When The "Saints" Go Marching In Ivalice   作:N22b

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44-1 Airships graveyard (Agrias Orks)

飛空艇の墓場 揚陸艇「スラコ」

前部上甲板

 

 この「船」の上で何匹目かの「ルカヴィの使い魔」を屠る。次の敵を探して見上げた視線の先で「血塗られた聖天使」の胸を貫くラムザの姿が見えた。端から見ても「手応えあり」だ。見た目だけは端正な顔が、明らかに苦悶に歪んでいる。

 これで終わる。千年以上の永きに渡って私達の信仰を弄び続けた邪悪な連中に相応しい末路だ。一体、どれだけの人間がその名を讃え、その名にすがり、その名において剣を取ったか。全ては虚偽だった。ほんの1年ほど前まで、ここにいる誰一人として、「あなた」の価値を疑う者はいなかった。価値を問うことすらおこがましい事だった。ラムザと行動を共にすることがなければ、今だってそうだったろう。だが、「地に足のつかない信仰」は余りに呆気なく崩れ去った。貴き血筋を誇る王党への敬意も同じだ。

「何故、彼等を奉じなければならないのか?」

その問いに確たる自らの経験を持って答えられないモノはすべからく脆かった。結局のところ、信じるに足るものは、己が目と耳で見定めた人と正義だけだ。私にとってはオヴェリア様であり、ラムザだ。この悪鬼共をオヴェリア様の目に触れさせることなく、滅する。そのための剣となる。ラムザと共にそれを為す。私が自分の目で見て、耳で聞いて決断した、揺るがない正義だ。

だから私は「あなた」がアルマ殿の身体を依代に復活した時、「あなた」を見た。まず女だったことに驚いたが、それはどうでもいい。「あなた」の目を見た。発する言葉を聞いた。そして「あなた」の有り様は、私の心の奥底に残っていたのであろう僅かな未練を完全に吹き飛ばしてくれた。酒場の酔客のような澱んだ目、怒りをまき散らすだけの口。極めつけはその破廉恥な姿!いずれも私が裏付けなく信じてきた言行、聖者たる姿とはかけ離れていた。

おかげで「あなた」を討つと、心に決める事が出来た。正直、助かったよ。私はあれこれ考えるのは好きではない。もしあの時、「あなた」が私を悩ませる様な言動をしていたら、今のように思い切って剣を振るうことが出来たかどうか。

「あなた」は現世の王党や教会の重鎮達と同じ、私欲に満ち、力に溺れた化け物だった。

それでいい。

 

「血塗られた聖天使」に魔力が集中する。これまでのルカヴィの様に爆散するのか・・・いや、違う。殺気だ、マズい。離れて・・・間に合わない!

防御を・・・!

閃光と爆音と共に身体が浮く。飛ばされる視線の先には、先程から遠目には見えていた、同じ形をしたもう1隻の「船」。視界の端を「光の柱」が流れて私を追い抜いていく。アルマ殿が「分離」した時と同じ「光」だ。それが「船」に吸い込まれる様に飛んでいく。

見とれている場合ではない。受け身を取らねば!着地の寸前に「剣技」を放って勢いを殺す。思い付きでやった割には上手くいった。

だが、気を抜いた所で、後頭部に衝撃を受ける。後から飛んできたらしい船の端材か何かが目の前の甲板に転がる。

意識が遠のく。不覚・・・。

 

 目が覚める。あれから一瞬かもしれないし、一刻かも知れない。元いた船の方を見ると、真っ二つに割れている。わりかし大きな後部の甲板上で何か、禍々しいモノが盛り上がっているようにも見える。仲間達は・・・宙に浮く残骸が邪魔でよく分からない。気になるがここからではどうにもならない。ここから、少しずつ離れていっているように見える。

 足下に気配を感じる。甲板の中部に人が二人は入りそうな穴が空いている。気配はその先だ。私の他にも誰か飛ばされたか?それとも、さっきの「光」か?

 調べよう。今は他にできることも無い。

 穴を伝って降りようとした刹那、船が震える。突如、甲高い音が耳に響き、続いて別のくぐもった音が腹に響く。思わず股が縮み上がる。ゴーグでムスタディオが「掘り出し物」を披露した時もそうだったが、個人的には悪鬼共の唸り声よりもこういうわけの分からない機械音の方がよほど怖い。

 何で出来ているのかも分からない紐状の束を掻き分けて恐る恐る、床のある所まで降りる。灯りが付いてるが、なお薄暗い。視界内に入る全てが私の想像を超えていて圧倒される。「船」は外観こそ私達の知る船のように見えたが、中は全くの別物だった。ゴーグで見たサビまみれの鉄塊や材質すら分からない細工の断片・・・それがここでは全て「生きて」いる。元いた船と同じく、蔦のような様なものが絡みついてはいるが、朽ちてはいない。あるものは震え、あるものは光を放っている。光る窓には「デンアツ」「デンリュウ」と、読めても意味の分からない言葉や数字が並んでいる。ムスタディオなら分かるのか?ネジ止めされた銘板らしき板には「ユードラ帝国海軍工廠」の文字。やはり「あの時代」のモノなのだ。

 私は「ミュロンド」がこうなった本当の理由を知らない。アジョラが偽物ならば、彼女の死に対する「神の怒り」もなかった事になる。では、この惨状は誰が作ったのか?私達でも倒せた「ルカヴィ」達がやったとは思えない。もし奴らがこんな事の出来る連中なら、「雷神シド」ですら赤子扱いだろう。私達が「ゲルモニーク聖典」(それも、シモン殿の断片的な注釈部分でしかない)を読んで知った気になっている「真実」だけでは、とてもここにある全てを説明など出来ない。私達は今なお、真実から余りに遠い。

 気配を感じる。最早感じ慣れた「禍々しい」気だ。この部屋から船首側に向かう通路の方・・・来た!「使い魔」共だ。まだ「血塗られた聖天使」」は死んでいないのか!?クソ、向こうの船に戻らねば・・・でも、手段が無い!

とにかく今はコイツらを叩き斬るしかない。部屋に入られては分が悪い。何とか入り口で押し留めるしかない。

聖光爆裂波・・・こういう一本道では重宝する技。ヤツらの悪巧みが生んだ戦いが、私の技を鍛えた。皮肉な話だ。存分に振るわせてもらう!戻れんならここが私の死に場所でも構わん。コイツらを喚び続けるのにも力は使うだろう。それで「向こう」の役に立つならそれでいいッ!

 何匹か仕留めた所で妙な手応えを感じる。コイツらは「私」を見ていない。私の後ろ・・・その奥に向かおうとしている。なんだ、気持ち悪い。だが、私のやる事は変わらん。

 

 息が続かない。剣を握る手が悲鳴を上げる。嫌でも自分が女だと思い知らされる。オルランドゥ伯が羨ましい。あの御仁が来てから、自分の価値が薄れたことは否定のしようがなかった。勿論、誰もそんな事は言わないが、それが分からぬほど馬鹿ではない。ムスタディオが意味ありげな目で私を見てくるのがどうにもそこを突かれているようで内心穏やかではなかった。ああ、私に銃は使えないさ。

剣が「使い魔」の角に弾かれる。

クソ、雑念が入ったせいだ。盾で爪を捌くが後ろに弾き飛ばされる。ここまでか。だが、尻餅をついたまま斃れるつもりはない。

覚悟を決めて立ち上がろうとした刹那、後ろから人の叫び声が聞こえた。

 

「伏せて!!」

 

戦場に慣れ親しんだ身体が半ば無意識に反応する。伏せた途端、今までに聞いたことも無いような大音響が部屋に響く。それは銃声に近かったが、そう形容するにはあまりに暴虐的な音の奔流!

無意識に喉の奥から女々しい叫び声が漏れる。仲間が居ないのが幸いだった。

通路に目をやると、使い魔共が次々と肉片を撒き散らしながら吹き飛んでいく。発射速度もさることながら、1発当たりの威力からして、私達の知る「銃」とは別モノだ。視線を銃と使い手に向ける。轟雷のように閃光と弾丸をばら撒く丸太のような「銃」を抱えているのは・・・ウソだろう。なんで「あなた」がそこにいるんだ?見間違いか?じゃあ、誰だ?いや待て、天井の穴から「使い魔」が入ってきた!目線を向ける途中、「彼女」と一瞬、目が合う。直ぐに私の目線に気がついたのか、腰から別の銃を取り出すと天井伝いに襲いかかろうとしていた「使い魔」を叩き落とす。まるで曲芸のように銃をとり回す。

あのバルフレアとかいう男と同じだ。私達が剣や弓を扱うように銃を手指の如く扱う。

もう一匹!そうか、コイツらはさっきから、「彼女」を狙っていたんだ。ダメだ、彼女の銃は間に合わない。考えるより先に身体が動く。最短距離で踏み込み、体重を剣に乗せて「使い魔」の首筋に叩きつける。

「使い魔」が斃れ、塵となる。気配が消えた。一段落したのか?過呼吸気味で膝が笑い、剣を持つ手が痺れる。何とか息を整えながら「彼女」を見る。灰色がかった白い長髪はさっきと違って後ろに括られているし、見たこともない服を着てはいるが、間違いない。ついさっき、私達の前に立ちはだかった「偽りの聖者」だ。それが人の形のままに、全身に銃を括り付けて己が喚んだはずの「使い魔」達を薙ぎ払った。先程とは別の意味で「聖者」とはかけ離れた姿・・・

何がどうなっている?

わけがわからない。

 彼女も、黙って肩で息をしながら私を見ている。目だ。目つきがさっきとは全然違う。混乱して胸が高鳴り、考える前に言葉が喉を突いて出る。

「あなたは・・・いったい、何なんだ!?」

「彼女」の視線が斜め下にズレる。答えを「考えている」人間がやる目の動きだ。今度は何と言って私を騙すつもりだ?

視線が私の瞳に戻る。問いかけてから一瞬なのだろうが、一刻も待ったような気がする。

「彼女」の口が開いた。

「話すと・・・とっても長い。今、その時間はない・・・」

「復活」した時のような澱んだ目ではない。打って変わって落ち着いた語り口。

「これから「聖天使」を倒す。貴女の仲間を助ける・・・それじゃあ、駄目?」

ああ・・・あの目だ。潔白を証明することは出来ない・・・出来ないけれども、全ての思いを込めて信を得ようと足掻く人間の目だ。ゴルゴラルダでラムザが私に見せたのと同じ・・・

 

「来て!」

彼女は短くそう言うと、腰に括り付けた丸太の様な銃を捨てて、私の答えを待つことなく踵を返す。

 

「あなた」が「血塗られた聖天使」なんじゃないのか?「あなた」の目的はなんだ?

あれこれ考えるのは性分じゃない。

今までやってきたように、「見た」ものを信じる。私は、「あなた」が今、見せた目を信じるべきか?

「待て!」

そう呼び止めると、「あなた」は足を止めてこちらを見返した。

剣を鞘に納めて姿勢を正す。

「我が名はアグリアス・オークス。貴女の名を問う。」

その目が少し丸く開き、そして少しばかり笑みを含んだように細くなる。

再び身体を私の方に向けると、同じく姿勢を正した。

「私は、アジョラ・グレバドス。はじめまして。」「ほぼ」全てのイヴァリース国民が神と讃え奉るその名をどこか申し訳なさそうに名乗る、少し淋しげな眼差しが心に刺さる。何故?私はその眼差しも知っている。自分の名と存在に苦悩する人間が見せる目だ。「王女になど生まれなければよかった」と嘆いたオヴェリア様の眼差しだ。

塗り固められた虚飾の神話を剥ぎ取った一人の「人間」が今、この短時間で私が最も信を置く2人の人間と同じ目を見せる。どう理解すべきか?余程のペテン、でなければあの2人を合わせたのと同じかそれ以上の苦難をその身に受けたかのどちらかだ。

 私は政治家じゃない。戦士だ。だから言葉や文書よりも、あなたがこの戦場で見せる行動で判断する。そのために・・・見定めるために、今はついて行こう。

 

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