When The "Saints" Go Marching In Ivalice   作:N22b

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38-2 Way to The Doomsday (Lana Torus)

B.B.761 8月20日 ノヴァヤ・ベルベニヤ

 

 その日から、街の雰囲気に変化が現れ始めた。男の人だ。町に、男の人が一気に増えた。聞けば、皆、出稼ぎ先から戻ってきた人達だという。正確には、「戻された」と言ったほうが正しかった。

 新聞を読む。法王府の検閲を受けない総務省の管轄下にある国営新聞だけが、事の経緯を細かく報じていた。

 ノヴァヤ・ベルベニヤだけじゃない・・・イグーロス、ヤードー、ドーター・・・各都市圏で働く少数民族自治区の出身者が、雇用先から一斉に解雇、そうでなくても無理やりに休暇や待機命令を与えられた。

 ほとんど時を同じくして、法王府が出稼ぎ者に対する「人返し令」を発した。宗教警察や僧兵軍までもが教会の名簿に名前がない「異教徒」の出稼ぎ者をローラー作戦で炙り出し、ほぼ無理やりにそれぞれの出身地へと送り返していく。雇用者側も突然の指示に慌てていたらしいが、法王府の命令は絶対だ。

 町は一気に活気にあふれたけれども、どちらかといえば殺気立った雰囲気。経緯を考えればしょうがない。

 戸惑う人々を癒そうとするかのように、ザーリャは毎週、神楽を舞い、祝詞を挙げる。月を経る毎に、段々と動きや口上が様になってくる。特段、嬉しいとは思わないけれど、上手になったと褒めてやると、彼女は嬉しがった。祝詞はともかく、神楽の舞は嫌いじゃないらしい。やっぱり、音楽があって体を動かすからだろうか。アタシは「舞う」ことはなかったから、そこは少し羨ましいと思う。

 今夜も、ザーリャのお社に行く。最近は、彼女がアタシに絵本を読み聞かせてくれるようになった。町の雰囲気がどうあれ、彼女と過ごす夜が、アタシの心を満たしていく。ザーリャの為にと始めたことだったけれど、自分もまた、同じように救われているのだと気付いた。

 最近になって、一つの「案」を考えるようになった。ここに来てから、出るはずのものが出ず、来るはずのモノも来ず、爪すらも伸びなくなった自分の身体・・・もしかしたら、年も取らなくなってるかも知れない。もし、そうだったら、巫女様をザーリャから引き継ぐのはどうだろうか。恐らくは「聖天使」のお陰でこうなってしまった身体をアピールして、「神が降りてきた」とでも演じれば・・・一旦は使わないと決めた「生き返り」の技を見せれば・・・それでザーリャが解放されるなら、こんなに嬉しいことはない。そして、この先、新しい「巫女様」を選ぶ必要もなくなる。「御子」も「巫女」も、やることは大して変わらない。どっちも神の声なんか聞こえやしない。だったら、元「プロ」のアタシが演じた方がよっぽど良い。

 普通の女の子になるのも、悪くはない。でも、ザーリャを悲しい目にあわせたまま幸せになれる気はしない。気の早い話だけれど、もしアタシが結婚して子供でも出来たら、今みたいに毎晩、あの子の所には行けなくなるだろう。そうなったらあの子はきっと悲しむ。アタシを頼ってくれるあの子の笑顔を知った今、彼女を泣かせる未来は選択肢には無い。

 でも、今はもう少し、「二人だけの夜」を愉しみたいとも思う。正直、また「御子」をやるのに抵抗が無いわけでもない。ザーリャもまだ巫女になったばかりだ。いきなり交代を申し出ても流石に受け入れられないよね・・・。あと2年、いや1年・・・あの子に「友達」が必要になったら、その時は腹を括ろう。

 

 

9月13日

ザーリャとの夜更かしのお陰で、いつも朝は少しばかり遅い。朝起きてトイレに行かない生活にも慣れた。着替えて歯を磨く。ここに来てから護身銃術の型稽古はしていない。

 外が騒がしい。ドアを開けてみると、遠くの空に幾条もの黒い煙が立っている。何秒かおきに遠雷のような音・・・

街の中では、病院辺りが特に騒がしい。駆けつけた目の前に広がるのは余りにも非現実的な光景。

身体中、赤黒くなって病院の外にまで横たえられた人の列、列、列。西の隣町から来たというトラックから、次々と同じような人達が担架で降ろされる。

何が起きたの?火山でも爆発した?こんな所に火山なんて無いわよ?じゃあ戦争?ソレはない。北海の向こう、北のロマンダとユードラは100年の不可侵条約を昨年更新したばかりだ。国力だって全然違う。

自力でトラックから降りてこられた人に聞く。混乱していて、たどたどしくだけれど、教えてくれた。

 

 「朝、西側と南側に飛空艇が飛んでいるのが見えた。遠目だったけれども見覚えがある・・・外国のモノじゃなかった。

 飛空艇が通る下に、次々と炎の壁ができた。

 西側にある、隣町の上に、更に何隻もの飛空艇が飛んできて、隣町が燃えた。

 隣町から、人々が逃げてきた。煤や火傷で真っ黒になっていて、最初は誰かも分からなかった。

今度は、自分達の街の西側に炎の壁が出来て、それから、直ぐ真上に飛空艇が来て、爆弾と焼夷弾を落とした・・・確かに見たことがある。国軍か、僧兵軍の飛空艇だった。

飛空艇が居なくなった後も、爆発は続いた。

空気を切り裂くような音がしたと思ったら、幾つかの区画がまとめて吹き飛んだ。それが何十回も続いた。

人を助ける余裕もなくて、炎の壁がない方に逃げてきた。多分、最初にウチの街に逃げてきた人達と同じように・・・」

 

 話を聞いても現実感が無い。

とにかく、出来る事を・・・寝かされている人に治癒魔法を・・・博士のクリスタルはもう無い。でも、ある程度の白魔法ならアタシでも使える。

目の前で寝かされた、赤黒くなった傷跡も痛々しい、荒々しい息をする女性に手を添えて詠唱を始めたその時、後ろから大声で「やめろ!」と呼び止められた。

振り向くと、白衣を着た医者が鬼のような形相でこっちを見ている。

「爆弾や砲弾の破片が入っているかも知れん。摘出前に治癒魔法で傷を塞いだら、後で取り返しがつかんくなる。素人は手を出すな!」

 

 誰がやっているかは大体分かった。話と最近の情勢から判断すれば、多分、僧兵軍だ。でも、何のためにこんな事をしてるのかは全然分からない。ここの人達は確かにファラ教徒じゃあないけれど、それは何百年も前から変わらないことだ。

 何日か前から、新聞は届かなくなったし、テレビもラジオも視聴できなくなっていた。理由は分からなかったけれど、これと関係しているの?何も分からない。

 でも、アタシの目の前だけでも何百もの人達が苦しんでる。それは確かなこと。経緯なんて関係ない。それなのに、何もできない。このアタシが?国境地帯での4年間、そんな事は無かった。いつだって、アタシがリーダーで、皆で力を合わせて、何とかしてきた。

やっぱり、無力なの?叔父さんや、博士や、使徒の皆の助けがないと、アタシは何も出来ないの?

 

 空が煙で暗くなってくる。隣町から流れてきたんだ。色んなものが焦げ付いたような匂い。

さっきの人の話が正しければ、次はこの町だ。それくらいは分かる。この街は東の海岸線・・・もう、逃げる場所はない。

 これをやった奴は、最初からこうするつもりだったんだ。西から順に町を焼いて、逃げる人達をこの街に追い込んで・・・

 分かったところで、どうしようもない。ここに来てもう半年が経つ。街の人達にも受け入れられたし、生活にも慣れたけれど、それだけだ。ここじゃあ、アタシはただの町娘だ。いや、仮にここが国境地帯でアタシが「御子」だったとしても、こんな・・・爆撃を受けた時の対処なんか分からない。そんな訓練は受けてないから。セレーナさんにだって分からないだろう。元傭兵ったって、やってたのは小国や武装勢力の小競り合いくらいのはずだ。こんな、戦争・・・いや、戦争なんかじゃない。一方的に殺してるだけじゃん!何なの?なんでこんな事が出来るの?

何かしなきゃと、体は、はやる。でも、何をすれば?アタシが出来る事・・・アタシにしか出来ない事・・・

「ザーリャ!!」

思い出した。いや、なんで思いつかなかった?

あの子のところへ行かなきゃ!きっと怖がってるに違いない。

 あの子の「お社」は街を見下ろす高台の上だ。街の真ん中にある病院前から走って、街外れ近くまで来たその時、背中から鼓膜が破れそうな音が響く。何度も、何度も!

振り返ると、さっきまでいた、街の中心部から炎と煙が上がっている。

ここまで来たんだ。

上を見あげる。飛空艇は居ない。じゃあ、これは何?

一寸して、シャッ!シャッ!と空気を切り裂くような不気味な音。次の瞬間、街の一角が吹き飛ぶ。煙が立ち昇って、煉瓦の欠片がここまで飛んでくる。

爆撃じゃない。これは・・・砲撃?

既に、少なくない数の人が、高台に向って走っていく。砲弾が降ってくる街区から逃げてるのだろうけれど・・・もしかして「巫女」のザーリャにすがるつもり?

ダメよ、駄目駄目。あの子には何も出来ないわ・・・やめてあげて!彼女に何も背負わさないで!ただの5歳の女の子なのよ!

行かなきゃ。あの子が、アタシみたいになる前に、連れて逃げなきゃ・・・あの子に「麦の雨」を降らせてくれる人はいないんだ!

お社が見えた。扉は閉まってるけれど、もう周りに人が集まり始めてる。

少し離れた所からテレポで中に入る。神職も、氏子も居ない。街に取り残されたのかしら?

寝室に入る・・・いた!

ベッドの上で毛布にくるまるザーリャ。

「ラナねーちゃん!」

そう叫んで這い寄る彼女を何も言わずに抱き寄せる。

温かい。絶対に離すまいと拙い力を全て出し切るようにアタシを抱えて震えるその腕が、この子が感じている恐怖と、自分への想いを伝えてくれる。ただ、愛おしい。

「ぐうじさんも、うじこさんも、こないの。ひとりぼっちで、そしたら、かみなりみたいなおとがいっぱいして、まちのほうをみたら、まっくろになってて・・・こわかったよう!こわかったよう!」

そうだよね。ひとりは怖いよね。

「大丈夫!もう大丈夫!」

なんの根拠も無いけれど、何度もそう言って聞かせる。少なくとも、もう、一人じゃない。

小さな採光窓のガラスがビリビリと震える。青紫色の光が揺らめくように差し込んでくる。今度は何なの?

窓越しに外を見あげると、真上に飛空艇。その腹の部分が怪しい光を放っている。

感じる。アタシにでも分かる位のミストの揺らぎ・・・

危ない。

ザーリャに覆い被さって抱き寄せた刹那、音と衝撃が身体を叩きつける。身体が浮かんでもみくちゃにされる。ズミェルシュフ村で食らったアレの比じゃない!

意識が・・・!

 

 

 

目が開く。

どのくらいたったの?

仰向けで、明るいはずなのに黒い空が見える。真上に、あの飛空艇も・・・

お社の中にいたはずなのに。

首を左右に振れば、周りに瓦礫が散らばってる。お社ごと、吹き飛ばされたんだ・・・。

ザーリャは?・・・いた。胸の上でうつ伏せになってる。

「大丈夫?」

そう言って身体を動かそうとした瞬間、ザーリャが悲痛な叫び声を上げた。

「どうしたの!?痛いの!?」

身体を起こすのを止めて手で彼女の身体をまさぐる。

その細い腰の上で、硬いものが手に当たる。手のひらには、生温かい濡れた感触。

ああ、なんてこと・・・

鉄の棒が、ザーリャのお腹を貫いてる。そのままアタシにも。二人とも、串刺しにされたんだ。

アタシは、痛くない。なんでかは分からない。もうこの身体のことはわけが分からない。今は、そんな事はどうでもいい。ザーリャが・・・!

「いたいよう、こわいよう」と泣き続ける。これじゃあ動けない。刺さった棒にもさわれない。助けを呼ぼうにも、周りには人の気配が無い。お社の周り、いっぱい居たよね?みんな、今ので・・・?

「大丈夫!怖くない、怖くないよ・・・」

そう繰り返して、体を動かさないよう彼女の頭を優しく抱いて撫でる。それしか出来ない。

ザーリャの呼吸が浅く、小さくなる。彼女のお腹から流れ出た血が、鉄棒を伝ってアタシの傷口から中に入ってくる。なぜか、それが分かる。

血と一緒に、彼女の恐怖と、痛みも伝わってくる。

そうだ、これが身体を串刺しにされた「痛み」だ。たまらない。痛くて気が狂いそうだ。こんな小さな子に、こんな思いをさせるなんて!!

でも、時間が経つほどに段々と痛みが和らいでくる。いや、感覚がなくなってるんだ。ザーリャがアタシを見る。

「おねえちゃん、ありがとう。もう、いたくないよ・・・」

小さく笑って弱々しく言うその顔は青白くて、唇も紫色だ。

「力」を使おう。

彼女は1回死んじゃうけれど、ハリさんや、刈り上げちゃんの時と同じようにやれば良いんだ。

でも、このままじゃダメだ。こんな鉄棒が刺さったままじゃあ、蘇ってもすぐにまた・・・

子守唄を歌う。まだ、母さんが母さんだった頃に歌ってもらった歌・・・昔過ぎて、歌詞が全部は思い出せない。鼻歌でごまかす。

ザーリャの息と、触れ合う胸から感じていた鼓動が止まる。

大丈夫、大丈夫!「ちょっと死んじゃった」だけ!アタシには「力」がある!

ネルベスカでの博士の言葉を思い出しながら、刺さった鉄棒に力を入れる。

・・・ダメだ、血が滑って棒が滑る!身体を揺らしてみても棒はびくともしない。地面にまで深く刺さってるんだ・・・

何度も何度も鉄棒に力を入れる。服越しに掴んだり、手に砂を付けたり・・・でも、空しく滑る。

怒りに任せて狂ったように身体を振っても動かない。

悲しい。処刑台に登った時よりも、叔父さん達を亡くした時よりも、何倍も、何十倍も悲しい。この子は軍人でも何でもない。納得ずくで自分の使命に命を掛けたわけでもない。ただ幸せに生きたかっただけの子供なのに!

 

空に浮かんだ飛空艇の腹に張り付いた巨大な「目」がまた光りだす。また「アレ」をやるっていうの?馬鹿じゃないの?この子達をこんな目にあわせてまでやりたい事って、何!?

 

認めない。

 

そんなものは、クズだ。

 

そんな事をやろうとするヤツらも、クズだ。

 

今の今まで感じていた悲しみが、怒りに変わっていく。

胸の奥が、煮えたぎる様に熱い。

噛み締めた奥歯を、そのまま噛み砕いてやりたくなる。

 

お前らだ・・・クズはお前等だ・・・

 

「消えろ」

 

今までで、一番静かに、そして一番深く念じる。

 

その瞬間、意識が「星の龍脈」に沈んだ。

いつもと全然違う、赤黒く澱んだ空間。

いつもよりも鈍く光る「魂」・・・幾つあるの?何百?何千?何万?

その一つに触れる。恐怖と、痛みが一気に流れ込んでくる!

そうか・・・これは、ここで殺された人達の、最期の想い・・・

一つ触れた途端に、全ての「魂」がアタシに流れ込んでくる。

痛い!

苦しい!

悲しい!

どこからが「魂」の人達ので、どこからが自分自身の痛みなのか、もう分からない。

 

こんなにも悲しいなら・・・こんなにも辛いなら、いっそ・・・

 

そう思った時、頭の中に、声が響いた。

 

「アナタハ、ソウシタイノネ・・・」

 

優しくて、でもどこか機械的な声

アタシはどうしたいの?

言葉にならない。でも、声の主は、気付いたんだろう。

じゃあ、いいよ。きっと、「あなた」が感じたとおりなんだろうね。

 

「ワカッタ・・・アトハ、マカセテ」

 

そう聞こえたのと同時に、アタシの目の前は真っ暗になった。

 

身体を、ドス黒くて温かい闇が包む。

 

何も見えないし、何も聞こえない。でも判る。意識の外で、「自分だった何か」が全てを壊しているのが・・・モノも、人も、誰彼の区別もなく・・・

 

 何千もの、何万もの「魂」が流れ込んでくるのが判る。その全部が、恐怖と痛みを伴っている。

「声の主」は、流れ込んだ魂を「力」に変えて撒き散らす。そして、また、何千もの「魂」が流れ込んでくる。

 

ねえ、あなたは、何をしているの?

 

もう、いいわ。だって、子供達の「魂」が泣いてるんですもの。

 

さっきは自暴自棄になってたの。

今だって怒ってる。でも、ねえ、お願い。アタシを「奴等」と同じにしないで・・・

 

聞いてないの?

 

それがあなたの「力」なの?じゃあ、要らない。それは、アタシが欲しかった「力」じゃあない。もう要らないよ!だからアタシを放して・・・出ていって!

 

・・・ダメなのね。

そうだよね。全部、決めたのはアタシだもの。あなたと一緒になるのも、あなたに「私」を任せたのも・・・

 

悪いのは、アタシなんだ・・・でも、お願い・・・

誰か、助けて・・・

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