When The "Saints" Go Marching In Ivalice   作:N22b

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38-1 Way to The Doomsday (Allen Fosh)

B.B. 761 8月6日 ミュロンド法王府本庁

法王公室

 

 ステンドグラス越しに西日が差し込む中、法王バース・ディ・ヴォウスは椅子に座り肘をつくと、険しい顔で手を額の前に組む。

「本当に・・・やるつもりなのかね?」

重々しく口を開くディ・ヴォウスを囲むように立つのは、僧兵軍運用部長アレン・フォッシュと、彼が率いる「イージスの会」を構成する高僧達。

フォッシュが答える。

「無論です。その為に、準備してきました。全ては、祖国・・・「神の国」の為に。」

ディ・ヴォウスは姿勢を変えない。

「300万・・・ただの数字ではない。化外の民とはいえ、人の命の数だ。私は、恐ろしい。」

フォッシュは淡々と返す。

「では、どうしますか?我々の子供の代、孫の代にやらせますか?いずれは避けられないことです。ならば、我等が腹を決めてやらねばならない。子供達には、銃も剣も持たせてはならんのです。」

「東大教区はどうするのだ?君に賛同しているのは、西教区の者だけだぞ。」

「「神の国」には、不要な土地です。領土の広さなど、虚栄にすぎない。必要なのは、単純で、純粋であることです。人は、価値観を同じくする者同士とでなければ、平和を保てない。広すぎる家も、雑多な血も、邪魔でしかない。」

ディ・ヴォウスは溜め息をついてフォッシュを見あげる。

「君が若い頃に寄稿した論文を覚えている・・・純粋な若者だと思った。青い、ともな。まさか、あの考えのまま、ここまで来るとは・・・」

フォッシュが答える。

「正しいからこそ、変えようが無いのです。そして、この国の内情も、あの頃から悪くなる一方だ。教化が上手くいった少数民族が一つでもありますか?彼等はユードラという身体に巣食う悪性腫瘍だ。無秩序に存在し、無節操に増殖し、身体の秩序を害する。経済力という名の体力が衰える程、腫瘍は勢いを増す。このまま放っておけば、我々がユードラと呼んでいる地は、我々が考えているのとは別物になってしまう。ユードラとは、「経典を奉じる者達の祈りの家」でなければならないのです。隣国と戦うためだけに有象無象を取り込んだ「理念なき集合体」では断じてない。経典法による純化は誰よりも猊下が望まれた事ではないですか。」

「私が目指したのはあくまでも教化による統合だ。」

「だが、上手くは行かなかった。優遇すればつけ上がるだけ。押さえつければ抗うだけ。何も進みはしない・・・」

フォッシュの指摘に、ディ・ヴォウスは顔を歪める。フォッシュは畳み掛ける。

「今の対処療法をもう何十年も続けるわけにはいかんのです。グレバドス家の小娘こそ、コチラにまで来る前に何とか押し止めましたが、またぞろ、似たようなのが出てこないという保証はない。あの手の「思想」が今の少数民族自治区に蔓延するようなことがあれば、もう取り返しはつきません。革命を騙る造反そして内乱、容易に想像がつく。経典法の浸透どころでは無い・・・そうなる前に、手を打たねばなりません。同盟諸国側にも、我々の意を汲んだ協力者がいます。今を置いて、好機は無い。」

「ランベリー大公か・・・」

「猊下が内戦を恐れておられるのは存じております。我々が何の策もなしに「浄化」を開始すれば、国軍は黙っておらんでしょう。僧兵軍とて、ライオネルの国軍とマトモにやりあえば早晩壊滅は免れ得ない。だが、此度、我等が動いても国軍は動けない。何故なら、我等の蜂起と時を同じくして東から同盟諸国軍が攻め込んで来るからです。彼等はそれを防がざるを得ない。」

「敵の侵攻に期待するとは・・・正気とは思えん。」

「何を「敵」とするか、です。ランベリーは、腹を満たしておけば襲ってくることはない動物園の猛獣に過ぎません。現在の国境地帯は、ドグーラからベスラに続く山脈を基線に東西に広がるが、彼らが欲しているのはそれらの地です。欲しければくれてやれば良い。ヤードーからドーターを新たな防衛線としてそこから東に、新たな「国境地帯」を作ればよいのです。」

「ヤードーからドーター・・・東西大教区の境界・・・「東」は必要ない、というのは、そういうことか・・・」

「アジョラ・グレバドスの一件で猊下もご認識されたはずです。結局、東の連中が我々と相容れることは無かった。皇帝ルテールと国軍、行政府の官僚共とがいい例だ。奴等は我々との融和よりも、あの小娘とイチャつく方を選んだ。」

「だが、処刑はしたぞ。ルテールは私の「提案」に一言の反論もしなかった。」

フォッシュは鼻で笑う。

「私は性根の話をしているのです。皇帝は現下の情勢を見て、渋々、小娘を切り捨てたに過ぎない。未練がましくあの小娘を賓客のようにもてなし、めかし込ませて処刑台に送るなどと、愚かな真似を。奴等はアレで、我々と同じにはならない、とハッキリ意思表示したのですよ。共に歩む価値も助ける価値も無い。同盟諸国にすり潰されるのがお似合いです。」

 ディ・ヴォウスは席を立つと、壁に掛けられた写真の数々の前に立つ。何れもが「調和と統合」をテーマに、若きディ・ヴォウスと少数民族達が肩を寄せ合って笑顔で額縁に収まっている。まだ、ユードラの斜陽化が始まる前、それぞれの関係も良好だった頃の写真だ。

「立て直そうとした。あの頃に、戻ろうと・・・だが、どうやっても、上手くいかない。」

フォッシュはディ・ヴォウスの脇に立つ。

「猊下の心中、お察しします。慈悲と、厳しさ、その両方をもって臨まれた。だからこそ言えるのです。彼等が同化できぬことは証明されました。「東」を切り離すだけでは足りないのです。我々の真の祖国に食い込んだその300万を「除去」しなければ、「神の国」は実現しません。」

ディ・ヴォウスは何も答えない。

フォッシュは一息ついて、顔をディ・ヴォウスに近づける。

「・・・猊下が恐れる事はありません。罪・咎を負うのは我等が同志のみです。我等がこれから為すことが、経典のいかなる趣旨にも沿わぬ大罪であることは千も承知。無垢にして善良なる大部分の信徒達も、我等の所業を許しはしますまい・・・ですから、我等はこの法衣を脱ぎ捨てて事に当たります。猊下は、我等が事を為したならば、正当なる僧兵軍を率いて我等を成敗して頂ければ宜しい。後に残されるのは浄化された祖国と、栄光ある法王の旗のみ。それで、この計画は初めて成就するのです。」

フォッシュの取り巻き達が続く。

「そうです。この作戦は、我等の為のものではない。祖国と、我等の子供達の為のもの。」

「子らが清浄なる「祈りの家」で罪なく暮らすために、我等は喜んで罪を背負い地獄へと堕ちるのです。」

 ディ・ヴォウスは振り返って、フォッシュの、そして己を取り囲む若き高僧達の目を見る。皆、法王府の次代を担うはずだったエリート達だ。何れも清廉潔白、そしてその目からは一切の迷いも、一切の悪意も感じられない。

(狂気だ。無私が生み出す、狂気・・・)

フォルバンを通じてフォッシュの計画を初めて聞かされた時、気が狂っているのかと思った。今、相対して改めて確信する。彼等は「善意の狂気」なのだと。自分達老人が帝国の斜陽化を覆せなかった。無様に国が割れていくのを止められなかった。「あるべき姿」を彼らに提示出来なかった・・・その業が生んだ落とし子なのだと。

 そして、最早、自分には彼らを止めることができないのだとも確信する。フォッシュが率いる彼ら「イージスの会」は見事なまでに法王府本庁、僧兵軍、宗教警察、そして西大教区の主要な意思決定者に根を張っていた。今、「この異端者を捕らえよ」と法王の名において命じても、恐らく誰も動きはすまい。彼等は自らの命と天国への鍵、そして300万の異教徒達を「贄」にして、この国を浄化するつもりなのだ。

「彼等を、追放するのでは、ダメなのか?」

ディ・ヴォウスの問いに、フォッシュは首を横に振る。

「生かしておく限り、どのような処置も禍根を生みます。世代を越えた怨念、執着・・・正に、今のランベリー大公のように・・・。「怨みを持つ者」すら、この世に残してはならない。そして、「外」に対しても、この「清浄なる国」に、異教徒の入り込む場所は未来永劫無いのだと、強く示さねばなりません。」

ディ・ヴォウスは壁に飾られた1枚の写真を額ごと外し、フォッシュに渡す。

そこには、昔日のノヴァヤ・ベルベニヤで、ディ・ヴォウスと写る笑顔の子供達の姿があった。

「彼等を、この子供達を、何と見るか?」

フォッシュは写真を一瞥し、答える。

「我らと同じ命を持つ・・・駆除すべき害虫です。」

その顔色は変わらない。

ディ・ヴォウスは目を閉じて息を吐く。

「私は、私の役目を演じれば良いのか?」

「はい。」

フォッシュが答える。

暫しの沈黙の後、ディ・ヴォウスは口を開いた。

「良いだろう。好きにやるがいい。お前達を生み出した責任を取って、私も地獄へ行ってやる。」

 

8月15日

 西大教区の全ての都市圏において、非ファラ教系少数民族の滞在許可取り消しと、住民登録された自治区への帰還命令が出された。

 目的は一つ。全てを、速やかに、効率よく「処理」するためだ。

 

9月10日

 西大教区を母体とする、全僧兵軍の約半分が、突如、「叛乱軍」を名乗って蜂起する。叛乱軍は整然と僧兵軍の駐屯地を占拠し、艦艇、飛空艇を含む主要な武器・弾薬を手中に収める。流血は起きなかった。法王ディ・ヴォウスが僧兵軍に対して反撃を禁じ、一時撤収を命じたためだった。ディ・ヴォウスは叛乱軍を非難すると、投降と武装解除を求める。拒否されると叛乱軍を破門し、今に神罰が下ると豪語した。

全てはフォッシュが用意したシナリオだった。

叛乱とは無縁に平穏を保っていたのは、基地から切り離した国軍の第1機動戦術群将兵が集結するオーボンヌ、そして純粋なファラ教徒だけで構成された「永遠の神の都」ミュロンドくらいなものだった。フォッシュ達にとってミュロンドは、赤子のように罪を知ることのない「聖地」でなければならなかった。

 

9月11日

 叛乱軍「指揮官」アレン・フォッシュは、イグーロスで接収した僧兵海軍戦艦「B・クラウザー(クラウザーⅡ世)」に座乗する。自らがその砲声をもって「浄化作戦」の発動を宣言する為に。

「クラウザーⅡ世」の艦長が、行き先を問う。フォッシュは答えた。

「ノヴァヤ・ベルベニヤ。我々は、そこから始めよう。」

 

9月13日0630時

フォボハム・ノヴァヤ・ベルベニヤ沖10マイル

 

朝の祈りを済ませたフォッシュは、「クラウザーⅡ世」の戦闘指揮室に入る。1mを超える分厚い装甲板と魔法障壁、電磁波シールドで防護された、陽の光の差さない室内に、コンソールと状況表示板の光、そしてそれらに青白く照らされた将兵の顔だけが浮かぶ。電気も知らぬ頃の人間がこの光景を見たら、ここが地獄の一丁目だと思うかも知れない。今しがた、信じて止まぬ神に「別離の祈り」を捧げてきた自分には、清らかな朝日が射す艦橋よりも相応しい場所だと感じた。

 先に室内に入っていた戦隊司令が敬礼しつつ申告する。

「本艦、配置よろしい。戦艦2、3、4番、駆逐艦1番から7番、共に配置完了」

 フォッシュは過去の偉人達やユードラの名所旧跡の名がつけられた艦名をこの作戦で使うことを禁じた。名誉あるその名を、これから行う「作戦」で汚させないためだ。座乗艦である「クラウザーⅡ世」も、単に「1番戦艦」と呼ばせた。

「空は?」

「爆撃機・戦闘機隊は待機位置にてホールディング、「インビンシブル」も指定空域に到着済みです。」

フォッシュは小さく数度頷く。

「ザランダの「インビンシブル」を国軍から任務稼働状態で接収できたのは本当に良かった。アレが有るのと無いのとでは、「処理」に掛かる時間が全然、変わってくるからな・・・こんな事に掛ける時間は、短ければ短いほど良い。」

「・・・はっ」

戦隊司令が短く答える。

「陸上も、展開完了しております。」

二人の脇から作戦全体を取り仕切る作戦室長が顔を出す。

「第1自治区(ノヴァヤ・ベルベニヤ)についてはただ今、戦隊司令からあったとおり。第2から第15自治区についても、発動用意完了しております。」

フォッシュは今度は大きく頷くと、秘話通信で全ての戦隊司令部を繋ぐよう命ずる。指呼が完了し、マイクが手渡された。

戦闘指揮室内の全ての将兵の視線がマイクを近づけるフォッシュの口元に集まった。

「本作戦の指揮を取る、アレン・フォッシュである。「天国への鍵」を捨ててまで、この作戦に参加してくれた全ての将兵に感謝する。感謝という言葉では全く足りないが、他に適当な言葉もない。その上で、改めて言っておく。我々に栄光は無い。諸官が今後の歴史において賛美されることも無い。これから我々が行うのは、戦闘ではない。殺戮である。この清浄なる祖国に、分かり合うことの出来ぬ他民族や異教徒など「居なかった」のだ・・・その歴史を、我等の子らに残す。全軍将兵に告ぐ。建物の一棟も残すな。人の一人も残すな。赤子を抱えた母親が君達の眼前で命乞いをするなら、銃弾をもって応えよ。我々がやらなければ、いずれ我等の子供達、孫達がやることになる。彼等に罪を負わせてはならない。全て、我々が背負うのだ!・・・作戦を、開始せよ。」

 フォッシュが言い終わるのと同時に、戦隊司令が作戦開始を復唱して叫ぶ。叛乱軍各部隊を繋ぐテキスト通信に「作戦開始。0645」の文字が打ち込まれる。

「主砲、副砲、榴弾、弾込め!」

号令が飛び、「クラウザーⅡ世」が背負う12門の52センチ主砲と、同じく12門の28センチ副砲に榴弾と装薬がねじ込まれる。

暫くして、僧兵空軍爆撃機隊から報告が上がる。街区周辺への焼夷魔法弾による「壁」の展開が完了したとの報告。砲術長が目標を指示する。

上空に上げた観測機から「配置よし」の一報が届く。

艦橋からは「上甲板、待避完了」の報告。

「各砲、撃ち方、はじめ!」

1発当たり約2トンに及ぶその主砲弾達が、紅蓮の発砲炎を後ろに残して朝日の差す東の空へと飛んでいった。

 

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