When The "Saints" Go Marching In Ivalice   作:N22b

30 / 52
28 Liaison officers Ⅱ

B.B. 760 11月1日 居酒屋「チョコ貴族」ゴーグ支店

 

「突然、お呼び立てして申し訳ない。お初、お目にかかります。統合情報軍外事部特別調査課少佐、オニクス・ヒサーリです。」

オニクスはそう言って対面に座る身だしなみの良い男に頭を下げる。

「とんでもない。貴方が、彼のお義父上ですか。話には聞いていましたが、お会いできて光栄です。こちらこそ、受け入れ準備に手間取ってしまい、失礼しました。帝国統合軍第1機動戦術群特佐、アロイス・オークスです。」

アロイスもまた、頭を下げた。

 

 実際、ここまでの準備は容易ではなかった。

いつものように偽造パスポートとビザを用意するだけではない。法王府の干渉を絶対に排除する必要があった。

 シュワルナゼの死後、オニクスはランベリーに情報が漏れた原因を調べた。それは「文書登録時の機密取扱い区分の誤入力」という形であっけないほど簡単に判明した。オニクスは歯軋りして悔しがったが、なってしまったものはどうしようもない。古来、戦の勝敗を決めたのは英雄的戦果ではなく、犯したミスの数というのが真理なのだ。ランベリーとユードラ法王府が繋がってるとなれば、漏洩した報告文書に記された皇帝派、なかんずくアロイス・オークスとサディアの繋がりもまた法王府に暴露していると考えるのが自然だった。行動を徹底的にマークされているであろうアロイスにいかに会うべきか。オニクスは頭を捻った。最初のコンタクトには、ネルベスカからのデジタル秘話通信を使った。 アロイスの側では、これまでサディアが渡航する度にチマチマと税関の目をくぐりながら運び込んだパーツを組み立てた送受信機が既に完成していた。アロイスに、会って話がしたい旨と、アロイス自身が法王府にマークされているであろう事情を簡潔に伝えた。暗号がかかっているからといって、それで全てを話せるほど安心は出来ない。極超短波デジタル秘話通信は、中身は解読できないものの、本気で探知しようと思えば電波の発信源自体は特定可能なのだ。また、話の内容的にも、これは直接会って話すべきだとオニクスは判断した。

 ここからはアロイスの仕込みだ。オニクスとの「会合」の間、自分に張り付いているのであろう僧兵軍の宗教士官と宗教警察を引きはがす必要があった。アロイスはまず、部下の一部に痴話喧嘩からの諍いを演じさせた上で、宗教士官に仲裁を依頼した。このような「事件・事故に至らない争議」が発生した場合、部隊付の宗教士官は仲裁と裁定、場合によっては生活面での指導監督までをしなければならないことが教典法で決められていた。諍いが長引くと、いきおい宗教士官が拘束される期間も長くなる。かくして、アロイスの部隊の宗教士官は無力化された。宗教警察相手にはもっと大胆な手法を使った。会合場所に誰一人部外者が入れないよう、居酒屋を一棟丸々、部隊で借り切ったのだ。アロイスとオニクスの二人が話す周りでは、荒くれの兵隊達がスーパー・コンパニオンまで連れ込んでの大騒ぎを繰り広げている。集音マイクを向けようが、遠くから「ライブラ」をかけようが大音量の雑音しか入らない状況にした。普段からいけ好かない宗教警察を手玉に取るとあって、アロイスの部下たちは超がつくほどの乗り気で計画に乗っかった。

 

「息子から聞いていたのと、肩書がお変わりになられたようですね。」

 オニクスがサディアから聞いていたアロイスの最新の肩書は「統合軍作戦部運用課付の中佐」だった。

「前回、彼との会合の直後に転出しました。まあ、転出といっても、私は元々、コチラが「本職」なんです。ライオネルでの宮仕えは私のような「ACドライバー」上がりには正直、肩が凝りました。流石に今はACは降りて、戦闘部隊指揮をさせていただいております。」

アロイスはそう答えて頭を掻く。

 

 第一機動戦術群!帝国国軍の最精鋭部隊だ。最新鋭の陸空戦力と自前での偵察・補給能力を極めて高いバランスでパッケージングされた合成旅団を複数擁し、防勢においては即応性で敵の奇襲を防止し、攻勢においては圧倒的な機動力と突破力で戦闘の機先を制する。同盟諸国の全ての軍が、「絶対に鉢合わせたくない」と口を揃えて評する・・・そう思ってみると、目の前の士官の引き締まった体と、柔和な態度とアンバランスな猛禽の様な目つきにも納得がいく。男女種族問わず二人の周りで乱痴気騒ぎを繰り広げる兵達の精悍な風情も含めて、情報軍のそれとは何もかもが正反対だった。

 

「引き続き、我が軍との連絡業務はご担当して頂けると、伺っていますが・・・」

オニクスは念を押すように尋ねる。

「そこはご安心を。リピッシュ元帥から、本業務は引き続き小官で、と直々に言い含められました。私もそれを希望しました。」

「わざわざ、ご希望を?」

最精鋭部隊の指揮官など、多忙には違いないだろうに、なぜ好き好んで?オニクスは首を傾げる。

「いや、極めて個人的な理由です。貴方の御子息、サディア大尉。彼と毎月、飲んで話すのが楽しかったので・・・彼は気持ちのいい男ですね!」

アロイスはそう答えると声を上げて笑った。

オニクスは意外な答えに少し驚く。

「そうですか。アイツは根が真面目で少し思い詰めるタイプなんですが・・・そう言えば、私はアイツと飲んだ事がありませんでした。」

「それは勿体ない。私は、親子で盃を交わす前に父に先立たれました。亡くしてから、悔やんだものです。帰られたら、是非一献。」

卓上にヴォトカのボトルとショットが運ばれる。アロイスはショットを一つ、オニクスに寄越すとヴォトカを注いだ。

「サディア君から聞きました。貴方も、元はベルベニアの出なんですってね。」

「それでわざわざヴォトカを・・・まあ、私は成人する前にあそこを出てしまったのですが、お気遣いありがとうございます。」

オニクスは頭を下げると、アロイスのショットにもヴォトカを注ぐ。

「お義父上に、乾杯。」

アロイスがそう言って杯を乾かす。オニクスも同じく盃を仰いだ。熱気が喉に充満し、思わず呻くような息が出る。ショットを卓に叩きつけるように置くと、勢いのまま、三杯飲み干した。

「イケますね!」

「おたくも!」

そう言って笑い合う。

「良いですね!貴方も気持ちの良いお方だ。」

アロイスがオニクスの肩を軽く叩く。

「私は少しばかり古い男でしてね。人を見る時は酒を酌み交わすことにしているんです。」

「ほう、趣がありますね。下戸の方は大変そうだ。」

オニクスの返しに、アロイスは首を横に振った。

「いや、上戸なら良いとか下戸はダメというわけでは無いんです。私の特技、というかまあ、自分でそう思っているだけなんですが、一緒に呑むと、相手の人となりが判るんです。素直なのか、腹にイチモツ抱えてるのか。いいヤツなのか、ネコを被ってるのか・・・今のところ、外したことはありません。因みに、サディア君は上戸ではありませんが、本当に「いいヤツ」でした。仕事上、話すのは「国境地帯」の事なんですが、彼はとても楽しそうなんです。まるで、あそこで国を作っているのが自分かのように誇らしく語る。特に、これから先の事を喋らせると、目がキラッキラ輝くんですよ。部隊でもそうですが、私は、若者のああいう目を見るのが好きなんです。隠し事も幾つかあるようでしたが、恐らくそれは、少なくとも私にとっては些末なことなのだと思いました。まあ、勘ですがね。」

そう言うとアロイスは今度は手酌でショットを満たし、軽く啜る。ショットを置いて、姿勢を正した。

「お伺いしましょう。どうやら、やんごとなき事情がお有りのようだ。」

 

(大した第六感だ・・・)

そう想いながら、オニクスは同じく背筋を伸ばす。

「まだ、決まったわけではありませんが・・・彼を・・・彼らを、貴国に亡命させてやってはくれないでしょうか?」

流石に読みきれなかったのか、アロイスの眉間にシワが寄る。オニクスは話した。アジョラと教団の活動が同盟諸国元首直轄の作戦だったこと、真相を知ったランベリーの造反とユードラ法王府との繋がり、シュワルナゼの死。ただ、元首の指示どおり、ランベリーが主体となって進攻準備を始めていることは言わなかった。

「彼女は、我々の支援が無くても活動を続けると言っています。目的はこれまでと変わりありません。国境地帯を自立した国家とし、東西の国境を開くこと。ただ、今後ランベリーが妨害を仕掛けてくる可能性は大きい。元首フレイジャーは未だに彼女を個人的には応援してくれていますが、政治的には同盟の維持を選ばざるを得ない。我々統合軍は彼女達を守り通す事が出来ないのです。もし、彼女の身に真に危険が迫ったなら、私が彼女を貴国に送り出したい。その時、貴官等に受け入れて欲しいのです。恥ずかしい限りですが恐らく、今の彼女にとっては、国境地帯より、シルバニアよりも、ライオネルの方が安全なのではないかと・・・」

アロイスはオニクスの話を黙って聞き、大きく鼻で深呼吸をした。

「お話、分かりました・・・まずは、彼女の活動が貴国の「作戦」であったとのこと、まさか我々を巻き込むことまでその内だったとは、正直、驚かされました。これは、元帥、そして皇帝まで報告することになるでしょう。彼らがどう取られるかは分かりませんが・・・少なくとも、私は、感服しました。なるほど、これがサディア君の「隠し事」。私は根っからの武人ですが、シュワルナゼ大佐の平和的理念に敬服します。恐らく、その志は、我が皇帝が思われているところと変わりは無いはず。だからこそ、皇帝は彼女達を支援しようと決断されました。真相がどうあれ、目指すところが偽りでないのなら、皇帝も驚きこそすれ、気を害される事はないかと考えます。そして・・・」

そこまで言うと、アロイスは立ち上がり、背筋を伸ばす。

「改めて、同盟諸国統合情報軍、チェスター・シュワルナゼ上級大佐に、敬意を表します!」

そして、勢いよく上体を真横に倒した。国軍では、皇帝と殉職者に対してのみ行う最敬礼だ。

「高き志を持たれて20年近くも一つの作戦を・・・そして、志半ばで殉職されましたこと、誠に無念と存じます・・・ですが、一身を捧げた任務に殉ずることもまた、武人の本懐と考えます。大佐は、銃剣を持って戦地に斃れられたわけではありませんが、その価値は何ら戦場における名誉ある死に劣るものではありません。」

 オニクスも思わず立ち上がって上体を倒す。シュワルナゼを失ってから悲しむ暇もなく突っ走って来たが、ここに来て敵国の士官に最上級の敬意を示されたことで、一気に感情の堰が切れた。10年、二人三脚でやってきたのだ。思わず嗚咽が漏れそうになる。だが、また頭の中にシュワルナゼの虚像が現れて促す。「俺のことは、いい。やるべきことを、やれ。」と。

オニクスは体を起こすと、目頭を拭い、アロイスに礼を述べた。そして続ける。

「亡命は、やるとなれば、恐らく空路になると思います。サディアを護衛に付けますので、彼ごと保護して頂きたい。」

 統合空軍には既に話は付けていた。ランベリー空軍の妨害も考えられ危険である旨を告げ、3人の子供を抱えるネフスカヤ以下、「専属クルー」である必要はない、とオニクスは説明したが、ネフスカヤ達はあくまで志願した。「私以外にやらせて失敗でもしたら、一生、あなたを恨むわよ。」と凄まれた。

 

アロイスは腕を組んで暫し考え込んだ後、尋ねた。

「サディア君を・・・御子息までをそのまま?一旦、亡命してしまえば、そうそう貴国には帰れませんよ?何か特別な理由が?」

 

オニクスが頷く。

「ええ、ただ、コレは私の口からは言えないことです。もし、気になるのであれば、サディア本人に聞いてみてください。もし、アイツが答えたなら、そういうことです。」

 

アロイスはそれを聞いて小さく数度頷いた。

「分かりました。その時が来ましたら、彼女と、サディア君を保護します。まずは生命の保全。その後亡命の手続きが上手くいくか、今の私の立場で確約はできませんが、全力を尽くすことを約束します・・・一つ伺っても?」

「ええ、どうぞ。」

「彼女達を引き取った場合、彼女達の作戦も、そのまま我が国が引き継いで差し支えないでしょうか?まだ、破綻したと決まったわけではない。あの地の住民達の「信頼」がある限り、諦めるものではないと考えます。お認め頂ければ、皇帝に亡命を勧める材料になります。」

 オニクスは一も二もなく頷いた。何度も頷き、アロイスの手を両手で握ると、男泣きに泣いた。

「息子は、あなたの事を交渉役ではなく「年の離れた友達」だと言っていました。敵国に友人が出来た、お陰で自分達の正義を・・・この先の未来を信じることができる。とも・・・。貴方が、そのとおりのお方で、本当に良かった・・・!」

アロイスもまた、目を赤く晴らす。

「サディア君は幸せ者だ!こんなにも、熱いお義父上がいらっしゃる!」

 そして追加の酒をオーダーした。今度はゆっくりと時間を楽しめるライオネルの地ビールを。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。