When The "Saints" Go Marching In Ivalice   作:N22b

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40 Hater

1300時 イグーロス沖北方

叛乱軍水上戦隊「1番」戦艦(クラウザーⅡ世)

 

 薄暗い指揮所で、アレン・フォッシュは歯軋りする。大画面の状況表示版の一つには、砲爆撃を逃れて南へ避難しようとする「異教徒」を逃さず「処理」するためにノヴァヤ・ベルベニヤ南方に展開させた狙撃兵のボディ・カメラの記録映像が一時停止状態で映っていた。

 

「なんで・・・なんで、ヤツがあそこに居るんだ・・・ッ!!」

 

 数時間前、フォッシュは予想もしない状況に出くわした。砲爆撃でノヴァヤ・ベルベニヤを一通り「耕した」後、「撫で斬り要員」の地上兵力を投入する前の仕上げとして投入した「インビンシブル」が墜落した。1度目の「射撃」は街区からやや離れた郊外に密集するように避難していた群衆を完膚なきまでに焼き払った。元々は強固に張り巡らされた塹壕や地下陣地、地雷原等を上空から「滅却」するために開発された正規戦用の砲艦、それを何の防護もされていない市街地に使用したのだ。「上々」の効果を確認し、2撃目を街区に撃とうとした矢先に、大爆発を起こして轟沈した。艦底に設えられた主砲「ミスト・カノン」の暴発によるものかと考えたが、同艦を装備していた国軍最精鋭の第1機動戦術群がそのような杜撰な整備をしていたとはとても信じられなかった。しかし、失ってしまったものはどうしようもない。それで計画自体が頓挫するわけでもなかった。

 一足先に「地獄」へと旅立った同志達に思いを馳せつつ、フォッシュはノヴァヤ・ベルベニヤの殲滅率を確認させる。推定値で70%、地上兵力を送り込む前に「もう一押し」する必要があると判断し、一旦離脱していた戦闘機・爆撃機隊を呼び戻した。そして、再攻撃のために街区上空に進入した戦・爆連合までもが、軒並み「墜落」したのだ。フォッシュらはここで、事態が尋常ならざる状況にある事を理解する。数機の戦闘機が、通信途絶の直前に「攻撃を受けた」との通報を送ってきた。「インビンシブル」も戦・爆連合も「撃墜」されたのだと理解する。

 フォッシュは戦術を変える。自治区に「伝承級」の魔道士や召喚士集団がいるものと仮定し、街区への攻撃を遠距離からの艦砲射撃のみに切り替える。残弾を考慮すれば、射撃頻度は落とさざるを得なかった。その代わりに南から狙撃旅団を主体とする地上部隊を北上させ、砲撃であぶり出した「敵勢力」を挟み撃ちにする戦術をとる。

狙撃旅団の兵士達は、砲爆撃を逃れ、「炎の壁」の隙間を縫って南へと退避するノヴァヤ・ベルベニヤの住民を見つけては「処理」していく。その様は、兵士達の胸に取り付けられた戦況確認用のボディ・カメラとヘッドセット・マイクを通して、クラウザーⅡ世の指揮所内に伝送される。「その女」も、そんな処理対象の1人だった。スポッターの兵士が針葉樹林の暗がりの奥から現れた「白髪の女」を発見する。狙撃手は指示に従って対象を確認し射撃、女の右頭部が爆ぜて上半身が後ろにつんのめるのを確認する。

銃を降ろして前進しようとする狙撃手をスポッターが呼びとめる。

「まだ、倒れていない!」

狙撃手は慌ててスコープを覗く。確かに女は倒れていない。歩みを止めて、じっとこっちを見ているようにも見える。

背筋に悪寒を覚えた狙撃手は速やかに次弾を装填し、射撃。胸部に着弾し、血煙が舞ったのを「確実に」確認する。幻惑魔法も、防御魔法も使われていない。口径8mmのフルメタル・ジャケット弾が、確かに心臓付近を貫通した。しかし、女は倒れない。

狙撃手は恐慌状態に陥る。再装填のために僅かに照準が外れ、次にスコープを覗いた時には、女は消えていた。

スポッターに見失った事を伝え、捜索を指示する。だが、返事が無い。

スコープから視線を外して振り返ると、そこには「女」が立っていた。直ぐ側の地べたには、首のないスポッターの身体が横臥している。

狙撃手がライフルの銃口を向けるよりも先に、女はその首を片手で掴むと難なく吊り上げる。胸部の防護服に取り付けられたボディ・カメラの正面に、女の視線が合う。

「・・・っの、アマ・・・!」

勇敢なる狙撃手は闘志を失うことなく、ライフルから手を離すと、大腿部のホルスターから拳銃を抜き、無我夢中で女に向かって撃ち込む。1発、4発、7発・・・見れば、最初に抉った右の側頭部からは、翼のようなものが生えている。

(畜生・・・人間じゃ、ないのか!)

そこで狙撃手の意識と生命は途絶え、ボディ・カメラは空を映すだけとなった。

クラウザーⅡ世の指揮所には、その時の「女の顔」が映っている。表情は無く、眼差しはどこまでも冷たい。だが、間違いなくフォッシュの記憶にある顔だった。「ミスト・カノン」と砲爆撃、機銃掃射で破れ、はだけた衣服の隙間から見える、これだけは自己修復機能を持った深紅の恥辱服がそれを裏付けていた。

 

「殺したハズだ・・・フォボハム沖の指定海域に投棄しようとして・・・」

そこでフォッシュの背筋に悪寒が走る。

「あの女」の遺体を搬送していた戦艦「クラウザー」の謎の爆沈

内燃機関で航行していたはずの同艦から高濃度のミスト中毒状態で救出されたヴィエラの乗員

遂に見つからなかった「あの女」の遺体

「偽物」と判定され、汚穢物として同梱された「聖石ヴァルゴのような」クリスタル

 

 フォッシュは戦隊司令の肩を掴んで命じる。

「上空の観測機に確認しろ。フォボハム戦域のミスト検知状況をコチラに伝送させるんだ。来たら直ぐにミュロンドの「ムセイオン」に送って、解析させろ・・・直ぐにだ!」

 

 すぐさま指示が飛び、クラウザーⅡ世経由で観測データが、法王府が占有する巨大データ・センター兼応答型人工知能「ムセイオン」に伝送される。検知された、閾値以上のミストの波形と整合する、過去の全てのデータをリストアップせよ、との命令に、「ムセイオン」は30秒程で回答する。

特異なものとして、「異形者・聖天使アルテマ」と類似する波形の高出力ミストを複数回検知した、と。

 

「殺されるのを見越して、融合した・・・?そんな事が出来るのか・・・?同盟諸国の罠?・・・そうだ、そういえばあの女、ネルベスカと懇意にしているとランベリー大公が言っていた・・・あり得ない話ではない・・・」

 

 フォッシュは特異な第六感も手伝って、独力で一気に核心へと近づく。

そうしている間にフォボハムの「女」は監視の網からすり抜け、ミストの反応もなくなった。

 

 ジークデンの国軍部隊が「謎の敵性勢力」と交戦しているとの情報が入る。

フォッシュは速やかに観測機をジークデン方面に指向する。果たして、フォボハムで検知したのと同じミスト波形が検知された。

 

間違いない。

細かい経緯はどうでもいい。

生きているか死んでいるかもどうでもいい。

アジョラ・グレバドスは「聖天使」と融合し、巨大な力を伴って、南下している。目の前に立ちはだかる、全てを薙ぎ払いながら!

 

「今後の奴の進路を予想しろ。」

データを送りつけたフォッシュの命令に、ミュロンドの「ムセイオン」が数秒で回答する。

「クラウザーⅡ世」指揮所の状況表示板に、西部イヴァリースの地図と、「敵」の時間毎の進路予想図が表示される。フォボハム北部、半島部に位置するノヴァヤ・ベルベニヤから直線でジークデンに、そこを基点に、徐々に存在圏を広げながら南下し・・・

「ミュロンド:98%」

その表示が、指揮所の全員の視線を釘付けにする。

ファラ教徒が何を置いても守護しなければならない聖地。300万の異教徒を殺して回っている間に、ミュロンドに住む1000万の「清教徒」達を殺されたのでは、笑い話にもならない。

フォッシュは即決する。

「全軍に通達。作戦中止!速やかにミュロンド北部に転進!「敵」を迎え撃つ!!我々もミュロンド沖に向かう。全速だ!!」

指揮所に僧兵軍幕僚達の怒号が飛び交う。

針路を定針させると、機関を蒸気タービンからグロセア・エンジンに移行、舷側からグロセア・リングを内蔵した寸詰まりの分厚い「翼」がせり出すと、速力増加に伴い艦体の喫水が徐々に浅くなり、やがて離水する。大型飛空艇に比ればコンパクトな艦体に飛空艇をはるかに上回る装甲と武装を詰め込んだ10万トン近い排水量の水上戦艦に、艦を浮航させるに十分なグロセア機関を搭載する容積はない。だが、グロセア機関の浮力に「翼」による地面翼効果を加えることで水面近くを「飛行」することが出来た。高速移動と対潜脅威回避の為にユードラが採用したグロセア・地面翼効果混合浮揚推進が、分厚い鋼鉄の艦体の速力を飛空艇並みに引き上げる。ものの数時間で燃料の過半を消費し、艦体に掛ける負担も大きかった(加えて、浮航中は大口径砲は使えない)が、そのようなことは「聖地ミュロンド」に比べれば些事も些事だった。浮航機構を持たない旧式艦を残し、数隻の随伴を伴って、1番戦艦(クラウザーⅡ世)は、海面上数メートルを滑るように南下する。

 

フォッシュは静かに指揮所を退出すると、自室へと入る。

深呼吸をする。何度も繰り返す。

繰り返すうちに、闘犬の唸り声のような声が漏れ出す。

刹那、大声で叫びながら、室内のあらゆる調度、書籍を引き倒し、投げ飛ばし、破り捨てた。

数十年かけて準備し、遂に決行し、成就を間近に控えて、全てを台無しにされた。放置すれば後世に起こるであろう文化・宗教的衝突が引き起こすはずの数多の罪を背負って地獄に行く覚悟も、無駄になったのだ。

 

フォッシュは分厚いマホガニーの机に拳を叩きつけて叫ぶ。

「畜生ッ!畜生ッ!!あのクソ女(アマ)・・・ッ!殺してやる・・・!今度こそ、殺してやるぞ・・・!!!」

 

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