力、認知能力、演技力・・・それが僕の「本質」だと信じていた。それがあるから僕は認められるのだ、と。
でも、事あるごとにあなた達が構ってくれたのは、ちょっと頭が良いだけの人並みな少年アドルフだった。
確かに、機転を利かせたり、痒い所に手が届く手伝いをした時、「あなた」は喜んでくれた。でも「あなた」が僕の事で一番喜んでくれたのは、何故か僕が大ミスをやらかした時だった。
「あなた」は「井戸」が嫌いだという。理由を詳しくは教えてくれなかったけれど、近づくのも嫌がっていた。でもユーリエフ村で僕が「演技ではなく本当に」井戸に落ちた時、いの一番に飛び込んできたのは、「あなた」だった。幸い大した怪我もないと分かった時、「あなた」は、僕がどんなに機転を利かせた時よりも喜んだ。最初、僕にはよく分からなかった。「あなたの「力」なら、死んでも蘇らせられるじゃないですか。」そう言うと、今度は目から火が出るほど叱られた。ビンタを2度された。素手だったけれど、サーカス団でゲイヴン団長に竹刀で打たれた時よりも、ずっと痛かった。「あなた」が泣いていたから。
あなたが・・・あなた達が笑って、怒って、泣く度に、僕の心が動くようになった。人の心はそういうものなのだと、劇団で学びはした。それを演じて再現することも出来た。でも、本当に心が動いたのは、あなた達と一緒になってからだった。
もし、あなた達のバックに「誰か」がいたとしても、あなた達の目は、何かを「やらされてる」人間の目じゃなかった。
あなた達の作戦保全がハチャメチャな理由、僕はそれを言外に問いかけながら、その実もう気づいてもいる。あなた達にとって、「隠す」ことは二の次なんだ。「前に進む」ことが第一で、それにほとんどの力を使っている。
いろんな思いが断片的に去来する。でも、一言で言えば、僕はきっと、あなた達と居て「楽しかった」んだ。人生で初めて大笑いしたのは、あなた達と一緒になってからだ。初めて本気で泣いたのも、あなた達と一緒になってからだ。
東の空が白んで来た。
突如、風が強くなる。森の空き地の中央から外に向かって・・・普通の「風」じゃあない。目視では何も識別出来ない。地面に耳を付けてそばだてる・・・何か重量物が降り立つような振動と音。
匍匐前進第5の要領でゆっくりと前に進む。3mも進んだ時、突如、耳を轟音がつんざいた。目線を向ける。飛空艇!ヤクトでも飛行できるターボプロップ・ティルト・ローターとグロセア・エンジンのハイブリッド機。該当機種は一つ、シルバニア大公国 ドネム社製 V−04同盟諸国統合空軍制式特殊輸送機、通称セイレーン。
ラッタルから人が降りてくる・・・
ああ・・・「やっぱり、そうだった」・・・!!
思いが込み上げそうになるのを抑え込み、機械的に、匍匐のまま後退して身体を繁みの中に隠す。押さえるべき事は押さえた。離脱だ。
森を出て、迂回するように村に向かって走る。息を飲むたびに涙と鼻水が出る。夜明け前の冷気のせいかな。でも、まだそこまで寒い季節じゃあない。
あなた達の正体は、嘘だった。
でも、あなた達の心に、嘘はなかった。
あなた達の言語は、嘘だった。
でも、あなた達の言葉に、嘘はなかった。
あなた達の記録は、嘘だった。
でも、あなた達の行動に、嘘はなかった。
あなた達の笑顔に、嘘はなかった。
あなたの涙に、嘘はなかった。
今、僕が流すこの涙は、嘘じゃない。
比較的ガードの薄い山脈の西側のこの村には、在所の特別用務員はいない。だから、報告には僕が「鳩」を喚ぶ必要がある。出発前、骨盤周りの皮下に手術で埋め込んだ小さな電波と磁場の発生装置。起動すれば、ものの数時間で本国から「鳩」が来る。僕が「あなた達は「クロ」だった。」と殴り書きしたメモでも鳩に持たせれば、任務完了。それが予め本国から示された「報告要領」だ。その後がどうなるかは、僕には分からない。でも、普通に考えれば、このまま終わるわけがない。恐らく、あなた達は「国境地帯に違法に干渉した、同盟諸国の工作員」として捕らえられ、訴追される。拘留され、教典法の定めに従って「処断」されるか、それでなくても同盟諸国との外交カードに使われる。
そして僕は、帝国に帰る。帝国に帰って・・・坊さん達に褒められる。「流石はリュビだ!」「素晴らしい!」「これからも頼むよ。」子供の頃から見慣れた、あの、土人形のように無機質で乾いた笑顔で、聞き慣れた大して心にも響かない称賛を受けるんだ。
表彰されるかも知れない。金縁の模様に彩られ、顔も見たことのない法王猊下の花押が刻まれた感状を下賜される。ユーリエフ村でローザが別れ際にくれた絵手紙に使われた広告の裏紙なんかより、何十倍も上質な紙で作られた感状を貰うんだ。そして・・・そして・・・
村に着いた。
ユーリエフ村と同じく、かつて戦争と緩衝地帯化で名前を失い、ついこの間まで「WC-15R」と呼ばれていた集落。名前を付けようという話になって、「あなた」は、「横一線の地平線に沈む夕日がキレイだったから」という理由で、「ズミェルシュフ(ここの方言で「黄昏」)村」って名付けた。なんて安直なんだ!と僕は呆れた。でも、村人達は大喜びだった。「御子様から直々に名前を賜れた。」と。ただそこに生まれたから、という理由だけですがりついていた土地が、それだけで「誇るべき故郷」に変わった。神の御子なんて「嘘っぱち」が、村と村人を「本当に」変えたんだ。
村はまだ眠りについている。広場の中央に組まれた薪はとうに消え、周囲に幾つも作られた即席の竈の周りには、鶏の骨や割れた器、竹の串が散乱していた。身体は無意識に籠と火バサミを探し出し、散乱したゴミを片付けていく。
チョコボの足音と馬具の擦れる音、そして無骨な機械の歩行音が聞こえた。手を止めて音のする方を見る。広場から八方に抜ける通りにつながる場所、そのきわにいた僕と家一件挟んだ通りを、チョコボに乗った「あなた」が歩いていく。後ろに不格好な鉄巨人を従えて。そんなもの持ち帰って、一体、皆にどう説明するつもりなんだ。
声を掛ける。「あなた」は振り向いて、いつもの優しげな笑顔で「おはよう、アディ。」と言ってくれる。
朝日に照らされたその顔の、目が赤い。昨日、遅くまで呑んでいたから?でも、酒が残った大人の雰囲気じゃあない。朝の冷気のせい?でも、まだそこまで寒い季節じゃあない。
午前9時、村人達への朝の挨拶を済ませた「あなた」は「使徒」の皆を自室に集める。僕も呼ばれた。初めてのことだ。部屋の土間には件の鉄巨人が直立し、皆、それを見てギョッとしている。
「あなた」は僕達に説明した。昨日の夜から今日の未明にあった事を。
皆、黙って聞いていた。
「あなた」は謝った。時間がなくて、一人で全てを決めてしまった事を。
皆、それを咎めることはなかった。
僕がいる場で話をした理由を問うたサドルさんに「あなた」は答える。
「もうこれは大佐の・・・同盟諸国の作戦じゃない。私達の作戦。誰に気兼ねすることもない。それなら、アディにも一緒に来てほしいんだ。」
僕の全身に鳥肌が立った。
そして「あなた」は、机の上に、色とりどりのクリスタルを並べ出した。黄道十二宮と蛇遣い座の印が穿たれたクリスタル。これまで実物を見た者は誰もいない。でも、それが何なのかは誰でも知っている。「あなた」は同盟諸国の科学者が作り出したという、それら「本物の」ゾディアック・ストーンを手に取ると、皆に一つずつ預けた。一つはあの鉄巨人に動力源としてはまり、もう一つはまだ、ネルベスカ島にあるのだという。使徒の内、シークのヒューさんとヒュムのゲーナさん、ミーシャさんは、「東部」に長めの出張中だ。あと半年は帰ってこない。鉄巨人の中の「アクエリアス」とネルベスカの「キャンサー」は、彼等二人のものということになった。そして、ミーシャさんが帰るまで預かってくれと、僕には「天秤宮(リーブラ)」が・・・。
「あなた」は言った。自分は「聖天使」と融合したらしいけれども、実感らしいものは何もなくて「力」の使い方はまだよく分からない。自分が「力」を使いこなせるようになるまで、皆はヘタに石の力を使おうとはしないで、と。
「アタシ達が石を掲げて名乗りを上げれば、そのうち、ゾディアック・ブレイブとか呼ばれるようになる。でも、アタシ達がそんなガラじゃないのはよく分かってるよね。アタシ達は・・・」
「あなた」は、そこで言葉を止めて、少し迷うような仕草をする。恥ずかしげにうつむきながら、振り絞るように言った。
「・・・家族・・・」
そうして僕達の顔を見ると、意を決したかのように続けた。
「皆がどう思ってるかは分からないわ!頑張り過ぎちゃった子供クランの成れの果て・・・なのかも知れないし、指揮官と幕僚・・・とか、雇い主と雇われ・・・なのかも知れない。あなた達はもう、軍の作戦が決めた「使徒」じゃない。今まではイケイケドンドンだったのが、一気に、「危ない橋」になっちゃった。・・・だから、これ以上、アタシに付いてくる義理はないの。アタシは「やる」って言っちゃったけど、みんなは、今からでもシルバニアに戻れば保護してもらえると思う。だから皆、自由なの。自由なんだけど・・・コレだけは言わせて。アタシにとってみんなは「家族」。アタシは皆と一緒に行きたい。ゾディアックなんとか、なんて関係ない!」
早口でまくし立てる「あなた」が言い終わるのを待って、サドルさんが前に出る。すました顔で天井まで届く位にゆっくりと片手を上げると刹那、思い切り振り下ろした。「あなた」の・・・尻に。
「あなた」の腰を覆う厚手のスカートの生地に2メートル近くあるサドルさんの大きな手が吸い込まれ、布団叩きを勢い良く振り下ろした時のような乾いた音が響く。
「あなた」は目を丸くしながら50センチほど前に飛び上がる。
「痛ったあい!!何すんのさ!なんで!?今、そういうシーン!?」
「あなた」は、信じられないといった顔でサドルさんを睨みつける。サドルさんは、すました顔のまま腕を組んだ。
「途中、ウダウダとわけのわからんことを言うからだ。指揮官と幕僚だの、自由がどうだの・・・最後の一文だけ、バシッと言やぁ、良いんだよ。」
シークのメイさんが続ける。
「ヒューには私から言っといてあげるよ。まあ、「あっ、そう。」で終わるだろうけど。ブフッ!」
「オレ達はいいんだよ。あえて聞くってんなら・・・」
そう言いながらサドルさんが僕の前に立つと、しゃがみ込んで僕の肩に手を置いた。
「アディ、お前さんだな。今まで作戦のことなんて何も知らなかったのが、いきなり呼びつけられて、ゾディアック・ストーンなんて渡されて、「家族」なんだから、一緒に来い。ってのもな・・・。」
そして、「あなた」に向かって振り向くと、続けた。
「アディを連れていきたい、ってんなら、オレ達とは違った言い方があるんじゃないか?」
「あなた」はうなずくと、僕の前に立つ。膝を曲げて、目線を僕に合わせる。そして小さく鼻で溜め息を付いてから、少し儚げな笑顔で僕に語りかける。
「アディ、ゴメンね、急に。アタシ達、これまで・・・」
そこまで言うと口を閉じて首を横に振った。そして仕切り直すように小さく深呼吸をすると、僕の目を見て、もう一度口を開いた。
「アディ、一緒に、来てくれる?」
僕は、あの時のことを思い出した。2週間ほど前のことだ。
「あなた」はガラにもなくモジモジしながら僕にたずねてきた。聞けば「アタシのこと、「ねえさん」って呼んでみて」なんて言う。聞いた時はワケが分からなくて、一体何のつもりなんだろう、と訝った。僕が恐らくは怪訝な顔をしていると、「あなた」はすぐに両手を振りながら「ゴメンね!忘れてちょうだい!今のは、ナシで。」と言って何処かへ行ってしまった。
今、解った・・・「あなた」が欲しかったのは、国でも、信仰でも、ましてや勇者の称号でもない。あなたは「家族」が欲しかったの?
そして、その問いはすぐに僕自身に跳ね返ってきた。
僕は?僕はどうなんだろう?「家族」が欲しい?
僧院付きの児童福祉院、特別用務員の乳幼児タレント、そして用務員の養成学校・・・生まれてからずっと「集団」では暮らしてきた。一人きりだったことはない。でも、そこにいる人達と一緒にいても、何か高揚を感じることはなかった。「家族」ってものも、感動的なのは戯曲の中の話で、実際にはきっとそんな感じなんだろう。そう思ってた。ここに来るまでは。
ここは、楽しい。
「あなた」の一生懸命なところも、ドジなところも目が離せない。
きっと「あなた」は、かかわる人に「なんとかしてあげなくちゃ」と思わせる天才なんだ。
そして、ここは、温かい。
「あなた」がそうやって時折見せる、少し儚げな笑顔は、とてもズルい。
「あなた」が、そうやって僕を呼んでくれる・・・これが「家族」だというのなら、誰が好き好んで坊さん達の便利な道具なんかに戻るものか。
「あなた」は僕を変えてしまった。しっかり、責任を取ってもらわないと。
正直、僕はなんて答えたのか、よく覚えてない。感情が昂っていたから。
後でセレーナさんに聞いたら、涙をぼろぼろこぼしてうなずきながら「責任とってよ、ねえさん。」って言ってたらしい。
なんだそれ。まるで妊娠しちゃった女の子みたいじゃないか。セレーナさんも「男女が逆転してるみたいで面白かった。」と言ってた。本当に、あの人は・・・
まあ、いいや。
僕は金槌とナイフを持ってトイレに入る。
ナイフで腰に小さく切れ目を入れて、内から押し出すように、「鳩」を喚ぶ電波・磁場発生装置(ピジョン・サモナー)を取り出す。
床に置いて、金槌で叩き潰す。
今まで生きてきて、こんなに心がスッキリしたことはなかった。
「あなた」が助けを呼ぶ声がする。声の調子から、また何かやらかしたに違いない。助けてやらなくちゃ。
僕は粉々になるまで叩き潰した装置を便壺に捨てて、トイレを後にした。