When The "Saints" Go Marching In Ivalice   作:N22b

38 / 52
36 King's worry

 

「オキューリアの王」は世界を憂う。

 神代の昔日、己が父祖達が、彼等を万物の霊長と崇める幾多の種族に救いを請われ、その祈りを受け入れた時から始まった、戦いの宿命。

 オキューリア達の敵はこの星そのものだった。生きとし生ける全てを襲った、環境の激変。海、大地、大気、ミスト、全てが不安定となり、数多の生命の繋がりが途絶えた。大いなる自然に抗う術を持たぬ哀れな幾多の種が逃げ惑い、或いはただ滅びの運命を受け容れる中、オキューリア達がその知を持って解析した果てに辿り着いた結論は、それが「星の意図したもの」だということだった。それまでの数百万年に渡って安定した環境下で繁栄、氾濫、そして停滞するに至った生物種に対して巨大な負荷をかけ、新たな進化を促す。負荷に適応できない種は容赦なく滅ぼす。この星を一つの生命ととらえるならば、それは「理に適った」行為だった。オキューリア達は予測した。万物の霊長たる高度な頭脳を持つ自身はこの変化に対応できるだろう。だが、ようやっと文明と呼べるものを構築し出したに過ぎない他の「弱き種族」達は滅び去る、と。恐らくはそれが「星の意志」なのだ。増えすぎた知的種族を淘汰のふるいにかけ、最終的には次代に相応しい一つの種だけを残すつもりなのだろう。オキューリアは、それが自身であることには何の疑いも持たなかった。目の前で救いを求める、その他数多の種達の運命は、まさに自らの手の上にあった。

オキューリア達は議論の末に、彼等を救う事を決断した。「サル」、「トカゲ」、「ウサギ」に「ブタ」、その他有象無象・・・皆、平等に「価値が無い」。だが、オキューリア自身には霊長として彼等を保護する「責務」があると考えたのだ。「星の意志」に逆らうように次々と対策を取る。始めは機械的、化学的手段で。だが表層的な対策では追いつかない。試行錯誤の末に「異形者」達を創りだし、星の生命循環の源である「龍脈」から干渉する事に成功した。環境の変化は緩やかとなり、遂には止まった。システムの根幹たる「聖天使」は強心剤のように生命の還流を加速させ、一時は消えかけた輪廻の輪に再び輝きを取り戻させた。  

 およそ文化といえるものを持つ全ての種から救世主と崇められたオキューリアは、繁栄を取り戻した、この自らが管理・統制する世界を「イヴァリース」と名付けた。イヴァリースにおいてはオキューリアは「神」と同義となった。

 二千年程の安定期を経て、システムが破綻した。星は、自らの子でありながら、その意思に抗う「不遜なる神」を許しはしない。システムの末端を構成する「異形者」達に過負荷をかけ、汚染する。修復のために力を割いた「聖天使」の隙をついて、その制御系に「血の澱み」を送り込み、その意志を真逆に書き換えた。オキューリア達が「黒き翼の堕天使」と呼んだプログラム汚染によって、イヴァリースの守護者たる「異形者」達は闇へと堕ち、一夜にして破壊の化身と化した。オキューリア達はあくまで抗う。初めは自ら兵器を駆って。だが敵わない。「龍脈」と繋がり無限の力の得る「聖天使」と、彼女から力の供給を受ける「闇の」異形者達との戦いは、いつかこちらが力尽きるまでの消耗戦だった。オキューリア達は戦い方を変える。元来、環境維持システムとして創り出した「闇の」異形者よりも、より純粋に戦闘のみに特化した「光の」異形者達を創り出し、戦わせた。双方が撒き散らす熱、放射線、ミストによって、「前線」となった地域は荒廃する。オキューリア自身は護るべき他種族達を「後方」へと下げると、自らは戦い続けるために肉体を捨て、その魂を神器へと移した。戦いは長く続くと予想し、頭足類から進化したその体を維持するために労力を割く余裕は無いと判断したのだ。肉体を捨てたことにより、代謝と生殖の制約から自らを解放したオキューリア達は、ミストによって強固に防護した聖都ギルヴェガンに籠城し、そこから光の異形者達を制御する。戦いは1000年にわたって続き、遂に「聖天使」の制御を奪い返す事で決着を付けた。過ちを繰り返さぬよう、用済みとなった「光の異形者達」は速やかに処分した。母なる星との戦いの代償として、ヒュムの両手で数えられる程までにその数を減らし、魂だけが残され、繁殖も叶わないオキューリアは、もはや「生物種」としての要件すら満たさない。だが、種としての尊厳を賭けて勝ち取った「イヴァリースの神」としての責務だけは放棄するわけにはいかなかった。残された「ゲルン」達は、戦いの中で極限まで磨きあげられた知識を武器に、護りぬいた種族達を導き、繁栄させる事で、その責務を果たそうとした。それは今の今にまで至る、別の意味で過酷な道のりだった。

 数千年に渡ってオキューリアの庇護に甘えてきた他種族達は、数は増やせど、その頭脳は本能から理性に至るまで、ゲルン達から見れば余りに幼稚だった。つまらない私欲に虚栄心。何代、代を重ねて技術だけは発展させても、本質的な性向は改善されない。導くに値する存在を見出すこと自体がまず一苦労。何とか導いて、束の間の繁栄を与えても、100年も保たずにまた元の木阿弥へ。成長しない赤子に積み木を教え続けるような徒労感が彼等を襲う。遂には、最も若くして身体を神器へと移した「ヴェーネス」が「最早、我々の出る幕ではない。」と、父祖より受け継ぎし「責務」を放棄する始末。それでも続けねばならないのか、とゲルンは憂う。

(続けねばならないのだろう・・・最早、肉体すらない自らの存在価値は、そこにしか無いのだから。)

そう考えて、ダルマスカ戦役以降、数十年に渡って背を向け続けていたイヴァリースと再度向き合う事を決心した矢先に、今回の「事件」が起きた。幼稚な精神のまま、小手先の技術だけを磨いた挙げ句の「異形者」の奪取という蛮行!ゲルンにしてみれば、自らの種がイヴァリースの為に払った甚大な犠牲に対する最大級の冒涜だった。「恩を仇で返す」とは正にこのことだろう。出来る事なら、新たな「勇者」を選び、先ずは目の前で赤ん坊に弄ばれているこの間抜けな大犯罪者の片割れをくびり殺させてやりたい。だが、今から「相応しい者」を選んでいる時間は無い。何かのきっかけで「聖天使」が目を覚ませば、最早、なす術はないのだ。一刻も早く「聖天使」を宿した娘を見つけなければならない。娘の親族だというこの男がその時役に立つかどうかは分からないが、贅沢を言っている時間もない。所詮、誰を選んだ所で我等が導かねば、ウジ虫以下の存在なのだ。勇者も馬鹿も大して違いなどありはしない。

 世界を繁栄させる筈が、やっていることは特大級の馬鹿の尻拭い。これを嘆くなというのはあまりに酷ではないか!

いつまで続けるのだ、これを?

あと500年?1000年すれば、馬鹿共は目覚めるのか?いいや、それは無いだろう。

「オキューリアの王」は、そのように考え、今と未来を憂う。

 

 

 

 ゲルンの「個」は、己が実存を憂う。

「魂」という、情報だけの存在として生き続ける彼には、自分が「生命」だと確信できる根拠が無い。父祖の代から受け継いだ「王の責務」と認識しているものが、自らの「想い」の結実なのだと、保証してくれる者が居ない。本当に自分は「オキューリア」なのか?実際には、かつて存在した「オキューリア」が、自らの意志を代行させるために創り出したプログラムに過ぎないのではないか?オキューリアが「異形者達」を創り出したように、自らもまた、与えられた使命を達成するためだけに働き続ける傀儡(くぐつ)だとしたら・・・そうではない、と一体誰が否定できようか。

 僅かに残された「同族」は、皆、同じ境遇だ。故に彼らが何を言おうと、その「問い」に対する答えにはならない。あの「若者」、ヴェーネスが反旗を翻した時には、責務を弁えぬその身勝手に怒りつつも、それが生命としての自由意志の発露なのではないかと期待もした。だが、それすらも、プログラムのバグ、或いは、予め「造物主」が仕込んだストレス検証プログラム(管理プログラムの一部にバグが発生したとして、総体としてのシステムは、それを修正し得るか)なのではないか、という仮説で説明し得る範囲のものに過ぎなかった。少なくともゲルンにとって、自らが「オキューリア」である事と、ソレが創り出した「プログラム」に過ぎないのとでは、天地ほどの差があった。前者であるならば、己を偉大なる霊長の末裔にしてイヴァリースの神として誇る事が出来る。しかし、もし後者だとするなら、自らは生命ですらない。どんなに優れていようと、道具は道具でしかない。そこに生命としての価値は無い。今ここで己が「ウジ虫」呼ばわりしているこの男にも劣る存在に過ぎないのだ。

 自らが自由意志を持つ生命だと証明するには、造物主と仮定する存在の予想を超える思考をしてみせなければならない。仮に自らがプログラムだとするなら、その使命は己が「責務」として認識する「イヴァリースの繁栄と維持」だろう。プログラムは回り道をしない。目的のために最も確実で効率的と信じる手段を選択する。今までの自分達がそのとおりだった。何十年、何百年と掛けて、自らの目的に最も沿うであろう人物を(たとえそれが結果的に誤りであったとしても)見定め、己が手足として使う。要はこのアルゴリズムに反する行動を取ればよいのだ。

 ゲルンは目の前で女との談笑に明け暮れるこの男を見る。コイツは断じて我等が見定めた人間ではない。世界の行く末を案じてもいなければ、何の野心もない。同意を得てこの男の頭を覗いて判った。コイツの頭には、せいぜい両の手の指で収まる位の数の人間の事しか無い。しかもその中の上位二つは、いずれも女の事だ。何という俗物!正常な判断であれば、まずこんな男を選ぶことはない。人物だけで評価するならば、シルバニアの大公・・・あの「若き」ヴィエラの方が余程見込みがある。だが、そこであのヴィエラを選んでは、「造物主」の思う壺だ。私は、自らの意志を証明するために、今、「正解」を選んではならない。私はヴェーネスとは違う。残された同族とギルヴェガンにおいて全ての決定権を持つ王だ。その王たる私が敢えて「最適解」を実行しないのであれば、それは最早、自由意志だ。

 そうだ・・・いっそのこと、この男に全てを委ねてしまうのはどうだろうか?とても最適解など導き出しそうにないこの男、下手をすれば稚拙な判断でこのイヴァリースを破滅にすら追い込むかもしれない。だが、それでも良い。それで私は、自分がイヴァリースの為に生み出された傀儡(くぐつ)ではないのだと納得することが出来る。

 こんな形で、こんな男に絡まざるを得なくなったことは、其の実、滅多にない好機なのではないか?

どうせ今までだって、散々頭を捻ってやった割には大して上手くもいっていないのだ。

正直、もう疲れた。

最後に一発、目茶苦茶をやってみても良いのではないだろうか?

 

6月28日

「導く」か、それとも「委ねる」か。

ゲルンは悩んだ末に答えを出す。

サディアの前に現れ、伝える。

「最早、貴様との問答には付き合いきれん。」

「私の持つ「知識」と「記憶」を全て貴様にくれてやる。」

「それを使って、お前のやりたい様にやれ。」

「指図はしない。力を貸せというなら、貸してやる。その結果として貴様の妹がどうなろうが、イヴァリースがどうなろうが、それは貴様の責任だ。」

そして最後に付け加えた。

「せいぜい、愉しませてくれ。ガッカリだけは、させるな。」

と。

 サディアは散々、悪態をついた後、申し出を受けた。

上手く行けば、アジョラを救うことが出来るかも知れない。ただその一点のみに賭けての決断だった。

サディアはゲルンに最初の助力を頼む。

「とにかく、アジョラを見つけてくれ。見つからないことには話にならない。」

と。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。