When The "Saints" Go Marching In Ivalice 作:N22b
「死都」形成〜概ね600年程
まだ此処(ここ)に来る前、オーボンヌでイメージしていた頃は、「ただ「その時」が来るまで、暗闇の中で延々じっと待つ」イメージでいた。けれども実際来てみると、そう悠長にもしていられそうな気持ちにはなれなかった。いざ「ミュロンドとその周辺」だった瓦礫と廃墟、土塊氷塊がとっ散らかった空間を目の前にすると、どこから手を付けていいものか、焦りばかりが前に出る。所詮ヒュムだった身だ。長命種、ましてやオキューリアの様に何百年とか千年単位で時間を捉える事が出来ない。
そして、何をするにもここでは「人間の身体」は都合が悪い。単純に、エネルギーを食う。知覚できる範囲も限られる。名残惜しいが、分解する。巨大な幹状だった「本体」を蔦(つた)に変え、手や感覚器として使う。瓦礫同然の廃墟を繋ぎ合わせて「道」を作る。意外にもしっかり形を保って残っていたのは鉄筋コンクリート製の近代建築よりも、旧市街区らしい石造りの建物達だった。道の起点となる「社」に、魔法陣を刻む。予めオーボンヌの地下書庫に刻んだ魔法陣と対になる、「イヴァリース」とこの死都を繋ぐ不可視の「糸」だ。この「糸」を通して、現世の「龍脈」からミストが送られるのを待つ。たまに本流を離れてこちらに流れ込んでくる気紛れな「魂」のミストを、バスタブに水を一滴ずつ溜めていく様に蓄積する。何百年、何千年掛かるか見当もつかないが、この線の「細さ」に意味がある。現世のようなミストの「メイン・ストリーム」の中では「聖天使」へのエネルギー供給は無限かつ即時だ。アロイス達や俺がやったように、こちらが力尽きるまで無限地獄のような戦いを強いられる。アイツと一体になった「聖天使」を復活させる必要はあるが、そこから抑え込むには「流れ込む力」は最小限に抑えなければならない。理屈の上では、このやり方で「聖天使」の再起動「だけ」に必要なミストを回収することが出来る。そこが勝機だ。
現世の側では、サブ・システムの長たる「統制者」以下が、自動的に「聖天使」を捜索・復活させる行動をとる様にプログラムされている。そうしなければ自らも全能発揮が出来ないからだ。万が一、「聖天使」を失うことがあってもシステムを修復出来るよう、オキューリアがそのように造った。
必要な条件は3つ。
1「聖天使」の復活に必要な最低限のミスト
2「統制者」の起動
3「ヴァルゴ」と、バルビエ博士がアイツの遺伝コードをベースに設定した「セキュリティ・ロック」に適合する人間。
1については、恐らくは最初の2、300年位で随分と溜まった。それだけ現世で多くの血が流れた、ということだ。稀に魂の姿を保ったまま流れ込んでくるミスト塊に触れると、生前の記憶を断片的に垣間見ることが出来た。ゲルンが言っていた「魂の記憶」というやつだ。「聖天使」を失ったイヴァリースの「予想通り」の崩壊。「予想外」だったのは、寸土を巡って争い、奪われた命と尊厳への復讐、或いは苛烈な現世からの逃避の為に引き起こされた核戦争。
天は割れ、地は裂け、全ての生命が絶たれてしまうのではと、正直焦った。
だが、人類は滅びていなかった!
今や完全にこの身体に溶け込んで話すことも出来なくなったゲルン達、オキューリアに向かって無言で叫ぶ。
「どうだ見たか!俺の勝ちだ!」と。
異形者達を造った時のオキューリアの予想とは裏腹に、結局、最後まで生き残ったのはヒュムだった。
どんぶり勘定で500年もすると、流れてくる「魂」は極々稀にモーグリが混ざるくらいで、あとはヒュムばかりになった。個人的には、次はモーグリ中心の世界になると思っていたので、そこは予想が外れた。あんなに優秀で狡い種族が、数百年も経たずに珍獣や幻獣扱いになってしまうなんて・・・
文明が後退した。人々の「魂の記憶」から、飛空艇も自動車も、高層ビル街も銃もアーマーも消えてなくなった。
争いの手段も原始的になったのだろう。「流れる血」の総量が減って、ミストの溜まりが芳しくなくなった。そう言えば、ダルマスカ戦役の後、どこぞの偉い学者がこんな言葉を残していた。
「次の戦役がどんな武器・どんな魔法で戦われるかは分からない。だが、その次なら分かる。石と棍棒で、だ。」
ゲルンが言った通り、人間は何度でも繰り返す。争い疲れて「もう二度と御免だ」と嘆いても、それから10年と保たずに繰り返す。だが、それを見込んでの、この作戦だ。人が争い、血が流れる限り、魂のミストの供給は続く。
2と3・・・これはもう、待つしかない。バルビエ博士は、アイツと同じ「型」を持つ人間の出現確率は1000から1500年に1度程度、と言っていた。その人間を、うまい具合に「統制者」達がピックアップしなければならない。ミストもそのタイミングで溜まっている必要がある。タイミングが合わなければ、また1000年以上、待つ羽目になる。我ながら、なんて博打じみた作戦なんだろう。
気付いたことがある。流れ込んでくる「魂」達に触れると、アイツの名前を呼んでいることがある。死の間際に救いと赦しを求める。或いは生前、少しばかりの幸せ、例えば日々の糧の度にも、その名を唱える。時代が下る毎に、その数が増えていく。
そうか、アドルフ・・・君は「教会」を作ったんだな。自分が死んでも、人々がアイツの事を忘れないように・・・「やるべき事」を見失わないように・・・。
「神のみ心に沿って生き、死ぬ者は聖アジョラの身許へ・・・」
まあ、間違っちゃあいない。でも、死んだ人々は光り輝く天国を想像しているはずだ。こんな薄暗い廃墟で申し訳ないと、本当にそう思う。それとも、こんな世界でも、信じる者の側へ行ける事は幸せなんだろうか?信心らしい信心もない俺には分からない。
〜概ね900年位
「箱庭」を作る。復活の場。そして、最後の戦いの場。「聖天使」から、アイツを引き剥がす。計算では、イケるハズだ。「聖天使」はアイツの身体を取り戻そうとするだろうが、それはさせない。残しておいた最後の力で、叩き潰す。ミストの補給もままならないこの死都でなら、それが出来る。それで初めて、アイツは「ただの女子」になれる。
モチロン、俺も「聖天使」と同じ条件だ。だから、ここに残された「武器」を徹底活用する。アイツにも働いてもらう・・・かも知れない。これだけ手間を掛けて「準備」したんだ。生き残る為には、寝起きだろうと容赦はしない。そのつもりで準備する。
最も多くの「武器」が遺された場所、「聖大天使」と列国の航空戦力が最後に戦った「飛空艇の墓場」・・・殆どの飛空艇が原型も留めない中、一番オンボロだったはずの2隻の「レガシー・シップ」が船体をほぼ維持していたことに驚く。街もそうだが、フネも昔らしく、頑丈一点張りで作ったのが功を奏したのだろう。まだ使用に耐えうる武器、弾薬を探し出し、必要なメンテナンスを行う。蔦に変えた身体ではエネルギーは食わないが、とにかく時間がかかる。本当にどうしようもない時だけ、人の身体を作って整備する。
何百年かぶりに身体を作って、大変な事に気付く。自分の顔を、忘れてしまった・・・そして、ゲルンが感じていた「恐怖」を理解する。顔を忘れたと分かった後、必死になって思い出を辿った。今となっては、たったの26年、だが、かけがえの無い26年の「人間」としての記憶を、逃さないように反芻し、抱きしめる。きっとゲルンは、神器に魂を移してから何千年もの間に、自分の顔と、身体があった頃の「自分の記憶」を忘れてしまったのだ。だから自分が「生命」だという確証を失ってしまった。バカな奴だと思っていたが、危うく自分もそうなるところだった。ただ、アジョラ・グレバドスを復活させるためだけの「プログラム」に成り果てるところだった。
やり方を、少し変える。一人黙々と働くのではなく、アイツが横に居るつもりで、話しかけながら動くようにした。時には思い出話や、思い付いた下らないジョークを披露しながら・・・。
最後の戦いの準備、アイツが聞いているかどうかは分からないが、ブリーフィングのつもりで逐一、解説する。
「サイズが合いそうな服を見つけておいた。ここに置いておく。「聖天使」から引き剥がされて、もしもスッポンポンだったら、ここに来るんだ。」
「ユードラ製の武器・・・一通りは勉強したよな?使い方、しっかり思い出しておけよ。自分の身は、自分で護るんだ。」
〜1200年位
一通り「準備」が終わって、待ちの態勢に入る。間に合ったのは何よりだが、こうなると時間の経つのが一気に遅くなる。Operation Final Fantasy-Tedious(うんざり・退屈)とは、我ながらよく名付けたものだ。
今更ながらに、ふと思う。アイツはどうしているのだろう。「此処」に居るハズだけれど、コミュニケーションは取れないし、他の「魂のミスト」と違って触れることも出来ない。稀に「そうなんじゃないか?」という感覚を覚えるくらいだ。
俺は今まで、地味にやる事も色々あったが、アイツは此処に「居るだけ」だ。もし俺と同じ様に意識があったとしたら、それは暇で暇でしょうがないだろう・・・まさか、知らん間に「消えちまった」なんてことはないよな?
「実験」を思い付く。何年かかけて「ゲーム機」を作った。といっても、テレビで遊ぶアレじゃない。「魔導書(グリモア)」の体裁で、その中に小さな「世界」を作る。「生きている」魂であれば、中に入ってその世界の「住人」になれる仕様だ。此処でそんな「魂」は、アイツしか居ない。ゲームの「世界」はできるだけ明るく作る。此処は殺伐としているから・・・。ゲルン達、オキューリアが「最も好ましい」と考えていた時代と場所を基準に、サービスで、プレイヤーの「魂の記憶」を読み取って「なりたかった自分」になれるようにする。少し中毒性があるかもしれない。
「グリモア」をその辺に置いて様子を見る。もしアイツが、ちゃんと此処に居て、最後に見せてくれたような「人の心」を持ってくれているなら、目ざとく見つけて中に入るハズだ。こういうのを見逃すヤツじゃあない。俺が戸棚の奥に隠した菓子だって見つけ出して食ってしまうようなヤツなんだから・・・。
果たして、設置して何日も経たないうちに「掛かった」。ウナギの罠にちゃんとウナギが入っていた時のような高揚感を覚える。俺自身が中に入ることは出来ないが、プレイヤーがどう遊んだかは外からでも確認できるように作った。結論から言えば、アイツは、このゲームを遊び倒してくれた。20年位はやり込んだんじゃないか?幾つもの「セーブデータ」が、この「世界」でのアイツの生き様を教えてくれる。分かりやすい「クランのリーダー」から、「菓子職人」に「出版社の社長」・・・「王宮に何人もの男を侍らせる逆ハーレム」なんてのを作ったりもしていた。なんてヤツだ!だが、「政治家」と「軍人」、そして「宗教団体の関係者」にだけはならなかった。「もう、懲り懲り」ってことか?
「実験」は成功した。アイツは「心を失わずに」此処に居る。このまま蘇ってくれれば、どんなにか楽だろう。でも、そうは問屋が卸さない。今は身軽な「自分の魂」だけだが、「ヴァルゴ」と「適合者」を使って「儀式」をやれば、イヤでも「聖天使」と「魂のミスト」が付いてくる。それもただのミストじゃあない。殆どが、フォボハムでアイツが取り込んだのと同じ、悲憤と痛みの「負の思念」に満ちた「澱んだ血」だ。力の大小を問わず、また「アレ」になって蘇るのはほぼ間違いない。
もう、アイツの所為で2回死んだ。次こそは「3度目の正直」といきたいところだ。
概ね1200年〜
どうやら、戦乱でも起きたらしい。流れ込んでくる「魂のミスト」が増える。10年、30年・・・グダグダと、いつまでやってるんだ?こんなのは久々だ。
形ある「魂」の記憶を読む。半分はアイツの名を唱え、もう半分は別の神様だかの名を叫ぶ。アイツの名前が出てくる以外は、本当に昔、歴史の授業でやったことの繰り返しだ。ここに来てゲルン達、オキューリアの気持ちが分かる。何度導いても、この「永劫回帰」を何千年も見せつけられたら、そりゃ呆れて匙も投げたくなる。俺だって、アイツの事が無けりゃあ、もうお腹いっぱいだ。
「戦乱」が、もうじき50年目に差し掛かろうかという所で、永く此処に居て初めての感覚を覚える。
「統制者」が、起動した。
理屈は分からないが、それだけ認識出来た。
もう暫くして「死の天使」・・・そして「不浄王」が目覚める。ミストも目算で9割9分以上が溜まっている。コレで「適合者」が見つかれば、彼等がいつ此方へ来てもおかしくはない。アドルフに託した「指南書」・・・オーボンヌから此処に来るための方法を、彼等が認識していれば、の話ではあるけれど。
つまり、最低でも「聖天使」と3柱の「異形者」を相手にしなけりゃならない。万が一コッチがやられて、俺が作った「糸」から彼等が現世に戻ったら、「聖天使」は再び「星の龍脈」に繋がれて「ゲーム・オーバー」だ。機関銃一丁作れない「今」の文明で、アレを止める事は出来ない。
今更ながら、俺はつくづくゲルンが言った通りの悪党だ。アイツの事を諦めて、この死都と現世を完全に断ち切ってしまえば、イヴァリースが無用なリスクに晒されることは無い。多くの人がアイツの名を叫びながら剣を手に取って殺したり、死んだりする事もなかった。たった一人のエゴのために、世界は背負う必要のない危機を背負い、偽物の「神の御子」に向かって祈りを捧げ続ける。どんなにアイツを拝んだって、何のご利益も無けりゃ、天国にだって行けやしないのに・・・。
どうやら「戦乱」が終わって暫くした時、「不浄王」が「機能停止」した。誰かが撃破したってことだ。「聖天使」無しでは相当に弱体化するのだろうが、その辺のモンスターと同じということはないだろう。誰がやったのかは分からないが、大したもんだ。
程なく「魔人」が起動するが、こちらもそう時を経ずして「停止」する。状況の動きが速い。まさか「統制者」が、こちらに来る前にやられる、なんてことはないよな?ソレは想定していない。起動した「異形者達」は、「聖天使」を復活させる為にはいかなる行動でもとる。良心回路も倫理規定も無い。戦いの果てに撃破されるということは、それだけ悪どい手段をとっている事の証左でもある。これ以上目立って撃破されるなんて馬鹿はしてくれるなと祈るしかない・・・。祈る?誰に?残念なことに、俺には祈るに値する相手が見当たらない。
また、形ある「魂のミスト」が流れ込む。気まぐれに手を触れる。まだ子供だ。親族・・・妹さん、かな?彼女を庇って撃たれたのか!随分と荒んだ人生を送っていたみたいだ。どうやら何人も殺している。幸せらしい記憶は、妹との一時だけだ。そりゃあ、庇うよな。君はろくでなしだが、いいお兄さんだ。俺なんかとは全然違う・・・
「聖石」が近くにあるのか?君は運がいい!アイツの真似事、俺にもできるだろうか?「霊樹」は「聖天使」の先行品だ。1千万人蘇らせたアイツほどじゃなくても、1人くらいなら・・・。
「魂」が尋ねてくる。言葉ならざる言葉で、向かうべき場所を。
そうだな・・・行った先がまた、ろくでなしの巣窟じゃあ、可哀想だものな。
そっと「魂」を押して言ってやる。アイツ以外の「人間」に語りかけるなんて、どれだけぶりだろう。
「帰りな。「正しい心」を持った人の所に・・・」
彼の亡骸の近くにあるらしい「聖石」を道標にして魂が帰っていくのが判った。妹さん、喜ぶと良いな・・・。
また「戦乱」が始まった。今度は、どちらもがアイツの名を唱える。それぞれの陣営の司祭達が勝手にアイツの「祝福と加護」を兵士達に約束し、兵士達はアイツの名の下に殺し合い、殺される時にもアイツの名を唱える。
「苦しいこの世にさようなら。今こそ天国、貴方の身許へ!」と。
似たようなことは前にもあったが、やはりどうにもいたたまれない気持ちになる。端から見ればとんだブラック・ジョークだが、本人達は切実で大真面目だ。俺がアドルフに作らせた「教会」のせいでこうなっているのだ。俺にコレを笑う資格はない。
「憤怒の霊帝」が起動したと思ったら、直ぐに沈黙した。一体、何と戦ったんだ?車道の真ん中で復活して次の瞬間トラックに轢かれました・・・なんてことはないよな?
「魔法陣」を使った奴がいる。
俺が作った「道」を通って、「箱庭」に向かってくるのが感覚で分かる。その辺に這わせた「蔦」は全て「霊樹(オレ)」の身体だから。陽の光も水もないこの死都で、真っ当な植物なんか育つわけないだろう?
来た。「統制者」だ。鎧と法衣を纏った中年の男。恐らく、「彼」は自分が何処で何をしているか分かっていないだろう。「魂の器」を「統制者」に乗っ取られた、哀れな傀儡だ。貴方がどんな人だったかは分からないけれど、俺は貴方に謝らなきゃあいけない。それだけは確かだ。
気を失った女の子を連れている。アイツの生まれ変わり?・・・「適合者」のことか?その顔を見てパニックに陥る。
アイツとは似ても似つかない・・・そして1000年経とうがその顔は忘れない!
(アリアン!なんで君が此処に居る?)
あり得ない。別人なのは間違いない。心なしかアリアンよりは少し柔和な感じがしなくも・・・
「統制者」よ。何を頭を捻っている?お前はポンコツなのか?「間違えました」じゃあ、済まされないぞ?待て・・・
「誰か」が魔法陣を通って来た。一人じゃあない。概ね1個小隊・・・「統制者」の「眷族」が魔法陣をブッ壊した!何が「もう戻れない」だ。バカなのか?まだ「魂のミスト」は溜まりきってない!俺にもう一回作れっていうのか?ふざけるな!余計なエネルギーを使ってる余裕なんかないんだ。お前等に少しでも済まないと思った俺の気持ちを返せ。
俺が怒ったからなのかは分からない。が、「統制者」が連れてきたらしい部隊は、後から来た例の「小隊」が全員殺してしまった。何匹かモンスターも居るが、間違いなく人間の部隊だ。どうにも強い。この感覚・・・あれだ。アロイスの旅団の機械化歩兵連隊の連中だ。庁舎艦で「デーモン」達を撫で斬りにしていく彼等がこんな感じだった。生身の人間が到達できる最高レベルの技能と連携。見ていて清々しさすら感じる。
見覚えのある「鉄巨人」・・・「アクエリアス」を使っている。間違いない!「ワークマン・8号」だ!何故そんなモノを連れている?面白いな、君達は!
君達のような存在は想定外だ・・・。「聖天使」が復活したら、アイツを引っ剥がして、お付きの「異形者」共々、俺とアイツで倒す。何が何でも現世には返さず、アイツも死なせず・・・そういう筋書きだった。君達は何をしに此処に来た?これは俺にとって吉兆か?それとも凶兆か?
「小隊」が「統制者」の居る揚陸艇「スラコ」の上甲板に辿り着く。リーダーらしき青年が、女の子の名を叫ぶ・・・その子はアルマというのか。別人だと分かってホッとしたよ。青年、君は彼女を追ってきたんだな。そして・・・・なるほど、兄妹か。
君はラムザというのか・・・君は「間に合った」んだな。俺とは違って・・・。もし、君が「統制者」を倒して、それでも「魂のミスト」が溜まらなかったら、俺はどうすればいい?君に妹さんを返して、潔く全てを諦めるべきか、往生際悪く君達のいう「ルカヴィ」の一人として君達の「魂」を狙うべきか・・・
「統制者」が斃れる。正確には、自らの「魂のミスト」を捧げた・・・恐らく、自分で決断したつもりなのだろうが、まさにプログラムどおりの挙動・・・造られた存在故の哀しさだ。散り際、ミストの奔流に乗せられた・・・ヴォルマルフといったか・・・彼の「魂の記憶」が垣間見える。厳格だが、そこそこ子煩悩な、良い父親だったようだ。50年の戦いの末期、その死の間際、世を憂う悲哀と信仰故に、「呼びかけ」に応じて契約を交わした。アイツや俺のような外科的施術でない、「契約」による融合は、一瞬で「魂の器」を明け渡してしまうらしい。彼は、意志を乗っ取られ、息子を手に掛け、今、娘にとどめを刺された。「教会」で代々「レオ」を預かる職責に就いていたようだ。つまりそれは、俺の指示を受けたアドルフの差し金ということだ。俺達が・・・いや俺が、彼を「哀しい化け物」に変えた。
「統制者」の魂で、ミストが溜まりきる。良かった。少なくとも、俺が君達を手に掛ける理由は無くなった。こんな所まで妹を追いかけて来るお兄さんだ。よく見れば、この間、蘇らせた「彼」も居る。ちゃんと「正しい心の人」の所に行けたんだな。
俺達への当てつけみたいに「理想の兄妹」達が押しかけてきたわけだ。ちょっとだけ、ムカつくぜ。
さて、「儀式のお時間」だ。ラムザ君とやら、すまんが、少しだけ妹さんをお借りする。
結局、「統制者」は間違ってはいなかった。バルビエ博士が鍵に使った「遺伝コード」は、見た目に関係する部分じゃなかった、ということで理解する。「ヴァルゴ」を触媒に、溜めあげたミストを注ぎ込む。千数百年分の争いが生んだ「血の澱んだ」ミストだ。すまない、またお前を苦しめる事になるけれど・・・でも、少しの辛抱だから。
久々に拝むその姿。感慨もひとしお、といきたいところだが、ああ・・・「やっぱり」か。
それにしてもヒドい面だ。その顔は覚えてる。国境地帯の村で飲み慣れない酒に飲まれて、ネルベスカに向かうセイレーンの中で俺にぶちまけた後と同じ顔だ。そりゃあ、負の思念まみれのミストに、「魂の器」には3つの魂。気持ち悪くないはずがない。
確かに聞こえた。「助けて、兄さん」って。
どっちだ?お前なのか?それともアルマって子か?それとも両方?クソ!紛らわしい。今、集中しているんだ。心を乱すようなコトを言うな・・・そんなこと、言われなくったって!
本当なら、ここでお前を「引き剥がす」つもりだった。生贄になる「適合者」には申し訳ないけれど、そうするつもりだったんだ。
でも、出来ない・・・彼女のお兄さんが、あまりにもあんまりな表情でお前を、いや、お前の中の彼女を見ているから・・・。
お前が処刑されたと知った時の俺も、あんな悲壮な顔をしていただろうか・・・。
でも、彼等には何の落ち度もない。俺達とは違う。そういう「作戦」だと、納得ずくでやっていた俺達とは・・・。
大丈夫。少しだけシビアになるが、やりようがないわけじゃあない。
ラムザ君とやら、妹さんはお返しする。ちゃんと最優先で、着てきた「服」もお返しします。ウチのはスッボンボンになってしまうが、まあ、しょうがない。どうせ意識は無いんだ。
一つ、問題がある。彼等は、お前と「聖天使」が完全に一つだと思っている。「小隊」の全員がお前を「絶対に殺す」目で見ている。恐らくはリセッティングされたのだろう。「8号」までもが、お前に敵意を向けている。相当上手くやらないと、お前を引き剥がせても直ぐに殺されてしまうだろう。引き剥がされたお前は「ただの人」だ。剣の一突き、銃弾一発で死んでしまう。
「聖天使」だけじゃない。彼等もまた、お前の敵だ。だから俺は、彼等に「武器」は与えられない。
お前、いや「聖天使」か、少しは喋るんだな。俺の時にはひと言もなかったくせに・・・でも、その顔で・・・その声で・・・テレビゲームのボスみたいな安い台詞を吐くんじゃあない。彼等がますます誤解する。
「聖天使」が復活する。見た目は、あの日と同じだ。何でまたあの格好なんだ?その「服」、流石にもう「現物」じゃあないだろう・・・実は気に入ってた・・・のか?その格好も、ミストで模ったらしい「アロイスの剣」も・・・
予想通りだ。彼等が強いのもあるが、それ以上に「聖天使」の弱体化が甚だしい。俺の「策」が見事にハマった。そうなると・・・やっぱり「デーモン」を喚び出すか。でも、茶色いローブのオッサンが凄まじい勢いで切り刻んでいく。あそこまでのはアロイスの部隊にもいなかった・・・まさしく化け物だ。もしもの時、俺はあのオッサンからお前を守りきれるか?
本来の力を出せずに劣勢となった「聖天使」がふと彼等、いや、ラムザ君に問いかける。
「お前は、かつてこの私を倒した者の末裔か?」
これまでに「聖天使」が「倒された」のは2回だけだ。1度目はオキューリアに。でも、あの子らがオキューリアの子孫なわけはない。
次は・・・「あの日」しかない。
全ての生命と繋がる「聖天使」だ。恐らくは、個々の命の「繋がり」をも見えているのだろう・・・出任せの捨て台詞じゃあない。
背筋に冷たいものが走る。
アリアンの面影が濃いあの兄妹。
俺が去る前、食欲なく、寝たきりになっていたアリアン。
・・・ああ・・ああ、なんてこった。
俺は、そんな君を置いて、行ってしまったのか?君は、何も言わずに・・・いや、違う。気付かなかった俺がクズなだけだ。
最低じゃないか・・・俺は最低の兄貴で、最低の旦那で・・・最低の「父親」だ・・・アリアン、君は凄いな・・・あの「崩壊」の中、子供を守りきったのか!
「あの人を許さない・・・」
「千年かけてでも殺しに来る目よ!」
アリアンと、アイツの声が交互に蘇る。
これはただの偶然か?それともアリアン、君の「執念」か?あの兄妹にそんなつもりは露ほども無いだろう。でも俺にはそう思えて仕方がない。そういえば、「聖天使」が最初に斬りかかろうとしたのは他の誰でもない、アリアンの生き写しの様な彼女だった。大して戦う力もなさそうなのに・・・それでも「怖かった」のか?
ラムザ君の剣が深々と「聖天使」のみぞおちに刺さる。アロイス達や俺と戦った時には撃たれようが抉られようが何処吹く風だったその顔が、今は苦悶に歪む。両手に握っていたアロイスの剣が落ちる。効いているんだ・・・お前の顔で苦しむものだから、胸が痛い。そして・・・今だ!
「スラコ」の艦体を覆っていた「蔦」で「聖天使」を縛り付ける。ああラムザ君、驚かせてすまない。だが、今は俺のターンだ。都合よく胸元に空いた傷口から枝を捩じ込み、「ディスコネクト・プログラム」を流し込む。ネルベスカでバルビエ博士がやったのと逆の手順だ。とことんまで弱体化した今なら・・・効いた!魂の「連結」が切れた!「サルベージ・プログラム」を起動、そして・・・マズい。「聖天使」にミストが収束している。
サルベージは終わった。先ずは、無防備なお前を避難させにゃあ・・・「箱庭」を構成するもう1隻の揚陸艇へ!
舐めるな!とでも言わんばかりの「アルテマ」が、「スラコ」の艦体を真っ二つに裂く。艦体に纏わせていた蔦と枝の「身体」が瞬時に引き裂かれ、まるで身体を捩じ切られるような激痛が響く。俺も「痛い」のか・・・不意打ちに、意識が飛ぶ。
「助けて!兄さん!!」
頭の中に、今度はハッキリとアイツの声が響く。
俺はどれだけ寝てた?お前は何処にいるんだ?
もう一度、「蔦」に神経を集中する。
ああ、そこか!分かった。今、そちらに行く。
「ブレイブ・ストーリー」あとがきより抜粋
「デュライ白書」にも書かれている事だが、筆者もここで繰り返し断っておく。
「私は、「死都ミュロンド」を見ていない。」
当たり前の話だ。どれだけ地面を掘ろうが、海底をさらおうが、現し世から消えてしまった(永らく「海底に没した」とされていたミュロンドが、最新の海底探査の結果、水没どころか「大部分が跡形もなく、地殻ごと消え去っていた。」と判明した事は記憶に新しい)あの都で起きたことを歴史学・考古学的アプローチで証明することは不可能だ。一番確かなことは、英雄王の治世以降、「ルカヴィ」の痕跡は史実にも伝承にも一切現れなかった、ということ。そして、恐らく確かなのは、ベオルブの名を捨ててルグリアを名乗ったあの兄妹が無事帰ってきた、ということ。彼等の血を受け継ぐとみられる幾つかの家系に、半ば隠されるように伝えられた伝承。家や地域ごとに内容は変わっていたが、調査する中で最大公約数的な共通項を見出すことは出来た。死都ミュロンドで起きたことについても同様だ。私が「死都ミュロンド」の章で記すのは、あくまでこれら伝承の「最大公約数」をまとめて形にしたものだ。実際には、もっと別の事も起きていたかもしれないが、それらは想像の域を出ないもので「獅子戦争の真実を明かす」ことを目指す本書が記すことは適切ではないと判断した次第である。読者諸氏におかれてはその点、ご容赦願いたい。
アラズラム・J・デュライ